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インプットの際に意識すべきこと

2025年10月02日

1.はじめに

受験生の皆様、漠然としたインプットになっていませんか?

本記事では、インプットを実りあるものにしていただきたく、私が受験生時代に意識していたことを共有できればと思います。

 

2.私が意識していたこと

(1)まず、条文を学ぶ際には、①当該条文がどのような場面で、適用が問題になるのか(典型事例の把握)、②当該条文には、どのような要件・効果が定められているのか(要件効果の把握)、③②の要件・効果について解釈論・論証がないか(要件・効果ごとの論証の整理)を意識していました。

下記(2)で述べることと重複してしまうのですが、①を意識することで、条文選択ミスを減らすことができます。民事系科目では、条文選択の段階で差が付いてしまうことも多くあるので、相対的に沈まない答案を作成するために、①を意識しておくとよいと思います。

また、普段の学習から②を意識しておくことで、未知の条文への対応力が向上します。ほとんどの条文が要件効果で構成されているので、試験の現場で未知の条文が出題されたとしても、条文の構造を適正に把握することができます。

(2)次に、論証を学ぶ際には、①どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)、②なぜ、当該論点が問題になるのか(問題の所在の把握)、③どのような理由で、どのような規範が導かれるのか(論証・解釈論の中身の把握)、④当てはめにおいては、どのような事実をどのように評価していくのか(当てはめの仕方の把握)を意識していました。

論証学習において、③を重視する方はたくさんいらっしゃるかと思います。しかし、他の①、②及び④も重視していただきたいです。

特に、①「どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)」を意識していないと、試験で当該論点が問われた際に、せっかく暗記した論証を展開することができません。また、これと反対に、試験で当該論点が問われていないにもかかわらず、誤って当該論点の論証を展開してしまう危険性があります(後掲3.①「どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)」の重要性も参照してください)。論証を学ぶ際には、①「どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)」も意識してください。

 

3.③「どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)」の重要性 ~倒産解除特約の有効性を題材に~

(1)さて、倒産法選択の皆様、倒産解除特約を論じる場面を正確に押さえておりますでしょうか。

以下の㋐、㋑及び㋒の短文事例を通じて、①「①「どのような場面で当該論点が問題になるのか(典型事例の把握)」の重要性を示せたらと思います。

(2)それでは、以下の㋐、㋑及び㋒の事例を見てください。これらの全てで倒産解除特約の有効性の論点を論じて良いでしょうか。

【㋐の事例】

 A社は、B社との間で、機械設備を目的物とする、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約を締結した。
 当該リース契約には、

 A社が1回でもリース料の支払いを怠った場合に関し、A社は、期限の利益を喪失し、また、B社は、当該リース契約を解除することができる

との約定がある。
 その後、A社はリース料の支払いを怠った。B社は、上記約定に従って、リース契約を解除した。

【㋑の事例】

 A社は、B社との間で、機械設備を目的物とする、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約を締結した。
 当該リース契約には、

 A社が仮差押えを受けたとき、または破産・民事再生の申立てがあったときは、B社は、当該リース契約を解除することができる

との約定がある。
 その後、A社は、その所有不動産につき、Cの申立てによる仮差押えを受けた。B社は、上記約定に従って、リース契約を解除した。

【㋒の事例】

 A社は、B社との間で、機械設備を目的物とする、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約を締結した。
 当該リース契約には、

 A社が仮差押えを受けたとき、または破産・民事再生の申立てがあったときは、B社は、当該リース契約を解除することができる

との約定がある。
 その後、A社は、破産申立てをした。B社は、上記約定に従って、リース契約を解除した。

(3)これらの事例のうち、倒産解除特約の有効性が問題となるのは㋒の事例のみです。もしかしたら、㋐や、㋑の事例においても倒産解除特約の有効性を論じるんじゃない?と考えた方もいらっしゃるかと思います。これが “試験で当該論点が問われていないにもかかわらず、誤って当該論点の論証を展開してしまう”という事態です。怖いですよね。

本論点でいいますと、倒産解除特約の有効性が問題になるのは、①倒産手続の申立て等が解除事由とされ、かつ、②倒産手続の申立て等がなされたことを理由として、解除をした、という場合である、ということをおさえていれば導くことができます(平成25年採点実感、百選127頁参照)。

㋐の事例は平成25年司法試験第1問を参照したものですが、解除事由とされているのは期限の利益の喪失であるため、①倒産手続の申立て等が解除事由とされていません。そのため、倒産解除特約の有効性という問題にはなりません。

㋑の事例は大阪地決平成13年7月19日(百選62事件)を参照したものですが、破産・民事再生も解除事由とされているため、①には該当します。

しかしながら、②倒産手続の申立てを理由として解除をしているわけではなく、仮差押えがなされたことを理由として解除をしているため、②に該当しません。

そのため、倒産解除特約の有効性という問題にはなりません。

㋒の事例は、まさに①、②に該当するので、倒産解除特約の有効性を論じる典型的な場面です。

 

4.おわりに

いかがでしょうか。普段の学習から、上記2に記載したような事項を意識していたよ!という方は、そのまま学習を進めていってください。

もし、上記2に記載したような事項をあまり意識していなかった…という方がいらっしゃれば、今日の学習から、意識してみてください。

 

執筆者

深澤 直人

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(主席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当