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【抱き合わせ販売】トヨタモビリティ東京株式会社に対する警告等

2025年07月04日

事案の概要

公正取引委員会は、令和7年4月10日に、トヨタモビリティ東京株式会社(以下「トヨタモビリティ東京」といいます。)に対し、トヨタモビリティ東京が、独占禁止法第19条・不公正な取引方法第10項(抱き合わせ販売)の規定に違反するおそれがある行為を行っていたものとして警告を行いました。

公正取引委員会によれば、トヨタモビリティ東京は、遅くとも令和5年6月頃から令和6年11月頃までの間、トヨタ自動車製の自動車である「アルファード」、「ヴェルファイア」又は「ランドクルーザー」と称する自動車(以下、これらの自動車それぞれを「特定トヨタ車」といいます。)の新車の購入を希望する者(以下「購入希望者」といいます。)に対し、不当に、特定トヨタ車の販売に併せて、以下の行為をさせていた疑いがあるようです。

  • トヨタモビリティ東京が販売するボディコーティングの購入
  • トヨタモビリティ東京が販売するメンテナンスパックの購入
  • トヨタモビリティ東京が指定するトヨタファイナンス株式会社とのクレジット契約の締結
  • トヨタモビリティ東京による購入希望者からの自動車の下取り

出典:【公正取引委員会(令和7年4月10日)トヨタモビリティ東京株式会社に対する警告等について「本件の概要」

 

警告とは

  • 公正取引委員会は、十分か証拠が得られた場合には、排除措置命令等の法的措置を採りますが、法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても、違反するおそれがある行為があるときは、「警告」を行い、その行為を取りやめること等を指示することがあります。
  • これに対して、違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが、違反につながるおそれがある行為があるときには、「注意」を行うことがあります。※1
  • 本件も「警告」にとどまっていますので、何らかの要件該当性について、証拠が足りないものとの判断が前提になっていると考えられます。

※1 公正取引委員会 よくある質問コーナー(独占禁止法)Q27

 

抱き合わせ販売とは

(1)概要

抱き合わせ販売とは、特定の商品役務(以下「主たる商品」といいます。)の供給に合わせて、別の商品役務(以下「従たる商品」といいます。)の供給をあわせる行為をいい、一般指定10項に定められています。

(一般指定10項)
 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。

(2)行為要件

ア.「他の商品」

抱き合わせ販売が成立するため(すなわち、「他の商品」といえるため)には、主たる商品と従たる商品が別個の商品である必要があります。(例えば、靴については、通常右足と左足の2つがセットで販売されており、片方のみで販売されることはありませんので、右足と左足は別個の商品とはいえず、右足と左足の靴をセットで販売することは抱き合わせ販売にはあたりません。)

本件では、トヨタモビリティ東京が販売する特定トヨタ車が主たる商品であり、上記の①から④で記載されているボディコーティング等の各商品が従たる商品であると考えられるところ、これらは通常市場でも別々の商品として取引が行われていますので、別個の商品であり、「他の商品」の要件を満たすと考えられます。

イ.「購入させ」

公取委のガイドラインである「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通GL」といいます。)では、『「購入させること」に当たるか否かは、ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるか否かによって判断される」』とされています。

本件は、警告事案であり、公取委の詳細な事実認定がありませんので、公取委が本要件についてどのような事実を基礎にしてどのように考えたのかは明らかではありませんが、公取委の説明資料(上記図)では、「他のサービスを利用したいのに……」とのコメントがあり、購入希望者が他社の商品を購入したいのに購入できないような状態になっていることをうかがわせるような記載がありますので、本要件を満たしていると判断した可能性があります。

(3)効果要件(「不当に」)

ア.概要

抱き合わせ販売の公正競争阻害性には、①自由競争減殺効果が認められる場合と②競争手段の不公正さが認められる場合が存在します。

①自由競争減殺効果については、流通GLでは、「ある商品(主たる商品)の市場における有力な事業者が、取引の相手方に対し、当該商品の供給に併せて他の商品(従たる商品)を購入させることによって、従たる商品の市場において市場閉鎖効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる」としています。

他方で、②競争手段の不公正さについては、近時は、不要品を押し付ける点に着目して規制するという観点(不要品強要型)から検討を行うべきとする有力な見解があります。※2

※2 白石忠志『独占禁止法(第4版)』432頁

イ.本件における公正競争阻害性

①自由競争減殺効果については、本件では、本行為が従たる市場においてどのような影響を及ぼすかの認定はなく、この点については公取委の考え方は明らかではありません。例えば、トヨタモビリティ東京の特定トヨタ車の主たる商品市場におけるシェアが著しく大きく、従たる市場における顧客のほとんどが主たる商品とあわせてトヨタモビリティ東京の従たる商品を購入することにより、従たる商品市場におけるトヨタモビリティ東京の競争者が市場から排除される可能性が認められるのであれば、①自由競争減殺効果が認められる余地はあります。

他方で、公取委の説明資料(上記図)をみると、「こんなサービスいらないのに」との記載があり、公取委は本件を②の不要品強要型と整理した可能性もあります。

 

最後に

近時、抱き合わせ販売については、ASP Japanに対する排除措置命令(令和6年7月26日)やシスメックス株式会社に対する確約認定事件(令和7年2月13日)等、公正取引委員会による法執行が積極的に行われています。

抱き合わせ販売は、司法試験でも多数出題されており、非常に重要な分野ですので、これを機に受験生の皆様も復習をされるといいのではないかと考えます。

 

執筆者

加藤 駿征

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

立命館大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了
総合5位・経済法1位で司法試験合格
ニューヨーク州司法試験合格
大手企業法務系事務所に勤務する実務家弁護士
経済法講座を担当