2025年3月4日、公益通報を理由とする解雇・懲戒を刑事罰の対象とすることなどを内容とする公益通報者保護法の改正案が閣議決定されました。
今回の改正案の概要は、次の通りです。

出典:https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/consumer_partnerships_cms205_250304_01.pdf
.
特に重要なのが、「2.公益通報者の範囲拡大」と「4.公益通報を理由とする不利益な取り扱いの抑止・救済の強化」です。
以下では、この2点について解説していきます。
.
1⃣公益通報者の範囲拡大
公益通報者保護法は、公益通報を行った労働者を保護することで企業のコンプライアンスを高め、国民生活の安定・社会経済の健全な発展に資することを趣旨として、事業者について、一定要件を満たす公益通報を行った労働者に対して当該公益通報を行ったことを理由とする解雇その他の不利益取扱いをすることを禁止しています(同法1条、3条、5条)。
現行法において公益通報者として保護される者は、次の通りです。
- 労働者(同法2条1項1号前段)
- 退職後1年以内の退職労働者(同号後段)
- 派遣労働者(同2号前段)
- 派遣終了後1年以内の元派遣労働者(同2号後段)、
- 使用者又は派遣先等が請負契約等に基づき委託元から受託した事業を行う場合において当該事業に従事する労働者又は派遣労働者(同3号前段)
- 使用者又は派遣先等が請負契約等に基づき委託元から受託した事業を行う場合において当該事業に従事していた労働者又は派遣労働者であって、公益通報から1年以内のもの(同3号後段)
- 役員(同4号)
今回の改正案では、フリーランス新法におけるフリーランス、及び1年以内にフリーランスであった者も公益通報者として追加されています(新同法2条1項3項)。
(現行法)
(定義)
第2条 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、…略…
一 労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者 当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前1年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)
二 派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。第4条において「労働者派遣法」という。)第2条第2号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者 当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(同条第1号に規定する労働者派遣をいう。第4条及び第5条第2項において同じ。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前1年以内に受けていた事業者
三 前2号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前1年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者 当該他の事業者
四 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
.
(改正案)
(定義)
第2条 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、…略…
一 労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者 当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前1年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)
二 派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。第4条第1項第1号において「労働者派遣法」という。)第2条第2号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者 当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(同条第1号に規定する労働者派遣をいう。第4条及び第5条第2項において同じ。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前1年以内に受けていた事業者
三 特定受託業務従事者(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第2条第2項に規定する特定受託業務従事者をいう。以下同じ。)又は特定受託業務従事者であった者 当該特定受託業務従事者に係る特定受託事業者(同条第1項に規定する特定受託事業者をいう。以下同じ。)又は特定受託事業者であった者に業務委託(同条第3項に規定する業務委託をいう。以下この号及び第五条において同じ。)をし、又は当該通報の日前1年以内に業務委託をしていた事業者
四 前3号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前1年以内に従事していた労働者若しくは派遣労働者(以下この号及び第11条第2項において「労働者等」という。)若しくは労働者等であった者又は特定受託業務従事者若しくは特定受託業務従事者であった者 当該他の事業者
五 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
.
2⃣公益通報を理由とする解雇・懲戒に関する罰則
現行法では、公益通報をしたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止については、罰則の対象とされていませんが、今回の改正案では、解雇と懲戒に限り、罰則の対象されています。
違反行為をした者に対する罰則規定(6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)のみならず、法人に対する懲罰規定(3000万円以下の罰金)も設けられています。
なお、公益通報を理由とする不利益取扱い全般が罰則の対象とされているのではなく、罰則の対象となる不利益取扱いは「解雇等特定不利益取扱い」に限られます。ここでいう「解雇等特定不利益取扱い」とは、「解雇その他不利益な取扱い(解雇以外の不利益な取扱いにあっては、懲戒(労働基準法第八十九条(第九号に係る部分に限る。)の規定に基づき事業者が就業規則に定めた制裁又は事業者と労働者との間の労働契約に定めた制裁をいう。)としてされたものに限る。次項及び第21条第1項において「解雇等特定不利益取扱い」という。)」(新法3条2項)と定められているため、罰則の対象となる不利益取扱いは解雇と懲戒に限られることになります。
(現行法)
第21条 第12条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、30万円以下の罰金に処する。
.
第22条 第15条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。
.
(改正案)
第21条 第3条第1項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたときは、当該違反行為をした者は、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。
2 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、30万円以下の罰金に処する。
一 第15条の2第2項の規定による命令に違反したとき。
二 第16条第1項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
.
第22条 第15条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。
.
第23条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本項の罰金刑を科する。
一 第21条第1項 3000万円以下の罰金刑
二 第21条第2項 同項の罰金刑
2 前項(第1号に係る部分に限る。)の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。
.
第24条 第16条第2項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。
.
執筆者
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当