加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
司法試験の刑法論文では、大問又は設問の中に小問が設置されることがあります。
この場合、大問又は設問で全体としてどこまでのことが問われているのか、小問だけに解答すればいいのかについて、正しく把握する必要があります。
参考までに、以下の3つの問題を取り上げて、問題文の読み方について解説いたします。
平成19年司法試験 刑事系第1問
大問では、本文において、「甲及び乙の罪責について論じなさい。」とあり、ただし書きおいて、「ただし、論述に当たっては、後記の小問1及び2に対する解答を必ず含めること。」とあります。
両者を比較すると、本問では、当該事例における「甲及び乙の罪責」全般が問われており、「小問1及び2」は、「甲及び乙の罪責」について論じる際に必ず言及しなければならない事項として、誘導されているにすぎない、という読み方になります。
したがって、本問で論じるべきことは、「小問1及び2」に限られません。ヒアリングでも、その旨が指摘されています。
” 小問提示方式を採用することにより、具体的な論述が促され、そのために結論 に至る思考過程を適切に評価することができ、その中で勉強の成果の表れを見て取るこ とができたという評価をされた考査委員の方もいた。この意味で、小問提示方式を採用 したことは 出題形式に関する一つの試みとしては積極的に評価し得るように思われる 、 。 ただし、誠に残念であったのは、出題者の意図に反して、問題文を読み違えて、求め られた罪責の全体に対してではなく、小問1と2に対してだけ解答した答案が相当数あ ったことである。出題者としては、普通に問題文を読めば誤解の余地は全くないと考え て出題したものであり、問題文を十分に読まずに解答した答案があったことは、問題文 自体に誤読の可能性が全くなかったものであっただけに、繰り返しになるが残念なこと であった。出題者としても、今後とも、出題形式については更に様々な工夫を重ねてい きたいと考えているが、受験者の方々にも、試験という緊迫した状況の中ではあるもの の、問われていることを正確に理解することが、解答に当たってのいわば基本中の基本 であるだけに、思い込みに引きずられることなく、文章を落ち着いて正確に読むという 当然のことを改めて求めたいと思う。”(平成19年司法試験刑事系第1問 ヒアリング)
令和2年司法試験 刑事系第1問 設問1
本問では、「以下の①及び②の双方に言及した上で、【事例1】における甲のBに対する罪責について、論じなさい」とあることから、平成19年と同様、「【事例1】における甲のBに対する罪責」全般が問われており、「①及び②」は、「【事例1】における甲のBに対する罪責」について論じる際に必ず言及しなければならない事項として、誘導されているにすぎない、という読み方になります。
したがって、本問で論じるべきことは、「①及び②」に限られません。採点実験でも、その旨が指摘されています。
” 出題の趣旨でも示したように、設問1では、事例1における甲の罪責について、甲に成立する1項恐喝罪又は2項恐喝罪いずれかの被害額が、①600万円になるとの立場及び②100万円になるとの立場双方からの説明に言及しつつ、最終的に自説としてどのような構成でいかなる結論を採るのかを根拠とともに論じる必要があった。したがって、上記①及び②を小問形式と捉えて、それぞれの理論構成を別個に示したにとどまり、いかなる結論がいかなる理由で妥当であるのか、自説を論じていない答案は、低い評価にとどまった。”(令和2年司法試験刑事系第1問 採点実感)
令和6年司法試験 刑事系第1問 設問2(2)
本問は、平成19年や令和2年に比べて、問題文の読み方が難しいです。以下では、小問(2)の読み方を取り上げます。
小問(2)では、「⑵ 丙に正当防衛が成立することを前提に、甲及び丁の罪責を論じなさい。」とあるため、①②は、(2)で問われていることの全てではなく、甲及び丁の罪責を論じる際、必ず言及するべき事項として指示されているにとどまるようにも思えます。
しかし、設問2では、より大きな問いとして、「甲、丙及び丁の罪責に関し、以下の⑴及び⑵について、答えなさい。」とあります。ここが、平成19年や令和2年との違いです。
その上で、設問2の小問(2)では、①②の論述に当たっては、ア・イについて「も」言及するようにとの指示があります。
「丙に正当防衛が成立することを前提に、甲及び丁の罪責を論じなさい。その際 ① ② について言及しなさい。」という部分では、①②について「も」とは書かれていない一方で、「なお、これらの論述に当たっては ア イ についても…」という部分では、アイについて「も」と書かれています。
両者の比較からも、設問2の(2)では、
という整理になります。
” 本問は、…設問2において
⑴ 丙が甲からCを殴るように言われてCの顔面を拳で1回殴った行為(以下「1回目殴打」という。)及び丁からの言葉を聞いて発奮してCの顔面を拳で1回殴った行為(以下「2回目殴打」という。)について、丙に正当防衛が成立することを論じることを求め、
⑵ 丙に正当防衛が成立することを前提に
① 丙による2回目殴打について丁に暴行罪の幇助犯が成立するか
② 甲に暴行罪の共同正犯が成立するか
について言及し、これらの論述に当たって
ア 誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか
イ 違法性の判断が共犯者間で異なることがあるか
についても、その結論及び論拠に言及し、①及び②における説明相互の整合性についても触れることを求めている。
これらにより、刑事実体法の知識と理解を問うとともに、具体的な事実関係を分析し、その事実に法規範を適用する能力及び論理的思考力を問うものである。”(令和2年司法試験刑事系第1問 出題の趣旨)