加藤ゼミナールについて

共謀共同正犯の成立要件

2025年06月13日

共謀共同正犯の成立要件については、教科書ごとに整理の仕方が異なるため、試験対策としてどのように整理すればいいのか悩ましいところです。

以下では、複数の見解を紹介した上で、試験対策上どの見解に立つべきかと、答案を書く際の留意点について説明いたします。

 

1.共謀共同正犯の成立要件

共謀共同正犯の成立要件については、複数の理解があります。

A説は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を、①共謀+②共謀者の全部又は一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性という3要件により統一的に理解する見解です(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版325頁参照)。

この見解では、①共謀=意思連絡と理解することになります。

なお、「意思連絡」と「共同犯行の認識」を区別する説明もありますが、前者に後者を包摂させることも可能であるため、本記事では「意思連絡」という概念を「共同犯行の認識」を包摂するものとして説明させて頂きます。

実行共同正犯についても独立の要件として③正犯性が要求されるものの、実行行為を担当したこと自体により③が認められるのが通常ですから、③正犯性が疑わしい事案でない限り、当てはめでは「共同実行の事実から③正犯性も認められる」と書けば足ります。

B説は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を、①共謀+②共謀者の全部又は一部による共謀に基づく実行行為という2要件により統一的に理解する見解です(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第2版322頁以下では、B説を採用しています)。

この見解では、①共謀を「意思連絡+正犯意思(共同犯行の意識)+重大な寄与」と整理したり(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版322~324頁)、「意思連絡+正犯意思」と整理します。

A説で独立の要件とされていた③正犯性に対応する要素(正犯意思や重大な寄与)が、①共謀の構成要素として取り込まれているわけです。

C説は、実行共同正犯と共謀共同正犯の成立要件を区別した上で、実行共同正犯の成立要件を「①共謀(意思連絡)+②共謀に基づく実行行為」という2要件で理解する一方で、共謀共同正犯の成立要件として「①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為」に加えてプラスアルファを要求する見解です(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版404~405頁)。

共謀共同正犯の成立要件を①共謀+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為という2要件で整理した上で、①共謀=意思連絡+プラスアルファと理解することで、プラスアルファを独立の要件に位置づけないで①共謀の構成要素として取り込む見解もあります(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版406頁・脚注37)参照)。

この見解は、共謀共同正犯の成立要件を、「①共謀(意思連絡+正犯意思)+②共謀に基づく実行行為」と理解することになります。これを、C-1説といいます。

これに対し、佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版406頁では、プラスアルファが客観的行為である場合にはこれを①共謀に含めることにはかなり無理があることや、実行共同正犯では共謀を「意思連絡」と捉える一方で共謀共同正犯では共謀を「意思連絡+プラスアルファ」と捉えるというように共謀を二種類の意味で用いると混同が生じてしまい意思連絡だけで共謀共同正犯が認められてしまう危険があるなどの理由から、プラスアルファを独立の要件として捉えるのが望ましいと説明されています。

この見解は、共謀共同正犯の成立要件を、「①共謀(意思連絡)+②共謀に基づく実行行為+③プラスアルファ」と理解することになります。これを、C-2説といいます。

③プラスアルファについては、㋐「実行に準ずるような重要な事実的寄与」という客観的な基準として構成した上で、その判断の際に行為者の主観も必要な限度で考慮に入れるという見解(佐伯仁志「刑法総論の考え方・楽しみ方」初版407頁)や、㋑シンプルに「正犯性(正犯意思)」と捉える見解(高橋則夫「刑法総論」第4版463頁)などがあります。

 

2.司法試験委員会の理解

著名な基本書で複数の要件整理が紹介されているとはいえ、どの要件整理を前提にしても構わないというわけではありません。

できるだけ、司法試験委員会の理解に合わせるのが望ましいです。

ここが、司法試験論文式の厄介なところでもあります。

司法試験委員会は、少なくとも平成24年司法試験の時点では、C-2説のうち、「共謀共同正犯の成立要件=①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性」という見解に”近い”理解に立っています

平成24年司法試験の出題趣旨では、「乙は、実行行為自体を行っていないため、いわゆる共謀共同正犯の成否が問題となるが、検討を行う際には、問題文中に現れている具体的な事実を丁寧に拾い上げて、共謀の成否(特に犯罪を行う意思の相互認識,相互利用補充意思)及び乙の正犯性を論じる必要がある。」と書かれています。

他方で、それまでの出題趣旨・採点実感・ヒアリングでは、実行共同正犯の成立要件を3要件で整理する見解を前提とした記述や、実行共同正犯における共謀の認定過程で意思連絡以外にも言及する必要があることを示唆する記述は一切ありません。

そうすると、平成24年司法試験の時点では、司法試験委員会は、実行行為の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀に基づく実行行為という2要件で整理する一方で、共謀共同正犯の成立要件を①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性という3要件で整理する見解に”近い”理解に立っているといえます。

なお、”近い”という留保をつけているのは、共謀の要素として要求されている「相互利用補充意思」の捉え方によっては、「共謀=意思連絡」と捉えているとは言い難くなるからです。

” 売却行為については、甲のみではなく、乙が関与していることから、乙に売却行為について甲に成立する犯罪の共同正犯が成立するか、あるいは教唆犯、幇助犯が成立するにとどまるのか検討する必要がある。乙は、実行行為自体を行っていないため、いわゆる共謀共同正犯の成否が問題となるが、検討を行う際には、問題文中に現れている具体的な事実を丁寧に拾い上げて、共謀の成否(特に犯罪を行う意思の相互認識、相互利用補充意思)及び乙の正犯性を論じる必要がある。”(平成24年司法試験・出題の趣旨)

” 共謀の成否に関して言えば、①乙は、甲がA社に無断で本件土地に抵当権を設定してDから1億円を借りているという事実を認識した上で、甲に本件土地の売却を勧め、甲もこれを了承していること、②乙は、甲の売却行為を利用して仲介手数料という利益を得ることを、甲は、乙の売買仲介行為を利用して売却利益を得ることを、それぞれ企図していることなどの事実が共謀の成否の判断にどのような影響を及ぼすかを論じる必要がある…。”(平成24年司法試験・出題の趣旨)

” 正犯性に関して言えば、①乙は仲介手数料という利益を得ることを企図して売却行為に関わっていること、②乙は現実に売却行為により1300万円の利益を得ていること、③乙は売却行為の仲介という重要な行為を行っていること、④甲の犯意は乙が誘発したものであることなどの事実が正犯性の判断にどのような影響を及ぼすかを論じる必要がある。”(平成24年司法試験・出題の趣旨)

これに対し、司法試験委員会は、平成28年司法試験の時点では、C-1説に立っていると思われます

根拠は、同年司法試験の出題趣旨です。

” まず、甲は、乙に対して本件強盗の実行を持ち掛け、乙はこれを了承しているところ、甲と乙との間に共謀が成立していることを論じる必要がある。その際には、甲が乙に対してVが金庫内に多額の現金を保管している旨の情報を提供したこと、甲が乙に対してVから現金を奪う際にはナイフを用いるように指示したこと、甲が乙に対してナイフなど必要な道具を購入するための資金として現金3万円を提供したこと、乙は分け前欲しさもあり甲の指示を了承したこと,乙は甲の配下組員であること、甲はVから手に入れた金員の7割を手にすることにしていたこと、甲は組長からの指示で現金を手に入れる必要があったことなどの各事実を指摘した上,これらの事実を用いて共謀共同正犯が成立することをその要件を踏まえて論じることが求められる。”(平成28年司法試験・出題の趣旨)

他方で、令和3年司法試験の出題趣旨・採点実感では、共同正犯と幇助犯の区別基準に関する記述において「乙の正犯性」という表現が何度も用いられているため、共謀共同正犯の成立要件をC-2説のように「共謀共同正犯の成立要件=①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性」と整理することは、現在の司法試験委員会の理解と整合するものであると考えられます。

” 共同正犯と幇助犯の区別基準としては、自己の犯罪を遂行する意思(正犯意思)で犯行に加わっているかによって区別する立場、犯行において客観的に重要な因果的寄与を果たしたといえるかを基準とする立場、他の関与者の行為を支配する地位にあったかを基準とする立場などがある…。”(令和3年司法試験・出題の趣旨)

” いずれの立場に立ったとしても、甲及び乙は、いずれも金に困った挙げ句に相談して犯行を計画したものであり、両者の積極性に差はないこと、甲乙間に指揮命令関係や支配服従関係までは認められないこと、乙が行った見張り行為や甲を乗車させて自動車を発進させる行為が犯行の遂行に当たって重要であること、乙が相当多額の利益を得ていることなどを重視すれば、乙の正犯性を肯定する結論に至り得る。”(令和3年司法試験・出題の趣旨)

” 他方、乙が真実の犯行計画を知らされておらず、いわば甲及び丙の犯行計画における中核部分に関する意思連絡から排除されていたことなどを重視すれば、乙の正犯性を否定する結論に至ることも可能であろう。”(令和3年司法試験・出題の趣旨)

” 結論として、乙を共謀共同正犯とする答案が多数であったが、一部、幇助犯とする答案もあった。仮に幇助犯とする場合は、乙が犯行計画の中核的部分といえる甲丙間の内通事実を知らされていなかった事実を示すことが必要と思われるところ、単に乙の分け前が甲及び丙と比較して少なかったことから直ちに正犯性を否定した答案も相当数あり、具体的な事実関係に即した評価が適切に行えていないとの印象を受けた。”(令和3年司法試験・採点実感)

 

3.論文試験ではどの見解によるべきか

私は、C-1説でもC-2説でも構わないと考えています。

司法試験の出題趣旨・採点実感では、ある法律用語や要件整理に関する理解が年度を跨いで異なっていることがあります。

刑事訴訟法の伝聞・非伝聞における「要証事実」の意味も、その一例です。

平成28年司法試験の出題趣旨では、C-1説と整合する記述がなされていますが、同年の採点実感では特定の要件整理を前提とした記述がされていませんから、平成28年司法試験の出題趣旨・採点実感がC-2説を排斥しているとまではいえません。

平成27年司法試験の出題趣旨では、平成28年司法試験の出題趣旨の公表に先立つものではありますが、「共謀共同正犯と教唆犯の区別について、自らの区別基準を踏まえて、その基準に事実関係を的確に当てはめることが求められる。」とされており、”自らの”という留保があることから、一部のマイナーな見解を除けば複数の見解による論述が許容されていると考えられます。

そこで私は、実行共同正犯と共謀共同正犯の区別の明確性、要件整理の理由の説明のしやすさ、及び答案での使いやすさといった理由から、C-2説のうち「共謀共同正犯の成立要件=①共謀(意思連絡)+②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為+③正犯性」という見解を刑法論文で用いる見解として採用しています。

※ 予備試験の刑事実務基礎科目に限っては、C-1説を採用するべきです。そうしないと、共謀共同正犯における「共謀」だけが問われている事案において、正犯性に対応する論述をすることができなくなり、大失点することになるからです。

 

4.答案を書く際の留意点

まず、共謀共同正犯については、その肯否及び成立要件について抽象論として説明するのが望ましいです。

平成27年司法試験の出題趣旨では、「いわゆる共謀共同正犯の肯否が問題となり得るが、これは判例の立場を踏まえて、簡潔に論ずれば足りる。その上で、共謀共同正犯と教唆犯の区別について、自らの区別基準を踏まえて、その基準に事実関係を的確に当てはめることが求められる。」とあるからです。

答案戦略上、共謀共同正犯の肯否を飛ばすのはありですが、成立要件を抽象的に示す(=規範定立)ことは必須です。

次に、どの見解に立つにせよ、採点者に実行共同正犯と共謀共同正犯を区別できていないと評価されないように気を付ける必要があります。

例えば、B説やC-1説に立つ場合、単に「共謀共同正犯の成立要件は、①共謀及び②共謀者の一部による共謀に基づく実行行為である」と書いたのでは、採点者から実行共同正犯と共謀共同正犯を区別することができないと評価される可能性がありますし、いずれの見解なのかも分かりません。

考慮要素レベルの理解は当てはめで示せば足りますが、要件(上記規範)レベルのことは抽象論として正確に分かりやすく明示する必要があります。

共謀共同正犯の肯否でも成立要件でも、「自手実行がない」という点が問題の本質ですから、「自手実行がない」ことを踏まえて成立要件をどう整理するのかということは示したいところです。

そのため、C-1説に立つのであれば、共謀共同正犯の成立要件については、「共同正犯の成立要件は①共謀及び②共謀に基づく実行行為であり、共謀共同正犯においては、自手実行がないことを補うために、①共謀の構成要素として意思連絡に加えて正犯意思も必要であると解すべきである。」というように、採点者に誤解を与えないように配慮する説明をする必要があります。

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当