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【倒産法】条文を丁寧に読むことの重要性 ~最決平成11年4月16日を題材に~

2025年11月25日

1.はじめに

今回は、最決平成11年4月16日(倒産判例百選第6版事件10。以下「事件10」といいます。)を題材に、論証の理解・記憶の仕方、ひいては条文を丁寧に読むことの重要性を示したいと考えています。

 

2.事件10を基にした論証等

(1)総論

そもそも、事件10では何が問題になったか?

破産手続の申立権は、債務者のみならず、債権者も有しています(破産法18条1項)。では、「債権質設定者は、この破産法18条1項の『債権者』に当たるのか」、これが事件10では問題になりました。

事件10を参考に、具体例を作成いたしました。こちらを見ていきましょう。

Aは、Bに対して15億円の貸金返還請求権(以下「本件債権」といいます。)を有していた。令和3年6月、Aは本件債権についてC銀行に対して負担する債務を担保するために、C銀行に対して質権を設定した。その後、BはC銀行から本件債権の弁済猶予を受け、令和6年4月から毎月150万円の弁済をおおむね約定どおり続けている。なお、Bは十数社に対して総額100億円以上の債務を負担していた。
.
Aは、本件債権を申立債権として、Bについての破産手続開始申立てをしようと考えている。

このように、債権質“設定”者であるAが、債権質が設定されている債権を申立債権として債務者についての破産手続開始申立てをすることができるか(債権質設定者の申立権の有無)が問題になります。

(2)論証例

上記論点について、皆様は、以下のような論証で押さえているかと思います。

質権の目的とされた債権については、質権者が専ら取立権を有するところ(民法366条)、当該債権の債務者の破産は、質権者に対して破産手続による以外の方法で当該債権の取立てができなくなる(破産法100条1項)という重大な影響を及ぼすものである
.
そこで、債権質設定者は、特段の事情のない限り、破産手続開始の申立てをすることはできないと解すべきである。

さて、論証の覚え方ですが、まずはイメージで押さえていきましょう。ここでのイメージは、多少正確性を欠いていても問題ありません。

理由付けのイメージですが、債権質設定者はもはや債権回収できない立場にあり、質権者のみが債権回収できる立場にある(イメージとしては、債権質設定者はもはや権利持っていない人)。破産手続だと債権回収には破産法100条1項の制限がかかってくるから、破産手続の開始は、質権者に重大な影響を生じさせるものであり、このような重大な影響を、もはや債権回収できない(ある種、権利を持っていない)債権質設定者が生じさせるのはおかしい。要するに、質権者を保護する必要があるわけです。

そこで、債権質設定者は、原則として申立権を有しないことにするべきだ、となります。これが規範です。

ここまでが基本的な部分です。次にやや応用ですが、“特段の事情”のイメージもつけておきましょう。規範は理由付けから導かれるものですよね。本論証の流れは要するに、質権者保護➡債権質設定者は、原則申立権なし、というものです。では、例外である特段の事情が認められる場合はどういう場面なのだろうというと、理由付けが妥当しない領域・場面が1つ考えられます。

例えば、質権者が同意している場合、質権者を保護する必要はないので、例外的に質権設定者の申立権を認めてもよさそうです。このように、理由付け➡原則として○○という論証においては、理由付けが妥当しない領域・場面➡例外という論理が導かれ得ることを押さえておきましょう。

(3)もう一歩先へ

さて、上記論証を理解する際に、“質権は破産手続上「別除権」となるため、破産手続に拠らないで債権回収することができるでしょ。だから、質権者をそこまで保護する必要はないのではないか”と考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この点について、考えていきましょう。上記例のC銀行は別除権者になるのでしょうか。破産手続上、質権は「別除権」になるのだから、当然、C銀行は別除権者になるでしょうと考えた方もいらっしゃるかと思います。

本当にそうでしょうか?破産法2条9項をご確認ください。

(定義)
第2条
1~8 (略)
9 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
10~14 (略)

単なる質権、ではないですね。「破産手続開始の時において破産財団に属する財産につ」いての質権ですね。これが正確です。

では、上記例のC銀行は、「破産手続開始の時において破産財団に属する財産につ」いて質権を持っているのでしょうか。持っていないですよね。当該質権は、Aの財産について設定されたものであって、債務者Bの財産(=「破産財団に属する財産」)について設定されたものではないのです。

これで、先ほどの問いの答えが出ましたね。上記例のC銀行が有する質権は、破産手続上「別除権」にはなりません。そのため、上記例において、なお質権者を保護する必要性があるのですね。

なお、別除権付破産債権者であっても申立権を有すると解するのが通説である点も付言いたします。

 

3.おわりに

本記事では、事件10を参考に、論証の理解・記憶の仕方の一例を示しました。

また、C銀行が別除権者になるのかどうなのかという話を通じて、条文を丁寧に読み込むことの重要性を感じていただけたのではないでしょうか。

本記事が皆様の学習の一助となれば、幸甚です。

 

執筆者

深澤 直人

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(首席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当