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令和3年司法試験解答速報-民法-

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解説

プレテストから令和3年までの17年分の民法の司法試験過去問の中で、ダントツで難しい問題だと思います。

設問1の請求1では、Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁との関係で、即時取得の成否を論じることになりますが、「占有を始めた」という要件について占有改定ではなく指図による占有移転との関係で論じさせる問題であるため、だいぶ細かいところから出題してきたなという印象です。また、Cの主張である㋐には「Dから甲を借り受けている」ともあるため、請求1に対する抗弁として使用貸借権に基づく占有権原の抗弁まで問われているかが悩ましいです。さらに、193条に関する解釈(原権利者帰属説の採否)もやや細かいところから出題してきたなという印象です(総まくりテキスト・論証集には論証も掲載されていますが、多くの受験生は判例の結論くらいしか知らないと思います)。

設問1の請求2は、平成21年司法試験設問3の類題であり、ここは過去問分析をちゃんとやっていたかどうかで差がつきやすいと思います。設問1の請求2は、平均的な水準の出題であると思います。

設問2(1)では、請負契約や委任契約かという対立点には多くの受験生が気が付けると思いますが、契約の性質の違いがEの債務の内容にどのように影響するのかという点が非常に難しいです。請負契約であると捉えても、月額報酬60万円に対応する仕事完成債務として、一定数準の授業を行うことが要求されるという点では、委任契約であると捉えた場合における一定水準の授業を行うことを本旨とする事務処理義務(644条)の内容とほとんど変わりがないからです。

設問2(2)では、設問2(1)における検討結果を前提として、適用条文及び選択した条文の要件該当性を検討することになります。設問2(2)も、平均的な水準の出題であると思います。

設問3(1)では、検討事項を網羅できる人はほとんどいないと思います。だいたい何が問われているのかを把握することは比較的容易なのですが、問われていることを網羅した上で、順序だてて説明するのが難しいです。

設問3(2)では、かなり細かい条文操作を訊いています。試験的にはだいぶ細かいが、実務的には重要度が高いという条文知識を訊いているというイメージです。最後の設小問であるため時間があまりないことも踏まえると、正確に処理し切れる受験生はごく僅かであると思います。

設問1

1.請求1

(1)訴訟物を明らかにする

まず初めに、訴訟物を明らかにします。

訴訟物が何であるかによって、請求が認められるための要件(実体法上の要件及び請求原因)が変わるとともに、抗弁をはじめとする請求原因以降の攻撃防御方法も変わるからです。

請求1の訴訟物は、甲の所有権(民法206条)に基づく返還請求権です。

その請求原因は、Aが甲を所有していること(又はある時点で甲を所有していたこと)及びCが現在甲を占有していることです。

(2)㋐におけるCの反論

㋐のうち「甲の所有権を取得したD」という部分からは、(ⅰ)甲に関するBD間の売買契約によるDの即時取得(192条)を理由とする所有権喪失の抗弁が想定されます。

㋐のうち「Dから甲を借り受けている」という部分からは、(ⅱ)使用貸借権(593条)に基づく占有権原の抗弁も想定されます。

結論から先に申し上げますと、Cが請求1に対する抗弁として主張しているのは、(ⅰ)Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁だけです。

理由は、2つです。

      • 本問では、(ⅱ)使用貸借権に基づく占有権原の抗弁の要件事実が(ⅰ)Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁の要件事実を包摂するため、敢えて(ⅰ)ではなく(ⅱ)の抗弁を主張する実益がありません。
      • ㋐では「Dから甲を借り受けている」ともあるため、設問1では、Dが「甲の所有権を取得した」ことだけでなく、所有権を取得した「Dから借り受けている」ということにまで着目してCの反論について検討する必要があるところ、「甲の所有権を取得したD」「から借り受けている」という点は、(ⅰ)Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁の要件事実として、指図による占有移転により「占有を始めた」ことを基礎づけるための主張の一環としてとして使うことになります。

因みに、本問における(ⅱ)使用貸借権に基づく占有権原の要件事実としては、(a)BC間での使用貸借契約の締結(使用貸借権の発生原因)、(b)同契約に基づく引渡し(Cの占有が使用貸借権に基づくものであること)に加えて、(c)Cの使用貸借権が甲の所有権に由来することも必要です(村田・山野目「要件事実論30講」第4版346~349頁)。

賃借権や使用貸借権が占有権原になるということは、所有権に基づく返還請求権の発生を障害するということですから、賃借権や使用貸借権が占有権原になるためにはそれが所有権に由来することが必要であると解されます(村田・山野目「要件事実論30講」第4版348~349頁)。

原告を貸主とする賃借権や使用貸借権に基づく占有権原を主張する場合には、請求原因及び原告被告間における賃貸借契約又は使用貸借契約締結の事実(抗弁事実の一つ)により当該賃借権又は使用貸借権が所有権に由来するものであることが明らかになるため「賃借権や使用貸借権が所有権に由来すること」という問題点は顕在化しません。そのため、原告を貸主とする賃借権や使用貸借権に基づく占有権原を主張する場合における抗弁事実は、上記の(a)(b)だけです。

これに対し、原告以外の第三者を貸主とする賃借権や使用貸借権に基づく占有権原を主張する場合には、請求原因及び原告被告間における賃貸借契約又は使用貸借契約締結の事実(抗弁事実の一つ)だけでは当該賃借権又は使用貸借権が所有権に由来するものであることが明らかにならないため、被告は、当該賃借権又は使用貸借権が所有権に由来するものであることを基礎づけるために、別途、「賃貸や使用貸借の当時に貸主が所有権若しくは貸与権限を有していたこと、又は訴訟の事実審口論弁論終結時までに貸主が所有権若しくは貸与権限を取得したこと」を主張立証する必要があります(村田・山野目「要件事実論30講」第4版348~349頁)。このことは、所有権に基づく建物明渡請求訴訟において「賃貸当時、係争建物の所有権が訴外貸主に属していたこと」という判決理由中の判断に訴訟告知に基づく参加的効力が生じることを認めた最高裁判例(最判S45.10.22・民事訴訟法判例百選103)に関する解説として、新堂幸司「新民事訴訟法」第5版815頁でも言及されています。

本問では、仮にCが請求1に対して占有権原の抗弁を主張する場合には、原告A以外の第三者Dを貸主とする使用貸借権に基づく占有権原を主張することになりますから、その要件事実として、Cの使用貸借権が甲の所有権に由来するものであることを基礎づけるために、(c)DがBとの売買により甲を即時取得したこと(つまり、即時取得の要件事実)も主張する必要があります。

しかし、上記の通り、請求1に対する抗弁としては(ⅰ)Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁だけを論じることになりますから、請求1に対する抗弁として(ⅱ)使用貸借権に基づく占有権原の抗弁は書きません。

即時取得の実体法上の要件のうち、BD間の売買契約により「動産」の「取引行為」が認められ、前主Bが無権利者であることも認められます。また、問題文16~18行目における「Bは、Dに「甲は中古機械の販売業者から買った。」と虚偽の説明をした。また、甲に所有者を示すプレート等はなく、他に不審な点もなかったので、Dは、Bの説明を信じた。」との記述から「善意であり、かつ、過失がないとき」も認められます。さらに、本問の事実関係からして「平穏に、かつ、公然」も問題なく認められます。

残るは、取引行為に基づき「占有を始めた」という要件です。

(3)㋑におけるAの主張(再反論)

問題文18~20行目における「Bは、Cに対して、甲をDに譲渡したので、以後はDのために占有し、同年11月1日に甲をDに返却するよう指示し、Dは、このような方法によりBから甲の引渡しを受けることを了承した。」との記述から、BからDへの甲の引渡しが指図による占有移転(184条)の方法によって行われていることが分かります。

Cとしては、取引行為に基づき「占有を始めた」という抗弁事実として指図による占有移転を主張し、これに対してAは、「BからDへの譲渡後もCが現実に支配する状態に変わりがない」との理由から、BからDへの甲の引渡しが指図による占有移転では「占有を始めた」という抗弁事実を満たさないと主張します。これは、抗弁事実に対する否認ではなく、法律上の主張であると思われます。

即時取得は、占有取得者が前主の占有を信頼して取引により占有を取得したことを根拠として、占有取得者を保護するために同人による権利取得を認める制度です(民法(全)146頁)。この制度趣旨から、「占有を始めた」というためには、「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」形態で占有を取得したことが必要である(占有改定による即時取得を否定した最判S35.2.11・百Ⅰ68)だとか、「外観からみて占有の状態に変更が生じるような取得形態であることを要する」(潮見佳男「民法(全)」第2版146頁)と解されています。

占有改定による移転については、現実的支配の移転が外形的に見えないため、一般外観上従来の占有状態に変更を来たすものとはいえないとして、一律に「占有を始めた」が否定されます。

これに対し、指図による占有移転については、「占有を始めた」を肯定した最高裁判例(最判S57.9.7)と否定した最高裁判例(大判S8.2.13、大判S9.11.20など)。

否定した最高裁判例の事案は、「甲を借りて占有していたBがこれをCに売却し、占有改定の方法で引き渡した後に、CがこれをDに売却し、その旨をBに伝えた(指図による占有移転)」というものです(佐久間毅「民法の基礎2」第2版152頁)。この事案では、無権利者である前主Bのもとに現実の占有(甲に対する現実的支配)が終始あるため、現実的支配の移転が外形的に見えないわけです。

本問では、BがCに甲を貸し、その際、甲の現実的支配をCに移転しており、その後、甲の現実的支配を有するCに対して指示をすることにより、甲の占有をDに移転しています。上記の否定した最高裁判例の事案と異なり、譲渡当事者以外の第三者を巻き込んで占有移転がなされています(つまり、占有移転の過程に現実的支配を有する第三者が介在しているわけです)。そこに着目して、現実的支配の移転が外形的に見えるとして、「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」形態での占有取得があったと認めることで、「占有を始めた」を肯定することができます(佐久間毅「民法の基礎2」第2版152頁でも、同種事案に属するcase33について即時取得が認められています)。

したがって、本問では、Dによる即時取得の成立が認められます。

(4)㋒におけるAの主張(再反論)

「㋒いずれにせよ【事実】1に照らすと、CはAの請求に応じるべきである」というAの主張は、(ⅰ)問題文10行目における「令和2年4月10日、Aが所有する工作機械甲が盗まれ、行方不明となった。」との事実関係に着目して、「盗品」である甲には193条が適用されることと、(ⅱ)動産回復請求の間も動産の所有権は原権利者に帰属すること(原権利者帰属説、大判T10.7.8)を理由に、「仮にDについて即時取得が成立したとしても、盗難の時から2年間は、甲の所有権はAに帰属したままである」ということを、Dの即時取得による所有権喪失の抗弁に対する再抗弁として主張するものです。

原権利者帰属説からは、盗難(又は遺失)の時から2年間は、当該動産の所有権が原権利者に帰属したままであるため、これを即時取得者から取り戻す方法として所有権に基づく返還請求権を行使すればいいので、193条に基づく回復請求権を認める実益はありません(佐久間毅「民法の基礎2」第2版156頁)。

このように、原権利者帰属説からは、㋒におけるAの主張によって、請求1における訴訟物が所有権に基づく返還請求権からこれとは別の193条に基づく動産回復請求権に切り替わるわけではないということに注意する必要があります。

(5)結論

Aによる所有権に基づく返還請求権の行使に対して、Cは、Dの即時取得を理由とする所有権喪失の抗弁を主張します。上記(3)の通り、本問では、指図による占有移転により「占有を始めた」とも認められるため、Dは192条の要件を満たします。

もっとも、193条に関する原権利者帰属説からは、甲の盗難の時である令和2年4月10日から2年間は、甲の所有権はAに帰属したままです。

Aが請求1をしたのは、甲の盗難の日である令和2年4月10日から約6か月後である同年10月15日ですから、請求1がなされた時点では、甲の所有権はAに帰属したままです。

したがって、上記(4)の再抗弁が認められるため、甲の所有権に基づく返還請求権を訴訟物とする請求1が認められることになります。

なお、対価弁償をするまでの返還拒否について定める194条は、二重の意味で問題となりませんから、本問では検討対象外です。理由は以下の通りです。

      • 「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、…買い受けたとき」との要件を満たさないことが明らかです。
      • 194条の趣旨は、物の取得のために対価を支払った占有取得者の利益と回復者(原権利者帰属説からは所有者)との利益を調整することにあるところ、返還請求の相手方が買主Dではなく無償で甲を借りているCであるため、194条の適用により回復者Aと占有者Cとの利益を調整することを必要とする場面ではありません(だからこそ、194条の適用範囲は上記のように定められているわけです)。
      • Cは、問題文24行目以下において、194条の適用を前提とした主張をしていません。

2.請求2

(1)訴訟物を明らかにする

Aは、Cに対して、「令和2年…5月1日から甲がAに返還されるまでの間の使用料相当額の支払」も求めています。

物の所有者が無権利者に対して無権利者が物の使用により得た使用利益の支払いを求める場合の訴訟物としては、(ⅰ)不当利得返還請求権(703条、704条),(ⅱ)悪意占有者の果実返還義務(190条1項)及び(ⅲ)不法行為に基づく損害賠償請求権(709条)が考えられます(平成21年司法試験設問3の出題趣旨参照)。

設問1では、「なお、不法行為に基づく構成について検討する必要はない。」(問題文32~33行目)とあるため、(ⅲ)不法行為に基づく損害賠償請求権は検討対象から外れます。

残るは(ⅰ)と(ⅱ)ですが、いずれによるかは、使用利益の返還についても189条1項・190条が類推適用されるのかによります。

189条1項・190条は、不当利得の一般規定(703条・704条)の特則ですから、189条1項・190条が適用される場面については不当利得の一般規定の適用が排除されます。

判例は、「果実」に当たらない使用利益の返還についても、189条1項・190条が類推適用されると解しています(大判T14.1.20、潮見佳男「基本講義Ⅰ」第3版333頁)。

したがって、この判例の立場からは、(ⅱ)悪意占有者の果実返還義務(190条1項)を訴訟物として選択することになります。

(2)Cの「悪意」とその時点

189条2項が「善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。」と規定しているため、「本権の訴え」である請求1が認められた場合には、請求1に係る訴えが提起された時点以降の使用利益の返還が認められます。もっとも、これでは令和2年10月15日以降の使用利益の返還しか認められないため令和2年5月1日からの使用利益の返還を求めるという請求2の法律構成としては不適切ですし、そもそもAは訴訟外で請求をしているだけであり訴え提起まではしていないから設問1の状況設定と整合しないという意味でも189条2項を使うことは不適切です。

189条1項の「善意」とは、果実収取権を含む本権を有すると信じていたことを意味し、これに対応して、190条1項の「悪意」とは、果実収取権を含む本権を有すると信じていなかったことを意味し、本権の存在を疑っていた場合は「悪意」であると解されています(潮見佳男「基本講義Ⅰ」第3版334頁)。

Cは、令和2年5月1日、Bから使用貸借契約に基づいて甲の引渡しを受けた際、Bが甲の所有者ではないことを基礎づける【事実】1及び2を知りませんでした(問題文14行目)。このことに、「甲に所有者を示すプレート等はなく、他に不審な点もなかった」(問題文17~18行目)ことも併せ考慮すると、CはBが甲の所有者であると信じていたといえます。

したがって、Cが令和2年5月1日から「悪意」であったとはいえません。よって、請求2は認められません。

なお、Cが令和2年5月1日以降「悪意」に転じたことを基礎づける事情もありませんから、請求2はその一部においても認められません。

設問2(1)

「契約①によるEの債務の内容」は、「契約①の性質」によって異なります。

「契約①の性質」としては、理論上、㋐請負契約(632条)、㋑有償での準委任契約(655条、643条、648条1項)及び㋒有期雇用契約(623条)が問題になると思われます。

㋐請負契約と㋑委任契約とでは、請負人・受任者による役務提供が独立的・裁量的である点で共通する一方で、役務提供により一定の結果を実現することが債務の内容になっているか(結果債務か手段債務か)という点で異なります(潮見佳男「基本講義Ⅰ」第3版256頁)。ただし、委任契約の場合、受任者は、委任事務処理に関する委任者の指示に従う義務を負いますから(644条参照)、委任者の指示に従わなかった場合には債務不履行になる(潮見佳男「基本講義Ⅰ」第3版260頁)という意味で、請負契約の場合に比べて、役務提供における独立性・裁量性が弱いです。

㋑委任契約と㋒雇用契約とでは、受任者・労働者の債務内容が手段債務である(役務を提供すること自体が債務の内容である)という点で共通する一方で、役務提供における独立性・裁量性の有無(さらには程度)において異なります。委任契約では、受任者には役務提供における独立性・裁量性が認められるのに対し、雇用契約では、労働者が「債務の本旨」として提供するべき役務の内容が使用者の指示・命令によって形成されることが予定されています(これを「労働義務の他人決定性」と呼んだりもします)(潮見佳男「基本講義Ⅰ」第3版333頁)。

本問では、Aが請求3及び4を拒絶している理由は、役務提供による結果実現の有無ではなく、EがAの指示を無視して指導方法を変更しなかったという役務提供の態様にあります。そのため、「契約①によるEの債務の内容」がどういったものであるかは、役務提供による結果実現の有無ではなく、Aの指示を無視したという意味での役務提供の態様(本件講座における指導方法)との関係で問題になっています。

Aの指示によって指導方針を改善することが「債務の本旨」として要求されることになるという点は、㋑委任契約と㋒雇用契約とで違いませんから、「契約①の性質」を決める際に、㋑委任契約か㋒雇用契約かという点は本質的ではありません。「契約①の性質」については、㋒雇用契約ではないことを前提として、㋐請負契約か㋑委任契約かいう点についてのみ言及すれば足りると思います。

「契約①の性質」について両論あり得ると思いますが、委任契約と捉えた方が、「契約①によるEの債務の内容」を説明しやすいと思います(ということは、委任契約のほうが、契約①の実態に沿っているともいえます)。

「契約①の性質」を委任契約であると捉える場合、「契約①によるEの債務の内容」は「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって」委任事務の処理として本件講座を行うことであり(644条)であり、その一環として、指導方法についてAから指示を受けた場合にはそれに従うことも含まれる、と理解することとします。

さらに、Eが乙検定の合格実績の高さをうたって通学講座を開講していたことと、Aがそこに着目してEに依頼をしていることから、Aからの指示の有無にかかわらず、Eの通学講座の受講者全体の合格率を維持できるくらいの水準の授業を行うことまでも、上記の事務処理義務として要求されると解されます。

設問2(2)

1.請求3

Aは、「債務の本旨」に従った事務処理義務の履行がないとの理由から、報酬後払原則(648条2項本文)を根拠として支払を拒絶することが考えられます。

8月6日以降の分については、Aの善処要求を無視してこれまでの指導方法に従った授業を継続したという点で、委任者の指示に従って委任事務を処理することをも内容とする委任事務処理義務の本旨不履行であるとして、支払いを拒むことができます。

8月分の月額報酬60万円のうち、8月5日までの分については、Eの指導方法に従った授業が8月6日におけるAからの善処要求を待つまでもなく「債務の本旨」として要求される授業水準に達していないといえることにより初めて、事務処理義務の不履行を理由として、支払いを拒むことができます。

Eが本件講座の受講生に求める課題が膨大で、受講生の大半が汲々としており、課題の不提出についてEに叱責されるなどしたため、止めたいと言い出す受講生も現れています(問題文50~52行目)。このことに、令和3年8月31日の時点で本件講座に継続して出席している受講生が30名から20名まで減っていたこと(問題文56~57行目)も踏まえると、Eの授業は、Eの通学講座の受講者全体の合格率を維持できるくらいという、事務処理義務の本旨として要求される水準に達していません。したがって、8月1日から5日までの間も、「債務の本旨」に従った事務処理義務の履行がないといえます。

よって、Aは、全額の支払いを拒むことができます。

2.請求4

(1)Eは、651条2項本文に基づく損害賠償請求権を主張する

Eは、令和3年8月31日におけるAからの解除は債務不履行解除ではなく任意解除権(651条)の行使によるものであると主張して、651条2項本文に基づく損害賠償請求権として、9月分及び10月分の報酬相当額の損害賠償金120万円の支払いを求めていると考えられます。

651条2項本文に基づく損害賠償請求権の実体法上の要件のうち、本問で問題となるのは、㋐651条2項1号又は2号のいずれに該当すること(651条2項本文)、㋑「やむを得ない事由」の有無(651条2項但書)及び㋒「損害」の額です。

㋐のうち、「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」(651条2項1号)には当たりません。本問の事実関係からすると、Eが契約①により報酬以外の利益を得ることまで目的にしていたとはいえませんから、「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき」(651条2項2号)にも当たりません。したがって、㋐を欠くため、請求4が認められないとの結論に至ります。

㋑「やむを得ない事由」については、Eの指導方法そのものの、EがAの善処要求を無視して指導方法を改善しなかったこと、及び乙検定の当年の全体率の比較などを考慮して判断することになります。

㋒「損害」の額については、(a)Eが約定されていた9月分及び10月分の報酬合計額120万円を得られなかったこと(Eの経済的不利益)、(b)Eが通学講座のための手配に代替講師の報酬として40万円を支払っていること(Eの経済的不利益)、及び(c)Eが10月に別企業で2週間の出張講座を行い報酬として15万円を得ていたこと(Eの経済的利益)という3点を踏まえて、検討することになります。

(2)Aは、541条本文に基づく債務不履行解除であったと反論する

Aは、本問における解除は、541条本文に基づく債務不履行解除であったと反論します。

これが認められる場合、641条2項本文の適用が排除されるため、請求4は認められません。私の答案では、債務不履行解除を認めることで、請求4を否定しています。

設問3(1)

1.500万円全額の支払拒絶

(1)Fが主張する抗弁

Fは、令和4年8月22日、Hとの間で、契約②(587条)に基づく本件債務を連帯保証する旨の契約③を書面により締結(446条、454条)しています。

Hは、Fに対して、契約③に基づく保証債務履行請求権を行使して、500万円の支払いを求めています。

契約③は連帯保証契約ですから、Fは催告の抗弁(452条)や検索の抗弁(453条)を主張して支払いを拒むことはできません。

Fは、500万円全額の支払いを拒むために、(ⅰ)本件債務の5年の消滅時効(166条1項1号)と、(ⅱ)契約③に基づく保証債務の5年の消滅時効を主張することが考えられます。

(2)本件債務の消滅時効

まず、本件債務は、弁済期である令和10年4月1日から「権利を行使することができること」になり、そのことは契約②の当事者であるHが契約締結当時から知っているため、令和10年4月1日が「債権者が権利を行使することができることを知った時」(166条1項1号)に当たります。そうすると、設問3(1)における基準日である令和15年5月11日の時点で、上記の主観的起算点から「5年間」が経過したことになります。

次に、Fは、「保証人」として、本件債務の消滅時効を援用することができます(145条括弧書)。

そうすると、Fは、457条2項に基づき、「主たる債務者が主張することができる抗弁」として、本件債務の消滅時効による消滅を主張することができそうです(理論構成としては、Fが「保証人」として本件債務の消滅時効を援用することで本件債務を消滅させ、その上で本件債務の時効による消滅ということを「主たる債務者が主張することができる抗弁」として主張することになると思われます。潮見佳男「債権総論プラクティス」第5版補訂625頁参照)。

しかし、「令和10年6月20日、Aは、Hに対して本件債務の弁済の猶予を求める書面を送付し」ており(問題文95~96行目)、これが「承認」(152条1項)に当たるため、令和10年6月20日の時点で本件債務の消滅時効について更新が生じます。

そうすると、承認による更新があった令和10年6月20日から5年を経過してない令和15年5月11日の時点では、本件債務の消滅時効は完成していません。

したがって、Fは、本件債務の消滅時効を抗弁として主張して500万円全額の支払いを拒絶することはできません。

(3)保証債務の消滅時効

保証人Fは、保証債務自体の消滅時効を抗弁として主張することもできます。

Fの保証債務の弁済期は、本件債務の弁済期と同様、令和10年4月1日です。そうすると、Fの保証債務についても、令和15年5月11日の時点では、主観的起算点から「5年間」が経過したことになります。

Fは、令和10年6月20日にAが本件債務について「承認」したことを知らなかったことからしても、保証債務を「承認」していません。

そうすると、Fの保証債務については消滅時効が完成しているようにも思えます。

しかし、Aの「承認」により主債務について生じた時効の更新の効力は、Fの保証債務にも及びますから(457条1項)、承認による更新があった令和10年6月20日から5年を経過してない令和15年5月11日の時点では、Fの保証債務についての消滅時効も完成していないことになります。457条1項については、主債務の消滅前に保証債務が時効によって消滅することを防ぐことにより特に債権の担保を確保しようとする政策的意図に出たものである(潮見佳男「債権総論プラクティス」第5版補訂640頁)だとか、消滅における付従性を根拠とするものである(最判S43.10.17)と説明されています。

したがって、Fは、本件債務の消滅時効を抗弁として主張して500万円全額の支払いを拒絶することもできません。

よって、Fは、500万円全額の支払いを拒絶することはできません。

2.売買代金100万円分の支払拒絶

(1)攻撃防御の構造

Fは、売買契約100万円分の支払いを拒絶するために、支払拒絶構成を明文化した457条3項に基づき、AH間の売買契約に基づく100万円の売買代金債権を自働債権とする相殺の抗弁(505条1項本文)を主張することが考えられます。

これに対し、Hは、再抗弁として、自働債権に供されている売買代金債権は5年の消滅時効により消滅した主張します。

売買代金債権については、弁済期である令和4年8月31日から「権利を行使することができること」になり、そのことは売買契約の当事者であるAが契約締結当時から知っているため、令和9年8月31日の時点で、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から「5年」を経過したとして、消滅時効が完成します。したがって、再抗弁の要件事実を満たします。

そこで、Fは、再々抗弁として、508条の適用を主張します。100万円分の支払拒絶においては、508条の要件充足性が主たる争点となります。

(2)508条に基づく再々抗弁の成否

〇問題の所在

本件債務の弁済期が到来して相殺適状に達したのが令和10年4月1日であるのに対し、自働債権である売買代金債権の消滅時効が完成したのは令和9年8月31日です。そうすると、自働債権である売買代金債権の消滅時効の完成が相殺適状時に先行しているため、売買代金債権について「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」とはいえなそうです。

他方で、時効援用権の行使によりはじめて時効による権利の得喪が生じると解されています。そして、本問では、相殺適状時までに売買代金債権について消滅時効の援用がありませんでした。そうすると、仮に「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」という要件における「債権…の消滅」について、自働債権が消滅時効の援用により消滅したことを意味すると理解するのであれば、相殺適状時までに売買代金債権の消滅時効が援用されていないため、売買代金債権が消滅していなかった本問では、「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」という要件を満たすことになります。

〇「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」の意味

最高裁判例(最判H25.2.28・百Ⅱ38)は、「当事者の相殺に対する期待を保護するという民法508条の趣旨に照らせば、同条が適用されるためには、消滅時効が援用された自働債権はその消滅時効期間が経過する以前に受働債権と相殺適状にあったことを要すると解される。」と判示することにより、「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」というためには自働債権の消滅時効の完成以前に相殺適状にあったことが必要であり、自働債権の消滅時効の援用以前に相殺適状にあっただけではこの要件を満たさないという立場を採用しています。

そうすると、少なくとも、本件債務の弁済期が現実に到来した令和10年4月1日を相殺適状時と把握する場合には、「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」という要件を満たさないことになります。

〇相殺適状の要件として、受働債権の弁済期の現実の到来が必要か

次に、相殺適状時を消滅時効完成時以前に繰り上げることの可否が問題となります。すなわち、Aは、本件債務について、期限の利益を放棄することでその弁済期を到来させることができたのですから、売買代金債権(自働債権)と本件債務(受働債権)が対立して売買代金債権の弁済期が到来した時点(令和4年8月31日)をもって相殺適状が生じたと解することの可否が問題となります(要するに、相殺適状に達したというためには自働債権と受働債権の弁済期が現実に到来したことが必要であるかということです)。

これについては、最高裁判例(最判H25.2.28・百Ⅱ38)は、「受働債権の債務者がいつでも期限の利益を放棄することができることを理由に両債権が相殺適状にあると解することは、上記債務者が既に享受した期限の利益を自ら遡及的に消滅させることとなって、相当でない。したがって、既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには、受働債権につき、期限の利益を放棄することができるというだけではなく、期限の利益の放棄又は喪失等により、その弁済期が現実に到来していることを要するというべきである。」として、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期に先行している場合において、両債権の弁済期が到来して相殺適状に達したというためには、期限の利益の放棄又は喪失等により受働債権の弁済期が現実に到来したことが必要であるとの立場を採用しています。

売買代金債権の消滅時効完成までに、Aが期限の利益を放棄又は喪失することにより本件債務の弁済期が現実に到来していなかった以上、売買代金債権の消滅時効完成以前に両債権の弁済期到来により相殺適状にあったとはいえません。

そうすると、「債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた」とはいえないため、Aの売買代金債権を自働債権とする本件債務との相殺については、508条が適用されません。

したがって、同相殺は、売買代金債権の時効消滅(再抗弁)を理由として否定されることになります。

よって、Fは、売買代金100万円分についての支払いを拒絶することもできません。

設問3(2)

1.Aに対する求償

Fは、Gから依頼を受け、Hとの間で、自分も保証人になることをAに知らせないまま、本件債務について連帯保証をしたのですから、無委託保証人です。

したがって、Fは、Aに対して、無委託保証人の期限後弁済における求償権について定める462条1項に基づいて、求償することになります。

無委託保証人のうち「主たる債務者の意思に反して保証をした者」に当たらない者は、主たる債務者に対しては、「主たる債務者がその当時利益を受けた限度」、すなわち、保証人が主たる債務を消滅させる行為をした時点で主たる債務者が利益を受けた限度で、求償することができます(462条1項による459条の2第1項の準用)。したがって、主たる債務者が債務消滅行為をした時点で債権者に対抗することのできる事由を有しているときは、その事由に関する部分の金額が求償権の範囲から除外されることになります(潮見佳男「債権総論プラクティス」第5版補訂649頁)。

設問3(1)で検討した内容からすると、Aは、Hに対して、本件債務の消滅時効を主張して500万円全額の支払いを拒絶することも、売買代金債権を自働債権とする相殺を主張して売買代金債権100万円の限度で支払い拒絶することもできません。

そうすると、Aは、Fが300万円を弁済した時点で、Hに対抗できる事由を有していなかったといえます。

したがって、Fによる300万円の弁済により「主たる債務者がその当時利益を受けた」のは300万円全額分であるといえます。

よって、Fは、Aに対して、300万円分の求償をすることができます。

2.Gに対する求償

(1)連帯保証人間の求償権の根拠条文

連帯保証人間の求償権についても465条1項が適用されるかが、連帯保証人の分別の利益の有無との関係で問題となります。

連帯保証人について分別の利益がないことを明示する規定はないものの、保証人が債権者に対し主債務者と連帯して全額弁済義務を負うことを約束していることからすれば、連帯保証人には分別の利益がないのは当然のことであると解されています(潮見佳男「債権総論プラクティス」第5版補訂667頁)。

したがって、連帯保証人間の求償権については、「数人の保証人がある場合」のうち、「各保証人が全額を負担すべき旨の特約がある」ときとして、465条が適用され、その結果、連帯債務者間の求償権に関する規定(442条ないし444条)が準用されることになります。

(2)求償権の成否及びその額

Fは、300万円の弁済という「自己の財産をもって」する債務消滅行為によって「共同の免責を得た」といえます(442条1項)。FG間では内部的負担割合に関する合意がないため、FG各自の内部的負担割合はそれぞれ2分の1ずつとなります。

そうすると、Fは、Gに対して、「その免責を得るために支出した財産の額」である300万円のうちGの「負担部分に応じた額」である150万円について、求償することができます。

さらに、Fは、Hから残りの支払について免除を受けているため、Hから債務免除を受けた200万円のうち、Gの「負担部分に応じた額」である100万円についても、求償することが考えられます。

しかし、免除は「自己の財産をもって共同の免責を得た」との要件を満たしません(大判S13.11.25、潮見佳男「債権総論プラクティス」第5版補訂584頁)。

したがって、免除を受けた部分については求償権は成立しません。

よって、Fは、Gに対して、150万円の限度で求償することができます。

なお、債務免除の相対効(441条本文)は問われていないと思います。仮に債務免除に絶対効が認められ、Gとの関係でも残債務が0円になったとしても、求償権の成否及びその範囲が負担額ではなく負担割合を基準として決定される以上、Fが300万円を弁済したことによりGに対して150万円の求償権を取得するという結論は変わらないからです(つまり、債務500万円のうち300万円を弁済した場合と、債務300万円のうち300万円を弁済した場合とで、求償権の成立範囲は変わらないということです。)。

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