加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
1.コンテナ倉庫への立入りには建造物侵入罪が成立する
最高裁は、令和7年10月21日、被告人が基礎が打たれていないコンテナ倉庫に立ち入った事案において、コンテナ倉庫に関する具体的な事実関係を踏まえて、「以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たるというべきである。」として、本件コンテナ倉庫が刑法130条にいう「建造物」に当たると認定した上で、建造物侵入罪の成立を認めました。
” 所論は、第1審判決判示第6のコンテナ倉庫(以下「本件コンテナ倉庫」という。)は、土地に定着していないから、令和4年法律第67号による改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たらない旨主張する。しかし,原判決の認定及び記録によれば、本件コンテナ倉庫は、奥行き約1240cm、幅約240cm、高さ約288cmの大きさの鉄製のコンテナが土地上に設置されたものであり、設置されて以降3年10か月以上の間、移動されることなく、電気を電柱から電線で引き込んでタイヤ等を保管する倉庫として継続的に使用されていたというものである。以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たるというべきである。基礎が打たれていないこと等の所論が指摘する事情は、本件コンテナ倉庫が上記「建造物」に当たることを否定すべきものとは認められない。したがって、被告人について、建造物侵入罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は正当である。。”(最三小決令和7年10月21日)
出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/94876/detail2/index.html
2.本決定の射程
まず、本決定は、本件コンテナ倉庫の形態及び使用の実態に関する具体的な事実関係に着目した上で、「以上の事実関係の下では、本件コンテナ倉庫は、移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえるから、上記改正前の刑法130条にいう「建造物」に当たるというべきである。」と認定しているため、土地上に設置されているコンテナ倉庫全般が当然に130条にいう「建造物」に当たるわけではありません。
土地上に設置されているコンテナ倉庫が130条にいう「建造物」に当たるか否かは、その形態及び使用の実態に関する具体的な事実関係を踏まえて、「移動が容易でなく土地に置かれて継続的に使用される物であり、その形態及び使用の実態に照らし、社会通念上土地に定着しているといえる」か否かにより判断されます。
次に、本決定は、建造物侵入罪における「建造物」に関する判断を示したものであり、その射程が当然に建造物損壊罪(260条)や建造物放火罪(108条、109条)における「建造物」の判断にまで及ぶわけではありません。
同じ文言を用いた構成要件であっても、犯罪が異なるのであれば、犯罪ごとの保護法益の違いを通じて、その意味や解釈の内容が変わり得るからです。
例えば、殺人罪の保護法益(人の生命)と傷害罪の保護法益(人の身体の安全)の間には共通性がありますから、両者において客体である「人」の意味を同一に解釈することも可能です。
これに対し、建造物侵入罪は建造物に誰を立ち入らせるかを決める自由を保護法益とする犯罪である(新住居権説)のに対し、建造物損壊罪は客体の重要性と人の死傷の危険性に着目した器物損壊罪(261条)の加重類型であり、建造物放火罪は火力による危険から不特定又は多数人の生命・身体・財産を守る(=公共の安全を守る)ことを本質とする公共危険犯であり、それぞれの保護法益に共通性を見出すことは困難です。
特に、建造物損壊罪と建造物放火罪とでは、保護法益が大きく異なります。だからこそ、例えば、現住建造物放火罪では、「建造物」の一体性・内部的独立性は延焼可能性も考慮して判断されますが、建造物侵入罪の「建造物」の判断では延焼可能性は考慮されません。したがって、少なくとも建造物放火罪(108条、109条)については、建造物侵入罪に関する本決定がそのままの形で妥当するわけではないと考えるべきです。