加藤ゼミナールについて

【倒産法重要判例】再生計画案に賛成する旨の条項を含む和解契約と再生計画不認可事由

2025年07月05日

1. はじめに

今回は、最二小決定令和3年12月22日(以下、「令和3年決定」といいます。)を扱います。

令和3年決定は、「再生計画案に賛成する旨の条項を含む和解契約と民事再生法174条2項3号所定の再生計画不認可事由」について判断を示したものであり、重要判例である最一小判平成20年3月13日判決(百選93事件)とも関連し、また、令和7年度司法試験考査委員を務める杉本純子教授が解説をしているので、押さえておくべき判例と考えます。

2の事案の概要はどうしても長くなってしまったので、時間がない方は判旨と「3. 解説」の箇所を読んでいただければと存じます(時間がある方でも、判旨と「3. 解説」の部分を確認すれば十分アドバンテージをとれると思います。)。

2. 最二小決定令和3年12月22日

<事案の概要>
1.令和元年8月27日、病院を経営する医療法人Yにつき、再生手続開始決定がなされる(以下、「Yの再生手続」という。)とともに管理命令がなされ、A弁護士が管財人に選任された(以下、「本件管財人」という。)。
2.Xは、Y及び医療法人Zとの間で、医療機器等をYないしZに転売する取引を行っていた。そして、XとYとの間では、上記取引に関し、平成30年6月21日付けで、YがXに対する売買代金等5億7770万円余及び遅延損害金の債務につき支払義務を負うこと並びにYがZの連帯保証人としてZのXに対する売買代金等4億2200万円余及び遅延損害金の債務につき支払義務を負うことを認める旨などが記載された執行認諾文言付きの債務承認債務弁済契約等公正証書(以下、「本件公正証書」という。)が作成されていた。
3.Xは、Yの再生手続において、本件公正証書記載の債権のうち売掛金債権5億2027万円余及び遅延損害金債権7198万円余並びに連帯保証債権4億740万円余及び遅延損害金債権8149万円余につき、執行力ある債務名義のあるものとして債権届出をした(以下、「本件届出債権」という。)。
4.Xは、令和元年7月24日に、再生手続開始決定を受けていた(以下、「Xの再生手続」という。)。本件管財人は、Xの再生手続において、YのXに対する21億円余の不当利得返還請求権につき債権届出をし、Xがその全額を否認したことから、同年11月20日にYの再生手続における再生裁判所の許可を得た上、上記の届出債権(以下、「Y届出債権」という。)の額を11億7541万円余と査定することを求める申立て(以下、「本件査定申立て」という。)をした。
 また、本件管財人は、Yの再生手続の債権調査において、本件届出債権につき、その全額を否認し、令和2年1月14日にYの再生手続における再生裁判所の許可を得た上、本件公正証書の執行力の排除を求める請求異議の訴え(以下、「本件請求異議訴訟」という。)を提起した。
5.本件管財人は、XとY及びZとの間の上記2.の取引の中には売買契約等の目的物の納入を伴わない架空のものが含まれており、架空取引に係る契約は不存在又は無効であるから、本件届出債権はその全額が存在しないこととなる一方、YはXに対して支払った売買代金等につき不当利得返還請求権を有することとなるなどと主張して本件請求異議訴訟の提起及び本件査定申立てをしたものであった。もっとも、本件管財人において、本件公正証書の作成等に関与したYの元理事らから上記の主張を裏付けるための協力は得られておらず、YからXに対する支払と各売買契約等との対応関係も明らかになっていなかった。
6.本件管財人は、同年3月31日、Yの再生手続における再生裁判所に再生計画案(以下、「本件再生計画案」といい、本件再生計画案に係る再生計画を「本件再生計画」という。)を提出し、同年4月17日、本件再生計画案を決議に付する旨の決定がなされた。
7.本件管財人は、同年6月23日、Yの再生手続における再生裁判所の許可を得た上で、Xとの間で、要旨次のとおりの和解契約(以下、「本件和解契約」という。)を締結した。
 ①本件管財人は、同年7月3日までに、本件査定申立て及び本件請求異議訴訟を取り下げる。
 本件管財人が上記の取下げをした場合、Xは、同月7日までに本件再生計画案に賛成票を投ずる。
 ③Xは、本件再生計画の認可の決定が確定したときは、Yに対し、本件査定申立てに関する解決金として640万800円を支払う。
 ④Xと本件管財人は、本件再生計画の定めによる権利変更後に本件届出債権につきYがXに対して弁済すべき額が640万800円となることを確認し、本件再生計画の認可の決定が確定したときは、上記権利変更後の本件届出債権と上記ウの解決金債権とを対当額で相殺する。
 ⑤Xと本件管財人は、XとYとの間に、本件和解契約で定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
8.その後、本件管財人は、本件和解契約に従い本件査定申立て及び本件請求異議訴訟を取り下げた。
9.Xは、本件和解契約に従い本件再生計画案に賛成票を投じ、上記債権者集会において、本件再生計画案は、議決権者の議決権の総額の約61%の議決権を有する者の同意を得て可決された。Xは、上記総額のうち約20%の議決権を有していた。
10.このような経緯によってなされた再生計画認可決定に対し、再生債権者Bらは以下のとおり主張して即時抗告を申し立てた。すなわち、本件和解契約の締結は、Xに対して不正な利益を供与するものであり、本件再生計画案の可決は信義則に反する行為に基づいてされたものであるから、民事再生法174条2項3号に該当するとの主張をした。
 原審は抗告を棄却したところ、Bらから許可抗告の申立てがなされた。

<判旨>
 「本件和解契約によれば、Yは、本件再生計画の認可の決定が確定したときは、Xに対する640万円余の解決金債権を新たに取得し、これとの相殺により権利変更後の本件届出債権の全額を消滅させることができることとなる。本件和解契約締結当時、本件届出債権の存在等を裏付けるものとしてXとYの双方が弁護士を代理人に選任して作成された本件公正証書が存在する一方、本件管財人は本件届出債権の不存在及びY届出債権の存在を裏付ける確たる証拠を有しているとはいい難い状況にあった上、Xにつき再生手続が開始されており、仮にY届出債権の存在が確定したとしても通常はその少なからぬ部分につき回収不能となることが見込まれたものであり、Yの再生手続の進行状況等をも考慮すれば、本件和解契約の締結は、Xに一方的に有利なものではなく、Yにとっても合理性があるものであったということができる。そして、以上のような本件和解契約の内容Yの置かれていた客観的状況に加え、本件和解契約の締結の経緯等にも照らせば、本件和解契約が専らXの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたとまではいえない。これらの事情に照らせば、本件和解契約の締結が、Xに対して不正な利益を供与するものであるとも信義則に反する行為に当たるとも断じ難いというべきであって、本件の事実関係の下において、本件再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえない。したがって、上記決議について法174条2項3号に該当する事由はないとした原審の判断は、結論において是認し得る。」(下線及びマークは筆者による。下線部分は重判に掲載されている部分です。)


3. 解 説

(1)問題の所在

事案の概要「7.」の和解条項②のように再生計画案に対する賛成を和解条項に含む和解契約が再生債権者及び再生債務者間で締結され、これに基づき再生債権者が賛成票を投じたことによって再生計画案が可決された場合、当該再生計画案の決議が「決議が不正の方法によって成立するに至った」(民事再生法174条2項3号)といえるかが問題となります。

ですので、試験の問題文の事実関係が、㋐再生債権者と再生債務者が双方とも債権を持っている、㋑再生債権者と再生債務者との間で和解契約が締結された、㋒当該和解契約の条項には、再生債権者が再生計画案に賛成することを内容とする条項が含まれていた、㋓当該和解契約に基づき、再生債権者が再生計画案に同意した、という事実関係になっている場合には、本決定の理解が問われているのではないか、と疑っていくことになるかと思います。

(2)「不正の方法」に関する基礎知識

以下、不正の方法に関する論証を示します。最一小判平成20年3月13日判決(百選93事件)を基にした論証です。

<論証>
 相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること。民再174条の趣旨は、再生計画が民再1条の目的を達成するに適しているかどうかを、裁判所に改めて審査させ、その際、後見的な見地から少数債権者の保護を図り、ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとする点にある。
 そこで、「不正の方法」(民再174条2項3号)には、議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫または不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれると解する。

本件では、特に、本件和解契約の締結が上記“不正な利益の供与“又は“信義則に反する行為“に当たるのではないかが問題となりました。

百選93事件及び百選94事件はもっぱら“信義則に反する行為“との関係を問題視していたのに対して、令和3年決定は、“信義則に反する行為“との関係のみならず、“不正な利益の供与“との関係も問題視している点が1つポイントです。

(3)令和3年決定の使い方

ア.規範・抽象論

令和3年決定では、明示されていないものの、上記(2)に記載の「『不正の方法』(民再174条2項3号)には、議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫または不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれると解する」が規範・抽象論として用いられていると考えて結構です。

イ.当てはめ・具体論

本決定では、まず、「Yの再生手続の進行状況等をも考慮すれば、本件和解契約の締結は、Xに一方的に有利なものではなく、Yにとっても合理性があるものであったということができる」としています。そして、「以上のような本件和解契約の内容、Yの置かれていた客観的状況に加え、本件和解契約の締結の経緯等にも照らせば、本件和解契約が専らXの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたとまではいえない」とし、「本件和解契約の締結が、Xに対して不正な利益を供与するものであるとも信義則に反する行為に当たるとも断じ難いというべきであって、本件の事実関係の下において、本件再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとまではいえない」と結論づけています。

ポイントは、「本件和解契約が専らXの議決権行使に影響を及ぼす意図で締結された」とは評価できないと判断された点です。

※ 試験の事実関係によっては、和解契約が専ら再生債権者の議決権行使に影響を及ぼす意図で締結されたと評価できる場合があり得ます。この場合には、令和3年決定の射程が及ばず、再生債権者に対して不正な利益を供与するものといえ(信義則との関係を問題視するのでも可)、「不正の方法」が用いられたといえる、と結論付けていくことになります。
 令和3年決定の事実関係との違いを意識して問題文を分析し、答案に反映させることができれば上位合格答案となるものと思われます。

ウ.令和3年決定に対する評釈

令和3年決定に対して、山本和彦教授は厳しく批判しております。興味がある方は、山本和彦「再生計画案に対する賛成を条件とする和解と不正な利益供与」NBL1217号(2022.5.1)4頁をご参照ください(受験との関係では、ここまで読み込むことは不要であることを付言しておきます。)。

 

執筆者

深澤 直人

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(主席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当