加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
刑事訴訟法20条は、裁判の公平性を担保するために、裁判官が当該事件及びその関係者と一定の人的なつながりを有する場合や、当該事件に関して予断を抱いているおそれが類型的に認められる場合など、裁判官の公平性を害するおそれのある一定の事由がある場合に、当事者の申立てを待つまでもなく、その裁判官を職務の執行から当然に排除する制度を定めています(宇藤崇ほか「リーガルクエスト刑事訴訟法」第3版304頁)。これを、「裁判官の除斥」といいます。
最高裁(最一小判令和7年5月21日)は、第1審の有罪判決をした裁判官が当該被告事件の控訴裁判所のする保釈に関する裁判に関与することについて、「裁判官が事件について…前審の裁判…に関与したとき。」を除斥事由とする刑事訴訟法20条7号本文との関係で許されるかが問題となった事案において、①控訴裁判所において、当該被告事件の第1審の有罪判決をした裁判官には、「事件について…前審の裁判…に関与したとき。」という同法20条7号本文の除斥事由に当たることと、②控訴裁判所のする保釈に関する裁判に関与することは、控訴裁判所の裁判官としての「職務の執行」(同法20条柱書)に当たることを認め、「第1審の有罪判決をした裁判官は、刑訴法20条により、当該被告事件の控訴裁判所のする保釈に関する裁判についての職務の執行から除斥されると解するのが相当である。」と判示しました。
論文試験で出題されることはまずないと思いますが、短答試験で出題される可能性があるので、予備試験受験生の方はおさえておきましょう。
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【裁判官の除斥】
(除斥の原因)
第20条 裁判官は、次に掲げる場合には、職務の執行から除斥される。
一 裁判官が被害者であるとき。
二 裁判官が被告人又は被害者の親族であるとき、又はあつたとき。
三 裁判官が被告人又は被害者の法定代理人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。
四 裁判官が事件について証人又は鑑定人となつたとき。
五 裁判官が事件について被告人の代理人、弁護人又は補佐人となつたとき。
六 裁判官が事件について検察官又は司法警察員の職務を行つたとき。
七 裁判官が事件について第266条第2号の決定、略式命令、前審の裁判、第398条乃至第400条、第412条若しくは第413条の規定により差し戻し、若しくは移送された場合における原判決又はこれらの裁判の基礎となつた取調べに関与したとき。ただし、受託裁判官として関与した場合は、この限りでない。
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【最一小判令和7年5月21日】
事案: 第1審の有罪判決をした裁判官が当該被告事件の控訴裁判所のする保釈に関する裁判に関与することについて、「裁判官が事件について…前審の裁判…に関与したとき。」を除斥事由とする刑事訴訟法20条7号本文との関係で許されるかが問題となった。
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判旨:「記録によると、頭書被告事件の控訴裁判所である札幌高等裁判所が、同被告事件の第1審の有罪判決をした裁判官を含む合議体で、保釈請求を却下する決定をし、原審が、申立人からの異議申立てを棄却する決定をしたことが明らかである。
しかしながら、控訴裁判所において、当該被告事件の第1審の有罪判決をした裁判官には、事件について前審の裁判に関与したという、刑訴法20条7号本文の定める除斥原因がある。そして、控訴裁判所のする保釈に関する裁判に関与することは、控訴裁判所の裁判官としての職務の執行に当たる。そうすると、第1審の有罪判決をした裁判官は、刑訴法20条により、当該被告事件の控訴裁判所のする保釈に関する裁判についての職務の執行から除斥されると解するのが相当である。
したがって、職務の執行から除斥されるべき裁判官が関与してされた原々決定及びこれを是認した原決定には、刑訴法20条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。」
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