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【最新重要判例】株券発行前の株式譲渡の効力と譲受人による株券発行請求権の代位行使

2025年06月23日

令和6年最判(最二小判令和6年4月19日、令和6年重要判例解説・事件1)は、株券発行会社である甲社の株主Aが株券発行前に株式をBに譲渡し、譲受人Bが譲渡人Aに対する株券引渡請求権を保全するために譲渡人Aの甲社に対する株券発行請求権を代位行使(改正前民法423条)して、株券の交付を直接自己に対してすることを求めた事案(※解説の便宜上、事案を簡略化しています)において、

①株券発行前の株式譲渡の譲渡当事者間における効力
②譲受人による株券発行請求権の代位行使の可否
③代位行使により譲受人に直接交付された株券の効力

の3点について、判断を下しました。

①株券発行前の株式譲渡の譲渡当事者間における効力

” 会社法は、株主はその有する株式を譲渡することができると規定するとともに(127条)、株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とするところ、同法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定しているところ、株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
 したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。”

最高裁は、㋐128条は、株券発行会社の株式譲渡について、株式譲渡に関する意思主義の原則に対する特則を定めているところ、仮に株券発行前の株式譲渡について同条1項が適用され、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同条2項の規定が設けられた意味が失われることと、㋑意思主義の原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定する合理的必要性が認められないことを理由に、株券発行前の株式譲渡について、譲渡当事者間では有効であると判断しました。

㋐について補足すると、株券発行会社に対する関係での有効性は譲渡当事者間での有効性を前提にするものであるため、株式譲渡の効力が譲渡当事者間で生じないのであれば、当然に株券発行会社に対する関係でも効力を生じないことになります。そうすると、仮に株券発行前の株式譲渡についても同条1項が適用され、譲渡当事者間における有効性が否定されると解すると、これによって株券発行会社に対する関係における有効性も否定されることになるため、株券発行会社に対する関係における有効性を否定している128条2項の規定が設けられた意味が失われることになります。これが㋐の意味するところです。

②譲受人による株券発行請求権の代位行使の可否

” 株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。そうすると、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。”

譲受人による株券発行請求権の代位行使とは、債権者代位権の転用(事件当時は、改正前民法423条による)により、譲受人が譲渡人に対して有する株券引渡請求権を被保全債権として、譲渡人が株券発行会社に対して有する株券発行請求権を代位行使するものです。

譲渡人の株式発行会社に対する株券発行請求権については、会社法上の明文根拠(215条1項、4項参照)がありますが、㋐譲受人の譲渡人に対する株券引渡請求権については、会社法上の明文根拠がないため、その有無が問題となります。また、上記の代位行使は債権者代位権の転用であるため、㋑債権者代位権の転用の可否も問題となります。

㋐譲受人の譲渡人に対する株券引渡請求権は、株券発行前の株式譲渡が譲渡当事者間では有効であることを前提とするものですから、前記①の論点は、②の論点の理論的前提をもなしています。その上で、株券発行前の株式譲渡が譲渡当事者間では有効であるとして、譲受人の譲渡人に対する株券引渡請求権を認めることができるかが問題となるわけです。

最高裁は、「株券発行会社の株式の譲受人は、株券の発行前に株式を譲り受けたとしても、当該株式に係る株券の交付を受けない限り、株券発行会社に対して株主として権利を行使することができないから(会社法128条2項)、当該株式を譲り受けた目的を実現するため、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求することができると解される。」と述べ、譲受人の譲渡人に対する株券引渡請求権を認めています。

㋑改正前民法下においても、債権者代位権の転用は認められていたところ、改正民法423条の7が登記・登録請求権を保全するための債権者代位権の転用(改正民法下では、個別権利実現準備型の債権者代位権ともいいます。)について明文化しました。もっとも、改正民法が特定の債権の実現を目的とする個別権利実現準備型の債権者代位権に関する一般規定を設けなかったのは、適用範囲が不明確とならないような形で要件を定めることが困難であることに配慮し、可否・要件について解釈に委ねるためであるから、債権者代位権の転用は、改正民法423条の7で定められているもの以外でも認められると解されています(潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」初版83頁)。

最高裁は、改正前民法下の事案において、「株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文(平成29年法律第44号による改正前のもの)により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。」と解しており、改正民法下でもこれと同様に解することができます。

③代位行使により譲受人に交付された株券の効力 

” 株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使する場合、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができるというべきであり(大審院昭和9年(オ)第2498号同10年3月12日判決・民集14巻482頁、最高裁昭和28年(オ)第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集8巻9号1658頁参照)、株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。”

昭和40年最判(最三小判昭和40年11月16日)は、旧商法下の事案において、「商法226条…にいう株券の発行とは、会社が商法225条所定の形式を具備した文書を株主に交付することをいい、株主に交付したとき初めて該文書が株券となるものと解すべきである。したがつて、たとえ会社が前記文書を作成しても、これを株主に交付しない間は、株券たる効力を有しないこというまでもない(大正11年7月22日大審院判決、民集1巻413頁参照)。」と述べ、株券の効力発生時期について、株券が作成されて株主に交付されたときに初めて株券としての効力が発生するとの交付時説を採用しています。

①の論点では、株券発行前の株式譲渡は、株券発行会社に対する関係では効力を生じない一方で、譲渡当事者間では効力を生じると解されています。これは、株券発行会社に対する関係では、株主とされるのは譲渡人であることを意味します。そして、②の論点では、譲受人による株券発行請求権の代位行使が認められており、③の論点では、代位行使の方法として、「株券の交付を直接自己に対してすることを求めること」も認められています。

以上を前提にすると、譲受人が代位行使により株券発行会社から直接に株券の交付を受けた場合、当該株券は、株券発行会社に対する関係で株主であるとされる譲渡人に交付されることなく、株券発行会社に対する関係では株主とされない譲受人に交付されたことになります。そうすると、「株主に交付したとき初めて該文書が株券となる」と解する交付時説からすれば、当該株券は、株券発行会社に対する関係で「株主」とされる譲渡人に対して交付されていない以上、株券としての効力を有しないのではないかが問題となります。

これについて、令和6年最判は、「株券発行会社が、これに応じて会社法216条所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになる。したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。」と述べ、株券としての効力を認めています。

もっとも、最高裁の立場については、「そのように当事者間では株主であるが、会社との関係では株主ではない譲受人に対して、会社が発行した株券が有効であるとすることは、実質的にみて、株券発行前の株式譲渡は会社との関係でも有効であるとするのと変わらないのではないかという大きな問題を抱えることになった」(令和6年重要判例解説‐事件1‐解説2)との批判もあります。

以上が最二小判令和6年4月19日(令和6年重要判例解説・事件1)の判例解説です。

会社法論文では、直近の重要判例解説(有斐閣)の掲載判例(裁判例を含む。)から出題されることもあるので、しっかりとおさえておきましょう。

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当