1⃣事件の概要
最高裁(最一小判令和7年4月17日)は、京都市営バスの元運転手Xが勤務時間中における運賃着服(合計1000円)と電子たばこ使用(合計5回)を理由として懲戒免職され、退職金支給制限規定に基づき本来支給されるはずであった退職金(1211万4214円)の全部を支給しないとする処分を受けたために、懲戒免職処分と退職金支給制限処分の取消しを求める取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起した事案において、懲戒免職処分の適法性を認めるとともに、退職金支給制限処分も適法であると判断しました。
最高裁で争点となったのは、懲戒免職処分を理由とする退職金支給制限処分の適法性です。
最高裁は、懲戒免職処分を理由とする退職金支給支給制限処分の司法審査の判断枠組みについて、「本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである(最高裁令和4年(行ヒ)第274号同5年6月27日第三小法廷判決・民集77巻5号1049頁参照)。」と判示しています。
その上で、「着服行為の被害金額が1000円でありその被害弁償が行われていることや、Xが約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと等」のX側に有利な事情があるにもかかわらず、以下の事実関係に着目し、退職手当支給制限処分に係る管理者の裁量権の逸脱濫用を否定し、退職金支給制限処分を適法であると判断しています。
・運賃の着服は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。
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・バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、京都市交通局職員服務規程において、勤務中の私金の所持が禁止されている(同規程20条)。そうすると、運賃の着服は、Yが経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。
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・Xは、バスの運転手として乗務の際に、1週間に5回も電子たばこを使用したというのであるから、勤務の状況が良好でないことを示す事情として評価されてもやむを得ないものである。
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・運賃の着服及び勤務時間中の電子たばこ使用に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、Xは、それらが発覚した後の上司との面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない。
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2⃣判例の解説
懲戒解雇を理由とする退職金支給制限処分については、理論上、①退職金の法的根拠、②退職金支給制限規定が賃金全額払いの原則(労基法24条1項本文)に違反するか、③退職金支給制限規定の合理性(労契法7条本文)、④退職金支給制限規定に基づく退職金支給制限処分の合理性が問題となります。
最高裁が判断を示しているのは、④についてです。
本問は、私企業の労働者ではなく、京都市営バスの運転手という公務員の事案であるという特殊性があります(訴訟形式も民事訴訟ではなく、各処分の取消しを求める取消訴訟という行政事件訴訟です。)。
例えば、小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)は、私鉄職員の電車内における痴漢行為の事案において、④に関する判断枠組みとして、「このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。」と述べ、退職金全額不支給をするためには「当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があること」が必要であると解しています。
その上で、退職金全額不支給処分は違法である(結論として、7割の限度で減額を許容)とする理由の1つとして、「Y社において、過去に退職金の一部が支給された事例は、いずれも金額の多寡はともかく、業務上取り扱う金銭の着服という会社に対する直接の背信行為である。本件行為が被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるなどとはいえないことは前記説示のとおりであるが、会社に対する関係では、直ちに直接的な背信行為とまでは断定できない。そうすると、それらの者が過去に処分歴がなく、いわゆる初犯であった…という点を考慮しても、それが本件事案と対比して、背信性が軽度であると言い切れるか否か疑問が残る。」と述べ、Xの非違行為(私鉄職員による電車内での痴漢行為であるが、会社の業務自体とは関係なくなされた、私生活上の行為である。)が「業務上取り扱う金銭の着服という会社に対する直接の背信行為」とは異なることを挙げています。
これに対し、令和7年最判(最一小判令和7年4月17日)では、運賃の着服について、「本件着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。」、「バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、京都市交通局職員服務規程…において、勤務中の私金の所持が禁止されている(20条)。そうすると、本件着服行為は、Yが経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。」と述べ、着服された運賃が「公務の遂行中に職務上取り扱う公金」であったこと、バス運転手が「その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され…る」立場にあることを強調して、退職金全額不支給処分を適法としています。
令和7年最判の事案は、
✅横領された金銭が公金であったこと
✅当該労働者がその職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請される立場にあったこと
✅運賃の横領はYに対する直接の背信行為である
といった点において、小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)とは大きく異なるわけです。
なお、令和7年最判は、④に関する判断枠組みについて、「本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである…。」と判示しており、裁量論を強調した判断枠組みを採用していますが、これは訴訟形式が行政事件訴訟たる取消訴訟であったからであると考えられます。
取消訴訟においては、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定める行政事件訴訟法30条が存在するため、本案勝訴要件である取消事由の審理では、まず初めに裁量処分であるか否かが判断され、裁量処分である場合には裁量権の逸脱濫用によって取消事由の有無を判断せざるを得ないからです。
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3⃣判例・裁判例の詳細
【小田急電鉄事件・東京高判平成15年12月11日】
事案:Xは、鉄道事業等を営むY社に雇用され、約20年にわたりホーム・改札等の駅業務、案内所での予約受付・国内旅行業務等に従事していた者であるが、平成12年5月1日、飲酒して電車に乗車中、女子大生の臀部をスカートの上から撫でるという痴漢行為により迷惑防止条例違反として略式起訴され、罰金20万円に処され、それから約半年後である同年11月21日、電車内で女子高校生のスカート内に手を入れ臀部を撫で回すなどの痴漢行為により迷惑防止条例違反として逮捕・勾留の後に正式起訴され、懲役4年・執行猶予3年の有罪判決が確定し、半年前にも痴漢行為で罰金刑に処されており、そのほかに過去に2回にわたる痴漢行為による前科(罰金3万円・5万円)があったことが悪情状として考慮され、平成12年12月5日、懲戒解雇されるとともに、懲戒解雇を理由とする退職金不支給を定める就業規則の規定に基づき、本来得られたはずの退職金920万円8451円全額が不支給とされた。
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判旨:「ア Y社には、基本的には、初任給等を基礎として定められる退職金算定基礎額及び勤続年数を基準として算出した退職金を支給する旨の退職金支給規則があること、そして、同規則の4条には、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない。」との条項(本件条項)がある…。
上記のような退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。
そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。そのような事情がない場合には、懲戒解雇の場合であっても、本件条項は全面的に適用されないというべきである。
イ そうすると、このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。
このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反すると考えられる。
なお、上記の点の判断に際しては、当該労働者の過去の功、すなわち、その勤務態度や服務実績等も考慮されるべきことはいうまでもない。
ウ もっとも、退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が、上記のような強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえない。
そうすると、このような場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。なお、…Y社において、過去に、懲戒解雇の場合であっても、一定の割合で減額された退職金が支給された例があることは、本件条項を上記のように解すべきことの1つの裏付けとなるものである。また、本件後にY社の会社で設けられた諭旨解雇の制度において、退職金の一定割合の支給が認められているのも、上記の解釈と基本的に通じる考え方に基づくものと理解される。
エ 本件でこれをみるに、本件行為が悪質なものであり、決して犯情が軽微なものとはいえないこと、また、Xは、過去に3度にわたり、痴漢行為で検挙されたのみならず、本件行為の約半年前にも痴漢行為で逮捕され、罰金刑に処せられたこと、そして、その時には昇給停止及び降職という処分にとどめられ、引き続きY社における勤務を続けながら、やり直しの機会を与えられたにもかかわらず、さらに同種行為で検挙され、正式に起訴されるに至ったものであること、Xは、この種の痴漢行為を率先して防止、撲滅すべき電鉄会社の社員であったことは、上記…のとおりである。
このような面だけをみれば、本件では、Xの永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があったと評価する余地もないではない。
オ しかし、他方、本件行為及びXの過去の痴漢行為は、いずれも電車内での事件とはいえ、会社の業務自体とは関係なくなされた、Xの私生活上の行為である。
そして、これらについては、報道等によって、社外にその事実が明らかにされたわけではなく、Y社の社会的評価や信用の低下や毀損が現実に生じたわけではない。なお、Xが電鉄会社に勤務する社員として、痴漢行為のような乗客に迷惑を及ぼす行為をしてはならないという職務上のモラルがあることは前述のとおりである。しかし、それが雇用を継続するか否かの判断においてはともかく、賃金の後払い的な要素を含む退職金の支給・不支給の点について、決定的な影響を及ぼすような事情であるとは認め難い。
カ さらに、…Y社において、過去に退職金の一部が支給された事例は、いずれも金額の多寡はともかく、業務上取り扱う金銭の着服という会社に対する直接の背信行為である。本件行為が被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるなどとはいえないことは前記説示のとおりであるが、会社に対する関係では、直ちに直接的な背信行為とまでは断定できない。そうすると、それらの者が過去に処分歴がなく、いわゆる初犯であった…という点を考慮しても、それが本件事案と対比して、背信性が軽度であると言い切れるか否か疑問が残る。
加えて、Xの功労という面を検討しても、その20年余の勤務態度が非常に真面目であったことはY社の人事担当者も認めるところである…。また、Xは、旅行業の取扱主任の資格も取得するなど、自己の職務上の能力を高める努力をしていた様子も窺われる。
キ このようにみてくると、本件行為が、上記イのような相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないと考えられる。
そうすると、Y社は、本件条項に基づき、その退職金の全額について、支給を拒むことはできないというべきである。しかし、他方、上記のように、本件行為が職務外の行為であるとはいえ、会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって、相当の不信行為であることは否定できないのであるから、本件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難い。
ク そうすると、本件については、上記ウに述べたところに従い、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきである。
その具体的割合については、上述のような本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割である276万2535円であるとするのが相当である。」
労働事件裁判例集 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail6?id=18545
【最一小判令和7年4月17日)】
事案:Xは、自動車運送事業を経営する京都市交通局(以下「Y」という。)のバスの運転手として勤務していた者であり、①令和4年2月11日の勤務中、乗客から5人分の運賃(合計1150円)の支払を受けた際、硬貨を運賃箱に入れさせた上で、千円札1枚を手で受け取り、その後、これを売上金として処理することなく着服した(以下「本件着服行為」という。)ことと、②令和4年2月11日、12日、16日及び17日の乗務に際して、乗客のいない停車中のバスの運転席において、合計5回、電子たばこを使用した(以下、これらの行為を「本件喫煙類似行為」という。)ことを理由として(以下、①と②をまとめて「本件非違行為」という。)、懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)を受け、懲戒免職処分を理由とする退職手当支給制限を定めている京都市交通局職員退職手当支給規程(以下「本件規定」という。)に基づき、本来支給されるはずであった退職手当等(1211万4214円)の全部を支給しないこととする処分(以下「本件全部支給制限処分」という。)を受けたため、本件懲戒免職処分と本件全部支給制限処分の取消しを求めて訴えを提起した。
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判旨:1 …略…
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
…略… 京都市公営企業に従事する企業職員の給与の種類及び基準に関する条例(昭和28年京都市条例第5号)14条は、6月以上勤務した職員が退職した場合は、退職手当を支給するが、不都合な行為のあった場合は退職手当を支給しないことがある旨を規定する。
本件規定は、退職をした者(以下「退職者」という。)が懲戒免職処分を受けて退職をした者に該当するときは、管理者は、当該退職者に対し、当該退職者が占めていた職の職務及び責任、当該退職者の勤務の状況、当該退職者が行った非違の内容及び程度、当該非違に至った経緯、当該非違後における当該退職者の言動、当該令和6年(行ヒ)第201号懲戒免職処分取消等請求事件令和7年4月17日第一小法廷判決非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、当該退職に係る一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分(以下「退職手当支給制限処分」という。)を行うことができる旨を規定する。…略…
3 原審は、上記事実関係等の下において、本件懲戒免職処分は適法であるとしてその取消請求を棄却すべきものとした上で、要旨次のとおり判断し、本件全部支給制限処分の取消請求を認容した。
…略…
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴ 本件規定は、懲戒免職処分を受けた退職者の一般の退職手当等について、退職手当支給制限処分をするか否か、これをするとした場合にどの程度支給しないこととするかの判断を管理者の裁量に委ねているものと解され、その判断は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に、違法となるものというべきである(最高裁令和4年(行ヒ)第274号同5年6月27日第三小法廷判決・民集77巻5号1049頁参照)。
⑵ 本件着服行為は、公務の遂行中に職務上取り扱う公金を着服したというものであって、それ自体、重大な非違行為である。そして、バスの運転手は、乗客から直接運賃を受領し得る立場にある上、通常1人で乗務することから、その職務の性質上運賃の適正な取扱いが強く要請され、その観点から、京都市交通局職員服務規程(平成2年京都市交通局管理規程第3号の16)において、勤務中の私金の所持が禁止されている(20条)。そうすると、本件着服行為は、Yが経営する自動車運送事業の運営の適正を害するのみならず、同事業に対する信頼を大きく損なうものということができる。
また、本件喫煙類似行為についてみると、Xは、バスの運転手として乗務の際に、1週間に5回も電子たばこを使用したというのであるから、勤務の状況が良好でないことを示す事情として評価されてもやむを得ないものである。
そして、本件非違行為に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、Xは、それらが発覚した後の上司との面談の際にも、当初は本件着服行為を否認しようとするなど、その態度が誠実なものであったということはできない。
これらの事情に照らせば、本件着服行為の被害金額が1000円でありその被害弁償が行われていることや、Xが約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金等の取扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと等をしんしゃくしても、本件全部支給制限処分に係る本件管理者の判断が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものということはできない。
⑶ 以上によれば、本件全部支給制限処分が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとした原審の判断には、退職手当支給制限処分に係る管理者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。
5 以上のとおり、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中Y敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件全部支給制限処分の取消請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、上記部分につきXの控訴を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所判例集 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=94011
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執筆者
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当