加藤ゼミナールについて

司法試験、予備試験の選択科目とは?出題傾向や実務との関連性を解説

司法試験では受験者自らが解答する科目を選択する「選択科目」が導入されており、さらに今後は司法試験予備試験(予備試験)においても導入が決定されています。

選択科目の選定は学習計画において重要なだけでなく、合格後の進路選択にも影響する可能性がでてくるものです。

そこで、今回はそれぞれの選択科目について、出題範囲や実務においての活用、試験対策のしやすさなどの情報について解説します。

 

選択科目とは?

選択科目は司法試験の論述式試験の科目の一つで、受験者がどの科目を回答するか選択することができます。

選択科目一覧
倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系)、国際関係法(私法系)

 

配点は他の論述式試験と同じく100点満点ですが、試験時間が180分と他の科目(120分)と比較して長く設定されており、重点的に対策の必要がある科目の一つと言えます。

また、2022年(令和4年)度以降、予備試験にも選択科目が導入されることが決定しており、 予備試験合格を目指す司法試験受験生にとっては早期からの対策が求められるようになります。 

 

選択科目の出題範囲や実務との関り、受験者の傾向

それぞれの選択科目について、主な出題範囲や受験者の傾向、実務への関連性などを解説します。

倒産法

倒産法は破産法、および民事再生法から出題されます。

個人における破産、法人における破産、民事再生といった分野は個人を主な顧客とする「街弁」、法人を主な顧客とする「企業法務」いずれにおいても関わってくるため、実務との関連性が非常に高い科目でもあります。

選択科目の中で出題範囲は広い科目ではありますが、教材が充実しており学習が進めやすい科目でもあります。選択科目別の合格率も高い水準を維持しています。

租税法

租税法は所得税法およびそれに関係する限度で法人税法及び国税通則法から出題されます。

一般的に法律事務所が扱う実務との関連性は決して高いとは言い難いものの、全ての個人、法人に関わる分野でありながらもこの分野を得意としている弁護士は多くありません。

こういった分野に明るいと弁護士としての付加価値になるだけでなく、公認会計士や税理士などとのダブルラインセンスで実務にあたる場合にも大きな強みになります。
(※司法試験に合格すると税理士としても登録が可能です。)

選択者が少なく、教材が充実しているとは言い難いですが、出題範囲は比較的狭く、また学説上の争いも少ないという意味では学習が進めやすい科目と言えるかもしれません。

経済法

経済法は主に独占禁止法、および関連法律から出題されます。

実務上活用する機会はそれほど多くありませんが、大手企業をクライアントとするような企業法務および、企業内弁護士(インハウスローヤー)、検察特捜部といった進路においては学習した内容が大いに役立つことが期待できます。

教材が充実しているとは言い難いですが、出題範囲は狭く、受験者数や選択科目別の合格率が比較的高い科目でもあります。考え方が刑法に近く、刑法が得意な受験生は特に取り組みやすい科目といえます。

知的財産法

知的財産法は特許法および著作権法から出題されます。

特許や著作権を扱う分野に携わりたい場合には必須の知識であり、司法試験受験の段階で知的財産法を学習しておくことで就職活動での強みともなりえます。

企業法務を目指す受験生に人気の高い科目であり、試験の難易度も比較的高い傾向にありますが、学習する教材は充実しています。また、頻繁に法改正が行われやすい分野で、出題内容にも反映されやすいため、最新の動向にも気を配る必要があります。

労働法

労働法は個別的労働関係法(労働基準法,労働契約法)と集団的労働関係法(労働組合法)から出題されます。

個人を相手にする場合でも、企業を相手にする場合でも避けては通れない分野であり、 実務との親和性は選択科目の中でもトップクラスに高い科目です。 

出題範囲が広く学習量が多いという意味では決して難易度の低い科目ではありませんが、毎年最も多くの受験生が選択している科目でもあり、また旧司法試験においては必須科目であったことからも学習教材は非常に充実しています。

選択科目別の合格率も高く、しっかりと対策を行えば結果が出やすい科目と言えそうです。

環境法

環境法の出題範囲は環境10法と言われる個別法ですが、主には環境訴訟と環境法政策から出題されます。

環境訴訟に関わるような分野に進まない限りは実務上使う機会が少ないことや、一見すると出題範囲が膨大なことからも敬遠されやすいのか、選択者の少ない科目であり、教材も充実していません。

しかし、出題パターンは民法や行政法との親和性が高く、環境10法の基本的な理解があれば決して膨大な暗記が問われる科目ではありません。場合によっては狙い目とも言えます。

国際関係法(公法系)

国際関係法(公法系)の出題範囲は国際法、国際経済法、国際人権法とされています。傾向としては国家間の紛争や問題の解決に関する出題が目立ちます。

実務上知識が必要となる場面が少ないこともあり、全ての選択科目の中で最も受験者が少なく、そのため学習教材も少ない科目です。

しかし、過去問が繰り返し出題されやすい傾向もあり、出題分野に関心が高ければ対策しやすく、高得点も期待できる科目とも考えられます。

国際関係法(私法系)

国際司法の出題範囲は国際私法、国際民事訴訟法、国際取引法です。近年の傾向としては家族法分野と財産権法分野から出題されています。

実務上は渉外取引などの分野においては必須の知識であり目指す方向によっては司法試験での学習がアドバンテージとなりえます。

試験に出題される範囲が狭く、学習しやすいことから比較的対策しやすい科目として一定数の受験生から選択されていますが、近年は難化傾向にあり、受験者も減少傾向です。

 

選択科目を選ぶ基準

選択科目の選定に迷う司法試験受験生の声も数多く聞きますが「誰にとってもおすすめの科目」というものが存在するわけではありませんが、選択科目の選定基準として参考までにいくつかの軸を紹介します。

将来関わりたい分野に近い科目であるか

既に現場でどのような分野に携わりたいかが明確な場合、その分野に近い科目を選択することは合格後のことを考えても効率の良い選択といえます。

とりわけ、選択科目で高得点を獲得できた場合は就職活動の自己PR材料の一つにもなり得ます。

興味をもって学習を進められる科目であるか

仮に将来活躍したい分野までは明確に持てていなくても、現在興味を持てそうな科目であれば、意欲的に学習が進められる可能性が高いかもしれません。

学習を進めていく中で将来携わりたい分野が明確になっていくことも期待できます。

合格率の高い科目であるか

将来を見越して科目を選択するのも有意義ですが、まずは合格しなければ始まらない、ということを考慮するとどの科目を選択すると合格率が高いかという考え方も一つの指標になりえます。

 科目を選択した受験者の合格率が高いのは倒産法と労働法、次いで経済法 です。

出題範囲が狭く、少ない学習時間で網羅できそうか

選択科目の間でも出題範囲に差があります。学習効率を考えると出題範囲が狭い科目の方が少ない学習時間で網羅できる可能性が高いとも言えます。

一般的には経済法や環境法、国際法(私法)、国際法(公法)が出題範囲は狭いと言われています。

受験者の数

例年受験者が多い科目は競争率が高くなりがちな反面、その分学習するための教材も充実している傾向にあります。一方で受験者が少ない科目は狙い目とも考えられますが教材が少なく学習が難しいといった側面も見られます。

近年の傾向を見ると、受験者が多い科目は労働法・経済法・倒産法・知的財産法です。とりわけ労働法は例年最も多くの受験者が選択しています。

受験者が少ない科目としては環境法、租税法、国際法(公法)が挙げられます。

 

まとめ

司法試験および今後は予備試験でも出題される選択科目について一通りの解説を行いました。

選択科目でどの科目を選ぶかは司法試験受験の戦略の一つであると同時に、試験合格後の進路選択にも影響してくる可能性があります。

ぜひ、今回の記事も参考にしながらご自身にとって最適と思う科目選択を行ってみてください。