加藤ゼミナールについて

お札のコピーは犯罪か?

2025年05月24日

紙幣(=日本銀行券)のコピーに関する犯罪としては、主として、①法定刑が「無期又は3年以上の拘禁刑」と重い通貨偽造罪(刑法148条)と、②法定刑が「3年以下の拘禁刑」と軽い通貨模造罪(通貨及証券模造取締法1条)があります。

【通貨偽造罪】

刑法第148条(通貨偽造及び行使等)
1 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。
2 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。

【通貨模造罪】

(通貨及証券模造取締法)
第1条 貨幣、政府発行紙幣、銀行紙幣、兌換銀行券、国債証券及地方債証券ニ紛ハシキ外観ヲ有スルモノヲ製造シ又ハ販売スルコトヲ得ス
第2条 前条ニ違反シタル者ハ三年以下ノ拘禁刑ニ処ス
第3条 第一条ニ掲ケタル物件ハ刑法ニ依リ没収スル場合ノ外何人ノ所有ヲ問ハス警察官ニ於テ之ヲ破毀スヘシ
第4条 第一条ニ掲ケタル物件ニハ明治九年布告第五十七号ヲ適用ス

①通貨偽造罪における「偽造」では、一般人をして真正な通貨と誤認させる程度の外観が必要であり、これに至らない真貨に紛らわしい外観のものを作成することは②通貨模造罪の処罰対象となるにとどまります。

例えば、講義用の資料に紙幣を等倍で白黒コピーしたものを載せるというケースでは、印刷物に使用しているにとどまることと、白黒コピーであることなどから、一般人をして真正な通貨と誤認させる程度の外観には至っておらず、「偽造」に当たりません。

①通貨偽造罪では、主観的要素として「行使の目的」が必要であり、これは偽造した通貨を真正な通貨として流通に置く目的を意味します。

上記のケースでは、講義で使用する目的にとどまり、真正な通貨として流通に置く目的はありませんから、「行使の目的」もありません。

このように、「偽造」には当たらないし、「行使の目的」が認められないというように、二重の意味において①通貨偽造罪は成立しません。

他方で、②通貨模造罪では、「銀行紙幣…ニ紛ハシキ外観ヲ有スルモノヲ製造…スルコト」で足りますし、「行使の目的」という主観的要素は不要です。

上記のケースでは、等倍コピーであるため、紙幣の印刷部分に「見本」の文字や斜線を付さなければ、「銀行紙幣…ニ紛ハシキ外観ヲ有スルモノヲ製造…スルコト」に当たるとして、②通貨模造罪が成立する余地があります。

財務省のウェブサイトでも、紙幣の写真を印刷物に使うことについて、「日本銀行券や貨幣をデザイン化したものや、その一部又は全部を商品や印刷物などに使用する場合も同法に抵触する可能性があります。これらは、図柄の模擬の程度、大きさ、材質、「見本」の文字、斜線の有無などから総合的に判断されることになります。」とあります。

財務省のウェブサイト https://www.mof.go.jp/faq/currency/07af.htm