加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
千葉県の市川児童相談所の元職員が、過酷な環境での勤務を余儀なくされたことなどを理由として、千葉県に対して、未払い賃金や慰謝料など計1200万円の支払を求めた訴訟において、千葉地裁(令和7年3月26日)は、千葉県の安全配慮義務違反などを認め、千葉県に計約50万円の支払を命じる判決を言い渡しました(なお、千葉県が即日控訴したため、判決は確定していません。)。
訴訟では、元職員の仮眠時間が労基法上の労働時間に当たるかも争点になり、千葉地裁は、当時、市川児童相談所の一時保護所には定員の倍の40人の児童が入所し、職員は宿直勤務の際の仮眠時間も児童の体調悪化や緊急の一時保護要請などの突発事案に対応する必要があったと認定し、仮眠時間が労働時間に当たることを認めています。
労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を意味し、これに当たるかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に判断されます。このように労働時間該当性が客観的に判断されるのは、強行法規である労基法上の労働時間規制の対象となる労働時間に当たるか否かを労働契約、就業規則、労働協約等の定め如何によって左右できるとなると、労働時間規制の強行法規性が蔑ろになるからです。
仮眠時間については、上記の客観説を前提として、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえないとの理由から、当該時間は使用者の指揮命令下に置かれているものとして労基法上の労働時間に該当すると解されています。
この下位基準として、①労働契約上制度的に役務提供が義務付けられているか(形式判断)、②①が認められるとしても、実質的にみて役務提供が義務付けられていないと認められる事情がないか(実質判断)という二段階の判断方式が採用されています。
例えば、大星ビル管理事件判決は、ビル管理業務を目的とするY社の技術員Xの管理委託元であるビルにおける不活動仮眠時間(7~9時間/1日)の労働時間該当性が問題となった事案について、①「Xらは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」こと、②「実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しない」ことを理由に、「本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって、Xらは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。」として、仮眠時間の労働時間性を認めています。
前掲の千葉地裁判決では、市川児童相談所の一時保護所には定員の倍の40人の児童が入所し、職員は宿直勤務の際の仮眠時間も児童の体調悪化や緊急の一時保護要請などの突発事案に対応する必要があったと認定し、元職員の仮眠時間が労働時間に当たることを認めています。
ここでは、「市川児童相談所の一時保護所には定員の倍の40人の児童が入所し、職員は宿直勤務の際の仮眠時間も児童の体調悪化や緊急の一時保護要請などの突発事案に対応する必要があった」ことから、①労働契約上、仮眠時間中であっても突発事案が生じた場合には相当の対応をすることが義務付けられていること(形式判断)と、②実際にも突発事案が生じて対応に出ることがあったのだから、実質的にみて仮眠時間中における役務提供が義務付けられていないと認められる事情もない(実質判断)として、「仮眠時間において、…労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられている」と評価して仮眠時間の労働時間性が認められているわけです。
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