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【受験生必見】おとり捜査の適法性

2026年01月04日

弁護士加藤 喬

加藤ゼミナール代表

おとり捜査は、司法試験と予備試験で合計3回出題されている頻出論点です(司H22,司R4,予H24)。

適法性判断の枠組みについて、深く正しい理解を身に付ける必要があります。

以下では、おとり捜査の意義について簡単に説明したうえで、「強制の処分」該当性と任意捜査の限界に関する枠組みについて、「判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕」第2版(著:川出敏裕‐立花書房)237~249頁、「事例演習刑事訴訟法」第3版(著:古江賴隆‐有斐閣)191~204頁、令和4年司法試験の出題趣旨・採点実感を参考にしながら説明いたします。

 

1.おとり捜査の意義

おとり捜査とは、「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する」捜査手法をいいます(最一小決平成16年7月12日)。

この定義によれば、捜査機関やその協力者による積極的な働き掛けが必要であるから、積極的な働き掛けをすることなく、相手方が犯罪に出るところを待って検挙するという手法は、おとり捜査ではないことになります。

おとり捜査は、機会提供型(捜査機関やその協力者による働き掛け行為の時点までに、対象者が、過去に同種同態様の犯行を反復継続している等、機会があれば犯行に出る見込みがあった場合)と、犯意誘発型(そのような事情がなかった場合)に分類されます。

 ” おとり捜査は,捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が,その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するものである。”(最一小決平成16年7月12日)

 

2.「強制の処分」該当性

(1)適法性判断の枠組み

おとり捜査の適法性も、「強制の処分」該当性→任意捜査の限界という枠組みを前提として論じることになります。

(2)「強制の処分」該当性

おとり捜査については、刑事訴訟法に「特別の定」がないため、これが「強制の処分」に該当するのであれば、強制処分法定主義(197条1項但書)に違反するという意味で違法になります。

おとり捜査によって侵害される権利・利益としては、「犯罪を行わないという意味での人格的自律権」と「他人(国家)から干渉を受けないで独自に意思決定する自由」が考えられますが、いずれについても、法的に保護に値する権利・利益の侵害を観念することができないとの理由から、「強制の処分」該当性は認められないと理解されています。

 ” 個人には犯罪を行わない自由があり、おとり捜査は、国家がわなにかけて犯罪を行わせるものであるから、その意味で、憲法13条が保障している人格的自律権を侵害するものであり、その程度が著しい場合(犯意のない者に犯罪を行わせた場合)には、強制捜査になるという見解もある。しかし、おとり捜査を受けた相手方は、犯罪が禁止されていることを理解したうえで、自らの意思に基づいて犯罪を行っており、単に働き掛けをしている者が捜査機関あるいはその協力者であることを知らないという意味で、その身分について錯誤があるにすぎない。それゆえに、相手方の意思決定の自由が侵害されているわけではなく、その点では、教唆なしに自ら犯罪を行った場合と変わりはない。もし、そのうえでなお人格的自律権の侵害があるというなら、その権利の内容は、人から働き掛けを受けないで犯罪を行う自由ということになろうが、そのような自由は法的に保護に値する利益とはいえないであろう。
 そこで、この見解とは異なり、より広く、他人(国家)から干渉を受けないで独自に意思決定する自由というものを想定し、おとり捜査は、相手方のこの意味での自由を侵害するという考え方もある。しかし、人が社会生活を営むものである以上、日々の生活の中で、他人から様々な働き掛けを受けることが当然に予想されるのであり、そもそも、他人(国家)から干渉を受けないで意思決定する自由というものが、法的に保護される権利といえるのかという疑問があろう。
 以上の通り、おとり捜査の相手方について、法的に保護すべき権利・利益の制約を想定することは困難である。そうだとすると、おとり捜査により、相手方の意思に反した権利・利益の制約は生じていないことになるから、…最高裁判例…や有力な学説による強制捜査の定義からは、それは任意捜査ということになる。”(「判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕」第2版(著:川出敏裕‐立花書房) 238~239頁)

なお、おとり捜査に関するメイン論点は、任意捜査の限界であり、「強制の処分」に当たらないとした理由を整合させながら任意捜査の限界に関する判断枠組みを定立したうえで、充実した当てはめを展開することの2点が重要であるため、おとり捜査の「強制の処分」該当性が長々と論じるべきではありません。

ましてや、「強制の処分」該当性を肯定する答案は、出題者・採点者側が想定していない解答筋であり、メイン論点である任意捜査の限界を丸々落とすことになるので、試験対策的観点からはNGです。

 

3.任意捜査の限界

(1)判断枠組み

任意捜査は、「必要な」限度でのみ許容されます(刑事訴訟法197条本文)。これを、任意捜査の限界といいます。

昭和51年最決(最三小昭和51年3月16日)は、「強制手段にあたらない有形力の行使であつても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性、緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである。」と述べています。

これは、任意捜査には相手方の法益侵害(又はその危険)が伴うことを根拠として、捜査比例の原則に従い、捜査の必要性と相手方の法益侵害を比較衡量することで任意捜査の限界を判断する手法です。通常は、この判断枠組みが用いられます。

しかし、おとり捜査については異なります。

川出敏裕「判例講座 刑事訴訟法」〔捜査・証拠篇〕第2版239~249頁では、おとり捜査については、「法的に保護すべき権利・利益の制約を想定することは困難である」との理由から「強制の処分」該当性を否定したうえで、任意捜査の限界については、相手方には法益侵害が生じていないとの理由から、捜査の必要性と相手方の法益侵害を比較衡量する昭和51年最決の判断枠組みは用いずに、「本来、犯罪を取り締まるべき国家が、一種の詐術を用いて相手方を犯罪へと導く点において、捜査の公正さに反する」ことと、「おとり捜査によって、刑罰法規…が保護する法益の侵害が生じる」ことの2点を理由に、「おとり捜査が適法か否かは、この2つの要因の存在を前提としたうえで、なお、おとり捜査を許すべきだといえるだけの必要性があり、かつ2つの要因を考慮したうえで、具体的なおとり行為が相当といえるか否かで決まることになる」と解しています。

この判断枠組みにおいても、おとり捜査の必要性と弊害とが比較衡量されるため、捜査の必要性とそれによる法益侵害とを比較衡量する昭和51年決定の判断枠組みと共通している部分もありますが、比較衡量の天秤の皿の片側に乗っているのが捜査の相手方の法益侵害ではないという点において、昭和51年決定とは異なるわけです。

当てはめでは、まずは、おとり捜査を許すべきだといえるだけの必要性の有無から検討します。考慮要素は、㋐対象者に対する嫌疑、㋑対象犯罪の重要性、㋒証拠の収集・保全の状況(収集・保全済みの証拠だけで対象者を犯人として検挙できるか)、㋓補充性(通常の捜査方法のみでは対象者を犯人として検挙することが困難)などであり、特に㋐・㋓の認定は必須です。

次に、おとり捜査の相当性の有無を検討します。ここでは、おとり捜査の相当性は、㋔捜査の公正に反する程度、㋕法益侵害性の2点から判断されます。㋔捜査の公正に反する程度では、では、捜査機関側による対象者に対する働きかけ・関与の程度が問題となり、機会提供型・犯意誘発型の区別はここで考慮されます。㋕法益侵害性では、直接の被害者の有無、現実の間接の被害者の有無、被害法益の内容・性質、現実の被害の程度・態様などを考慮して判断されます。

(2)平成16年最決との関係

平成16年決定(最一小決平成16年7月12日)は、「おとり捜査は、…少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。」と判示していますが、「少なくとも」という留保があることからも、おとり捜査の適法性を上記3要件を満たす場合に限定する趣旨ではないと解されています。

 ” 少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。
 これを本件についてみると、上記のとおり、麻薬取締官において、捜査協力者からの情報によっても、被告人の住居や大麻樹脂の隠匿場所等を把握することができず、他の捜査手法に よって証拠を収集し、被告人を検挙することが困難な状況にあり、一方、被告人は既に大麻樹脂の有償譲渡を企図して買手を求めていたのであるから、麻薬取締官が、取引の場所を準備し、被告人に対し大麻樹脂2kgを買受ける意向を示し、被告人が取引の場に大麻樹脂を持参するよう仕向けたとしても、おとり捜査として適法というべきである。したがって、本件の捜査を通じて収集された大麻樹脂を始めとする各証拠の証拠能力を肯定した原判断は、正当として是認できる。 ”(最一小決平成16年7月12日)

任意捜査の限界の当てはめにおいて、おとり捜査の必要性と相当性の判断において、必要な限度で平成16年決定が掲げている要素を考慮することはできますが、それを超えて、平成16年決定が掲げている3要素をおとり捜査の適法要件として用いることは、積極ミスのレベルです。同趣旨のことは、令和4年司法試験の採点実感でも指摘されています。

 ” 平成16年決定に対する理解が不正確と思われる答案も少なからず見受けられた。すなわち、平成16年決定は、「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。」としているところ、答案の中には、特に理由を示すことなく、前記判文にある「少なくとも」という文言を度外視し、同判文に記載された要素を充足する場合にのみおとり捜査が許されるとするものや、比例原則から必要性、相当性の要件を充足する必要がある旨記載した後、特に理由を示すことなく、平成16年決定が挙げた前記要素を要件として記載するものなど、それらの要素がおとり捜査の適法性判断に当たっていかなる意味で考慮されるのかについて正確に理解していないと考えられる答案が多く見受けられた。。 ”(令和4年司法試験の採点実感)

(3)令和4年司法試験の出題趣旨・採点実感

  ” おとり捜査の適法性が争われた事案に関する最高裁判所の判例としては、最決平成16年7月12日刑集58巻5号333頁(以下「平成16年決定」という。)がある。平成16年決定は、おとり捜査の意義を示した上で、これが許容される場合がある旨判示しているところ、おとり捜査の適法性を検討するに当たっては、おとり捜査に関する法律上の定義規定がないことから、前提として、おとり捜査の意義に関する理解を示すことが求められる。
 また、おとり捜査については、刑事訴訟法に特別の根拠規定がなく、平成16年決定も、おとり捜査が刑事訴訟法第197条第1項に基づき任意捜査として許容される場合があるとしていることから、おとり捜査の適法性を検討する際には、おとり捜査の法的性質についても論じることが求められる。そして、その判断には、おとり捜査が違法とされる実質的理由が影響し得ることに留意する必要がある。すなわち、おとり捜査が違法とされる実質的理由については、学説上、不公正な捜査方法であるからとする考え方、国家が犯罪を創出し法益侵害を生じさせるからとする考え方、人格的自律権・個人の尊厳に対する侵害があるからとする考え方などが主張されているところ、これらの理由とおとり捜査の法的性質との整合性に留意して論述する必要がある。
 次に、おとり捜査の適法性の判断基準については、学説上、もともと犯意を有していた者に犯罪の機会を提供した場合(以下「機会提供型」という。)と、おとり捜査によって対象者に犯意を生じさせた場合(以下「犯意誘発型」という。)とを区別し、機会提供型は適法であるが、犯意誘発型は違法であるとする考え方や、捜査比例の原則に従い、必要性と相当性という枠組みの下で、比較衡量によりおとり捜査の適否を判断する考え方などが主張されている。いずれの見解に立つにせよ、おとり捜査の適法性の判断基準は、おとり捜査の法的性質や、おとり捜査が違法とされる実質的理由と結び付くものであるから、それらの点を踏まえた上で判断基準と判断要素を示すことが求められる。また、平成16年決定は、おとり捜査の適法性について、必ずしも機会提供型と犯意誘発型のどちらに当たるかのみで判断しているわけではないことにも留意する必要がある。
 このようにおとり捜査の適法性の判断基準について論じた上で、本設問の事例に現れた具体的事実の持つ意味を的確に評価し、判断基準に当てはめて、おとり捜査の適法性を検討することが求められる。”(令和4年司法試験の出題趣旨)

  “〔設問1〕では、おとり捜査の適法性を論じるに当たり、おとり捜査には、定義規定がなく、平成16年決定も、おとり捜査の意義について示した上で適法性を論じているのであるから、前提として、おとり捜査の意義に関する理解を示す必要があるところ、これを示さず、あるいは、的確な理解を示さないまま、おとり捜査の適法性を論じる答案が少なからず見受けられた。また、おとり捜査については、刑事訴訟法に明文規定がなく、平成16年決定も刑事訴訟法第197条第1項に基づき任意捜査として許容される場合がある旨判示していることから、おとり捜査の法的性質を論じることが求められるところ、大半の答案がおとり捜査の法的性質について論じているものの、その内容としては、強制捜査と任意捜査の区別の基準に関する一般論を大きく展開する一方で、おとり捜査が違法とされる実質的理由との関係を意識した論述ができている答案は少なかった。さらに、おとり捜査の適法性を判断する基準についても、おとり捜査の法的性質を任意捜査であるとした上で、任意捜査の限界の一般論としての必要性や相当性を提示するにとどまる答案が少なからず見受けられ、おとり捜査が違法とされる実質的理由を十分に踏まえて適法性の判断基準及び判断要素を示している答案は少なかった。すなわち、おとり捜査を任意捜査であるとし、任意捜査であっても何らかの法益を侵害するおそれがあるために制約があるとした上で一般的に比例原則の適用を論じるにとどまり、おとり捜査の必要性に対置される権利・利益に関する論述が欠如し、あるいは、その論述が不十分な答案が多く見受けられた。ここでは、おとり捜査が実質的に違法とされる理由について、不公正な捜査方法であるからとする考え方、国家が犯罪を創出し法益侵害を生じさせるからとする考え方、人格的自律・個人の尊厳に対する侵害があるからとする考え方などがあることを踏まえ、こうしたおとり捜査によって侵害され得る権利・利益を踏まえつつ、捜査の必要性との関係で比例原則を問題とする必要があるところ、その点を踏まえた答案は少なかった。また、平成16年決定に対する理解が不正確と思われる答案も少なからず見受けられた。すなわち、平成16年決定は、「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。」としているところ、答案の中には、特に理由を示すことなく、前記判文にある「少なくとも」という文言を度外視し、同判文に記載された要素を充足する場合にのみおとり捜査が許されるとするものや、比例原則から必要性、相当性の要件を充足する必要がある旨記載した後、特に理由を示すことなく、平成16年決定が挙げた前記要素を要件として記載するものなど、それらの要素がおとり捜査の適法性判断に当たっていかなる意味で考慮されるのかについて正確に理解していないと考えられる答案が多く見受けられた。また、具体的な事実の抽出、評価においても、事実の拾い上げ自体が不十分な答案や、自己の結論と整合する事実を中心に拾い上げ、反対の結論に導き得る事実の拾い上げが不十分な答案が見受けられた。さらに、事実の羅列にとどまる答案や、一応事実を抽出、評価しているものの、例えば、捜査機関による甲への働きかけが強いと評価するにとどまり、働きかけが強いことが違法方向に作用する理由について、おとり捜査が違法とされる実質的理由を踏まえた論述ができていないなど、事実に対する評価が不十分な答案が見られた。また、平成16年決定にいう「機会があれば犯罪を行う意思」の理解が不十分なため、これを故意と同一のものと考え、故意の有無という観点で評価している答案があったほか、事実と判断基準との結び付きが不十分な答案も見受けられた。さらに、本設問では、司法警察員Pは、甲からまずサンプルとして100グラムの大麻を譲り受けた際に甲を逮捕することができたものの逮捕せず、甲が10キログラムの大麻を持参したところで逮捕しているところ、この点について、おとり捜査が違法とされる実質的理由に遡って的確に検討している答案は少なかった。”(令和4年司法試験の採点実感)

 

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当