加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
憲法は、短答式で最も点数が安定しない科目です。
平成24年司法試験では、受験者8,387人のうち943人が公法系科目で足切りになりました。
私が受験生だった頃は、司法試験の短答式は7科目あり、平成26年司法試験では、憲民刑の合計点は152点/175点(46‐60‐46)でした。おそらく、上三法だけの点数であれば、受験生全体の上位1%以内に入っています。
もっとも、私は短答試験が得意だったわけではありません。論文知識は正確に記憶することができましたが、細かい短答知識を丸暗記するのは、そこまで得意ではありませんでした。だからこそ、憲法・刑法の得点率は9割を超えている一方で、知識重視の民法では8割しか取れていません。さらに、細かい知識が重点的に問われる下四法では、118点/175点(得点率67%)しか得点できておらず、7科目の合計点は270点/350点(612位)であり、論文試験の成績にだいぶ劣ります。
短答式の点数はさほど高くないのは、もともと短答対策には力を入れていなかったということもありますが、それでも憲法で46点も取れているのは、解き方のコツを知っていたからです。
短答式の問題には、知識重視の問題と読解思考重視の問題があり、憲法では読解思考重視の問題が多いです。
読解思考重視の問題は、「判例知識だけでも解けるが、判例知識がなくても読解思考で解けるもの」と、「判例知識だけでは解くことができず、読解思考で解かざるを得ないもの」があります。
短答式憲法が苦手な人は、全ての問題を、知識だけで解こうとしている傾向にあります。問題ごとに、脳内検索をかけて、知識と選択肢を形式的に比較して解こうとしているわけです。
しかし、この方法だと、問われている判例知識を知らない又は曖昧であるという場合に、「判例知識だけでも解けるが、判例知識がなくても読解思考で解ける問題」を解くことができませんし、「判例知識だけでは解くことができず、読解思考で解かざるを得ない問題」も解くことができません。
読解思考重視の問題については、解き方のコツがあります。これを身に付けると、憲法の点数が一気に安定します。
以下では、過去問を使って、読解思考のコツを紹介します。
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<判例知識だけでも解けるが、判例知識がなくても読解思考で解ける問題>
令和2年司法試験公法系第1問(配点:3)
外国人の人権に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.国は、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくすることができる。
b.外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。
イ.a.憲法第93条第2項の「住民」と、憲法第15条第1項の「国民」とは統一的に理解されるべきであり、憲法第93条第2項の「住民」は、日本「国民」であることがその前提となっている。
b.地方公共団体の政治・行政は、国の政治・行政と互いに関連しており、地方公共団体が国の事務を処理することもある。
ウ.a.憲法第22条第2項は、「何人も」との文言を用いているため、国籍離脱の自由は、我が国に在留する外国人にもその保障が及ぶ。
b.憲法による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ。
読解思考重視の問題のうち、「bの見解がaの見解の根拠となっているか」を問う見解問題については、「aの見解:判例の結論 bの見解:判例の理由」という関係の成否が問われているものであれば、判例の結論・理由に関する知識だけで解くことも可能です。
肢ア、肢イについては、「aの見解」が判例の結論であるため、判例の理由を記憶していれば、判例知識だけで正誤を判断することができます。
もっとも、判例が元ネタになっている見解問題の全てについて、判例知識だけで対応しようとすると、記憶の負担がかなり大きくなりますし、解答の手段が判例知識に限定されるため正誤判断が安定しません。
また、肢ウについては、直接の根拠となる判例がないため、読解思考で解かざるを得ません。
肢ア.bの見解がaの見解の根拠となっている
マクリーン事件判決(最大判昭53.10.4)は、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。」として見解bと同様のことを述べた上で、「すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」として見解aと同様の結論を導いています。したがって、マクリーン事件判決の上記要旨を根拠として、「bの見解がaの見解の根拠となっている」と判断することができます。
もっとも、上記要旨を知らなくても、解答することができます。「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。」とする見解bは、そこで「すぎない」という消極的な表現が用いられていることから、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障」について控え目な見解であるといえます。保障について控え目に理解するからこそ、「国は、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくすることができる」わけです。このような読解思考により、「見解bが見解aの根拠となっている」と判断することができます。
肢イ.bの見解がaの見解の根拠となっている
外国人の地方参政権が問題となった事案に関する最高裁平成7年判決(最三小判平7.2.28)は、「前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると…」という理由から、「憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であ…る」という見解aと同様の結論を導いています。本判決の理由のうち「地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであること」は、「地方公共団体の政治・行政は、国の政治・行政と互いに関連しており、地方公共団体が国の事務を処理することもある。」という見解bの内容を根拠とするものです。したがって、本判決の上記要旨を根拠として、「bの見解がaの見解の根拠となっている」と判断することができます。
もっとも、上記要旨を知らなくても、解答することができる。「地方公共団体の政治・行政は、国の政治・行政と互いに関連しており、地方公共団体が国の事務を処理することもある。」という見解bからは、「地方公共団体が国の事務を処理することもある」のだから地方公共団体の政治・行政を民主的に決定する主体である「住民」と国の政治・行政を民主的に決定する主体である「国民」とは統一的に理解されるべきであると考えるのが自然です。このような読解思考により、「見解bが見解aの根拠となっている」と判断することができます。
肢ウ.bの見解がaの見解の根拠となっていない
不法出国・密輸事件判決(最大判S32.12.25)は、「憲法22条2項は「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定しており、ここにいう外国移住の自由は、その権利の性質上外国人に限って保障しないという理由はない。」として、外国人にも外国移住の自由が保障されることを肯定しています。本判決は、憲法22条2項の「何人も」という文言に着目しているように見えますが、最後には「その権利の性質上外国人に限って保障しないという理由はない」と述べることで権利の性質に着目しているため、権利の性質を根拠として外国人にも外国移住の自由が保障されることを肯定したと理解されることになります。したがって、権利性質説に立っている見解bは本判決の根拠となります。
もっとも、見解aは、「憲法第22条第2項は、「何人も」との文言を用いているため、国籍離脱の自由は、我が国に在留する外国人にもその保障が及ぶ。」として、文言に着目する見解であり、本判決の立場とは異なります。したがって、見解bは見解aの根拠となりません。
肢ウでは、見解aの結論部分が本判決と整合するため、判断知識だけで解こうとすると、「見解bは本判決の結論と整合する見解aの根拠となっている」と考えてしまい、判断を誤ってしまう。こうした事態を避けるためにも、判例知識だけで解こうとするのではなく、読解思考重視で解いたほうがいいです。
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<判例知識だけでは解くことができず、読解思考で解かざるを得ないもの>
令和2年司法試験公法系第6問(配点:3)
知る権利に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
ア.a.マス・メディアの報道に対して反論記事の掲載等を求める権利は、憲法第21条第1項が保障する表現の自由に含まれる知る権利の一局面であり、同項を直接の根拠として認められる。
b.インターネットの普及によって双方向的な情報流通が可能となり、誰もが自ら情報の発信者となることが容易になった。
イ.a.日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に受信契約の締結を強制する放送法の規定は、憲法第21条第1項の保障する情報摂取の自由を制限するものであり、その合憲性は厳格に審査される必要がある。
b.国民の知る権利を実現するためにいかなる放送制度を採用するかは立法裁量の問題である。
ウ.a.児童買春その他の犯罪から児童を保護すること等の目的のため、電子掲示板の運営者に届出義務を課した上、一定の書き込みに関する削除義務を課すことは、憲法第21条第1項に違反する。
b.インターネット上において表現の場を提供する行為は知る権利に資するものとして、憲法第21条第1項の保障を受ける。
肢アはアクセス権が問題になったサンケイ新聞事件(最二小判昭62.4.24)、肢イはNHK受信料制度の合憲性が問題となった事件(最大判H29.12.6)、肢ウはインターネット異性紹介事業届出事件(最一小判平26.1.16)に関するものです。
もっとも、ア・イ・ウと各判例は、事案や論点が共通しているだけであり、見解aにおいて判例と同じ結論が示されているわけではありませんから、判例知識だけで解くことはできません。
そこで、第6問については、最低限の法律知識を前提とした読解思考により解くことになります。
肢ア.bの見解がaの見解の根拠となっていない
「インターネットの普及によって双方向的な情報流通が可能となり、誰もが自ら情報の発信者となることが容易になった。」とする見解bからは、マス・メディアの報道に対してインターネットを使って自分で反論すればいいから「マス・メディアの報道に対して反論記事の掲載等を求める権利」(アクセス権)を認める必要はないという帰結になります。
したがって、見解bは、アクセス権を認める見解aとの根拠となっていません。
肢イ.bの見解がaの見解の根拠となっていない
違憲審査基準の厳格度は、①権利の性質と②制限の態様を基本的な考慮要素としつつ、場合によっては③立法裁量を尊重すべき例外的事情の有無も考慮することにより判断されます。違憲審査基準の厳格度と立法裁量を尊重すべき要請とは逆相関の関係にあり、違憲審査基準の厳格度は、①~③により立法裁量を尊重すべき要請の有無・程度を明らかにする形で決せられます。
「国民の知る権利を実現するためにいかなる放送制度を採用するかは立法裁量の問題である。」とする見解bは、③立法裁量の存在を強調することで違憲審査基準の厳格度を下げることを内容とするものであるため、「合憲性は厳格に審査される必要がある。」とする見解aと矛盾します。
したがって、見解bは、見解aとの根拠となっていません。
肢ウ.bの見解がaの見解の根拠となっている
憲法21条1項は「保障→制約→制約の正当化」という三段階審査論が妥当する条文であるから、憲法21条1項に違反するというためには、「保障→制約→制約の正当化なし」という3段階の審査を全てクリアする必要があります。したがって、見解aを導くためには、その前提として、侵害の有無が問題となっている「インターネット上において表現の場を提供する」自由が憲法21条1項によって保障されている必要があります。
よって、「インターネット上において表現の場を提供する行為は知る権利に資するものとして、憲法第21条第1項の保障を受ける。」とする見解bは、憲法21条1項による保障を必要条件とする「…略…憲法第21条第1項に違反する。」とする見解aの根拠となっているといえます。
以下の動画では、令和2年司法試験短答式の憲法の問題を使って、読解思考重視の問題における解き方のコツを丁寧に解説しています。
短答式憲法の点数が安定しない方には、この動画を通じて、正しい解き方を身に付けていただきたいと思います。
<短答式憲法の正しい解き方 第1回>
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<短答式憲法の正しい解き方 第2回>