加藤ゼミナールについて

譲渡担保と所有権留保が明文化!

2025年05月30日

 

1⃣譲渡担保と所有権留保が明文化!

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案について、令和7年5月22日に衆議院で可決され、同月30日に参議院でも可決されました。

法文はこちら

これにより、「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。」(憲法59条1項)との規定に従い、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」が法律として成立しました。

(法律案の議決、衆議院の優越)
第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
② 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
③ 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
④ 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

譲渡担保契約及び所有権留保契約については、長年にわたり解釈に委ねられてきましたが、明文化されるに至ったわけです。

「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」により明文化されたのは、債権譲渡契約、動産譲渡担保契約及び動産の所有権留保契約だけであり、不動産譲渡担保契約及び不動産の所有権留保契約については、引き続き解釈に委ねられることになります。

※ 宅地建物取引業者が売主となって行う売買契約においては、宅建業法43条により所有権留保が禁止されているうえに、不動産については他に用いやすい担保制度もあるため、所有権留保契約が不動産に用いられることはほとんどありません(道垣内弘人「担保物権法」第4版365頁)。

 

2⃣譲渡担保契約と所有権留保契約の法的性質

では、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」により、譲渡担保契約と所有権留保契約の法的性質は、どうなるのでしょうか?

まずは、譲渡担保契約の法的性質から見ていきます。

物を対象とする譲渡担保の法的性質については、①所有権移転の形式を重視して、譲渡担保契約により目的物の所有権が完全に移転すると理解する所有権的構成と、②債権担保という実質を重視して、譲渡担保契約によっては目的物の完全な所有権移転は生じず、設定者にも目的物についての何らかの物権が帰属していると理解する担保的構成とがあります。

②担保的構成をとる学説には、大きく分けると、㋐債権担保の目的を達するために必要な範囲においては譲渡担保契約による所有権移転を認める一方で、それ以外の物権は設定者に留保される(これを「設定者留保権」といいます。)と理解する見解と、㋑債権担保の目的を達するために必要な範囲においても所有権移転は生じないと理解する見解とがあります。

昭和57年最判(最判昭和57.9.28判時1062号81頁)は、「譲渡担保は、債権担保のために目的物件の有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであって、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによって換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから…、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。」として、譲渡担保権者が換価処分を完結するまでの間は、譲渡担保による目的物の「所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められる」にとどまるとの理由から、譲渡担保権設定者による不法占有者に対する所有権に基づく返還請求を認めています。

これは、②担保的構成のうち㋐に該当する見解であるといえます。

本判決における「所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められる」という一般論は、それ以降の最高裁判決でも繰り返し用いられているため、判例法理としてほぼ確立したものと理解されています(道垣内「担保物権法」第4版308頁参)。また、通説も同様の立場です。

「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」でも、動産譲渡担保権設定者の妨害排除請求権・返還請求権が定められていることなどから、物を対象とする譲渡担保の法的性質について、判例・通説の立場である②担保的構成の㋐の見解を採用していると考えられます。

次に、所有権留保の法的性質を見ていきます。

所有権留保についても、譲渡担保と同様、①債権者に所有権が帰属すると構成する所有権的構成と、②債権者は担保権を有するにとどまると構成する担保的構成とがあります。もっとも、所有権留保が双方の側面を有することは否定できず、判例も、倒産の局面では担保権としての側面を重視する一方で、それ以外の局面では所有権的構成を重視するというように、場面に応じて重視する側面を使い分けています(内田貴「民法Ⅲ 債権総論・担保物権」第4版655頁)。

このように、倒産以外の局面では、債務の全部履行を所有権移転の停止条件とする契約であるとして、所有権的構成が採用されてきました。

「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」でも、所有権留保契約について、「動産…の所有権を移転することを内容とする売買その他の契約…であって、当該動産の代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該動産の所有権を移転すべき者に留保する旨の定めのあるもの」と定義されており、所有権的構成が採用されています。

第一 総則  二 定義  16 所有権留保契約
 次に掲げる契約をいう。
(一) 動産(抵当権の目的とすることができるもの(1(一)(1)及び(2)に掲げるものを除く。)を除く。以下同じ。)の所有権を移転することを内容とする売買その他の契約((二)において「売買契約等」という。)であって、当該動産の代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該動産の所有権を移転すべき者に留保する旨の定めのあるもの
(二) 売買契約等の当事者のうち当該売買契約等の目的である動産の所有権の移転を受けるべき者が、第三者に対し、当該動産の所有権を移転すべき者に対する当該動産の代金その他の金銭の支払を委託し、当該者が、その支払を受けたときに、当該金銭の償還債務その他の金銭債務の担保として、当該第三者に当該動産の所有権を取得させることを約する契約であって、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該第三者に留保する旨の定めのあるもの

他方で、所有権留保契約については、対抗要件の有無について、重要な変更があります。

かつては、所有権留保契約に基づく所有権の留保については、譲渡担保と異なり、はじめから債権者に所有権があるから物権変動がないとの理由から、それを第三者に対抗するためには対抗要件は不要であると解されていました(道垣内弘人「担保物権法」第4版368頁)。

ところが、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」では、原則として対抗要件が必要であると定められています。

第三 一 動産の所有権の留保の対抗要件
1 所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ、第三者に対抗することができないものとすること。(第109条第1項関係)
2 1の規定にかかわらず、次に掲げる債務(その利息、違約金、留保所有権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む。)のみを担保するために締結された所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産を除く。以下この2において同じ。)の引渡しがなくても、第三者に対抗することができるものとすること。(第109条第2項関係)
(一) 第一の二16(一)に規定する所有権留保契約における所有権留保動産の代金の支払債務
(二) 第一の二16(二)に規定する所有権留保契約における償還債務(所有権留保動産の代金の支払債務を履行したことによって生ずるものに限る。)

 

3⃣司法試験・予備試験受験生はどうするべきか?

平成18年司法試験から令和5年司法試験までの間、「司法試験は、試験時に施行されている法令に基づいて出題する。」(平成22年司法試験までは「新司法試験は、現行司法試験において行われているのと同様、試験時に施行されている法令に基づいて出題する。」とされています)という平成17年5月31日司法試験委員会決定が維持されていました。

しかし、上記決定は、令和5年11月7日付で、原則として「各年における司法試験については、当該年の1月1日現在において施行されている法令に基づいて出題する。」という内容に変更されており、予備試験についても同様の変更がなされています。

したがって、再度の変更がない限り、令和6年以降の司法試験・予備試験については、原則として「当該年の1月1日現在において施行されている法令に基づいて出題する。」ということになります。

よって、仮に令和7年司法試験・予備試験の試験時より前に「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」が施行されたとしても、令和7年司法試験・予備試験の受験生は、同法が施行されていないことを前提として、試験問題を解くことになります。

なお、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」の施行日については、「原則として、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定められています。

第六 附則  一 施行期日
 この法律は、原則として、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。(附則第一条関係)

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当