大学3年次合格者が作成した慶應義塾大学法科大学院の参考答案と傾向対策を公開しております。
2022年度入試
2023年度入試
2024年度入試
慶應義塾大学法科大学院 入学者選抜
https://www.ls.keio.ac.jp/nyushi/examination.html
※1.2022年度入試は2022年入学者選抜試験、2023年度入試は2023年度入学者選抜試験、2024年度入試は2024年度入学者選抜試験を指します。
※2.コメントにおける「基礎問」は加藤ゼミナールで販売されている基礎問題演習講座及びそのテキストを、「論証集」は加藤ゼミナールで販売されている総まくり論証集を指します。
【入試概要】
試験科目
1限目:憲法・民法・刑法(150分)
2限目:商法・民訴法・刑訴法(120分)
試験場の特徴
・試験会場は慶應三田キャンパスで、長机で一般的な大学のような教室のタイプと、木の机の公立小学校のような教室のタイプが確認できた。後者は1人に2席分与えられるので、真隣には誰もいない。
・試験の際には法科大学院試験六法が付与されるが、書き込みは禁止。
答案用紙の特徴
30行×4頁で、A3くらいのサイズの片面に2頁分の両面印刷のもの。1行あたりの縦幅は狭めで横幅は予備試験等のものと同じくらい。答案用紙を折って使用することも可能。答案用紙にはボールペンや万年筆のみ使用可能で、問題用紙には蛍光ペンなども使用可能。
気をつけること
【各科目の出題概要・対策】
憲 法
2019年度 | 新しい人権(性同一性障害について) |
2020年度 | 集会の自由 |
2021年度 | 財産権・損失補償(新型インフルエンザ措置法) |
2021年度 追試 | 法律上の争訟・団体の内部紛争への司法審査の可否 |
2022年度 | 学問の自由(東大ポポロ事件)・団体の内部紛争への司法審査の可否 |
2023年度 | 立候補の自由(供託法の適法性) |
2024年度 | 思想及び良心の自由・団体の目的の範囲 |
2019年度では新しい人権、2020年度では集会の自由、2021年度では財産権と、重要分野からの出題で比較的書きやすい問題が多かったのに対し、2021追試では統治分野、2022年度では学生運動が盛んであった時代の判例である東大ポポロ事件、2023年度では立候補の自由や供託金制度、2024年度は自治会等に関する思想・良心の自由など、対策の追いついていない受験生にはイメージしづらかったり、出題の角度的に書きづらかったりする問題が出題される傾向になってきています。
そこで、超重要分野である表現の自由や平等権などに範囲を絞ったうえでその分野では「最高の答案」を書けるような勉強するのではなく、全体的に何が出題されても「そこそこの水準の答案」を書ける準備をする方が対策としては無難かと思います。
憲法自体、書きづらい科目なので苦手意識を持つ受験生は多いですが、ここ3年ほどは判例のキーワードをおさえられているかどうかが採点のポイントになっている印象なので、判例を眺めるだけではなく、この判例はどういう事案でどういう理由でどういう判断をしたのかを短くまとめることも、対策としては有効です。
特に2024年度では普通の違憲審査基準論が使いづらい問題が出てしまい、判例のキーワードを拾いながら書かなければならなかったですが、私は違憲審査基準論で書いても合格できたので、開き直ってそれだけで書いて他の科目で取り返すという選択も、戦略としてナシではないと思います。もちろん危険であることに変わりはないので、しっかり準備しておくに越したことはありません。
基礎問を使った学習としては、まず違憲審査基準を自由に使いこなせるように訓練し、そのうえで重要分野について答案の流れや当てはめの方向性について必要があれば論証集なども併用しながらしっかり学習することが有効です。
論証集では、教科書知識や重要判例の判旨を要約したものなど、そのまま答案に反映できる知識がたくさん記載されているので、ぜひ使ってみてください。
民 法
2019年度 | 自己物の時効取得・時効完成前後の第三者・再度の時効取得・賃借権の時効取得 |
2020年度 | 信頼関係破壊の法理・債権者代位権・転用物訴権 |
2021年度 | 請負人への追完請求・債務不履行責任・債務不履行解除・賃貸人の修繕義務 |
2021年度 追試 | 所有権留保・即時取得・留置権・妨害排除請求権・不法行為に基づく損害賠償請求 |
2022年度 | 将来債権譲渡・混同・詐害行為取消権 |
2023年度 | 履行不能・危険負担・制限種類債権 |
2024年度 | 賃貸人たる地位の移転・無断転貸解除・用法遵守義務違反解除・必要費償還請求権・転用物訴権 |
慶應の民法は、登場人物が多かったり検討事項が多かったりとかなり忙しい試験ですが、問題自体の難易度が他のロースクールと比べて特別高いというわけではなく、処理速度が大切です。
対策としては、基礎問受講者であれば基礎問と総まくり論証集をとにかく何度も繰り返せば足ります。慶應の場合は現場思考の論点があまり出ないので、典型論点について論証集を暗記するなかで、事例に落とし込んだらどのように論じるのかを意識しながら回せば慶應の対策で困ることは少ないと思います。また、相手方の反論を想定しながら書く問題が多いので、要件事実的な整理もされている総まくり論証集がとんでもなく力を発揮してくれます。
2019年の問題をやってみるとわかると思うのですが、論じたいことが多すぎてまとまりのない答案になってしまうことが多いです。そのため答案構成をしっかりしたいですが、そのような時間はないので、基礎問等の問題演習をするときに頭の中で答案の流れを組み立てられるくらいまでやり込むといいです。
また、2023年度のように基礎問を形式的に見たのでは答えづらい問題もありますが、基礎問は暗記するものではなく論点ごとの加藤先生の思考過程や論文答案の方法論を学ぶものなので、基礎問や論証集で学んだことを総動員すれば十分解答できる問題です。
刑 法
2019年度 | 1問1答・窃盗罪における占有・自招侵害への正当防衛の可否 |
2020年度 | 1問1答・窃盗罪の不法領得の意思 |
2021年度 | 1問1答・誤想過剰防衛 |
2021年度 追試 | 1問1答・事後強盗罪 |
2022年度 | 1問1答・刑事未成年者を利用した間接正犯・共謀共同正犯 |
2023年度 | 因果関係・遅すぎた構成要件の実現・因果関係の錯誤・横領罪の共同正犯・他人所有建造物等以外放火罪 |
2024年度 | 誤想過剰防衛・死者の占有・不法領得の意思 |
慶應の刑法の特徴として、事例問題としての難度が高くないという点が挙げられます。2023年度からは1問1答形式の問題がなくなり、2023年度は事例問題が3つ出題されましたが、丁寧に検討していては到底間に合わない長さであったためか、2024年度は事例問題2つという出題になりました。その傾向からすると来年以降も事例問題2つになることが想定されますが、仮に3つ出題されても時間配分が狂わないように、コンパクトにある程度の水準の答案を書く練習をすると良いと思います。これは、事例問題1つの長い問題や1問1答形式が出題された場合も同じです。
事例3つの場合には、普通にやっていては60分でも足りないくらい時間がかかるので、細かい論点は捨てるという選択をする勇気も必要です。細かいことも網羅してメイン論点が弱くなるくらいなら、細かいことは捨ててメイン論点を丁寧に検討すべきです。実際に出題趣旨でも、メイン論点を丁寧に検討すれば高評価が与えられた旨公表されています(2023年度の問題2など)。
このような時間的にも内容的にも難度が高くはない事例問題が出題された場合は、丁寧に事実を拾いながら検討していけば合格答案になると思います。逆に、例えば2022年度の問題で間接正犯の議論を飛ばして共謀共同正犯の議論から入ってしまったり、その逆を書いたりするなど、幹となる部分を外してしまうと相対的にかなり沈んでしまうと思うので、普段の勉強で基礎問を使っている方は基礎問レベルの大枠は間違えない水準まで持っていくことを目標にすると合格レベルに達することができると思います。
刑法は民法や憲法と同時間に行われる都合上、できるだけ時間を節約し、45分前後で終えることを目標にすると他科目とのバランスが取りやすいと思います。
しかし2023年度だけは例外で、55分以上取らないとまともな答案は書けないはずなので、様々なパターンに対応できるようにしたいです。
刑法は基礎問をやっておけばほとんどの問題に対応できますが、遅すぎた構成要件の実現など、論証集にしか記載のない論点や、細かい定義(「逮捕」など)は論証集で学習すべきです。
商 法
2019年度 | 招集通知を欠く取締役会決議の効力・取締役会決議の効力と新株発行の効力の関係・募集事項の通知・公告を欠く新株発行の効力 |
2020年度 | 429条の責任・名目的取締役の監視義務の有無 |
2021年度 | 会社設立中の発起人の行為・定款に記載のない財産引受け・発起人の責任 |
2021年度 追試 | 詐害的事業譲渡・法人格否認の法理・商号続用責任 |
2022年度 | 特別利害関係取締役・瑕疵ある取締役会決議の効力・承認なき直接取引の効力 |
2023年度 | 事業譲渡・株主総会決議を欠く事業譲渡の効力 |
2024年度 | 譲渡制限株式譲渡の承認手続・みなし承認・株主総会決議取消しの訴え |
慶應ローの商法は「40分でやるには厳しいけど、50分あれば十分解ける」というくらいの問題が多い印象です。下三法については3科目まとめて120分であり、1科目あたり40分しか割けないので、50分なんてかけてしまうと民訴と刑訴が悲惨なことになりかねません。そこで、私は民訴と刑訴を先に駆け足で終わらせ、最後に余った時間すべて商法に注ぐという戦略を立てていました(本番ではなぜか商法からやりました)。
商法に限らず慶應はとにかく時間がないのに問題も少し難しいことが多いので、基本的な論証や定義は脊髄反射レベルで書けるようになるのが望ましいです。
また、2023年度のように事業譲渡などの受験生間で差がつきやすそうな問題が出ることもありますが、合併などの組織再編は私が確認した限りだと出題されていないので、最低限出題されても全く書けないのは避けるくらいにしておけば足りると思います。
商法は基礎問だけでは拾いきれない論点も出題されますが、論証集も併用すれば比較的簡単な問題が多くなります。2024年度はそれまでとは少し毛色の違う出題がされましたが、これも論証集で十分対応できます(私は焦っておかしなことを書いてしまいました)。
民事訴訟法
2019年度 | 弁論主義(訴訟資料と証拠資料の峻別)・既判力 |
2020年度 | 既判力・争点効(信義則)・控訴の利益 |
2021年度 | 将来給付の訴えの利益・確認の利益・一部請求の訴訟物・一部請求棄却後の
残部請求 |
2021年度 追試 | 証明責任・既判力・相殺の抗弁の既判力 |
2022年度 | 相殺と既判力・権利自白 |
2023年度 | 証明責任・控訴の利益 |
2024年度 | 既判力・争点効(信義則)・将来給付の訴えの利益 |
慶應に限らず、私立の民訴はとにかく既判力の一般的な問題が多く出題されており、この分野は書く内容が限られているため、何を書いたかよりもどう書いたかが重視されやすいです。
また、将来給付の訴えの利益や争点効(信義則)など、知っているかどうかで差をつけさせるものも、そこそこの頻度で出題されます。2024年度に争点効が出題されたので2025年度で出題される可能性は低いですが、ある程度の頻度で出題されている以上、しっかり準備をしておくに越したことはないです。
一方、複雑訴訟については私が確認した限り出題歴はありませんでした。
周期的に、そろそろ弁論主義メインの問題が出てもおかしくないのではと睨んでいます。
また、この表の中だけでも2回出題されている将来給付の訴えの利益は規範がかなり長いですが、脳内で圧縮して覚え、本番では伸長して使えるように訓練していました。また争点効については肯定説と否定説両方の規範を覚え、否定説に立った場合の信義則構成も書けるようにしていましたが、慶應で必要性が高いとまではいえず、争点効の肯定説だけでも耐えられると思います。実際、出題趣旨では争点効を使っても良いとされているので、今のところ争点効だけでいいと思います。
民訴については基礎問の網羅性が高いので、基礎問だけやっていれば十分すぎるくらいです。
刑事訴訟法
2019年度 | 捜査法のうち逮捕に伴う捜索・差押えや「必要な処分」 |
2020年度 | 証拠法のうち自白法則と伝聞法則の組み合わせ |
2021年度 | 証拠法のうち自白法則・補強法則・公判手続のうち訴因変更の可否 |
2021年度 追試 | 捜査法のうち所持品検査・証拠法のうち違法収集証拠排除法則 |
2022年度 | 捜査法のうち「捜索すべき場所」に関するものや「必要な処分」 |
2023年度 | 公判手続のうち訴因の機能・訴因の特定・証拠法のうち伝聞法則 |
2024年度 | 公判手続のうち訴因変更の要否・可否 |
この6年分(7回)の傾向を見ると、捜査からの出題が多いものの、満遍なく出題されています。2023年度からは傾向が少し変わり、たくさん書かせる問題が多くなったように感じます。それまでは事例1つで小問複数だったのに対し、2023年度からは事例複数で攻めてくるようになりました。この複数事例問題は、とにかく書く量が多くなり、それまでよりも更に時間制限が厳しくなっています。
来年以降もこの傾向が続くとは限らないですが、どのパターンで出題されてもいいように、刑訴に関しては過去問を5年分くらい解いて慣れておくのもいいかと思います。
私の中では、2021追試と2019年度の問題は解いていて楽しかったです。
また、刑訴の基礎問は問題数が特別多いわけではないのですが、かなり網羅性が高く、刑訴に関しては基礎問丸暗記でも合格答案を書くことが十分可能です(これは基礎問丸暗記を推奨するものではなく、最悪それでも大丈夫ということです)。