加藤ゼミナールについて

【コロナ給付金】「性風俗を除外」は合憲

2025年06月16日

新型コロナウイルス感染症の拡大等を受けて国が策定した持続化給付金給付規程及び家賃支援給付金給付規程は、いずれも、風営法上の性風俗関連特殊営業を行う事業者に対しては、各給付金を給付しない旨の定めを置いています(持続化給付金規程8条1項3号、家賃支援給付金規程9条1項3号)。

<持続化給付金給付規程>

(不支給要件)
第8条 前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者に対しては、給付金を給付しない。
一 次条第2項第5号の給付通知を受け取った者
二 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)に規定する「性風俗関連特殊営業」又は当該営業にかかる「接客業務受託営業」を行う事業者
三 宗教上の組織若しくは団体
四 前各号に掲げる者の他、本給付金の趣旨・目的から適切でないと長官が判断する者

※ 下線は筆者による

<家賃支援給付金給付規程>

(不支給要件)
第9条 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、給付金を給付しない。
一 過去に次条第3項第4号の規定により給付金の給付を受けた者
二 国、法人税法別表第1に規定する公共法人
三 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)に規定する「性風俗関連特殊営業」又は当該営業にかかる「接客業務受託営業」を行う事業者
四 政治団体
五 宗教上の組織若しくは団体
六 前各号に掲げる者の他、給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと長官が判断する者

※ 下線は筆者による

最高裁は、これらの規程において性風俗関連特殊営業を行う事業者を各給付金の支給対象から除外していることについて、憲法14条1項にも憲法22条1項にも違反しないと判断しました。

主たる争点は憲法14条1項違反であり、論文試験対策としては、特に、「本件各給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響等により売上げが減少するなどした中小法人等の事業の継続を支えるとの政策目的を実現するため公費により給付されるものであって、給付対象とされない者の権利の制約を伴うものでもないことからすると、国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たっては、政策的な見地から種々の考慮要素を勘案して給付対象者の範囲を画することが許されるというべきである。」という判示が重要です。

「法的な差別的取扱い」には、権利制約における差別的取扱いと、給付における差別的取扱いとがあるところ、上記判示からは、給付における差別的取扱いについては、権利制約における差別的取扱いの場合に比べて立法府の裁量を尊重するべき要請が働くから、区別の合理性の審査密度を下げることになる、といった解釈を導くことが可能です。

上記解釈の射程については、一定の限定があるかもしれませんが、着眼点の一つとしておさえておくといいでしょう。

なお、本判決には、多数意見のほかに、裁判官安浪亮介の補足意見と裁判官宮川美津子の反対意見があります。これらの重要部分について、私が下線を引いています。

<最一小判令和7年6月16日>

事案:風営法2条7項1号所定の無店舗型性風俗特殊営業(いわゆる「デリバリーヘルス」であり、以下「本件特殊営業」という。)を行う事業者であるXが、新型コロナウイルス感染症の拡大等を受けて被上告人国が策定した持続化給付金給付規程(中小法人等向け)(令和2年8月1日付けのもの。以下「持続化給付金規程」という。)及び家賃支援給付金給付規程(中小法人等向け)(同年10月29日改正前のもの。以下「家賃支援給付金規程」という。)に定める各給付金(以下「本件各給付金」という。)につき、本件特殊営業を行う事業者には給付しないこととされていることが、憲法14条1項、22条1項に違反するなどと主張して、国側に対し、本件各給付金の支払等を求めた。
判旨:「第2 上告理由のうち憲法14条1項違反をいう部分について
 1 所論は、…国が上記…の定めにより本件特殊営業を行う事業者に対して本件各給付金を給付しないこととしていること(以下「本件各取扱い」という。)は、その給付を受けることができる事業者との区別において、憲法14条1項に違反する旨をいうものと解される。
 2 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきであって(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等参照)、本件各取扱いについては、本件各給付金が一定の政策目的をもって公費により給付されるものであることを踏まえた上で、給付対象となる事業者と本件特殊営業を行う事業者を区別することが不合理であるといえない限り、同項に違反するものではないというべきである
 3⑴ 本件各給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響等により売上げが減少するなどした中小法人等の事業の継続を支えるとの政策目的を実現するため公費により給付されるものであって、給付対象とされない者の権利の制約を伴うものでもないことからすると、国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たっては、政策的な見地から種々の考慮要素を勘案して給付対象者の範囲を画することが許されるというべきである
 ⑵ 本件各取扱いは、本件特殊営業を行う事業者に対して本件各給付金を給付しないこととするものであるところ、本件特殊営業は、「人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの」(風営法2条7項1号)であり、事業者が、その派遣する接客従業者をして、不特定の者の性的欲望を満足させるために身体的な接触を伴う役務を提供させ、その対価を受ける点に特徴がある。
 そして、本件特殊営業については、風営法において種々の規制がされているところ(第4章第1節第2款)、これは、本件特殊営業が上記の特徴を有することに鑑み、このような規制をしなければ、善良の風俗や清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止することができないと考えられたからにほかならない(同法1条参照)。また、風営法が本件特殊営業を届出制の対象としているのは(31条の2)、本件特殊営業については、その健全化を観念することができず、風俗営業(同法2条1項)に対するものと同様の許可制をとること、すなわち、一定の水準を要求して健全化を図ることを前提とした規律の下に置くことは適当でないと考えられたことによるものと解される。
 以上のとおり、本件特殊営業は、現行法上、上記のような規制をしなければ善良の風俗や清浄な風俗環境が害されるなどのおそれがあって、その健全化を観念し得ないものとして位置付けられているところ、本件特殊営業が上記の特徴を有することからすると、このような位置付けが合理性を欠くものであるとはいえない。
 ⑶ 本件各取扱いは、本件特殊営業の事業内容に着目し、その事業者を給付対象から除外するものであるが、本件特殊営業についての上記のような現行法上の位置付けや、本件特殊営業においては、接客従業者が顧客の指定する場所に出向いて上記のような役務を提供するという業務態様であることから、接客従業者の尊厳を害するおそれがあることを否定し難いものであることに照らせば、国において本件各給付金に係る制度を設けるに当たり、本件特殊営業を行う事業者に対しては、公費を支出してまでその事業の継続を支えることは相当でないと判断し、給付対象から除外して区別することが不合理であるということはできない
 4 以上によれば、本件各取扱いは、憲法14条1項に違反するものとはいえない。このことは、上記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。原審の判断は、以上の趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
第3 上告理由のうち憲法22条1項違反をいう部分について本件各取扱いは、本件特殊営業を行う事業者に対し、一定額の給付をしないというものにとどまるところ、これが同事業者の職業活動に影響する面があるとしても、上記第2で説示したところによれば、憲法22条1項に違反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は採用することができない。」

<裁判官安浪亮介の補足意見>

「裁判官安浪亮介の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見に賛同するものであるが、宮川裁判官の反対意見があることを踏まえ、補足的に意見を述べておきたい。
 本件では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響下において、本件各給付金の規程により本件特殊営業を行うXに対して本件各給付金を給付しないとすること(本件各取扱い)が憲法14条1項等に違反するか否かが問題となっている。
 多数意見は、その説示から明らかなとおり、国による本件各給付金の制度設計において、本件特殊営業の事業内容(風営法2条7項1号)が、事業者において接客従業者を派遣して不特定の者の性的欲望を満足させるために身体的な接触を伴う役務を提供させ、その対価を受けるという特徴を有するものであることから、本件特殊営業を行う事業者に対して公費である本件各給付金を給付してまでその事業の継続を支えることは相当でないとして給付対象となる事業者と区別して行った本件各取扱いを不合理とはいえないとの判断を示したものである。そして、その判断に当たり、多数意見は、上記の特徴を有する本件特殊営業について、風営法における規制の目的や、風俗営業の場合(風営法4条以下参照)とは異なり、届出制が採られてその健全化を図るための適正な業務等の水準が定められていないことなど現行法上の位置付けを考慮して結論を導いているのであって、我が国における抽象的な性道徳の在りようを観念し、その観点から本件特殊営業を行う事業者や接客従業者を他の者よりも劣位するなどと評価して本件各取扱いの合理性を判断したものではない
 また、本件特殊営業は、顧客の性的欲望を満足させるための上記役務の提供を行うものであることのほか、接客従業者が顧客の指定する場所に出向いて上記役務を提供するという業務態様であることから、接客従業者において、事業者から切り離された場所で顧客から不意に意に反する身体的な接触等を求められる場合もあるものと考えられ、そのような場合を始めとして接客従業者の尊厳を害する事態が生じ得ることを否定することはできないのであって、本件特殊営業が事業内容としてそのような一面を有するものであることは無視し得ない。
 以上のような事情からすれば、国が、政策的な見地から、公費を支出して本件特殊営業の事業の継続を支えることは相当でないと判断して他の事業者と区別したことが不合理であるとはいえないと考える。」

<裁判官宮川美津子の反対意見>

「裁判官宮川美津子の反対意見は、次のとおりである。
 私は、本件各取扱いが憲法14条1項に違反しないとした多数意見には賛同することができない。以下理由を述べる。
 1 多数意見がいうように、憲法14条1項の規定は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきであり、本件特殊営業を行う事業者を本件各給付金の給付対象から除外することになる本件各取扱いが、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものであるといえるか否かが問題となる。
 2 本件各給付金は、新型コロナウイルス感染症の拡大等を受け、売上げの減少等の大きな影響を受けるに至った中小法人等に対し、事業の継続を支えるという政策目的をもって給付されるものである。また、本件各給付金に係る制度の創設当時、感染拡大防止のために、国や地方自治体は、国民に対し、不要不急の外出・移動の自粛、いわゆる三密の回避等を要請し、事業者に対しては休業・営業時間短縮等の営業自粛を求めたため、事業者は業種を問わず広くその影響を受けることになった。本件各給付金は、このような前例のない未知のウイルスとの戦いの中で、特に厳しい状況にある中小法人等に対し実施が決定された緊急性の高い給付金であって、かつ、感染拡大防止対策への協力について一定のモチベーションを与える意味もあったと思われる。かかる本件各給付金の趣旨及び目的からは、給付対象となる事業者の事業の種類によって異なる取扱いをすることは予定されていないというべきである。
 そして、本件各取扱いは、本件特殊営業の事業内容に着目し、給付対象から本件特殊営業を行う事業者を特に除外するというものであり、本件特殊営業を行う事業者及びその派遣する接客従業者が、あたかも社会的に見て劣位に置かれているという評価・印象を与え、あるいはそれらの固定化につながりかねない効果をもたらすおそれがあることからすれば、本件各取扱いの合理性判断においては、上記の本件各給付金の趣旨及び目的を重視すべきであり、本件各取扱いが本件特殊営業の事業者及び接客従業者の社会的評価に与える影響も考慮して、合理性の有無を慎重に検討すべきであると考える
 3⑴ 多数意見は、本件特殊営業が、事業者がその派遣する接客従業者をして、不特定の者の性的欲望を満足させるために身体的な接触を伴う役務を提供させ、その対価を受けるという特徴を有することから、風営法は、本件特殊営業を種々の規制をしなければ善良の風俗や清浄な風俗環境が害されるなどのおそれがあって、その健全化を観念し得ないものとして位置付けているところ、このような風営法上の本件特殊営業の位置付けは合理性を欠くものとはいえないとし、このような風営法における上記位置付けを本件各取扱いの合理性の根拠として挙げている。
 しかしながら、風俗営業(風営法2条1項)を行う事業者は、本件各給付金の給付対象とされているところ、風営法において、風俗営業及び性風俗関連特殊営業(同法2条5項)についてはいずれも善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、営業時間、営業区域等を制限するとされており、さらに年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとされているのであり、風営法上、両者は、規制をしなければ善良の風俗や清浄な風俗環境が害されるなどのおそれがあるものとして位置付けられている点に違いはない(同法1条)。また、立法府としては、性的サービスに関わる本件特殊営業について、許可制の前提となる必要不可欠の水準や、健全化するための遵守事項を提示することは、性という国民の極めてプライベートな事項に関わる営業につき国が公的に水準を定めることになりかねないため、本件特殊営業については届出制という規制手法を選択したと考えることも可能であり、多数意見がいうように、本件特殊営業がその健全化を観念し得ないものと位置付けられていると考えることは相当でない。また、届出制、許可制の違いはあれ、風営法の規制の下で適法に営業を行っている事業者を、本件各給付金の給付の場面で区別することは、本件各給付金の趣旨及び目的と整合しないというほかない。したがって、風営法における本件特殊営業に対する規制手法をもって、本件各取扱いの合理性の根拠とすることはできない。
 ⑵ 次に、多数意見は、本件各取扱いによる区別の合理性の根拠として、本件特殊営業においてその役務を提供する接客従業者の尊厳を害するおそれがあることを否定し難いものであることにも言及する。
 しかし、本件特殊営業については、接客サービスを提供して生計を立てる接客従業者が存在するとともに、当該サービスを求める顧客も存在しており、一定の社会的な需要があることは否定し難いところ、現行法上、本件特殊営業は禁止ではなく規制がされているにとどまり、そこで提供される接客サービスは、人としての尊厳を害するものとして禁止されている「売春」とは異なり(売春防止法1条ないし3条)、法律上接客従業者の尊厳を害するものと位置付けられていないことも考慮すべきである。そして、「接客従業者の尊厳を害するおそれ」には、本件特殊営業において接客従業者が顧客から意に反する身体的な接触や性行為を求められる危険も含まれ得るところ、そのような危険の存在は事業者が接客従業者と顧客との間に入ることで予防できる面があり、このような事業者との適法な契約関係の下で自律的に当該サービスを提供している接客従業者について、当然に当人の尊厳を害するおそれがあるとまでは断じられない。そうすると、多数意見がいう点を踏まえても、本件各給付金の趣旨及び目的に照らせば、適法に本件特殊営業を行う事業者について、公費を支出して事業の継続を支えることは相当であると判断し得るものと考える
 ⑶ そして、本件各取扱いの合理性判断においては、合理性の有無を慎重に検討すべきであることからすると、多数意見がいうような理由により、本件各取扱いの合理性を認めることはできない。
 4 以上に加え、本件各給付金の趣旨及び目的からは、事業の内容によって取扱いを異にすべき理由がないことを考慮すると、本件各給付金の給付対象から本件特殊営業を除くことが合理的であるとする根拠は見当たらないというべきである。したがって、本件各取扱いは、憲法14条1項に違反するものであると考える。
 5 よって、原判決は破棄を免れず、本件特殊営業を行う事業者であることを理由に上告人を本件各給付金の給付対象から除外することはできないことを前提として、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。」

出典:最高裁判所判例集

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当