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令和3年司法試験解答速報-憲法-

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解説

憲法の解答速報では、表面的な解答筋ではなく、問題処理の流れ、問題文のヒントから検討事項を抽出する視点、違憲審査の枠組みの中身及び本問と司法試験過去問との関連性といった、令和4年以降の司法試験・予備試験でも役立つ汎用性の高いことに重点を置いております。

1.設問を確認する

憲法では、問題文を読む前に、必ず、設問を確認する必要があります。

設問を読んで、「何について」「どういった条件・形式」で論じるべきかを確認します。

令和3年の設問では、(1)「検討を依頼された法律家甲…として」「規制①及び②の憲法適合性」について論じること(「何について」)、(2)(1)を論じる際には「規定の文言の明確性、手続の適正については、論じる必要はない」こと(「何について」)、(3)(1)を論じる際には「必要に応じて、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること」(「どういった条件・形式」)の3点について指示があります。

ここから、問われていることは「規制①及び②の憲法適合性」という法令違憲審査について「検討を依頼された法律家甲」として自己の見解を論じることであり、その際、「規定の文言の明確性、手続の適正」については論じる必要がない、ということが分かります。

また、論述の条件としては「必要に応じて、参考とすべき判例…に言及すること」、論述の形式としては「必要に応じて、自己の見解と異なる立場に言及すること」が必要です。

以上を踏まえて、問題文に入ります。

2.会話文の最終段落あたりから読む

近年の憲法では、会話文の最終段落あたりで、「誰の」「どのような人権」を被侵害権利として取り上げるべきか、その権利侵害の有無について「いかなる観点」から論じるべきかについて、指示・誘導される傾向にあります。

もっとも、本問では、会話文の最終段落あたりにおいて、規制①及び②について問題とするべき憲法上の権利や争点について指示・誘導がありません。

そこで、問題文の最初に移動します。

3.問題文を最初から読み、問題文のヒントに従って何についてどう論じるべきかを把握する

(1)規制①

問題文4~14行目から、顔を隠して集団行進をすることを規制しようとしていることが窺われます。

さらに読み進めていくと、15~18行目では、顔を隠してデモ行進をすること(規制対象)が平穏(保護法益)を害するという因果関係を基礎づける立法事実っぽい事情があります。

このように、保障→制約→違憲審査基準の定立→目的手段審査、さらには、厳格審査又は中間審査の基準における手段審査は適合性(因果関係+促進効果)→必要性→相当性(事案による)という流れで検討するという、違憲審査の枠組みで照らしながら、問題文を分析していきます。これが、憲法における問題文の読み方のコツです。

19~22行目及び23~27行目における事情については、問題文を一読している段階では何を意味しているのかがよく分かりませんから、問題文を読み終えた後の答案構成の段階で使い方を考えることとして、次に進みます。このように、問題文を一読する過程で使い方が分かる事情と、問題文を読み終えた後の答案構成の段階で初めて使い方が分かる事情とがあるので、後者については後回しにします。問題文を一読している過程で全ての事情の使い方を判断できなくても構いませんし、それは無理だと主思います。

30行目では、「規制① 顔を隠して集団行進に参加することを禁止する」とあるため、規制①では、集団行進の自由を被侵害権利として捉えることになります。

31行目から~33行目では、規制②の仕組みについても書かれており、ここでは、プライバシー侵害が問題になってるのではないないか?という心証を抱くと思います。理論上は、プライバシー情報に関する報告義務が課されることによる萎縮効果を介した集団行進に対する間接的制約として、集団行進の自由の侵害を問題にする余地もありますが、規制①に加えて規制②でも集団行進の自由を問題にするのは実益から考えて不自然ですから、プライバシー侵害が問題になっているのではないかと考えるのが普通です。

規制②に関する事情はこれだけであり、39行目からは規制①に関する会話文がスタートしますから、ひとまず、規制②についてはプライバシー侵害が問題になるはずであるという心証にとどめておき、規制①の詳細について確認していきます。

39~40行目では、規制①の問題点として、「暴力的な行為をしている者だけでなく、平穏にデモを行っている多くの参加者にまで、一律に規制を及ぼすのは行き過ぎではないですか。」と書かれています。これは、「平穏にデモを行っている多くの参加者」は規制目的に有害でないはずだから、「平穏にデモを行っている…参加者」を規制対象から除外して「暴力的な行為をしている者だけ」を規制対象にするというより制限的でない他の選び得る手段によって立法目的を達成することができるとして、手段必要性を欠くのではないかという問題意識を示すものです。

41行目からは、規制①の目的が「集団行進において公共の安全を害する行為が行われるのを抑止すること」にあることが分かるとともに、規制態様が「デモそれ自体を規制する」ものではないことから間接性・付随的制約にとどまるのではないかという問題意識が窺われます。

規制態様については、42~44行目でも誘導があります。42~44行目では、「覆面や仮面で顔を隠している人はそのことで何かを伝えようとしているわけではないのですから、顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセージを届けることは、十分に可能なはずです。」とあります。このことに、デモ行進の際に顔を隠すこと自体にメッセージが込められていないことは11行目でも指摘されていますから、デモ行進の際に顔を隠すこと自体が特定のメッセージを有しており「表現の自由」として保障されるとはいえない、ということになります。これが何を意味するのかというと、仮にデモ行進の際に顔を隠すこと自体が特定のメッセージ性を有するとして「表現の自由」として保障されるのであれば、デモ行進の際に顔を隠すことを禁止する規制①は「表現の自由」に対する直接的制約に当たることになるが、本問ではそうではないため、規制①はデモ行進の際に顔を隠すことという意味での「表現の自由」に対する直接的制約には当たらない、ということです。

そうすると、規制①については、集団行進を制約する規制として捉えることになります。もっとも、規制①は集団行進自体を禁止しているわけではありませんから、どういった理由で集団行進の自由に対する制約に当たるのかを考える必要があります。ここでも、いちから自分で考えるのではなく、問題文のヒントを参考にします。12~13行目では、「SNS等では、「デモの報道で顔が映る心配がない。」「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。」といった意見が多く見られ、上記各団体の構成員ではないデモ参加者の中にも、顔を隠す者が多数現れるようになった。」と書かれており、ここから、萎縮効果を媒介とする間接的付随的制約であるとして集団行進の自由に対する制約が肯定されることが分かります。

あとは、厳格審査又は中間審査の基準を採用することを前提として、手段審査に関することを検討するために、問題文を読み進めていきます。手段適合性のうち因果関係(規制対象が規制目的にとって有害であるという関係性)については、既に、15~18行目から肯定できそうであることが分かっていますから、手段必要性(事案によっては、相当性も)に関するヒントを探します。45~46行目では、「覆面や仮面で顔を隠すことによって、誰がやっているか分からないという感覚が生じて、普段はしないような行動に走る面があることは否定できません。同じようなことは、ウェブサイトやSNSでの表現一般をめぐっても、問題になっています。」とあり、これは、39~40行目で示された問題意識を前提として、「平穏にデモを行っている…参加者」であっても覆面や顔を顔を隠すことにより心理的抑制が働きにくくなり公共の安全を害する行為に及ぶ危険性があることを示すことにより、手段必要性を肯定する方向性で評価し得る事情です。そうすると、手段必要性については、39~40行目における問題意識と45~46行目におけるヒントを使って検討することになります。

最後に、手段相当性についてですが、厳格審査及び中間審査の基準における手段審査で相当性を独立の要件に位置づけるべきかについては学説上争いがあります。私は、試験対策としては、厳格審査及び中間審査の基準における手段審査の要件については、原則として適合性・必要性の2要件で整理し、相当性としてでなければ評価することができないヒントが問題文にある場合に限って相当性まで言及する、と理解するべきであると考えています。48~51行目では、「甲:顔を隠すことが許される「正当な理由」としては、どのようなものを想定していますか。例えば、マスクの着用についてはどうですか。X:感染症対策や健康上の理由でマスクをする、信仰上の理由から顔を隠すといったことは、もちろん「正当な理由」があるものとして扱われます。」とあり、これは、規制①には重大な副作用が伴わないことを示すものであり、相当性を肯定する事情として評価されます。なお、手段相当性については、規制により得られる利益と失われる利益の均衡と表現する見解と、重大な副作用を伴わないことを意味するとする見解とがありますが、両者は排他的な関係に立つものではありませんから、事案に応じて使いやすい表現を使うべきだと考えます。

52~53行目では、文言の明確性の問題には言及しなくてよいとあり、設問でも重ねて同じ指示があります。したがって、明確性の原則(憲法21条1項及び憲法31条)については言及しません。

(2)規制②

54~55行目、規制②については、規制対象という点が問題になるのではないかと推測されます。もっとも、これだけではヒントとして不十分ですから、次に進みます。

56~57行目から、規制②は、「集団行進において公共の安全を害する行為が行われることを抑止する」という本法律案の究極目的を実現するために必要な手段として、「公共の安全を害する行為…助長している団体の活動を把握する」ための手段を定めているということが分かります。

57~60行目のヒントは、どうやって評価するのかが直ぐには分からないので、いったん飛ばし、先に進みます。

61~71行目では、規制対象が目的達成に必要な範囲に限定されていることが窺われます。特に、規制対象が「過去5年以内に、デモにおいて「法律案の骨子」の第2の2に掲げる行為のいずれかを行い、処罰された構成員が全体の10パーセント以上」である団体に限定されているという点が重要です。ここは絶対に落とすことができません。

72~73行目では、「規制②で報告が義務付けられるのは、団体がその活動のために利用している媒体の名称等のみです。」とあり、これは、報告義務の対象が限定されていること示すものとして、手段必要性を肯定する方向で評価し得ます。一方、73~75行目では、「報告によって得られた情報は、A2庁による団体の活動の把握に用いますが、必要な場合には、A2庁が各都道府県の公安委員会に提供し、公安条例や道路交通法等の運用を通じ、公共の安全を害する行為の抑止に役立ててもらうこともあります。」とあり、これは、報告によって得られた情報が公安委員会により目的外利用される危険性を示すものとして、重大な副作用を伴うという意味で手段相当性を否定する事情として評価する余地があります。収集された情報の目的外利用の危険性については、住基ネット事件最高裁判決(最判H20.3.6・百Ⅰ19)が参考になると思います。

76~81行目では、「甲:確認ですが、報告義務の対象となるのは、機関紙のほか、団体が利用しているウェブサイト等、誰もが見ることができるようなものですね。SNSでも、そのサービスの利用者であれば自由に閲覧できる投稿をしているアカウント等も、ここには含まれてきますね。一方で、サービスの利用に当たって用いている氏名、住所、パスワード等の情報は含まれないという理解でよろしいでしょうか。X:そのとおりです。」とあり、これは、誰でも見ることができる団体に関する情報が収集されるだけならばプライバシー権に対する制約ないのではないかという問題意識を示すものであると考えられます(これについては、「保障」のところでプライバシーとしての要保護性の有無として論じることも可能です。)。

81~85行目のうち、「代表者や幹部に限らず、構成員が、個人名義のアカウントを使って団体の主張を流布する場合も含めて、それらを網羅的に把握し、団体の活動を継続的に観察する必要があります。」とする83~85行目については、手段必要性を肯定する方向の事情として評価することになると思われます。

指定に関する手続保障の問題点については、設問と88~89行目とで重ねて、言及しなくてよいと指示があるため、言及しません。

4.問題文のヒントから把握したことを違憲審査の枠組みに落とし込みながら答案構成をする

上記のように問題文を最初から最後まで読む過程で問題文のヒントから得られた検討事項を違憲審査の枠組みに落とし込みながら、適宜内容を補充しつつ、答案構成をしていきます。

(1)規制①

まず、被侵害権利は集団行進の自由であり、その憲法上の保障については、「表現の自由」として保障されるとする見解(東京都公安条例事件・最大判S35.7.20・百ⅠA8)と動く「集会の自由」として保障されるとする学説とがあります。本問では、仮にデモ行進の際に顔を隠すこと自体が特定のメッセージ性を有しており「表現の自由」として保障されるのであれば規制①は「表現の自由」に対する直接的制約に当たるという問題意識があることから、「表現の自由」としての保障を論じた方がいいと思います。因みに、集団行進の自由の憲法上の保障については、平成25年司法試験でも出題されています。

次に、集団行進の自由に対する制約の有無については、「デモそれ自体を規制するつもりではありません」という42行目のヒントを使って、制約がないのではないかという形で争点化することができます。その上で、「表現の自由」については萎縮効果除去の要請が働くことに言及した上で、「SNS等では、「デモの報道で顔が映る心配がない。」「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。」といった意見が多く見られ、上記各団体の構成員ではないデモ参加者の中にも、顔を隠す者が多数現れるようになった。」という12~13行目のヒントを使って、萎縮効果を媒介とする間接的付随的制約であるとして集団行進の自由に対する制約が肯定されることを論じることになります。萎縮効果を媒介とする「表現の自由」に対する間接的制約という問題意識は、特定の内容の表現をしたことを理由とする本採用拒否という形で、平成27年司法試験でも出題されています。

そして、制約されている集団行進の自由の重要性とそれに対する規制の態様を考慮して、違憲審査基準の厳格度を決することになります。集団行進の自由については、「デモ行進の現代的意義について丁寧に論じる答案が多く見られたのは好印象であった」という平成25年司法試験の採点実感に従い、その現代的意義に言及する形で論じることが望ましいです。規制態様については、デモ行進自体を禁止しているわけではないことと(42行目)、デモ行進の際に顔を隠すことに特定のメッセージ性をがないこと(11行目、41条~42行目)から、直接的制約にも表現内容規制にも当たらず、間接的付随的制約にとどまるということを指摘します。そうすると、厳格審査の基準から一段階落として、中間審査の基準を採用するのが適切であると考えられます。

目的審査では、「集団行進において公共の安全を害する行為が行われることを抑止する」という目的の重要性について、集団行進によっていかなる法益がどういった態様で侵害されるおそれがあるのかにについて立法事実を根拠として明らかにした上で、そのような事態を抑止することが重要であるといえるかについて検討することになります。例えば、集団行進によって要保護性の高くない法益に対する軽微な侵害が生じるおそれしかないのであれば、そのような事態を抑止するという目的が重要であるとはいえません。本問では、「前記の大規模なデモでは、参加者の大部分は平穏に集団行進を行っていた。しかし、その最中に、顔を隠した参加者の一部が、商店のショーウィンドウを破壊する、ごみ箱に放火するなどの暴力的な行為を行うようになった。さらに、いくつかのデモでは、顔を隠した参加者の一部が警備に当たる警察官を負傷させ、それぞれ数十名が逮捕される事態となった。」という15~18行目の事情を立法事実として、集団行進によって人の生命、身体又は財産が侵害される危険性があると心証形成することができるため、骨子第1における「集団行進…における公共の安全を害する行為とは」人の生命、身体又は財産を侵害するおそれのある行為であるといえますから、そのような行為を抑止することは重要であるといえます。

手段審査では、手段適合性(因果関係+促進効果)、手段必要性及び手段相当性(今回は相当性も独立要件として論じる)の3要件を前提として、問題文のヒントに従って、一つひとつ論じていくことになります。問題文のヒントから導かれる論述事項は以下の通りです。

      • 15~18行目では、顔を隠してデモ行進をすること(規制対象)が平穏(保護法益)を害する因果関係を基礎づける立法事実っぽい事情があるので、これを使って、手段適合性のうち因果関係を肯定します。手段適合性のうち促進効果についても軽く言及します。
      • 「暴力的な行為をしている者だけでなく、平穏にデモを行っている多くの参加者にまで、一律に規制を及ぼすのは行き過ぎではないですか。」という39~40行目のヒントを使って、「平穏にデモを行っている多くの参加者」は規制目的に有害でないはずだから、「平穏にデモを行っている…参加者」を規制対象から除外して「暴力的な行為をしている者だけ」を規制対象にするというより制限的でない他の選び得る手段によって立法目的を達成することができるとして、手段必要性を欠くのではないかという問題意識に言及します。これについては両論あり得るところであり、44~45行目のヒントを踏まえて、「平穏にデモを行っている…参加者」であっても覆面や仮面で顔を隠すことにより心理的抑制が働きにくくなり公共の安全を害する行為に及ぶ危険性の有無に言及し、そのような危険性が立法事実を根拠として認められるのであれば、手段必要性を肯定する余地があります。この立法事実となるのが、「その場の雰囲気に刺激された一般の参加者が、暴力的な行為に加わり逮捕された例もあった。」という21~22行目の事情です。なお、厳格審査及び中間審査の基準においては目的・手段の双方について立法事実を根拠として「必要不可欠な利益である、重要な公共の利益である」「手段の必要最小限性がある、手段の実質的関連性がある」と心証形成できることが必要とされるため、仮に上記の危険性が立法事実に基づかない観念上の想定にすぎない場合には、上記の危険性がないことを前提として手段必要性を審査することになりますから、上記の危険性がない「平穏にデモを行っている…参加者」を規制対象外とするより制限的でない他の選び得る手段によって立法目的を達成することができるとして、手段必要性が否定されることになります。
      • 手段必要性を肯定する場合には、さらに、48~51行目のヒントにも言及し、手段相当性があることも指摘した上で、手段の実質的関連性が認められると結論づけることになります。

(2)規制②

まず、被侵害権利として捉えるべきプライバシー権は、「私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利」という意味での伝統的プライバシー権ではなく、「公権力によって個人情報を強制的に収集されない権利」という意味での現代的プライバシー権(自己情報コントロール権)として把握することになります。性犯罪者の継続監視を定める仮想法令の憲法適合性が問われた平成28年司法試験の出題趣旨・採点実感においても、「公権力によって個人情報を強制的に収集されない権利」という意味での現代的プライバシー権が問題になると指摘されています。上記意味での現代的プライバシー権の憲法上の保障については、同じく国家による個人情報の強制的な収集が問題とされた指紋押捺拒否事件(最判H7.12.25・百Ⅰ2)、京都府学連事件(最大判S44.12.24・百Ⅰ16)等を参考にして論じることになります。

なお、団体の人権享有主体性についてまで論じるべきかは悩ましいところです。司法試験では、団体・法人が人権主体として登場した平成18年、平成19年、平成23年、平成26年及び令和2年のいずれにおいても、出題趣旨・採点実感及びヒアリングにおいて団体・法人の人権享有主体性について言及するべきとする指摘がありません(平成26年は、説明で明示的に排除されています)。このことから、団体・法人が人権主体として登場している事案であっても、団体・法人であることを理由とする保障の有無・程度、団体・法人であることを理由とする特別の規制の必要性といった団体・法人であることに固有の問題点がない事案では、団体・法人の人権享有主体性については書かなくてよいということになると考えられます。本問では、団体であることに固有の問題点はないと思われるため、私の答案では団体の人権享有主体性については言及しておりません。

次に、プライバシー権に対する制約については、76~81行目のヒントを踏まえて、誰でも見ることができる団体に関する情報が収集されるだけならばプライバシー権に対する制約はないのではないかという問題意識を踏まえて論じることになります。制約を否定すると次に進まないので、なんとか制約を肯定する必要があります。

そして、制約されているプライバシー権の重要性(対象となっているプライバシー情報の要保護性)とそれに対する規制の態様を考慮して、違憲審査基準の厳格度を決することになります。プライバシー情報の要保護性については、プライバシー固有情報とプライバシー外延情報との区別も踏まえながら、誰でも見ることができる団体に関する情報が報告義務の対象になっているにすぎないという問題文のヒントに着目して論じることになります。規制の態様については、公開と収集の違いにも着目しながら論じるのが望ましいです。プライバシー情報の要保護性と規制態様について複数の見方が可能ですから、規制①については、厳格審査の基準と中間審査の基準のいずれでも構わないと思います。合理性の基準まで落とすことも可能ですが、その際には相当に慎重に論じる必要があります。

目的審査では、「集団行進において公共の安全を害する行為が行われることを抑止する」という本法律案の究極目的を対象として論じても構わないですし、「公共の安全を害する行為…助長している団体の活動を把握する」という中間目的を対象として論じても構いません。後者の場合、中間目的が究極目的の実現に役立つということに言及する形で、目的の合憲性を論証することになります。

手段審査のうち、手段適合性については、争点にはならないと思います。他方で、手段必要性については、以下の3つの観点から、争点として丁寧に論じる必要があります。

      • 規制対象が「過去5年以内に、デモにおいて「法律案の骨子」の第2の2に掲げる行為のいずれかを行い、処罰された構成員が全体の10パーセント以上」である団体に限定されている(66~69条)というヒントを踏まえて、規制対象の広さという観点から手段必要性を論じます。
      • 報告義務の対象が誰でも見ることができる団体に関する情報に限定されている(72~73行目、76~81行目)というヒントを踏まえて、報告義務の範囲という観点から手段必要性を論じます。
      • 「そのとおりです。現在問題となっている団体は、団体名を使っているウェブサイトやSNS等に限らず、様々なルートで公共の安全を害する行為を助長する可能性がありますが、その全てを把握するのは困難です。代表者や幹部に限らず、構成員が、個人名義のアカウントを使って団体の主張を流布する場合も含めて、それらを網羅的に把握し、団体の活動を継続的に観察する必要があります。」とする81~85行目のヒントを踏まえて、団体の活動を把握する手段とし観察処分をした上で定期的な報告義務を課すという仕組み自体にについて手段必要性を論じます。

最後に、「報告によって得られた情報は、A2庁による団体の活動の把握に用いますが、必要な場合には、A2庁が各都道府県の公安委員会に提供し、公安条例や道路交通法等の運用を通じ、公共の安全を害する行為の抑止に役立ててもらうこともあります。」(73~75行目)というヒントから、報告によって得られた情報が公安委員会により目的外利用される具体的危険性の有無について検討することになります。上記の具体的危険性があるのであれば、重大な副作用を伴うとして、相当性が否定されることになります。住基ネット事件最高裁判決(最判H20.3.6・百Ⅰ19)では、「データマッチングは本人確認情報の目的外利用に当たり、それ自体が懲戒処分の対象となるほか、データマッチングを行う目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書等を収集する行為は刑罰の対象となり、さらに、秘密に属する個人情報を保有する行政機関の職員等が、正当な理由なくこれを他の行政機関等に提供してデータマッチングを可能にするような行為も刑罰をもって禁止されていること、現行法上、本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しないことなどにも照らせば、住基ネットの運用によって原審がいうような具体的な危険が生じているということはできない。」として、データマッチングによる目的外利用やデータマッチング目的での情報取得の具体的危険性が否定されています。

以上が令和3年司法試験憲法の解答速報となります。

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