加藤ゼミナールについて

【ホストクラブ】営業規制と広告宣伝規制

2025年06月20日

接待飲食店営業に対する営業規制と広告宣伝規制

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、「風営法」といいます。)が改正され、2025年6月28日から施行されます。本改正により、①接待飲食店営業において遵守事項と禁止事項が追加されます(風営法18条の3、同法22条の2)。

①は、主としてホストクラブを念頭に置いて設けられたものですが、ホストクラブに限らず、キャバクラなど、「接待飲食店営業」(風営法2条4項、同条1項1号ないし3号)のうち「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」(風営法1条1号)全般に適用されます。

また、②同年6月4日付けの警視庁通達では、風営法16条の広告宣伝規制のうち、接待飲食店営業に関するものとして、改正風営法の遵守事項・禁止事項の趣旨を踏まえて、客の遊ぶ意欲をそそり、ホストなどの間で競争意識を生じさせたりして、「営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すもの」が規制違反に当たるとされ、実際の事例として、禁止対象となる具体的な言葉が挙げられています。

以下では、①を営業規制、②を広告宣伝規制と呼ぶことがあります。

 

接待飲食店営業とは

「接待飲食店営業」とは、「風俗営業」のうち、ホストクラブ、キャバクラ、コンカフェなど、風営法2条1項1号から3号までのいずれかに該当する営業を意味します。

(用語の意義)
第2条 この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
 一 キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
 二 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)
 三 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて営むもの
 四、五 (略)
2、3 (略)
4 この法律において「接待飲食等営業」とは、第1項第1号から第3号までのいずれかに該当する営業をいう。

 

接待飲食店営業における営業規制

2025年6月28日施行の改正風営法により、①接待飲食店営業において遵守事項と禁止事項が追加されます(風営法18条の3、同法22条の2)。

風営法18条の3は、客の正常な判断を著しく阻害する行為として、料金の虚偽説明、恋愛感情を利用した色恋営業の一部、及び注文していないドリンクなどの提供を禁止しています。

(客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制)
第18条の3 第2条第1項第1号の営業を営む風俗営業者は、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 第17条に規定する料金について、事実に相違する説明をし、又は客を誤認させるような説明をすること。
二 客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、次に掲げる行為により当該客を困惑させ、それによつて遊興又は飲食をさせること。
 イ 当該客が遊興又は飲食をしなければ当該接客従業者との関係が破綻することになる旨を告げること。
 ロ 当該接客従業者がその意に反して受ける降格、配置転換その他の業務上の不利益を回避するためには、当該客が遊興又は飲食をすることが必要不可欠である旨を告げること。
三 客が注文その他の遊興又は飲食の提供を受ける旨の意思表示(第22条の2第1号において「注文等」という。)をする前に遊興又は飲食の全部又は一部を提供することにより、当該客を困惑させ、それによつて当該遊興をさせ、若しくはしたものとさせ、又は当該飲食をさせること。

風営法22条の2は、客に売掛金を支払わせる目的で当該客を威迫・困惑させる行為、料金の支払等のために当該客に売春・風俗・AV出演などを要求することを禁止しています。

(接待飲食営業を営む者の禁止行為)
第22条の2 第2条第1項第1号の営業を営む者は、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 客に注文等をさせ、又は当該営業に係る料金の支払その他の財産上の給付若しくは財産の預託若しくはこれらに充てるために行われた金銭の借入れ(これと同様の経済的性質を有するものを含む。)に係る債務の弁済(次号において「料金の支払等」という。)をさせる目的で、当該客を威迫して困惑させること。
二 客に対し、威迫し、又は誘惑して、料金の支払等のために当該客が次に掲げる行為により金銭その他の財産を得ることを要求すること。
 イ 売春防止法その他の法令に違反する行為をすること。
 ロ 対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交類似行為等(性交類似行為をし、又は他人の性的好奇心を満たす目的で、当該他人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下ロにおいて同じ。)を触り、若しくは当該他人に自己の性器等を触らせることをいう。)をすること。
 ハ 第2条第6項第1号若しくは第2号又は第7項第1号の営業において異性の客に接触する役務を提供する業務に従事すること。
 ニ 性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(令和4年法律第78号)第2条第3項に規定する性行為映像制作物への出演をすること。
 ホ 外国において売春をすること。

なお、①の営業規制は、「接待飲食店営業」全般に適用されるのではなく、「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」(風営法2条1号)だけに適用されるという点に注意する必要があります。

 

接待飲食店営業における広告宣伝規制

風営法16条は、「風俗営業者」全般を対象とした広告宣伝規制を設けています。

(広告及び宣伝の規制)
第16条 風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

2025年6月4日付けの警視庁通達(②)では、風営法16条の広告宣伝規制のうち、「接待飲食店営業」に関するものとして、改正風営法の遵守事項・禁止事項の趣旨を踏まえて、客の遊ぶ意欲をそそり、ホストなどの間で競争意識を生じさせたりして、「営業に関する違法行為を助長するような歓楽的・享楽的雰囲気を過度に醸し出すもの」が規制違反に当たるとされ、次の通り、実際の事例として、禁止対象となる具体的な言葉が挙げられています。

(1) 接客従業者の営業成績を直接的に示すもの
  「年間売上〇億円突破」「〇億円プレイヤー」「指名数No.1」「億超え」「億男」

(2) 営業成績に応じた役職の名称等の営業成績が上位であることを推認させるもの
  「幹部補佐」「頂点」「winner」「覇者」「神」「レジェンド」「総支配人」「新人王」

(3)「ランキング制」自体の存在、接客従業者間での優位性を裏付ける事実等の接客従業者間の競争を強調するもの
  「売上バトル」「カネ」「SNS総フォロワー数〇万人」

(4)客に対して自身が好意の感情を抱く接客従業者を応援すること等を過度にあおるもの
  「〇〇を推せ」「〇〇に溺れろ」

 

憲法上の問題点

①②の規制の憲法上の問題点について、簡単に取り上げていきます。

<①の営業規制>

①の営業規制については、職業の自由(憲法22条1項)との関係で論じることになります。

第1に、①は、少なくとも形式的には、狭義の職業選択の自由ではなく、営業の自由(「職業遂行の自由」ともいいます。)を制約するにとどまるものですから、「職業遂行の自由」(憲法22条1項)には営業の自由も含まれるかが問題となります。

選択した職業を遂行する自由が保障されないのでは狭義の職業選択の自由を保障した意味が失われかねないとの理由から、営業の自由も「職業選択の自由」に含まれるものとして、憲法22条1項により保障されると解されています。判例(薬事法事件・最大判昭和50年4月30日など)も同様の立場です。

第2に、①が風営法2条1項第1号の営業を営む者の営業の自由を制約するものであることを簡潔に指摘します。

第3に、①の憲法22条1項適合性を判断するための違憲審査基準を定立します。

職業規制の違憲審査基準の厳格度については、積極目的規制については緩やかに審査し、消極目的規制については厳格に審査するとの規制目的二分論もあります。しかし、職業規制の中には積極目的と消極目的の区別が困難であるものもありますし、これら以外の目的に基づくものもあるため、規制目的二分論は妥当ではありません。現在では、職業規制に関する違憲審査基準については、立法裁量論を前提として、規制の態様や規制の目的を考慮して当該規制に関する立法府の裁量の広狭を明らかにすることにより違憲審査基準の厳格度を決定するべきであると解されています。薬事法事件も同様の立場です。

“ もつとも、職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であつて、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。
 ……職業の自由に対して加えられる…規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、…具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであつて、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。”(薬事法事件)

“ 判例への言及に関し、薬事法事件判決について言及している答案も、その大半は、いわゆる規制目的二分論の文脈で同判決に触れるのみであり、同判決が判断枠組みの構築に際し、その二分論(消極目的規制)に触れる前提として、下記のように出発点において立法裁量論や目的審査(公共の福祉に合致)、手段審査(必要性・合理性)の一般論に言及していたことや、許可制という規制の態様に言及していたことについて全く言及がない答案が多数に上っており、そうした答案は、重要基本判例についての知識・理解に難があるものとして評価できなかった。同判決は、職業への規制に際して必要となる衡量判断が「第一次的には立法府の権限と責務」であり「規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性」については立法裁量に委ねられるとしつつ、「許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要」する、としている。もとより判例とは異なる見解を採用すること自体は差し支えないが、その場合でも、判例法理に明示的に言及し、その問題点を指摘した上で立論を構築することが求められる。”(令和6年司法試験・採点実感)

規制の態様では、まずは、実質的に見て狭義の職業遂行の自由に対する制約に当たるかが問題となります。

薬事法事件判決は、薬局開設の許可制における適正配置規制(許可基準の一つ)の憲法22条1項適合性の審査において、「薬局の開設等の許可における適正配置規制は、設置場所の制限にとどまり、開業そのものが許されないこととなるものではない。しかしながら、薬局等を自己の職業として選択し、これを開業するにあたつては、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるから、前記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有するものである。」と述べています。これは、形式的には営業の自由に対する制約にとどまる規制が実質的には狭義の職業選択の自由に対する制約に当たる場合があることを意味しています。

もっとも、①が実質には職業遂行の自由に対する制約に当たるとはいえないので、①は営業の自由に対する制約にとどまることになります。

次に、営業の自由に対する制約の中での強度が問題となります。

医薬品ネット販売規制事件判決(最二小判平成25年1月11日)は、医薬品の販売規制に関する新薬事法施行規則(当時)が新薬事法(当時)による委任の範囲を逸脱した違法なものであるかが問題となった事案において、「旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである」ことを理由の一つとして、委任の趣旨の解釈を厳格に行い、同法施行規則が委任の範囲を逸脱した違法なものであると認定しています。

この判例理論からすると、営業の自由に対する制約の中でも、強度なものとそうでないものとを観念することができます。

もっとも、①は、営業の自由に対する制約の中で強度なものであるともいえません。

そうすると、①は、営業の自由に対する制約として比較的軽微なものであると位置づけられることになります。

規制の目的では、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する」という風営法1条所定の目的の評価が問題となります。

この目的は、積極目的にも消極目的にも属しない第三の目的であるところ、少なくとも、積極目的や財政目的ほどに立法府による政策的判断や専門技術的判断が多分に必要とされるものではありません。

もっとも、①が営業の職業の自由に対する制約として比較的軽微なものであることからすれば、仮に上記目的が消極目的と同様に立法府による政策的判断や専門技術的判断が多分に必要とされるものではないとしても、厳格な合理性の基準を採用することはできず、明白の原則を採用することになると思われます。

明白の原則とは、「立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、これを違憲と」する緩やかな違憲審査基準であり、積極目的に基づく営業の自由に対する制約が問題となった小売市場事件(最大判昭和47年11月22日)などで採用されています。

①について明白の原則を採用する以上、よほど特殊な事情がない限り、合憲と判断されることになります。

<②の広告宣伝規制>

②の広告宣伝規制については、理論上は営業の自由(憲法22条1項)との関係でもその合憲性が問題となりますが、問題の本質は、広告表現の自由(「営利的言論の自由」、「営利広告の自由」ともいいます。)との関係における憲法21条1項適合性ですから、後者をメインで論じるべきです。

“ 規制②は、販売物の販売方法に関する規制とみれば憲法第22条第1項との適合性が問題となるが、広告を一種の表現とみれば、又は、販売場における写真等の掲出に着目すれば、表現の自由に対する規制と捉えることも可能である。”(令和6年司法試験・出題趣旨)

“ 職業の自由の問題としてのみ憲法適合性を検討し、営利的表現の自由が問題となり得ることについて全く触れられていない答案も散見された。”(令和6年司法試験・採点実感)

第1に、営利表現の自由が「表現の自由」として憲法21条1項により保障されるかが問題となります。

営業表現の自由については、報道機関の報道について国民の知る権利に奉仕することを根拠に「表現の自由」として保障されると解した博多駅事件決定(最大決昭和44年11月26日)を参考にして、営利表現の自由は消費者に情報を提供しその自律的選択を促す点で一般国民の知る自由に奉仕するものであるとの理由から、「表現の自由」として憲法21条1項により保障されると解することになります。

“ 営利的表現を表現の自由として保護すべき理由として、消費者の知る権利に資することなどを適切に指摘できていない答案が一定数あった。”(令和6年司法試験・採点実感)

第2に、②が接待飲食店営業者の営利表現の自由を制約するものであることを簡潔に指摘します。

第3に、表現規制に関する違憲審査基準の厳格度は、主として、人権の性質や制約の態様を考慮して決定されます。

人権の性質では、営利表現の自由については、自己統治の価値との関連性が希薄であるため、民主政の過程論が妥当しないとの理由から、二重の基準論の射程が及ばないことを指摘するべきです。

“ 表現の自由は、一般には、いわゆる二重の基準論によってその規制の合憲性は厳格に審査しなければならないとされるが、営利表現の場合には、自己統治の価値との関連性が希薄であることや萎縮効果に乏しいこと、裁判所の審査能力の点から必ずしも厳格な審査を要求するものではないとする見解もある。先例としては、あん摩師等法による灸の適応症広告事件(最大判昭和36年2月15日刑集15巻2号347頁)が挙げられるが、ここでは誇大広告等による弊害を未然に防止するためにやむを得ない措置であるとして精緻な審査基準を示すことなく合憲の結論が導かれている。これに対し学説は、合法的活動に対する真実で誤解を生まない表現の場合には、主張される規制利益が実質的で、規制がその利益を直接促進しており、その利益を達成するために必要以上に広汎でないこと、という基準で審査すべきとするものが有力である。”(令和6年司法試験・出題趣旨)

“ 営利的表現の自由については、自己統治の価値が不在であること、純粋な表現の自由ほど高い審査密度を要しないことへの言及はよくできていた。”(令和6年司法試験・採点実感)

制約の態様では、表現内容規制であることを理由に違憲審査基準の厳格度を上げるという論法を使えないことに注意する必要があります。

営利広告に関する規制には、そもそも内容規制が含まれているため、内容規制・内容中立規制の二分論で審査密度が決めることができないからです。

“ 規制②に関しては、営利的表現の自由について、その特性等の基本的な事項が丁寧に説明され、それを踏まえて規制②の合憲性の判断基準が設定されていた答案は、営利的表現の自由に関する理解が伝わり、相対的に良い評価が付いたように思う。他方、規制②が内容規制か内容中立規制かという点について厚く論じている答案が相当数あったが、営利広告に関する規制にはそもそも内容規制が含まれており、内容規制・内容中立規制の二分論で審査密度が決まるものではないという理解に欠けているものと思われ、残念であった。”(令和6年司法試験・採点実感)

以上の評価を踏まえて、具体的にいかなる違憲審査基準を採用するべきかですが、2024法セミ118~121頁(横大道聡)は、営利広告規制が問題となった令和6年司法試験の事案について、営利表現の自由には二重の基準論が妥当しないことを主たる理由として、厳格な合理性の基準を用いています。

他方で、令和6年司法試験の出題趣旨では、「表現の自由は、一般には、いわゆる二重の基準論によってその規制の合憲性は厳格に審査しなければならないとされるが、営利表現の場合には、自己統治の価値との関連性が希薄であることや萎縮効果に乏しいこと、裁判所の審査能力の点から必ずしも厳格な審査を要求するものではないとする見解もある。先例としては、あん摩師等法による灸の適応症広告事件(最大判昭和36年2月15日刑集15巻2号347頁)が挙げられるが、ここでは誇大広告等による弊害を未然に防止するためにやむを得ない措置であるとして精緻な審査基準を示すことなく合憲の結論が導かれている。これに対し学説は、合法的活動に対する真実で誤解を生まない表現の場合には、主張される規制利益が実質的で、規制がその利益を直接促進しており、その利益を達成するために必要以上に広汎でないこと、という基準で審査すべきとするものが有力である。」とあり、あん摩師等法による灸の適応症広告事件(最大判昭和36年2月15日)を参考にするのであれば、合理的関連の基準まで違憲審査の厳格度を下げる余地もあります。

もっとも、判例百選Ⅰ54の解説(太田裕之)では、営利表現の自由という特殊性に着目して違憲審査の厳格度を下げる学説として、中間審査の基準を主張する学説が挙げられていることからしても、合理的関連性の基準まで下げることは避け、中間審査の基準を採用するのが無難であると考えます。

②では、上記の通り、有害性が低そうな言葉まで広く規制されているため、中間審査の基準では、少なくとも手段必要性を欠くことになります。また、それ以前の話として、「接待飲食店営業」における営利広告が立法目的を阻害するという因果関係(立法事実による支持を要する)が認められないとして、手段適合性が否定される余地もあります。

なお、②における警視庁通達には法的拘束力がないため、それ自体を違憲審査の対象にすることができるかも問題となり得ますが、ここでは説明を割愛いたします。

以上が①②の規制に関する憲法上の問題点です。

①②の規制に関する問題構造は、ペットショップの営業規制と営利広告規制が問われた令和6年司法試験のそれと酷似しています。

特に予備試験受験生の方々には、営業規制と営利広告規制の対策として、本コラムでしっかりと勉強して欲しいと思います。

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当