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令和3年司法試験解答速報-商法-

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解説

設問1

1.争点整理

〇「多額の借財」と間接取引に関する規制違反

甲社が、乙社との間で、甲社の代表取締役Aの乙社に対する個人的な借入債務5000万円を連帯保証する旨の契約を締結したという事案において、乙社の甲社に対する連帯保証契約に基づく保証債務の履行請求の可否が問われています。

甲社は、上記請求を否定するために、少なくとも、①本件連帯保証契約が「多額の借財」(会社法362条4項2号)に当たるにもかかわらず取締役会の承認(362条4項柱書)を経ていないことと、②本件連帯保証契約が間接取引(356条1項3号)に当たるにもかかわらず取締役会の承認(365条1項・356条1項柱書)を経ていないことを主張することになります。

〇代表権濫用

本件連帯保証契約は、Aが甲社を代表して、A個人のレストラン事業の資金としての借り入れに係る貸金債務を主債務として締結されたものですから、Aが「自己…の利益を図る目的で…した」(民法107条)に当たります。

そこで、甲社は、①②のほかに、③代表権濫用(民法107条の適用又は類推適用)も主張します。

代表権濫用というためには、その前提として、本件連帯保証契約がAの代表権の「範囲内の行為」であるといえる必要がありますから、理論上は、「多額の借財」や間接取引に関する規制をクリアした場合に初めて、顕在化します。

もっとも、設問1は、甲社の主張を出発点としてその当否を論じるという形で、乙社の請求の可否を検討させる形式の問題ですから、初めに甲社に①「多額の借財」に関する規制違反、②間接取引に関する規制違反及び③代表権濫用を主張させ、①②を認めた後で「仮に①②が認められないとしても、…」と仮定した上で③代表権濫用の論述に入ることになります。

平成26年司法試験設問2でも、似たような事案で、「多額の借財」に関する規制違反→代表権濫用という流れ論じることが求められています。

〇利益供与

問題文42~43行目における「なお、Aから甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。」との記述は、本件連帯保証契約がAに対する利益供与(120条1項)に当たることを示すヒントであるようにも思われます。平成30年司法試験でも、甲社が主債務者からの保証料の支払いを要しないで連帯保証契約を締結したことが主債務者に対する「財産上の利益の供与」にあたり、ひいては利益供与に該当するかという問題点が出題されています。そうすると、④本件連帯保証契約が利益供与に当たるから無効であるとの主張についても、検討することが求められているかもしれません。もっとも、④まで問われているかは定かではありませんし、仮に問われていたとしても配点は小さいでしょうから、私の参考答案では言及していません。

〇主債務の発生原因である金銭消費貸借契約に関する問題点

保証債務履行請求の可否ときたら、保証契約側の問題点だけでなく、主債務の発生原因である金銭消費貸借契約側の問題点についても確認する必要があります。実際、平成20年司法試験設問1では、乙社が、丙銀行との間で、甲社の代表取締役Aが甲社を代表して丙銀行との間で締結した金銭消費貸借契約に基づく貸金債務を保証する旨の契約を締結した事案において、保証契約側の問題点として「多額の借財」や間接取引に関する論点を問うだけでなく、金銭消費貸借契約側の問題点として「多額の借財」に関する論点まで問われています。

もっとも、本問では、主債務である発生原因である金銭消費貸借契約がA個人と乙社を契約当事者とするものであるため、仮に無効事由があったとしても甲社側から無効事由を主張することはできないでしょうし、金銭消費貸借契約の瑕疵を窺わせる事情もありませんから、金銭消費貸借契約の無効(付従性ゆえに保証債務も無効となる)については検討しなくていいと思います。

〇司法試験過去問との関連性

なお、設問1は、事案の概要及び検討するべき論点のみならず、取締役会議事録に関する事情の使い方(93条1項但書類推適用説や相対的無効説の当てはめ)についても、平成20年司法試験設問1と非常に似ています。

2.①多額の借財に関する問題点

まず、「借財」にも保証が含まれることを簡潔に指摘します。仮に保証が「借財」に含まれなくても、362条4項柱書でいう「その他重要な業務執行」として規制対象に取り込むことができますから、この論点について丁寧に論じる実益はありません。

次に、「多額」であることの判断要素を示した上で、主債務の額が5000万円であることと、「資本金は1億円、負債額は2億円、総資産額は10億円、当該事業年度の経常利益は2000万円であった。」という甲社に関する事情(問題文8~9行目)を摘示・評価して、「多額」であることを認定します。これらの事情からして本件連帯保証契約が「多額の借財」に当たることは明らかですから、「多額」であることの当てはめについても、そこまで丁寧に書く必要はありません。なお、私の答案では、主債務の性質についても言及しています。

そして、必要とされる取締役会の承認を経ていないことを指摘した上で、取締役会の承認を経ていない代表取締役の個々的取引行為の効力に関する民法93条1項但書類推適用説(最判S40.9.22・百64)を論証し、悪意・有過失に関する当てはめに入ります。

Bが善意であったことは問題文から明らかですから、Bの過失が争点になります。ここいうで過失とは、取締役会の承認がなかったことを知らなかったことについての過失であり、この意味における過失については、不審事由(取締役会の承認がないことを疑わせる事情)⇒承認の有無について正しい認識を得るための調査確認義務の設定(調査確認の内容も含む)⇒義務として要求される調査確認と実際の調査確認の比較⇒調査・確認義務違反の成否という流れで検討します。この作法に従って論じることができるかで、まず差がつきます。

本問における不審事由としては、問題文31~33行目における「Aは、平成28年5月25日、Bに対し、「社内規定により、取締役会の議事録は金融機関以外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述べて、本件確認書を交付した。」という記述が極めて重要であり、この事情の摘示及び評価の仕方でもさらに差がつきます。同種の事情の評価は、平成20年司法試験設問1でも問題になっています(平成20年司法試験設問1では、取締役が取引相手方に対し取締役会議事録を用意することができない旨の説明をしたという事案でした)。

取締役会議事録は、その作成・保存・本店における備え置きが会社法上の義務であり(369条3項、371条1項)、株主・債権者・親会社社員の閲覧・謄写等請求に供される(371条2項ないし6項)ものですから、これを「金融機関以外の第三者には公開していない。」という社内規定が存在することは不自然です。したがって、問題文31~33行目における記述は、取締役会の承認がないことを疑わせる不審事由となりますから、Bは、Aに対して取締役会議事録を見せるように求める調査確認義務を負うことになります。にもかかわらず、Bは、「これ以上の確認をせず、乙社内で必要な手続を経た」(問題文36~37行目)ため、調査確認義務違反としての過失が認められます。

したがって、本件連帯保証契約は、「多額の借財」であるにもかかわらず取締役会の承認を経ていないとの理由から、無効です。

なお、平成20年司法試験設問1では、「多額の借財」について株主全員が同意していたという事情があったため、民法93条1項但書類推適用説を論じた後に、株主全員の同意がある場合における取締役会の承認の要否という論点にも言及する必要がありましたが、本問では、本件連帯保証契約について株主全員が同意していたという事情はありませんから、当該論点は問題になりません。

3.②間接取引に関する問題点

まず、本件連帯保証契約は、「株式会社」甲社が同社「取締役」Aの借入「債務」5000万円を「保証すること」として間接取引(356条1項3号)に当たることを軽く認定します。本件連帯保証契約は、平成20年司法試験設問1における保証契約とは異なり、356条1項3号の具体例に直接該当するものですから、間接取引における「利益が相反する」の判断基準について言及する必要はありません。

次に、必要とされる取締役会の承認(365条1項・356条1項柱書)を経ていないことを指摘した上で、取締役会の承認を経ていない間接取引の効力に関する相対的無効説(最大判S43.12.25・百58)を論証し、悪意・重過失に関する当てはめに入ります。相対的無効説における相手方の主観的要件は、「多額の借財」に関する93条1項但書類推適用説と異なり、悪意又は重過失であり、ここを間違えないように注意する必要があります。なお、判例は「悪意」にしか言及していませんが、学説は「重過失」でも無効であるとする立場であり、平成20年司法試験設問1の出題趣旨・採点実感も「重過失」でも無効であるとする立場です。

相対的無効説では、間接取引該当性及び取締役会の承認を経ていないことの2点について、悪意又は重過失が要求されます。Bは、本件連帯保証契約が間接取引に当たることについて悪意であったといえます。また、取締役会の承認を経ていないことを知らなかったことについて過失があることは、民法93条1項但書類推適用説の当てはめで認定済みです。争点は、重過失の有無である。

重過失の有無は、違反した義務の重要性(本質的な義務への違反か)や義務違反の態様(義務違反が甚だしいか)から判断されます。本問において、Bは、「…自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを強く求めれば、Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え、これ以上の確認をせず、乙社内で必要な手続を経」ています(問題文35~37行目)。ここから、Bが不審に思いながらも、社内規定の存在についてAに確認したり、本当に取締役会の承認を得ているのかについてAに強く問いただすといったことを一切することなく、契約に及んだことが分かります。そうすると、Bの調査確認義務違反の態様が甚だしいとして、取締役会の承認を経ていないことを知らなかったことについて重過失があると認定することができます。

したがって、本件連帯保証契約は、間接取引であるにもかかわらず取締役会の承認を経ていないとの理由からも、無効です。

なお、「多額の借財」に関する検討を終えた段階で本件連帯保証契約が無効であるとの結論が出るのですが、そこで検討を終えると大失点することになるので、間接取引に関する検討もする必要があります。問題文にヒントがあるからです。司法試験でも予備試験でも、何について論じるべきかは、問題文のヒントから判断します。

4.③代表権濫用

まず、代表取締役による代表権濫用については、改正前民法下では、解釈に委ねられており、最高裁判例(最判S38.9.5)は、民法93条但書(現:民法93条1項但書)類推適用する見解でしたが、改正民法下では、民法107条が適用ないし類推適用されます(田中亘「会社法」第2版236頁)。

次に、本件連帯保証契約は、Aが甲社を代表して、A個人のレストラン事業の資金としての借り入れに係る貸金債務を主債務として締結されたものですから、Aが「自己…の利益を図る目的で…した」(民法107条)に当たります。

そして、問題文16~24行目におけるAB間のやり取りから、Bは、AがA個人のレストラン事業の資金としての借り入れに係る貸金債務を甲社に連帯保証させようとしていること、つまりAの代表権濫用の目的を知っていたといえます。

したがって、仮に①②の主張が認められなくても、本件連帯保証契契約は代表権濫用を理由として無効になります。

5.④利益供与に関する問題点

まず、株式会社による連帯保証が主債務者Aに対する「財産上の利益の供与」に当たるかが問題となります。裁判例には、保証人が保証債務を履行した場合には主債務者が求償義務を負う(民法462条等)ことに着目し、主債務者の債務総額に変更がないとの理由から、主債務者に対する「財産上の利益の供与」を否定するものもあります(東京高裁H29.1.31・H29重判2)。

しかし、主債務者は、債務総額に変更がなくても、連帯保証によって融資を受けやすくなるのですから、適正な保証料の負担がないのであれば、連帯保証は主債務者に対する「財産上の利益の供与」に当たると解すべきであるといえます(H29重判2解説)。本件連帯保証契約は、Aからの保証料の支払いを要しないものですから(問題文43行目)、主債務者Aに対する「財産上の利益の供与」に当たります。

次に、本件連帯保証契約は、Aからの保証債務の支払いを要しないものであるため、Aに対して「無償で財産上の利益の供与をしたとき」として、120条2項前段の適用により、「株主の権利の行使に関し」て「したものと推定」されると思われます。しかし、設問1では株主構成が明らかにされていないため、Aを株主であることを前提として、「特定の株主に対して無償で財産上の利益を供与したとき」に当たると認定して120条の2項前段の推定規定を適用することはできません。

そうすると、事実関係に踏み込んで、実際に「株主の権利の行使に関し」てなされたものであるのかを論じることになります。本問では、設問1の段階では誰が甲社の株主であるのかが一切明らかにされていませんから、「株主の権利の行使に関し」について認定することができません。したがって、この要件を欠くとして、利益供与の成立は否定されます。

設問1では、利益供与における「株主の権利の行使に関し」を認定する際に必要とされる甲社の株主構成が一切明らかにされておらず、これは利益供与に言及しなくてもよいとのヒントかもしれません。なので、設問1では利益供与が問われていない可能性もありますし、仮に利益供与まで論じることが求められていたとしても配点は微々たるものでしょうから簡潔に言及するにとどめるべきです。私の参考答案では、紙面が足りないことも踏まえて、言及していません。

 

設問2

Cが、Aに対する本件株式の発行に関する手続を主導するとともに、払込金額2000万円全額を出捐し、本件株式に関する経済的利益も支配的利益も全て自分で享受していたという事実関係を前提として、実質上の株主がCであるといえるかについて検討することが求められています。

似たような事案に関する論点として、他人名義による株式の引受けがあった場合における引受人・株主は誰であるかという論点があります。これについて、最高裁判例は、他人の承諾がある場合とない場合のいずれについても、「一般私法上の法律行為の場合と同じく、真に契約の当事者として申込をした者が引受人としての権利を取得し、義務を負担するものと解すべきである」との理由から、「実質上の引受人…が…株主となると解するのを相当とする」と判示しています(最判S42.11.17・百9、田中亘「会社法」第2版485頁、髙橋美加ほか「会社法」第3版309頁)。

本問は、「他人名義による株式の引受け」そのものではありませんが、「他人名義による株式の引受け」に準じる事案であるとして、上記の判例理論を転用することが可能であると思われます。

そこで、上記の判例理論を論じた上で、問題文59~72行目における事実を摘示・評価することにより、Cが「真に契約の当事者として申込をした者」として「実質上の引受人」に当たるといえるかどうかを論じることになります。

本問の事実関係からして、Cが「実質上の引受人」として株主に当たるという結論になると思われます。

なお、理論面(論証)に紙面を割くのではなく、Cが「実質上の引受人」に当たることを基礎づける問題文59~72行目の事実を全て答案に反映するくらいの気持ちで、当てはめ重視の答案を書くべきです。

 

設問3

1.本件決議の取消しの訴え

AC間の和解契約により、本件株式の「株主」がAであることが確定されています(和解の確定効、民法696条)。

甲社の取締役会において本件株主総会の招集決定がなされたのが令和2年6月であることから、Aが本件決議の取消しの訴えを提起した令和2年7月の時点では、本件決議から「3箇月」の出訴期間(831条1項柱書)は経過していません。

したがって、Aは、甲社の「株主」として、本件決議の取消しの訴え(831条1項)を適法に提起することができます。

2.取消事由

Aが主張する本件決議の取消事由としては、以下の4つが考えられます。

①Cが特別利害関係株主であるにもかかわらず、議長を務めたこと

本件株主総会における議題は「Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件」(問題文87~88行目)ですから、本件株主総会では、取締役を1名しか選任することができません。そして、本件株主総会では、Aを取締役に選任する旨の議案(「本件選任議案」)とCを取締役に選任する旨の議案(「本件修正議案」)が提出されています。そうすると、Cが取締役として選任されることと、Aが取締役として選任されることとは、両立しません。こうしたことに着目して、Cは本件修正議案について「特別の利害関係を有する株主」(831条1項1号)に当たると評価して、そのようなCが議長を務めたことが決議の公正を歪めるものとして831条1項1号のいずれかの類型の取消事由に当たると解することもできそうです。

しかし、判例は、株主総会における取締役「解任」議案について、解任対象取締役たる株主が反対の議決権を行使することは株主としての経営参加権の行使にすぎないとの理由から、解任対象取締役たる株主は「特別の利害関係を有する者」に当たらないと解しています(最判S42.3.14)。そうすると、取締役「選任」議案については、より一層、「特別の利害関係を有する者」に当たることを認めることはできません。

さらに、特別利害関係取締役(369条2項)と異なり特別利害関係株主による議決権行使自体が認められていることからしても、特別利害関係株主が議長として議事を主宰しても、当然に決議が瑕疵を帯びるわけではなく、当該議長の具体的な議事運営の方法によっては「決議の方法が…著しく不公正なとき」(831条1項1号後段)という取消事由が認められる余地があるにとどまると解されています(江頭憲治郎「株式会社法」第6版353頁)。

そうすると、いずれにせよ、①を理由とする取消事由は認められません。

もしかすると、この取消事由について論じることは求められていないかもしれません。仮に論じるとしても、軽く言及するにとどめるべきです

なお、株主総会の議長に誰がなるかは会社法には特に定めがなく、定款に規定があればそれに従い、定款の規定がなければ会議体の一般原則により株主総会の決議で決められると解されています(田中亘「会社法」第2版183頁)。このように、「取締役」が議長を務めなければならないという会社法上のルールはありませんから、「取締役」でないCが議長を務めたこと自体は特に問題ありません。

②Cが議長として「Gには出席資格がない」と述べたことにより、Gが退席し、Dが代理人Gを通じて議決権を行使することができなかったこと

仮に、「株主は、当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として、その議決権を行使することができる」(問題文91~92行目)と定めることにより議決権行使の代理人資格を甲社株主に限定している定款規定がGに適用されないのであれば、②の点は、決議の方法が310条1項に違反するという意味で「決議の方法の…法令…違反」としての取消事由に当たることになります(髙橋美加ほか「会社法」第3版143頁)。

定款規定がGに適用されるかについては、㋐定款規定の有効性と㋑定款規定の効力の射程の2点から判断されます。

最高裁判例(最判S43.11.1・百32)は、㋐定款規定の有効性については、旧商法下の事案において「商法239条3項…は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論上告会社の定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができるから、右商法239条3項に反することなく、有効であると解するのが相当である。」と判示しています。この判例は、同族会社の事案に関するものですから、同じく甲社が同族会社である本件についても、その射程が及びます。

最高裁判例(最判S51.12.24)は、㋑については、株主の職員又は従業員が議決権を代理行使した事案において、「右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえって、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。」との理由から、定款規定の射程を否定しています。判旨における(ⅰ)「議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく」という部分と、(ⅱ)「右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。」という部分の関係については、(ⅰ)と(ⅱ)が重畳的要件であるのかは定かではないと理解されています(髙橋美加ほか「会社法」第3版142頁)。私は、株主の議決権行使の機会を最大限尊重するべきであるという観点から、両者は選択的な要件である(いずれか一方を満たせば足りる)と理解するのが相当であると考えます。

そして、弁護士が代理人である場合については、下級審裁判例において、定款規定の射程が及ぶとするもの(東京高判H22.11.24)と及ばないとするもの(神戸地尼崎支判H12.3.28、札幌高例R1.7.12・R2重判3)とがあります。

及ばないとする下級審裁判例のうち神戸地尼崎支判H12.3.28は、「本件総会へ出席を委任された者が弁護士であることからすれば、受任者である弁護士が本人たる株主の意図に反する行動をとることは通常考えられないから、株主総会を混乱させるおそれがあるとは一般的には認め難いといえる。したがって、右申出を拒絶することは、本件総会がこの者の出席によって撹乱されるおそれがあるなどの特段の事由のない限り、合理的な理由による相当程度の制限ということはできず、被告定款13条の規定の解釈運用を誤ったものというべきである。…本件においては、前示のとおり、原告は、被告に対し、本件総会に先立ち、自己の選任した代理人の氏名及び職業を委任状と共に被告に告知していたのであるから、被告としては、本件総会当日に、代理人たる弁護士に対して、代理人自身の身分・職務を証明する書類の提示を求めて、右代理権の有無,代理人の同一性を確認し、その上で会場への入場を認めるという取扱いをすれば足りたのであって、右手続の履践が本件総会を開催するに際しての事務処理を著しく煩雑にし、総会の開催を混乱させることになったと認めるに足りる証拠はない。」と判示しています。

札幌高例R1.7.12は、「控訴人代表者は、被控訴人X2の委任状を持参した被控訴人X2の代理人であるA弁護士と面識があり、株主総会の受付において、同人が弁護士であり株主総会攪乱のおそれがないことを容易に判断できたというべきである。議決権行使の重要性に鑑みると,本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない。」との理由から、定款規定の効力の射程を否定しています。

私の答案では、株主の職員又は従業員による議決権の代理行使を許容した最高裁判例(最判S51.12.24)と、弁護士が代理人である事案において定款の射程を否定した上記下級審裁判例を参考にして、定款の効力の射程を否定しています。したがって、②を理由とする取消事由が認められることになります。

なお、代理人資格を株主に限定する定款規定の有効性及びその射程については、平成29年司法試験設問2でも出題されています。

③丙社の内規に従わないで、Fによる投票を有効であるとしたこと

丙社が保有する10万株については、Aが丙社の代理人としてAに投票する一方で、丙社の代表取締役副社長Fも丙社の代表者としてCに投票していることにより、矛盾する内容の議決権行使がなされています。そうすると、Aによる議決権行使とFによる議決権行使の優劣を明らかにする必要があり、仮にAによる議決権行使を優先するべきであれば、Fによる議決権行使を優先してCの得票数を計算して宣言された本件選定決議には「決議の方法の…法令…違反」としての取消事由が認められることになります。

「丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の純資産に占める割合が0.1%程度であった」(問題文96~97行目)ことから、丙社の内規(問題文93~95行目)によると、丙社が保有する10万株の議決権は、総務担当の代表取締役専務Eに委ねられることになります。Eは、内規に従い、包括委任状用紙の送付を通じて、甲社の代表取締役Aに対して、丙社の10万株の議決権行使について包括的に委任しています(問題文97~100行目)。したがって、Aによる丙社の10万株についての議決権の代理行使は、丙社の内規に従ってなされたものです。

他方で、Fによる丙社の10万株についての議決権行使は、Fが丙社の代表者として行ったものです。もっとも、これは丙社の内規に反します。

そこで、丙社の内規の効力が甲社の株主総会にも及ぶのかという点も踏まえながら、AやFによる議決権代理行使の可否について検討します。そして、Fによる議決権代理行使を無効とした上でAによる議決権代理行使を有効と扱うべきだったとの結論に至った場合には、議長の権限(315条1項)の濫用があったとして、本件選定決議には「決議の方法の…法令…違反」としての取消事由が認められることになります。

ちなみに、ある議決権について矛盾した内容の権利行使が二重になされた場合における問題点については、平成21年司法試験設問5でも出題されています(ある議決権について、議決権行使書面と委任状に基づく代理人とで、それぞれ異なる内容の権利行使がなされた事案)

④候補者ごとに採決をしなかったこと

取締役の選任議案は、候補者1人ごとに1個の議案を構成します(会社法施行規則66条1項1号イ参照、田中亘「会社法」第2版161~162頁、モリテックス事件・東京地判H19.12.6・百34)から、各候補者の選任議案ごとに、出席株主が議決権を行使するというのが原則的な選任方法となります(田中亘「会社法」第2版210頁)。

原則的な選任方法によると、多数派株主は、取締役のポストを自分が支持する者で独占することができます(こうしたことを踏まえて、少数派株主にもその持株数に応じて取締役を選任する可能性を与えるために設けられているのが、累積投票制度(342条)です)。

本問では、Cの提案により、「候補者ごとに採決をする」という原則的な選任方法ではなく、「取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決する」こととされています(問題文120~123行目)。これは、累積投票制度に準ずる選任方法であるといえます。

そうすると、累積投票制度を用いるために会社法上必要とされる要件を満たしていないにもかかわらず、累積投票制度に準ずる選任方法を採用したという点で、取消事由に当たらないかという点が問題になると思われます。

なお、取締役の選任方法(採決の方法)の問題点については、平成24年司法試験設問1でも出題されています。

※2.AとGが異論を唱えたが、Cが取り合わなかったことについて(2021.05.25 17:00追記)

この点について、ブログでご質問を頂いたため、私の考えを説明いたします。

問題文116~118行目における「議長となったCは、「Gには出席資格がない。」と述べるとともに、「Fには丙社代表者としての出席を認めます。」と述べた。これらに対し、AとGが異論を唱えたが、Cが取り合わなかったため、Gは、仕方なく退場した。」という記述について、「これらに対し、AとGが異論を唱えたが、Cが取り合わなかった」という部分に着目して、②CがGによる議決権代理行使を認めなかったこと、③Cが丙社の内規に違反するFによる投票を認めたこととの関係で、どのように論じるべきかは悩ましいです。

②との関係についてですが、②と別に、議長の権限(315条1項)の濫用として論じる実益は乏しいと思います。考えられる構成は2つであり、1つ目は、②について議長の権限の濫用と絡めて論じる、2つ目は、②について議長の権限の濫用と絡めずに論じるというものです。1つ目の構成でも、代理人資格を株主に限定する定款規定がGに適用されるかどうかが議長の権限の濫用に直結しますし、代理人資格を株主に限定する定款規定がGに適用されるのであれば議長の権限の濫用を解することなく「決議の方法」の310条1項違反という取消事由が導かれることになりますから、1つ目の構成を選択する実益は乏しいと思います。

③との関係についてですが、結局、Aによる投票とFによる投票のどちらを優先するべきかが議長の権限の濫用の有無に直結することになると思われるため(私の答案では、③については議長の権限の濫用に絡めて論じています)、③とは別に、「AとGが異論を唱えたが、Cが取り合わなかった」だけに着目して議長の権限の濫用を論じる実益は乏しいと考えています。

3.裁量棄却

過去の出題趣旨・採点実感では、裁量棄却(831条2項)についても言及することが望ましいといった指摘がありますから、裁量棄却についても、軽く言及するのが望ましいです。

4.主張適格

上記②については、Aからみて他の株主Dに関する瑕疵にとどまるため、これをAが取消事由として主張することの可否が問題になります。

最高裁判例(最判S42.9.28・百36)は、原告株主以外の株主に対する招集手続の瑕疵について、「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得る」と判示することにより、他の株主に関する手続上の瑕疵を理由として決議取消しの訴えを提起することを認めています(田中亘「会社法」第2版196頁)。

この判例の射程は、株主による議決権代理行使を認めなかったという瑕疵についても妥当すると考えられますから、この判例を論証した上で、Aは②についても取消事由として主張することができると結論付けます。

なお、判例は「決議取消の訴を提起し得る」と判示することで上記論点を訴訟要件に位置づけているようであり、髙橋美加ほか「会社法」第3版153頁や田中亘「会社法」第2版196頁でも上記論点が原告適格に位置づけられています。

もっとも、主張する取消事由ごとに原告適格の有無が変わるという理論構成は不自然ですし、平成24年司法試験設問3に関する出題趣旨も「Aの主張に関しては、このようなFに関する手続上の瑕疵をAが主張することができるか否かを…条文を摘示しつつ論ずることが求められる」として上記論点を原告適格に位置づけていないと思われます。

上記論点は、訴訟要件ではない主張適格の問題に位置づけるのが正確であると考えます。

5.結論

私の答案では、②の取消事由を理由として、決議取消しの訴えが認められると結論付けています。

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