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【コンビニ強盗】反抗抑圧状態にない店員が犯人に現金を手渡した事案

2025年04月21日

2024年12月、鹿児島市にあるコンビニエンスストア(ファミリーマート上之園町店)において、店員のA氏(以下「店員A」といいます。)が、ナイフをもって金銭を要求してきた犯人Bに対して現金20万円を手渡し、その直後に犯人Bを取り押さえたという事件が報道されています。

 

出典:鹿児島ニュース・KYT鹿児島読売テレビ

犯行時における店員A氏及び犯人Bとのやり取りは、次の通りです。

犯人B ナイフを持った状態で金銭を要求

店員A 「強盗ですか?」と尋ねる

犯人B 「強盗です。」と返答

店員A 「強盗かぁ。強盗っているんだな。」と思った。

その後、店員Aが犯人Bをレジの近くまで案内し、レジの中にあった現金20万円を犯人Bに手渡し、その際、「袋いる?」と尋ねて、犯人Bが現金を持ちやすいように犯人Bに袋を渡しています。

その直後に、店員Aが犯人Bをその場で取り押さえました。

この事件では、報道されている内容からすると、店員Aは少なくとも反抗を抑圧されていないと考えられます。

強盗罪(刑法236条)は暴行脅迫により相手方の反抗を抑圧して財物を奪取する犯罪です。

刑法236条(強盗)
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

仮に店員Aが反抗を抑圧されていなかった場合、強盗罪の成否との関係で、1⃣実行行為である「暴行又は脅迫」が認められるかと、2⃣既遂要件である「強取」が認められるかが問題となります。

1⃣強盗罪の「暴行又は脅迫」

強盗罪の「暴行又は脅迫」は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものをいい、判例によれば、これは社会通念に従い客観的に判断されます。

つまり、社会通念上一般に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであれば強盗罪の「暴行又は脅迫」に当たり、相手方が現実に反抗を抑圧されたか否かを問わないということです。

” 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によつて決せられるのであつて、具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であつたかどうかと云うことによつて決せられるものではない。”(最二小判昭和24年2月8日)

報道内容からは犯人がナイフを振り回したり・突き出したなどの事実は認められず、口頭でのやり取りも比較的穏当なものであったと思われるため、客観的にみて犯人Bの脅迫行為が店員Aの反抗を抑圧するに足りる程度に至ってはいないとして強盗罪の「脅迫」が否定される余地もあります。

仮にそうである場合、強盗罪は成立せず、恐喝罪(刑法249条1項)が成立し得るにとどまります。

2⃣「強取」における因果関係

仮に客観的にみて犯人Bの脅迫行為が店員Aの反抗を抑圧するに足りる程度に至っていたとして強盗罪の「脅迫」に当たる場合には、店員Aが反抗を抑圧されていない状態で現金を犯人に手渡していることから、強盗既遂の要件である「強取」を満たすかが問題となります。

強盗既遂罪が成立するためには「強取」という要件を満たす必要があります。

「強取」における暴行脅迫と財物移転との間の因果関係については、次の3つの見解があります。

①反抗抑圧という中間結果の経由を必要とする見解
 暴行脅迫→反抗抑圧→財物移転という因果経過が必要とされる。

②畏怖という中間結果の経由があれば足りるとする見解
 暴行脅迫→畏怖→財物移転という因果経過で足りる。

③畏怖という中間結果の経由すら不要とする見解
 暴行脅迫→憐れみ等→財物移転など、暴行脅迫と財物移転との間に何らかの因果関係が存在すれば足りる。

①は通説、②は判例の立場です。

” 強盗罪の成立には被告人が社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る暴行又は脅迫を加え、それに因つて被害者から財物を強取した事実が存すれば足りるのであつて、所論のごとく被害者が被告人の暴行脅迫に因つてその精神及び身体の自由を完全に制圧されることを必要としない。”(最一小判昭和23年11月18日)

報道内容からすると、店員Aは少なくとも反抗抑圧状態には至っていないので、①の見解からは、「強取」は認められず、強盗未遂罪が成立するにとどまります。

仮に店員Aが反抗抑圧に至らない程度に畏怖しており、畏怖した結果として現金を交付しているのであれば、①の見解からは、強盗未遂罪とは別に恐喝既遂罪が成立し、両罪は観念的競合として処理されます。②の見解からは、「強取」が認められ、強盗既遂罪が成立します。

仮に店員Aが畏怖すらしておらず、隙をついて取り押さえるための手段として現金を交付したに過ぎないという場合には、①の見解からは、強盗未遂罪が成立するにとどまり、別途恐喝既遂罪が成立することはありません。②の見解からも、強盗未遂罪が成立するにとどまります。これに対し、③の見解からは、暴行脅迫と財物移転との間に何らかの因果関係がある以上、「強取」が認められ、強盗既遂罪が成立します。

なお、youtubeのコメント欄には、犯人の罪を重くすることを目的として強盗未遂から強盗既遂にするために敢えて犯人に現金を渡したのでは?という趣旨の投稿がありますが、報道では店員Aのそのような動機には言及がありません。

店員Aが現金を手渡してから直ぐに犯人を取り押さえていることから、隙をついて取り押さえるための手段として現金を交付したという可能性も考えられます。なお、このような動機と畏怖とは併存し得る心理状態であるため、②の見解からはなお「強取」ありとして強盗既遂罪の成立が認められる余地があります。

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当