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令和3年司法試験解答速報-労働法-

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解説

第1問 設問1

Y社(労働者6名)は、X1に対して、労働契約書における懲戒に関する定めに基づいて、出勤停止7日間の懲戒処分を行っています。

懲戒処分の有効要件は、基本的には、懲戒権の法的根拠、就業規則上の懲戒事由に該当すること及び懲戒権濫用(労契15条)に当たらないことの3つと整理されます。

1.懲戒の意義

第1に、「懲戒処分の意義」について軽く言及します。平成30年司法試験の出題趣旨でも、「設問2では、まず、懲戒処分の意義、懲戒権の法的根拠について、判例(国鉄中国支社事件・最判昭和49年2月28日民集第28巻1号66頁等)や学説等に照らして、検討する必要がある。」と指摘されています。

2.懲戒権の法的根拠

第2に、Y社が就業規則ではなく労働契約書における定めに基づいてX1を懲戒していることから、懲戒権の法的根拠の有無が問題となります。

懲戒権の法的根拠については、固有権説と契約説があり、最高裁判例は固有権説に立っており、通説は契約説に立っていると説明されることがあります。もっとも、近時の最高裁判例については、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」(フジ興産事件・最判H15.10.10・CB71)、「使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものである」(ネスレ日本事件・最判H18.10.6・百53・CB262)と判示していることから、契約説”的な”立場に移行していると理解されるようになってきています(水町勇一郎「詳解労働法」初版550頁)。

純粋な固有権説からは、使用者の懲戒権は、就業規則をはじめとする契約上の根拠を要することなく、使用者の企業秩序定立・維持権限だけを根拠として認められることになるので、懲戒について就業規則ではなく労働契約書(労使間合意)によって定められているにすぎないことは、Y社の懲戒権の法的根拠を否定する要因とはなり得ません。

契約説(及び契約説的な固有権説)は、懲戒権の実質的根拠を使用者の企業秩序定立・維持権限に求める一方で、懲戒権の形式的根拠として契約上の根拠を求めます。契約説(及び契約説的な固有権説)からは、就業規則ではなく労働契約書(労使間合意)によっても使用者の懲戒権を法的に根拠づけることができるのかが問題となります。

固有権説に立っているフジ興産事件判決ですら、就業規則で懲戒の種別と事由を明定していることが必要であると判示していることから(荒木尚志「労働法」第4版495頁)、契約説(及び契約説的な固有権説)では、契約上の根拠は就業規則に限定されると解する余地もあります。

これに対し、就業規則に限らず、労使間合意や労働協約も含まれると解することも可能です。本問では、Y社が就業規則の作成義務を負わない規模の会社であること(労基法89条柱書)と、懲戒権の法的根拠を否定すると懲戒事由該当性や懲戒権濫用(労契法15条)の審査に入ることができず配点項目を落としまくることになることから、Y社が就業規則の作成義務を負わないことも踏まえながら、労働契約書(労使間合意)によってY社の懲戒権が法的に根拠づけられていると論じるべきです。

3.労働契約書における懲戒事由への該当性

第3に、労働契約書における懲戒事由(18条3号、4号及び10号)への該当性が問題となります。

懲戒事由該当性と懲戒権濫用の関係については、(1)懲戒権事由該当性と「客観的に合理的な理由」を区別した上で懲戒事由該当性を形式的に判断する見解と、(2)「客観的に合理的な理由」の有無を懲戒事由該当性により判断する見解とがあります(野川忍「労働法」初版339頁)。学説の多くは(2)の立場であり、判例も(2)の立場であると理解されていますが、私は、原則として、(1)に立ちます。司法試験委員会が”普通解雇”について就業規則上の解雇事由該当性と「客観的に合理的な理由」とを区別する見解に立っている(平成23年司法試験の出題趣旨・採点実感、令和1年司法試験の採点実感参照)ため、司法試験委員会は懲戒についても(1)の理解に立っていると思われるからです。ちなみに、荒木尚志「労働法」第4版496~497頁は、懲戒事由に該当しなければ懲戒権は発生しないのだから、その濫用も問題となり得ないとの理由から、(1)の理解に立っています。

(1)の理解に立つ場合、懲戒事由該当性と「客観的に合理的な理由」との判断が重なることを避けるためにも、懲戒事由該当性は、基本的に、懲戒対象事由たる労働者の行為と懲戒事由を定めている就業規則”等”の文言とを比較する形で、形式的に判断されることになり、懲戒事由該当性の判断の段階では、企業秩序侵害性の有無・程度については、形式的判断のために必要な限度を超えて言及することのないように注意する必要があります。

X1は、Y社の求職者の個人情報等が記録された記録媒体という「機密事項」を「会社の許可なく」自宅に持ち帰ることで「持ち出した」として、労働契約書18条3号の懲戒事由に形式的に該当します。また、X1は、電車内で媒体を紛失し、これによりY社が求職者160名に対して謝罪をするとともに、お詫びの品として金券3000円相当をそれぞれ送付しているため、「不正な行為により、会社の…信用を毀損し、又は、会社に損害を与えたとき」として、労働契約書18条4号の懲戒事由にも形式的に該当します。さらに、同条3号及び4号に形式的に該当することからしても、「前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき」として、労働契約書18条5号の懲戒事由にも形式的に該当します。

4.「客観的に合理的な理由」

第4に、懲戒権濫用(労契15条)の要件のうち、「客観的に合理的な理由」について検討することになります。

懲戒が労働者の企業秩序侵害行為を理由とする制裁罰であることから、「客観的に合理的な理由」が認められるには、労働契約上の義務に違反しただけでな足りず、労働者の行為について企業秩序の現実の侵害又はその実質的危険が認められることも必要であると解されています(土田道夫「労働契約法」第2版474~475頁参照、土田道夫「労働法概説」第4版195頁・200頁参照)。

本問では、X1がY社に無断で媒体を持ち出したこと、これによりY社の信用が毀損されたこと、及びY社に48万円相当の財産的損害が生じたことなどに着目して、X1の行為の企業秩序侵害性について論じることになります。

5.「社会通念上相当」

第5に、懲戒権濫用(労契15条)の要件のうち、「社会通念上相当」について検討することになります。

「社会通念上相当」は、㋐懲戒対象事由と懲戒処分との均衡(比例性)を内容とする処分の相当性、㋑適正手続及び㋒刑罰類似の性格に由来する罪刑法定主義類似の諸原則の遵守からなりますが、㋒が問題とならない事案では、㋐及び㋑についてだけ言及すれば足ります。

㋐処分の相当性は、懲戒対象事由の軽重と懲戒処分の不利益性とを比較して判断されます。その際、「Xが媒体を無断で持ち出して電車で紛失した」という懲戒対象事由の企業秩序侵害性の程度だけでなく、それに至った経緯(Y社にも落ち度、原因がある)についても考慮した上で、懲戒対象事由の軽重を判断することになります。

㋑懲戒の刑罰類似性から、適正手続の内容として、本人に弁明の機会を実質的に保障することが必要と解されています。本問では、X1に弁明の機会を与えることなく懲戒処分がなされているため、少なくとも、㋑を欠くという意味で「社会通念上相当」であるとはいえません。

 

第1問 設問2

まず、X1が媒体を無断で持ち出して電車内で紛失にするに至った経緯も踏まえて、X1の債務不履行(民法415条)又は故意過失(民法709条)の有無にも言及した上で、Y社のXに対する損害賠償請求権の成否について論じます。

次に、Y社のX1に対する損害賠償請求権の行使の可否・限界について、報償責任に基づく損害の公平な分担という使用者責任(民法715条)の制度趣旨を理由として使用者から労働者に対する損害賠償請求及び求償請求を損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限した最高裁判例(茨城石炭商事事件・最判S51.7.8・百26)を踏まえて論じることになります。

考慮要素は、①労働者の帰責性、②労働者の地位・職務内容・労働条件、③加害行為の態様、④損害発生に対する使用者の寄与度です(土田道夫「労働契約法」第2版196頁)。

この論点で考慮要素まで定立することは、合格水準どころか、上位水準としても不要であると考えます。私の参考答案では、紙面の都合上、他の検討事項を優先するために、考慮要素の定立はしていませんし、当てはめも簡潔なものにとどめています。

 

第1問 設問3

X2及びX3に対する解雇は、「売上げが3年連続で低下し、労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった」ため、余剰人員を削除する目的で行われた整理解雇です。

Y社と各労働者との間で締結された労働契約書には解雇に関する定めがなく、また、解雇に関する就業規則も存在しません。そこで、まず初めに、Y社の解雇権の有無が問題となります。

解雇については、懲戒と異なり、使用者に自由が認められており(民法627条1項)、使用者の解雇の自由に対して労基法19条・20条や労契法16条が規制を設けているだけであって、労使間合意や就業規則により解雇事由を定めた場合にはその範囲に解雇事由が限定される、と理解されています。そうすると、解雇に関する労使間合意や就業規則を欠く場合であっても、使用者には労働者を整理解雇する権限が認められることになります。

整理解雇が解雇権濫用(労契16条)に当たらず有効であるといえるためには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選定の合理性(選定基準と具体的選定の合理性)及び④手続の相当性(労働者側との協議・説明)が必要であると解されています。要件説のほかに要素説もありますが、本問の事案は要件説でも処理できるものですから、わざわざ要素説に立たなくてもいいと思います(ちなみに、要素説に立つ場合、要素とは別に上位規範を示す必要があります。上位規範を示すことなく考慮要素だけ示すというのは、漠然とした総合考慮をしている答案であるとして、過去の採点実感で批判されています。)。

①人員削減の必要性については、「Y社は、…労働者6人を使用して事業を行っていた。」(問題文7~8行目)というY社の規模の小ささ及び「Y社は、他の大手企業に顧客の多くを奪われていく中で、売上げが3年連続で低下し、労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった。」(問題文24~25行目)というY社の経営状況から、問題なく認められます。

②解雇回避努力については、客観的に期待可能な範囲でのみ要求されます(期待可能性の原則)。問題文からは、Y社が解雇回避努力をしたことは窺われませんが、「本社と事業所が一体となった事業場の1か所のみで、労働者6人を使用して事業を行っていた」という事情からすると、解雇回避のために配置転換をすることもできませんし、有期契約労働者がいるという事情もないため雇止め(更新拒絶)による人件費削減も期待できません。そうすると、解雇回避をすることに期待可能性が認められないとして、解雇回避努力義務違反は認められないと論じることになると考えられます。

③被解雇者選定の合理性については、「会社の経営方針を正しく理解し、経営改革に柔軟に対応してくれる人材」かどうかという選定基準そのものが、その抽象性ゆえに、基準としての客観性を欠き恣意的又は不公平な選定を許すことになるとの理由から、合理性が否定されます。

④手続の相当性については、判断が難しいです。社長Aは、Y社の労働者全員が出席する朝礼の場で、「会社の経営方針を正しく理解し、経営改革に柔軟に対応してくれる人材」の雇用を継続し、これに該当しない者2人を解雇するとの方針を説明し、これに対し、労働者からは特段意見や質問は出なかった(問題文24~28行目)ことからすれば、手続の相当性を認めることができそうです。もっとも、社長Aが説明した被解雇者選定の基準が合理性を欠くものであることに着目すると、社長Aの説明に対して労働者から特段意見や質問が出なかったことをもって、手続の相当性を認めることはできず、社長Aは整理解雇の必要性を基礎づける経営状況とともに、合理的な被解雇者の選定の基準について説明する必要があったと考えて、これを欠いているのだから手続の相当性は認められないと評価する余地もあるかと思います。

 

第2問 

1.問題点の整理

まず、設問では「Y社がXに対して行った懲戒解雇は有効か」だけが問われているため、行政救済及び司法救済の内容(誰が、いかなる機関に対して、どういった内容の救済を求めることができるか)については言及する必要はありません。

次に、不当労働行為に該当する法律行為は労組法7条により当然に無効になると解されている(医療法人新光会事件・最判S43.4.9・CB432)ので、懲戒権濫用(労契法15条)による無効だけでなく、不当労働行為禁止規定違反による無効についても検討することになります。

さらに、不当労働行為としては不利益取扱いの不当労働行為(労組法7条1号)だけを検討することになります。支配介入(労組法7条3号)は組合弱体化行為全般を意味する広い概念であるため、不利益取扱いの不当労働行為と同時に支配介入の不当労働行為が成立することも少なくないのですが、今回の懲戒解雇は組合本部の了承を得ないまま行われたXの行為を理由とするものであるため、Xに対する懲戒解雇を通じてA労働組合が弱体化するとまではいい難いからです。

そして、「本件配転命令が会社側の配転権の濫用により私法上違法・無効とされるものであるか否かの判断がそのまま不当労働行為の成否の判断につながるものでないことはいうまでもない。」(西神テトラパック事件・東京高判H11.12.22・CB434)と解されていることから、懲戒解雇の有効・無効についても、懲戒権濫用の成否と不当労働行為の成否とを区別して論じることになります。

最後に、検討の順序についてですが、先に懲戒権濫用から論じた場合、懲戒権濫用の検討過程でも懲戒対象事由であるXの行為が争議行為や組合活動として正当であるかどうかが問題になることから、不当労働行為の成否で論じることがほとんどなくなり、バランスが悪いです。そこで、不当労働行為の成否→懲戒権濫用という流れで論じるのが望ましいと考えます。

2.不利益取扱いの不当労働行為の成否

(1) 不当労働行為に該当する法律行為の私法上の効力

初めに、不当労働行為に該当する法律行為は労組法7条により当然に無効になることについて論証します。

その上で、不利益取扱いの不当労働行為の成否の検討に入ります。

(2) 不利益取扱いの不当労働行為の成否

不利益取扱いの不当労働行為の成立要件は、①不利益取扱いの禁止事由の存在、②「不利益な取扱い」の存在、及び③「故をもって」に対応する不当労働行為意思の存在(①の「故をもって」②が行われたこと)の3つです(水町勇一郎「詳解労働法」初版1156頁)。

①との関係では、㋐「X自身が罷業期間中一切出勤せず、組合本部の了解も得ずにF支部組合員を扇動し、罷業させた行為」の争議行為としての正当性と、㋑「X自身が…Y社を誹謗中傷する、事実に基づかない内容の投稿を拡散させ、本社への抗議の電話を殺到させた行為」の組合活動としての正当性が問題となります。

㋐は、団交促進のために行われる集団的労務不提供たる同盟罷業(ストライキ)であり、争議行為に当たります。争議行為の正当性は、主体・目的・手続・態様の4点から判断されます。

主体については、Xによる同盟罷業が組合本部の了解を得ないで行われた山猫ストであることが問題となります。

目的については、義務的団交事項と一致するため、労働者の労働条件その他の待遇であれば、労働組合の組合員に関するものでなければいけません。本問では、Bが非組合員であることと、XがY社によるBの解雇を放置すれば組合員の将来に希望はないと考えているという事実関係も踏まえて、「非組合員である労働者の労働条件に関する問題は、当然には…団交事項に当たるものではないが、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件との関わり合いが強い事項については、…団交事項に当たると解すべきである。」と判示した根岸病院事件判決(東京高判H19.7.31・CB378)を参考にして論じることになります。非組合員の労働条件に関する要求事項の義務的団交事項該当性は、団体交渉拒否の不当労働行為との関係で、平成28年司法試験第2問でも出題されています。

手続については、団体交渉を経ていること、予告をしていること、組合規約上の手続要件の履践(ex.直接無記名投票の過半数による決定)及び平和義務・平和条項違反が問題となります(水町勇一郎「詳解労働法」初版1101~1104頁)。本問では、同盟罷業に先立ち団体交渉を経ているし、組合規約で同盟罷業の手続要件が定められているといった事情もありませんし、平和義務・平和条項違反が問題となるような事情もありません。他方で、XがWに対して団体交渉を求めている際に「こんなところでワイワイ言っても無駄だ。聞く気がないなら俺たちも作業を放棄せざるを得ない。」と言い同盟罷業を行うことを示唆する発言をしているものの、同盟罷業の開始日時や実施期間について全く言及していないため、予告をしたとは評価できないのではないかが問題になると考えられます。

態様については、理論上、複数の観点からその正当性が問題となるため、どの観点から論じるべきかの判断が難しいです。争議行為は、ストライキをはじめとする消極的行為にとどまる場合には、原則として態様の正当性が認められるが、使用者の営業の自由や財産権を不当に侵害する態様のものである場合には、態様の正当性が認められないと解されています(水町勇一郎「詳解労働法」初版1105~1107頁参照)。この原則論・例外論について論証した上で、同盟罷業がA労働組合の組合員全員ではなくその一部(Xを含む11名)で行われていること、同盟罷業が開始日時と実施期間を予告することなく行われたこと、実施期間が4月13日午前11時30分から同月21日までであること、及び「その間、F支工場の製造部門の操業が完全に停止したため、Y社は、生産予定であった全製品について納期を守ることができず、その後取引先から債務不履行責任を問われるなどの事態となった。」ことなどを踏まえて論じることになります。

私の答案では、全てに言及することは紙面的に無理があるため、正当性が認められる目的から論じた上で、主体✕→態様✕という流れで論じ、手続については飛ばしています。なお、態様の正当性を欠くことは、懲戒権濫用法理の当てはめでも使いますから、飛ばさないで、不当労働行為の成否の検討過程で論じておいた方がいいです。

㋑は、争議行為の概念についての業務阻害説からは、団交促進手段として行われる業務阻害行為全般が争議行為に含まれるため、争議行為に位置づけることも可能です。これに対し、ストライキ中心説からは、ストライキの際に行われる積極的行為はストライキによる経済的圧力を維持・強化するものである限りにおいて争議行為に位置づけられることになります(水町勇一郎「詳解労働法」初版1095~1097頁、山川隆一「プラクティス労働法」第2版284~285頁、荒木尚志「労働法」第4版697~698頁)。私の参考答案及び解説記事では、ストライキ中心説に立ったうえで、㋑が世論を味方につける目的で会社外に向けて行われていることに着目して、㋑について争議行為に当たらないとして組合活動に位置づけています。

組合活動の正当性は、主体・目的・態様の3点から判断されます。

主体については、㋑が組合本部の了解を得ないで行われた組合内少数派の活動であるという点が問題となります。

目的については、Bに対する懲戒解雇の撤回が将来におけるA労働組合の組合員の地位・待遇に関係するものであるならば、組合員間の相互扶助・相互保護を目的とする活動であるとして、正当性が認められます。

態様については、理論上、(ⅰ)労働義務違反、(ⅱ)施設管理権侵害及び(ⅲ)誠実義務違反のいずれも伴ってはならないという制限があります。(ⅰ)は就業時間中の組合活動の場合に、(ⅱ)は企業施設を利用した組合活動の場合に、(ⅲ)は就業時間外かつ企業施設外における組合活動の場合に問題となります。㋑が同盟罷業期間中に行われていることから、(ⅰ)労働義務違反を問題にするのは不自然であり、Y社のネットワークシステムやパソコン等を利用して行われたわけでもないため、(ⅱ)も問題となりません。そこで、(ⅲ)を問題にすることになります。

私の答案では、全てに言及することは紙面的に無理があるため、主体✕→態様✕という流れで論じ、目的については飛ばしています。なお、本件投稿が態様の正当性を欠くことについても、懲戒権濫用法理の当てはめでも使いますから、飛ばさないで、不当労働行為の成否の検討過程で論じておいた方がいいです。

(3) 結論

㋐や㋑の正当性を認めた場合、①不利益取扱いの禁止事由が認められることになりますから、②懲戒解雇が「不利益な取扱い」に当たることと、③不当労働行為意思についても軽く言及し、不利益取扱いの不当労働行為の成立を認めることで、懲戒解雇を無効であると結論付けます。

これに対し、いずれも「労働組合の正当な行為」に当たらないのであれば、不利益取扱いの不当労働行為は成立しません。

2.懲戒権濫用

配点項目を落さないようにするために、不当労働行為の成否にかかわらず、懲戒権濫用についても論じるべきです。例えば、組合活動としてのリボン闘争を理由とする戒告の懲戒処分が問題となった平成27年司法試験第2問の出題趣旨・採点実感では、不当労働行為の成否とは別に、懲戒権濫用にも言及するべきとされています。

懲戒処分の有効要件は、基本的には、①懲戒権の法的根拠、②就業規則上の懲戒事由に該当すること及び③懲戒権濫用(労契15条)に当たらないことの3つと整理されます。就業規則規則上の懲戒事由該当性と「客観的に合理的な理由」とを区別する立場からは、①と②が「使用者が労働者を懲戒することができる場合」(労契15条)に対応することになります。

まず、Y社では、懲戒の種別・事由を明定する就業規則の規定が存在しており(労基89条9号)、その周知(労契7条本文)もなされていると思われるため、①Y社の懲戒権が法的に根拠づけられているといえます。

次に、就業規則規則上の懲戒事由該当性と「客観的に合理的な理由」とを区別する立場からは、②就業規則上の懲戒事由該当性は、基本的に、懲戒対象事由たる労働者の行為と懲戒事由を定めている就業規則規定の文言とを比較する形で、形式的に判断されることになります。

そして、懲戒権濫用の要件のうち「客観的に合理的な理由」では、企業秩序侵害性について検討することになります。争議行為の正当性と組合活動の正当性のいずれも認められる場合には、これらによる企業秩序侵害は法律上正当化されるわけですから、これを理由とする懲戒処分については「客観的に合理的な理由」が否定されることになると思われます。

最後に、「客観的に合理的な理由」を肯定するのであれば、懲戒権濫用(労契15条)の要件のうち「社会通念上相当」についても検討します。本問では、処分の相当性、適正手続及び刑罰類似の性格に由来する罪刑法定主義類似の諸原則の遵守のうち、処分の相当性が問題となります。

処分の相当性の判断では、懲戒対象事由の企業秩序侵害性の程度だけでなく、それに至った経緯(Y社にも落ち度、原因があるか?)についても考慮した上で、懲戒対象事由の軽重を判断することになります。

同盟罷業を理由とする懲戒処分との関係では、処分の相当性について、同盟罷業を行った組合員11名のうちXだけが懲戒解雇されている点にも着目して、平等取扱いのルールに違反しないかという観点からの検討も求められていると思われます。

3.労基法20条違反

懲戒解雇であっても、当然に労基法20条に基づく解雇予告が不要とされるわけではありません。解雇予告制度による保護を否定されてもやむを得ないほど重大・悪質なものと狭く理解される「労働者の責めに帰すべき事由」(労基法20条1項但書)が認められないのであれば、解雇予告が必要です。

もっとも、Xに対する懲戒解雇は、1月以上前に予告をした上で行われていますから、労基法20条違反及びその効果(判例は相対的無効説)は問題となりません。

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