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社会人の法科大学院入学は可能?夜間・通信など制度改革や今後の動向も

セカンドキャリアとしての法曹界や社会人としての経験を積む中で法曹界を志望するなど、司法試験の社会人受験には一定の需要があります。一方で学習に専念できる学生と比べて時間的、環境的な制約が多いことは事実。

本記事では、司法試験受験のルートの一つである「法科大学院」コースを中心に、社会人受験の選択肢について制度改革や将来的な動向を含めて解説します。

法曹界を見据えてすでに動いている社会人の方、将来的に漠然と考えている社会人の方には特に役立つ情報が記載されていますので、ぜひご一読ください。

【2022年度】社会人は法科大学院よりも予備試験が現実的

2022年度時点では社会人が一般的な法科大学院に通うことは多くの司法試験を目指す方にとって容易な選択ではなく、現実的には予備試験合格を目指すのが一般的です。

既習コースを修了し司法試験に合格するまで最短で3年間、学習に専念しながら法科大学院の学費、テキスト代や模試の受験料、予備校に通う場合はその学費までまかなう必要があります。

未修コースの場合や一発合格できなかった場合はさらに受験生生活が長期化するため、経済的負担はさらに増大します。

夜間式の法科大学院の選択肢は限られている

働きながら法科大学院に通う選択肢として、仕事の後に通うことができる夜間式の法科大学院を修了する選択肢も考えられます。

2022年現在、夜間コース(※夜間の通学のみで修了できるコースに限る)が設置されている法科大学院は4つと非常に限られています。

  • 筑波大学法科大学院
  • 日本大学大学院 法務研究科
  • 福岡大学法科大学院
  • 琉球大学法科大学院(※既修者コースのみ)

いずれの場合においても通常コースでは日中帯に行われる講義を夜間に集中して行うため、既修コースでも最低3年間、未修コースの場合で最長5年間と長期にわたる通学を要します。

また夜間といっても18時から開講される講義もあり、仕事との調整が難しい点や、仕事とカリキュラムを両立するのが難しい点なども課題として挙げられます。

2022年度時点では「通信制」の法科大学院は存在しない

近年、通学を要することなく自宅学習で卒業・修了が可能な大学・大学院は存在しますが、2022年度時点においては通信制で修了できる法科大学院は存在しません。

ただし、現行の法科大学院制度改革の中で社会人受験生の受験を促進するための施策は検討されており、今後幅広い選択が可能になることも期待できます。

制度改革により社会人の法科大学院入学のハードルは下がる?

2023年(令和5年)度より司法試験制度に改革が行われ、所定の条件を満たせば法科大学院在学中であっても司法試験の受験資格を得られるようになります。

制度改革の趣旨は優秀で学習意欲の高い人材に早期に受験資格を付与することで時間的負担を軽減し、幅広い人材を法曹界で活躍する候補として募ることです。

社会人の法科大学院通学のハードルは依然高い

制度改革の元では法科大学院の在学期間を1年短縮できる可能性がありますが、いずれにせよ社会人にとって法科大学院選択のハードルは低くはありません。

学費面でいうと、在学中に受験したとしても結局卒業見込み年度の学費を支払い済みであることが前提。在学中の受験で合格した場合の学費の扱いについては今後、各法科大学院が方針を公表するものと思われますが現時点では明確な指針がありません。

また時間面では1年間の学習期間短縮はメリットが大きいですが、その恩恵を受けられるのは在学中に受験資格を獲得した上で一発合格した場合のみ。社会人にとって要件を満たすことの難易度は現時点では明らかになっていません。

制度改革についてはこちらの記事で詳しく考察を加えています。

今後、社会人受験の敷居は下がる可能性が高い

現在社会人が司法試験を受験するためには以下の方法がありますが、いずれも簡単なものではありません。

  • 予備試験に合格する
  • 働きながら夜間制の法科大学院に通う
  • 仕事を辞め、全日制の法科大学院に通う

2023年(令和5年)度の制度改革で3つ目の選択肢のハードルは多少下がるものの、いずれにせよ難しい選択肢であることに変わりはありません。

しかし、2019(令和元)年度に行われた「法曹コース」導入も含め、既存の司法試験制度は少しずつ見直されており、特に多様な人材の法曹界への参入を見越して社会人受験を歓迎する方向で動いていることは間違いありません。

現在、具体的に改革の決定はされていませんが、ICTを活用した社会人受験の推進も検討されており、ハードルは今後下がっていくことが予測されます。

(参考)現行の社会人受験の比率、合格率

2022年時点での制度上、社会人の司法試験受験は予備試験経由でのルートが最も現実的です。

社会人受験者の比率・社会人合格者の比率は以下です。

 

予備試験受験者数の中の社会人比率
受験者数 社会人 社会人比率
令和3年 11,717 7,123 60.7%
令和2年 10,608 6,369 60%
令和元年 11,780 7,142 60.6%

 

予備試験合格者数の中の社会人比率
受験者数 社会人 社会人比率
令和3年 374 115 30.7%
令和2年 442 104 23.5%
令和元年 476 109 22.9%

 

予備試験合格者を母数とした司法試験合格者の比率
社会人受験者数 社会人合格者数 社会人合格率 (参考)全体合格率
令和3年 136 115 84.5% 93.5%
令和2年 153 115 75.2% 81.8%
令和元年 191 125 65.4% 77.6%

(受験者の中から自己申告で大学生、法科大学院生、その他大学院生を除いたもの)

いずれの数値も学習に専念できる大学生・大学院生には劣るものの、社会人からも一定の合格者数は出ています。仕事と両立しながらの社会人受験も十分に現実的であることがわかります。

まとめ

司法試験受験において、社会人が法科大学院を選択する実現可能性について解説しました。

  • 2022年現在、夜間コースの開催はわずか4校、通信制の大学院は存在せず原則は予備試験合格が現実的
  • 2023年の制度改革で法科大学院から早期での司法試験合格が目指せるが、依然ハードルは高い
  • 司法試験制度は社会人受験を歓迎する方向で改革が進んでおり、今後ハードルが下がる可能性は高い

社会人経験のある人材の法曹界参入は司法試験制度のニーズとして高く、また実際の合格率を見ても適切に努力を重ねれば十分に合格の可能性はあります。

ぜひ、制度改革の動向を追いながら学習戦略を検討してみてください。