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令和3年予備試験解答速報-刑法-

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講師作成の参考答案

解説

第1.本件段ボール箱の持ち出し

甲が本件段ボール箱をY宅から持ち出した行為について、Yに対する窃盗罪(刑法235条)の成否が問題となります。

犯罪の成否を検討する際には、本問における重要度に応じてメリハリを付けながら、問題なく認められる構成要件要素も含めて全構成要件要素を網羅的に認定するのが望ましいです。

1.「財物」の財産的価値

「財物」には財産的価値が必要です。本件段ボール箱は、その中に本件帳簿が入っていることにより、その財産的価値が基礎づけられます。「財物」としての財産的価値についても配点があるかもしれませんが、本問は検討事項が多いので、他の検討事項を優先するために、私の答案では言及していません。

2.他人の占有に属すること

窃盗罪における「財物」は、占有移転を内容とする「窃取」の客体であることから、他人の占有に属するものであることを要します。

本件段ボール箱は、Yが自宅で保管することで占有しているものですから、他人の占有するに属する「財物」に当たります。

3.「他人の財物」

窃盗罪の成否における最大の争点は、甲の自己所有物である本件段ボール箱が「他人が占有…するもの」(242条)として「他人の財物」とみなされるかという点です。

本権説からも、他人が本権に基づいて占有する自己所有物については「他人が占有…するもの」として「他人の財物」とみなされますから、仮に「窃取」当時もYが本件段ボール箱を本権に基づいて占有していたといえるのであれば、本権説と占有説の対立は顕在化しません。両説の対立について言及することなく、242条を適用して本件段ボール箱が「他人の財物」とみなされることを簡潔に説明すれば足ります。

もっとも、甲は本件段ボール箱をYに預けているところ、これは寄託契約(民法657条)に基づくものであると考えられるため、甲はYに対していつでも本件段ボール箱の返還を求めることができます(民法662条1項)。そうすると、Yは、甲から返還を求められた時点以降は、本件段ボール箱の占有を正当化する本権を失うに至ります。したがって、本件段ボール箱は、Yが本権に基づかないで事実上占有する自己所有物ですから、本権説の立場からは「他人が占有…するもの」に当たらず、「他人の財物」とみなされません。そこで、本問では本権説と占有説の対立が顕在化することになります。

私の答案では、占有説の立場から、本件段ボール箱も「他人が占有…するもの」として「他人の財物」とみなされるとしています。

4.「窃取」

「窃取」とは、簡潔に言うならば、占有者の意思に反する占有移転を意味します。本問では、これくらい簡単な定義でも構わないと思います。

Yが返還の条件として100万円の支払を求めていたことから、甲の持ち出しは、Yの意思に反して本件段ボール箱の占有をYから甲へと移転するものとして「窃取」に当たります。

5.故意及び不法領得の意思

窃盗罪の成立には、故意(38条1項本文)に加えて、権利者排除意思及び利用処分意思を内容とする不法領得の意思も必要です。こうした主観的要件についても、なるべく問題文の事実を使って認定するべきです。

不法領得の意思については、「取り返そうと考え」(問題文15行目)という部分が権利者排除意思を、「得意先との取引に本件帳簿が必要であったこともあり」(問題文15行目)という部分が利用処分意思を基礎づけることになると思われます。

なお、私の答案では、他の検討事項を優先するために、問題なく認められる故意及び不法領得の意思については、理由を書かないで認定するにとどめています。

6.結論

私の答案では、結論として、窃盗罪の成立を認めています。

第2.甲が本件帳簿にライターで火をつけてドラム缶中に投入し、本件帳簿を焼却したこと

1.器物損壊罪

この行為について、110条2項の放火罪の成否のほかに、器物損壊罪(261条)の成否まで言及するべきかは、悩ましいです。

本件帳簿は、甲の自己所有物である上、「賃貸」等を理由とする262条の適用もありませんから、「他人の物」とみなされません。したがって、器物損壊罪(261条)は成立しません。仮に本件段ボール箱が「他人の物」として器物損壊罪の客体に当たるとしても、不可罰的事後行為として器物損壊罪の成立が否定されます。

私の答案では、本件段ボール箱が「他人の物」に当たらないことが明らかであるため、不可罰事後行為に言及するまでもなく器物損壊罪の成立が否定されることから、器物損壊罪の成否が問われていないと判断し、器物損壊罪の成否については言及していません。

2.110条2項の放火罪

110条2項の放火罪の成否では、①「公共の危険」の有無及び②「公共の危険」の認識の要否が論点となります。

①「公共の危険」に㋐108条・109条1項の建造物等に対する延焼の危険が含まれることには争いがありませんが、㋑不特定又は多数人の生命・身体・財産に対する危険まで含まれるかについては争いがあります。本問では、防波堤の周辺には建造物等はないはずですから、㋐建造物等に対する延焼の危険はありません。そこで、「公共の危険」には㋐だけでなく㋑も含まれるという論点が顕在化します。最高裁判例は㋑も含まれるとする非限定説に立っています。

最高裁判例の立場を論証した上で、問題文23~26行目の事実を摘示・評価することにより、(1)防波堤の周辺には建造物等はないはずだから建造物等に対する延焼の危険はないこと(㋐✕)、(2)夜釣りをしていた5名の釣り人が発生した煙に包まれたため不特定多数の生命・身体に対する危険があること(㋑〇)、(3)夜釣りをしていた5名のうちの1人が駐車していた原動機付自転車に延焼するおそれが生じたこと(㋑〇)を指摘することになります。

なお、非限定説のうち、公共の危険を「燃え広がり」から生じる危険に限定する見解からは、(2)については「公共の危険」を認めることはできません(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅱ」第2版383頁)。本問では、ここまで問われているかもしれませんが、公共の危険を「燃え広がり」から生じる危険に限定する見解に立ったとしても、(3)を根拠として「公共の危険」を認めることができるので、このような見解の適否についてまで言及する実益は乏しいと考え、私の答案では言及していません。

②甲は、放火当事、漁網、原動機付自転車及び釣り人5名の存在を認識していなかったため、「公共の危険」の認識を欠きます。そこで、110条2項の放火罪の故意の要件としての「公共の危険」の認識の要否が問題となります。110条2項の放火罪に関する最高裁判例の立場は明らかではありませんが、私は不要説を採用しています(不要説に関する最高裁判例があるのは110条1項の放火罪についてです)。不要説からは、甲には本罪の故意が認められ、110条2項の放火罪が成立することになります。

なお、110条2項の放火罪については、焼損行為が本来不可罰である自己物の損壊行為であるため、焼損行為が犯罪行為であることを前提とする結果的加重犯であるとの理由付けは使えません。

第3.Xに対する普通殺人罪又は同意殺人罪

1.乙の罪責

乙については、普通殺人罪(199条)の成否を検討することになります。

乙は、両手でXの首を強く締め付けるというX死亡の現実的危険性のある殺人罪(199条)の実行行為によって、Xを窒息死させています。

普通殺人罪の故意としては、同意殺人罪(202条後段)の故意と区別する必要から、被害者をその意思に反して死亡させることの認識・認容が必要であると解されます。乙は、実行行為の直前に、「あれはうそだ。やめてくれ。」というXの発言を聞き、「死にたい。もう殺してくれ。」という以前のXの発言が本心によるものでないことを認識したのですから、その後の乙の「殺意」(問題文37行目)は、Xをその意思に反して死亡させること認識・認容を意味することになります。したがって、乙には、普通殺人罪の故意が認められます。

よって、乙には普通殺人罪が成立します。

2.甲の罪責

甲が乙を制止せずにその場から立ち去ったという不作為については、理論上、①不作為による普通殺人罪(199条)、②不作為による同意殺人罪(202条後段)、③不作為による片面的幇助による同意殺人罪の幇助犯(62条1項)の成否が問題となります。

初めに、①不作為による普通殺人罪の成否から検討します。ここでは、不真正不作為犯の実行行為性及び不作為犯の条件関係の肯否が問題となります。不作為犯の条件関係については、「甲が乙に声を掛けたり、乙の両手をXの首から引き離そうとしたりするなど、甲にとって容易に採り得る措置を講じた場合には、乙の犯行を直ちに止めることができた可能性は高かったが、確実とまではいえなかった。」(問題文44~46行目)という問題文の事情の評価の仕方が悩ましいです。不作為犯の条件関係が認められるために必要とされる結果回避可能性の程度については、「合理的な疑いを超える程度に確実」(山口厚「刑法総論」第3版80頁、大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版91頁)、「高度の蓋然性をもって結果が回避された」(西田典之「刑法総論」第3版123頁)と理解されていますが、問題文46行目において「確実」がどの程度の確実性を意味しているのかが分からないからです。

不作為犯の条件関係を肯定する場合には、被害者の特殊事情や行為後の介在事情といった法的因果関係を否定する事情がないことから、法的因果関係も認められ、普通殺人罪の客観的構成要件該当性を満たすことになります。そこで、甲には同意殺人罪の故意しかないから普通殺人罪は成立しない(38条2項)ことを指摘した上で、抽象的事実の錯誤について論じ、同意殺人罪が成立するにとどまることを指摘することになります。

不作為犯の条件関係を否定する場合、①不作為による普通殺人既遂罪は勿論のこと、②不作為による同意殺人既遂罪も成立しませんから、抽象的事実の錯誤について言及して②同意殺人未遂罪が成立するにとどまることを指摘した上で、③幇助犯の成否を検討することになります。

③幇助犯の成否では、㋐「幇助」の因果性、㋒不作為による「幇助」、㋒片面的幇助及び㋓抽象的事実の錯誤が問題となり、㋐「幇助」の因果性としては条件関係までは不要であり促進的因果関係があれば足りると解されるため、結果回避可能性が「確実とまではいえなかった」として不作為犯の条件関係を否定しても、結果回避可能性「は高かった」ことから㋐「幇助」の因果性を認めることができます。

解答の筋としては、不作為犯の条件関係を否定→抽象的事実の錯誤を論じて同意殺人未遂罪の成立を肯定→不作為による同意殺人既遂罪の幇助犯を肯定、という構成がベストだと思います。もっとも、これだと構成が複雑になる上、検討事項が多くなり最後まで書き切ることが困難です。そこで、私の答案では、現場での現実的な対処法を示すという意味も兼ねて、不作為犯の条件関係を肯定→抽象的事実の錯誤を論じて同意殺人既遂罪の成立を肯定、という構成を採用しています。

第4.司法試験過去問との関連性

窃盗罪における本権説と占有説の対立は、行為者の主観面で論じさせるという応用形として(行為者が他人所有物を自己所有物であると誤解して窃取した事案)ではありますが、平成27年司法試験で出題されています。

110条2項の放火罪における「公共の危険」の意味(限定説VS非限定説)と「公共の危険」の認識の要否は、平成25年司法試験でも問われています。

不作為による殺人罪の成否は司法試験では頻出ですし(平成22年、26年、30年)、ある者による殺人罪に意思連絡なく不作為に関与した者の罪責については平成26年司法試験で出題されています。

このように、司法試験過去問との関連性が非常に強いといえます。

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