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司法試験当日に意識していたこと(商法)

2025年08月11日

試験本番では、当たり前のことをいかに当たり前に行うかが重要です。

私は、商法があまり得意ではなかったので、商法については、試験直前に確認すべきチェックリストを作っていました。こちらのチェックリストを共有いたします。総論部分は他の科目にも活かすことができると思います。

私は、司法試験当日の昼休みに、下記の〇が付された事項について確認していました。万全な状態で試験本番を迎えるためにも、参考にしていただけたらと思います。

抽象論を述べるだけではあまりイメージが湧かないと思いますので、令和5年司法試験商法の再現答案も本記事に添付しますので、併せてご確認ください。


【総論】

〇(問題文に特別の指示がない限り)全て訴訟物、特別な訴訟類型の枠組みの中で検討すること

〇特別の訴訟類型が問題となる場合には、①訴訟要件と②本案勝訴要件とを分けて考え、検討すること

〇原則⇔修正・例外を意識すること

〇抽象論と具体論を分けて論ずる

〇規範と当てはめにおける文言を一致させること


【各論】

〇株主総会決議に特別利害関係を有する株主(831条1項3号)、取締役会決議に特別利害関係を有する取締役(369条2項)がいないか疑うこと

〇利益相反行為(356条1項各号)がないか疑うこと

〇株主総会決議取消しの訴えが問題になる場合には、裁量棄却(831条2項)の検討の有無を確認すること

〇差止めが問題になる場合には、仮の地位を定める仮処分の検討も忘れないこと

〇自己の株式の取得が問題になる場合には、手続規制違反の問題と財源規制違反の問題とを分けて検討すること

〇423条1項に基づく責任及び429条1項に基づく損害賠償請求の場面では、要件を先出しすること


以下、詳述します。

【総論】
〇(問題文に特別の指示がない限り)全て訴訟物、特別な訴訟類型の枠組みの中で検討すること

民法と同様、訴訟物から思考することが重要です。また、会社法特有のものとして、募集株式の発行の無効の訴え(828条1項2号)や株主総会決議取消しの訴え(831条1項)といった特別の訴訟類型が法定されています。これらの法定された特別の訴訟類型が問題になるときには、当該特別の訴訟類型を大枠として論じていくことが重要であると考えていました。

この意識は再現答案にも表れています。

” GはAに対して会社法423条1項に基づく損害賠償責任を株主代表訴訟(847条3項、1項)で追及する。この請求が認められるか。”(再現答案第1.1)

” 乙社はAに対して本件債務の額に相当する3000万円を損害として429条1項に基づく損害賠償請求をする。この請求が認められるか。”(再現答案第2.2)

” Iは本件決議1の取消しの訴え(831条1項1号)を提起する。”(再現答案第3.1)

【総論】
〇特別の訴訟類型が問題となる場合には、①訴訟要件と②本案勝訴要件とを分けて考え、検討すること

たとえば、公開会社における募集株式の発行の無効の訴えが問われた場合には、①訴訟要件として、「株式の発行の効力が生じた日から6か月以内」であるか(828条1項2号。出訴期間)、提訴している者が「当該会社の株主等」に当たるか(同条2項2号。原告適格)、「株式の発行をした株式会社」が被告となっているか(834条2号。被告適格)といった事項を検討していました。また、これと分ける形で、②本案勝訴要件として、重大な瑕疵が存するかどうかを検討していました。

株主総会決議取消しの訴えが問われた場合も同様である(令和5年度司法試験参照)。①訴訟要件として、提訴している者が「株主等」に当たるか(831条1項柱書前段。原告適格)、「株主総会等の決議の日から3箇月」以内であるか(出訴期間)、「当該株式会社」が被告となっているか(834条17号。被告適格)、(問題となる場合には)訴えの利益が認められるか、といった事項を検討していました。また、これと分ける形で、②本案勝訴要件として、831条1項各号の事由の存否を検討していました。そして、「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する」とき(同条2項)には、裁量棄却がなされないかどうかについても検討していました。

再現答案では、①訴訟要件と②本案勝訴要件を明確に分けて検討しています。

” 2. 訴訟要件について ⑴ Iの原告適格 “(再現答案第3.2)

” ⑵ 訴えの利益 “(再現答案第3.2)

” 3. 本案勝訴要件について “(再現答案第3.3)

【総論】
〇原則⇔修正・例外を意識すること

この点は全科目共通ですが、忘れないように確認事項に入れていました。

再現答案の以下の部分が原則⇔例外の構図を示しています。

” 株式の権利行使者の指定通知がない場合には、共有者の一人による権利行使は認められないのが原則である。もっとも、権利行使者の指定通知がないことを理由に会社が権利行使を拒絶することが信義則に反すると認められる特段の事情があるときには、共有者の1人による権利行使が認められると解する。”(再現答案第3.2(1)ア)

” 会社法が特別の訴訟類型を法定している以上、法定された訴訟要件を充たせば訴えの利益は認められるのが原則である。もっとも、役員の選任に関する決議取消しの訴えの場合に、当該決議がなされた後に後続の役員選任決議がなされたときは、特段の事情のない限り、訴えの利益を失うと解する。”(再現答案第3.2(2)ア)

【総論】
〇抽象論と具体論を分けて論ずる

この点も全科目共通ですが、忘れないように確認事項に入れていました。抽象論には具体的な人物等は入り込まないように注意していました。また、私は、抽象論と具体論とでナンバリングを分けていました。

再現答案の以下の部分が抽象論になります。ここでは一切具体的な事情は入っていません。

” 経営判断原則は取締役の冒険的判断を尊重するために認められる原則である。そして、ある判断が取締役の利益を図ることを主たる目的としている場合には、取締役の冒険的判断を尊重する要請は低いといえる。そこで、ある判断が取締役の利益を図ることを主たる目的としている場合には、経営判断原則は適用されないと解する。”(再現答案第1.1(3)ア)

” 429条1項に基づく責任は、経済社会において重要な地位を占める株式会社の活動が取締役の職務執行に依存していることに鑑み、第三者を保護するために認められた特別の法定責任である。そこで、429条1項に基づく損害賠償請求の要件は、➀「役員等」であること、②任務懈怠の存在、③②についての悪意又は重過失、④「第三者」に対する損害(直接損害のみならず間接損害を含む)、⑤②と④との因果関係であると解する。”(再現答案第2.1(1))

” 株式の権利行使者の指定通知がない場合には、共有者の一人による権利行使は認められないのが原則である。もっとも、権利行使者の指定通知がないことを理由に会社が権利行使を拒絶することが信義則に反すると認められる特段の事情があるときには、共有者の1人による権利行使が認められると解する。”(再現答案第3.2(1)ア)

” 会社法が特別の訴訟類型を法定している以上、法定された訴訟要件を充たせば訴えの利益は認められるのが原則である。もっとも、役員の選任に関する決議取消しの訴えの場合に、当該決議がなされた後に後続の役員選任決議がなされたときは、特段の事情のない限り、訴えの利益を失うと解する。”(再現答案第3.2(2)ア)

” 106条本文は、民法264条の「特別の定め」に該当するものである。そして、106条ただし書は106条本文を覆滅させるものである。そこで、会社による「同意」がなされた場合には、民法上の原則に戻り、共有者の過半数の合意がなされたときに、共有者の1人による権利行使が有効となるものと解する。”(再現答案第3.3(1)ア)

【総論】
〇規範と当てはめにおける文言を一致させること

この点も全科目に共通するものです。

【各論】
〇株主総会決議に特別利害関係を有する株主(831条1項3号)、取締役会決議に特別利害関係を有する取締役(369条2項)がいないか疑うこと

これらの事情は問題文を意識して読み込まないと気付くことができない可能性がありましたので、あらかじめ疑うようにしていました。

【各論】
〇利益相反行為(356条1項各号)がないか疑うこと

この事情についても、問題文を疑って読まないと落としてしまう可能性がありましたので、あらかじめ疑うようにしていました。

【各論】
〇株主総会決議取消しの訴えが問題になる場合には、裁量棄却(831条2項)の検討の有無を確認すること

裁量棄却も落としてしまいがちだったので、確認事項に記載し、検討を忘れないように意識していました。

【各論】
〇差止めが問題になる場合には、仮の地位を定める仮処分の検討も忘れないこと

差止めが問われる場合には、仮処分まで答える必要があると考えていたため、この点を確認事項に記載していました。

【各論】
〇自己の株式の取得が問題になる場合には、手続規制違反の問題と財源規制違反の問題とを分けて検討すること

【各論】
〇423条1項に基づく責任及び429条1項に基づく損害賠償請求の場面では、要件を先出しすること

他の科目では、基本的には要件を先出しすることはなかったのですが、上記場面では要件を先出しするようにしていました。特に、429条1項に基づく損害賠償請求は、法定責任説と不法行為責任特則説のいずれに立つのかによってその要件の内容が変わってくるため、まずもって法定責任説に立つことを明示した上で、その要件を明示していました。

 ” 429条1項に基づく責任は、経済社会において重要な地位を占める株式会社の活動が取締役の職務執行に依存していることに鑑み、第三者を保護するために認められた特別の法定責任である。そこで、429条1項に基づく損害賠償請求の要件は、➀「役員等」であること、②任務懈怠の存在、③②についての悪意又は重過失、④「第三者」に対する損害(直接損害のみならず間接損害を含む)、⑤②と④との因果関係であると解する。”(再現答案第2.1(1))

 

執筆者

深澤 直人

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(主席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当