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【連載コラム第2回】1点差不合格の経験から学んだ「落ちない」短答勉強法

2026年03月08日

弁護士谷口 陸

加藤ゼミナール専任講師

加藤ゼミナール講師の谷口陸です。

連載コラム第2回の今回は司法試験・予備試験受験生にとっての最初の、そして最大の関門の一つである「短答式試験」にスポットを当てます。

短答対策といえば「過去問演習が王道」であるというのは周知の事実かと思います。しかし、私自身、過去問を完璧にこなしたにもかかわらず、短答式試験に1点差で不合格となるという経験をしています。なぜ「過去問を完璧にした」はずなのに落ちてしまったのか。そして、そこからどのようにして「落ちない短答力」を確立したのか、私の体験を交えてお話しします。

 

1.「一度受かれば大丈夫」という慢心が招いた悲劇

私は、実は、予備校の2年間の基礎講座のカリキュラムを終えて、予備試験に初挑戦した年度の短答式試験に合格しています。この年は、予備試験、司法試験を含めた過去9年分の過去問をひたすら回す(各肢の正誤について理由も含めていえる状態にもっていく)という勉強法を採用していました。その年は論文で不合格となっていまいましたが、「短答は一度受かったのだから、翌年も当然受かるだろう。」という根拠のない自信を持っていました。しかし、これが最大の誤算でした。

翌年、私は短答式試験までのほぼ全ての時間を論文対策に費やし、短答対策は「去年と同じ要領で短答の直前期にやればいい」と考え、短答式試験の2か月前くらいから前年同様、平成18年以降の過去問10年分を肢別に、理由付きで正誤を判定できるまで何周も回し始めました。この年は、「短答はとりあえず大丈夫だろうから、勝負は論文だ」、そう思って短答式試験に臨んでいました。しかし、結果は合格最低点に1点及ばず、不合格。

「なぜ去年と同じ対策をしたのに落ちたのか」「この1年の論文の学習はなんだったのだ」という絶望感に打ちひしがれていました。

 

2.なぜ「過去問が完璧」でも落ちたのか?

当時の私の場合、民事系の点数がかなり悪く(3科目平均で5割程度)、これが全体の点数を大きく引き下げる要因になっていました。民事系科目においても私は過去問を完璧にして臨んだのになぜここまで点数が取れなかったのか。私は、その年に試験の現場で間違えた問題を徹底的に分析しました。

その結果、私の従来の勉強法では「過去問の肢の正誤を理由付きで言える」ことはできても、背後にある条文や判例といった普遍的な知識を会得する姿勢が欠けてしまっている、という事実に気付きました。過去問で1度問われている知識であっても、問われ方が変わることによって失点している問題が複数あったのです。

短答式、特に民事系はその7割以上が条文知識を問われていると言っても過言ではありません。裏を返せば、(こと民事系では)「条文そのもの」をインプットすることこそが最も確実な近道なのです。過去問で出題された肢を完璧にすることで得られるのはあくまで「その過去問で問われた角度」からの条文知識であり、どのような聞き方をされても(角度を変えて聞かれても)動じることのない「普遍的な条文知識」をインプットすることが重要なのです。

 

 

3.「オリジナル判例六法」の作成

この事実に気づいてから、私は短答の勉強法を大きく転換しました。過去問演習を「目的」にするのではなく、「判例六法に情報を集約するための手段」に変えたのです。

具体的には、過去問で問われた条文を判例六法にマーキングし、適宜メモを追記するという勉強法を採用しました。この「オリジナル判例六法」を用いた条文と判例の素読こそが、私の短答対策の最終回答となりました。

この方法には、過去問集を回すだけでは得られない3つのメリットがあります。

① 「問われ方」が変わることにおびえなくてよい 条文知識そのものがインプットの対象となるため、過去問で1度問われた知識について問われ方が変わっても正確に正誤を判定できるようになります。

② 復習速度の飛躍的向上と「瞬間最大風速」 短答試験は、試験当日にどれだけの知識を頭に保持しているか、つまり「記憶の瞬間最大風速」が点数を大きく左右します。直前期に数冊もの分厚い過去問集(辰巳のパーフェクト等)を一周するのは物理的に難しいですし、試験会場への持ち運びも大変です。しかし、マーク済みの六法1冊なら、当日の休み時間だけで全科目をざっと素読することで、知識を最高の「鮮度」で引き出すことができます。

③ 頻出論点の視覚化 例えば会社法の条文をめくっていると、マーキングが集中する条文と、全く出題がない単元が視覚的に明らかになります。これにより、翌年以降の出題可能性を予測したり、直前期にどこを重点的に読み込むべきかの強弱をつけたりすることが容易になります。

 

4.科目別の攻略エッセンス

上記のオリジナル判例六法を用いた勉強法は、条文知識がメインで問われる民事系で大きな効果を発揮しますが、公法系、刑事系は条文知識以上に判例や学説対立といった事項が重要となるため、各科目ごとで若干、勉強法が異なります。以下では、私の経験から導き出した、科目別の最適なアプローチをお示しします。

  • 【民事系】 条文知識が極めて重要です。前記のとおり、判例六法のマーキングと素読が最も効果を発揮します。民法・商法・民訴法は、過去問で出題された条文を「丸暗記に近いレベル」まで素読すれば、7割以上の得点は容易といえます。
  • 【公法系】 条文もさることながら、それ以上に「判例」が重要な科目です。判例百選の素読や重要判旨をおさえることが点数に直結します。また、公法系では、判例の判旨の細かな部分を問う問題も出題され、正誤の判定がきわどい選択肢も多いため、5で後述する「リーガルマインドによる推論」も重要となる科目です。
  • 【刑事系】 「論文対策が短答対策を兼ねる」という意識を持つことが重要です。刑事系に関しては、論文の学習が十分に完成していれば、(細かな手続きに関する問題を除けば)特別な短答対策をせずとも6〜7割は安定して得点できるようになると思います。刑事系の点数が伸びない方は、短答固有の知識を追う前に、まず論文の知識に抜けがないかを確認すべきです。

 

5.知識の限界を突破する「リーガルマインド」

最後に、短答で高得点を安定させるために欠かせないのが「リーガルマインド」です。 一見、精神論のように聞こえるかもしれませんが、これは極めて実践的な技術です。試験本番では、どれだけ準備しても「見たことがない条文や判例」に出会います。その時、自分の有している知識量だけで戦おうとすれば、どれだけインプットしても足りません。

ここで、上記の「リーガルマインド」すなわち、「法的に合理的な帰結はどのような結論か」を考える訓練が活きてきます。条文も判例も、人間が作った合理的なルールです。「法の趣旨、目的に照らして妥当な結論はどちらか」を推論する力があれば、未知の問題でも一定程度、正解を導き出すことができるといえます。過去問を解く際、単に答えを覚えるのではなく、「なぜこの規定はこうなっているのか」という法的な合理性を意識する訓練を積むことも重要です。

 

谷口 陸

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

慶應義塾大学法学部 卒業
予備試験合格
東京大学法科大学院 修了
総合200位台で司法試験合格
都内企業法務系事務所に勤務する実務家弁護士
法律実務基礎科目講座を担当