加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
東京地裁判決(東京地判令和4年6月6日)は、セブン‐イレブン・ジャパン事件において、セブンイレブンのフランチャイジー(コンビニオーナー)は労働組合法上の「労働者」に当たらないと判断しました。
一般に、「労働者」とは、雇用契約の下で労務を提供してその対価として賃金の支払を受ける者を意味しますが、労働法における「労働者」概念は、一般的な意味における労働者よりも広く解されているため、業務委託契約の相手方なども労働法における「労働者」に当たると判断されることがあります。
労働法における「労働者」概念は、大きく分けると、労働基準法上の「労働者」(同法9条)概念と、労働組合法上の「労働者」(同法3条)概念に分類されます(労働基準法上の「労働者」概念は、雇用関係法上の「労働者」全般に妥当すると解されています。)。
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1⃣何故、「労働者」概念が問題となるのか?
例えば、労働基準法上の「労働者」は、労働時間規制(同法32条)、週休1日原則(同法34条)、賃金の支払方法に関する諸原則(同法24条)など、様々な形で労働基準法上の規定による保護を受けます。
Xは、Y社との間で「業務委託契約」という名称・形式の契約を締結し、Y社の工場内において作業に従事していたとします。仮にXが労働基準法上の「労働者」に当たるのであれば、Xは、Y社に雇用される者と同様に、1日8時間労働の原則、週休1日原則、賃金全額払の原則といった労働基準法上の各種の規定による保護を受けますが、労働基準法上の「労働者」に当たらないのであれば、こうした規定による保護を受けることができません。
また、労働組合法上の「労働者」は、典型的には、労働組合による団体交渉の場面で問題となります。労働組合法上は、使用者が労働組合による団体交渉を正当な理由なく拒むことが不当労働行為として禁止されています(同法7条2号)。上記の事例において、Y社と業務委託契約を締結してY社の工場内で作業に従事しているXらによって組織されるZ労働組合が、Y社に対して、「Y社の工場内におけるXらの作業環境の改善」を要求事項とする団体交渉を申し入れたところ、Y社は、XらはY社との関係で労働組合法上の「労働者」に当たらないとの理由から団体交渉を拒否したとします。
仮にXらがY社の「労働者」に当たるのであれば、Xらを代表するZ労働組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」(労働組合法7条2号)に当たるため、Y社がZ労働組合からの団体交渉の申入れを拒絶することには、労働組合法7条2号の不当労働行為が成立します。これに対し、XらがY社の「労働者」に当たらないのであれば、Xを代表するZ労働組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たらないので、Y社がZ労働組合からの団体交渉の申入れを拒絶しても、少なくとも労働組合法7条2号の不当労働行為は成立しません。
このように、ある役務提供者が「労働者」の典型例からずれている場合において、労働基準法や労働組合法による保護を受けることができるか否かという形で、労働法における「労働者」概念が問題となるわけです。
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2⃣労働法上の「労働者」概念
労働基準法上の「労働者」(同法9条)と、労働組合法上の「労働者」(同法3条)とは、それぞれの法律の趣旨からその判断基準が導かれます。
ざっくり言うと、労働基準法上の「労働者」は使用従属関係(=指揮監督下で労働し、労務の対象として報酬(賃金)の支払を受ける関係)の有無により判断される一方で、労働組合法上の「労働者」は、同法の趣旨が経済的に劣位に置かれる役務提供者に団結活動や団体交渉を行うことを認めてその地位を引き上げ労働条件の対等決定を促そうとすることにあることから、広い意味での経済的従属性の有無に判断されます。
労働基準法上の「労働者」と労働組合法上の「労働者」とでは、その判断における考慮要素は概ね共通しますが、上位規範が異なるため(前者では「使用従属関係」、後者では「経済的従属性」)、同じ考慮要素でも優劣などが異なることがあります。
例えば、使用従属関係を上位規範とする労働基準法上の「労働者」の判断では、①業務遂行上の指揮監督、②時間的・場所的拘束性、③仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由、④労務提供の代替性、⑤報酬の性格が主たる考慮要素とされますが、労働組合法上の「労働者」の判断では、上位規範が経済的従属性であるため、①と②は補完的要素にすぎません。
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3⃣「労働者」概念に関する判例・裁判例
労働法上の「労働者」性について判断した判例・裁判例は、いくつもあります。
例えば、トラック運転手、大工の1人親方については労働基準法上の「労働者」性が否定されている一方で、映画撮影技師、研修医、会社執行役(元従業員)については労働基準法上の「労働者」性が認められた例もあります。
※1.トラック運転手 最一小判平成8年11月28日
※2.大工の1人親方 最一小判平成19年6月28日
※3.映画撮影技師 東京高裁平成14年7月11日
※4.研修医 最二小判平成17年6月3日(判決文の一般公開なし)
※5.会社執行役 東京地裁平成23年5月19日(判決文の一般公開なし)
ただし、判例・裁判例は、個別具体的な事実関係に着目して「労働者」性を判断しているので、当該事案の具体的な事実関係によっては、「労働者」性に関する結論が従来の判例・裁判例と異なる場合もあり得ることに注意を要します。
また、業務委託契約に基づき住宅設備機器の修理補修等の作業を行うカスタマーエンジニア、新国立劇場運営財団との出演基本契約に基づき財団の指揮監督下で公演・稽古を行うオペラ合唱団員については労働組合法上の「労働者」性が認められている一方で、セブンイレブンのフランチャイジー(コンビニオーナー)については労働組合法上の「労働者」性が否定されています。
※6.カスタマーエンジニア 最三小判平成23年4月12日
※7.オペラ合唱団員 最三小判平成23年4月12日(判決文の一般公開なし)
※8.セブンイレブンのフランチャイジー 東京地判令和4年6月6日
なお、東京地裁判決(東京地判令和4年6月6日)は、セブンイレブンのフランチャイジー(コンビニオーナー)は労働組合法上の「労働者」性が問題となった事案において、①労働組合法上の「労働者」の判断枠組みについて、「労組法は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させることを目的として(1条)、労働者が労働組合を組織し、団体交渉することを助成する種々の方策をとっている。そして、労組法3条は、労働者について、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義し、労働契約法や労働基準法における労働者とは異なり、使用者に「使用される」ことを要件としていない。以上のような労組法の趣旨や目的、労組法3条の文言に照らせば、労組法の適用を受ける労働者は、労働契約によって労務を供給する者に加え、その他の契約によって労務を供給して収入を得る者で、使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含むと解するのが相当である。そして、加盟者が労働法上の労働者に該当するか否かを判断するに当たっては、〔1〕加盟者が相手方の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織に組み入れられているか、〔2〕契約の締結の態様から、加盟者の労働条件や労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか、〔3〕加盟者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか、〔4〕加盟者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係があるか、〔5〕加盟者が、一定の時間的、場所的拘束を受け、Y社の指揮命令の下において労務を提供していたか、〔6〕加盟者が独立した事業者としての実態を備えているかといった事情を総合的に考慮して、使用者との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるかという観点から判断するのが相当である。」と判示した上で、②セブンイレブンのフランチャイジーの労働組合法上の「労働者」性について、「以上のとおり、加盟者は、Y社から個別具体的な労務の提供の依頼に事実上応じなければならない関係にはなく、Y社の事業の遂行に不可欠な労働力として組織に組み入れられているともいえない。また、加盟者は、Y社から労務提供の対価としての金員の支払を受けているとはいえず、労務提供の在り方が一方的・定型的に定められているものでもなく、時間的場所的拘束の下、Y社の指揮命令を受けて労務を提供しているともいえない。 そうすると、加盟者が独立した事業者としての実態を備えているか(前記〔6〕)について検討するまでもなく、Y社との本件フランチャイズ契約を締結する加盟者は、Y社との交渉上の対等性を確保するために労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるかという観点からみて、労組法上の労働者に該当しないというべきである。」と述べて、否定しています。
そして、控訴審(東京高判令和4年12月21日)でも労働組合法上の「労働者」性が否定され、最高裁(最二小判令和5年7月12日)は上告を棄却しました(フランチャイジー側の敗訴判決が確定)。