加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
経営・管理ビザとは、「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」を行うための在留資格(ビザ)を意味します(出入国管理及び難民認定法 別表第一の二)。
現在、経営・管理ビザの要件は、ざっくりいうと、①「申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること」と、②「その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員が従事して営まれるものであること」又は「資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること」の2点です(同法7条1項2号の基準を定める省令)。
<現在の要件>
この要件が、2025年10月中旬頃から、大幅に厳格化される予定です。
厳格化の目的については、経営・管理ビザの悪用(外国人が経営実態のないペーパーカンパニーを設立して日本に滞在するなど)を防止することと、要件を厳格化することでより質の高い起業家を誘致することが挙げられています。
<改正後の要件>
厳格化される点は、次の通りです。
経理・管理ビザに関する主要な憲法上の問題点は、①外国人の平等権(憲法14条1項)と②外国人の職業選択の自由(憲法22条1項)です。論文試験で出題された場合において、①と②の双方を論じるべきか、いずれか一方を論じるべきかは、問題文のヒントや設問の指示によって決まると思われます。
①外国人の平等権と②外国人の職業選択の自由のいずれについても、違憲審査基準を定立して目的手段審査を行うという点では共通しており、その際、②の構成では、薬事法事件判決(最大判昭和50年4月30日)を参考にしながら論じることになります。
“ 職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であつて、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。
…職業の自由に対して加えられる…規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、…具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである。しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであつて、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。”(薬事法事件)
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“ 判例への言及に関し、薬事法事件判決について言及している答案も、その大半は、いわゆる規制目的二分論の文脈で同判決に触れるのみであり、同判決が判断枠組みの構築に際し、その二分論(消極目的規制)に触れる前提として、下記のように出発点において立法裁量論や目的審査(公共の福祉に合致)、手段審査(必要性・合理性)の一般論に言及していたことや、許可制という規制の態様に言及していたことについて全く言及がない答案が多数に上っており、そうした答案は、重要基本判例についての知識・理解に難があるものとして評価できなかった。同判決は、職業への規制に際して必要となる衡量判断が「第一次的には立法府の権限と責務」であり「規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性」については立法裁量に委ねられるとしつつ、「許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要」する、としている。もとより判例とは異なる見解を採用すること自体は差し支えないが、その場合でも、判例法理に明示的に言及し、その問題点を指摘した上で立論を構築することが求められる。”(令和6年司法試験・採点実感)
もっとも、経営・管理ビザについては、入管法で定められた外国人の出入国及び在留に関することであるという特殊性があります。すなわち、外国人の出入国及び在留に関する事柄であるため、より一層、国側の裁量が強調されることになり、違憲審査の厳格度が下がることになるのではないかという問題意識が生じるわけです。
マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日)は、法令違憲審査においてではなく、法務大臣の在留更新事由の有無の判断においてではあるものの、広範な裁量を認めています。
“ 右のように出入国管理令が原則として一定の期間を限つて外国人のわが国への上陸及び在留を許しその期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される。…出入国管理令21条3項に基づく法務大臣の「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断の場合…、右判断に関する前述の法務大臣の裁量権の性質にかんがみ、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつたものとして違法となるものというべきである。
…(中略)…
思うに、憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。しかしながら、前述のように、外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがつて、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であつて、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしやくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとつて好ましいものとはいえないと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、右行為が上記のような意味において憲法の保障を受けるものであるからといつてなんら妨げられるものではない。”(マクリーン事件)
仮に経営・管理ビザに関する憲法上の問題が出題された場合には、マクリーン事件判決の上記判旨の射程を意識した論述をすることが求められると考えられます。
なお、本判決の射程は、平成29年司法試験で、外国人労働者の受入れに関する法律(本邦滞在中の妊娠・出産を禁止して強制収容・出国事由としている。)との関係で出題されています。
“ 外国人の人権享有主体性について全く触れない答案が散見された。マクリーン事件判決を意識したものも、マクリーン事件判決について、単純に権利性質説を説いた部分しか参照できていない答案が多かった。出題の趣旨に示したとおり、本問では、単純な権利性質説の論述では不十分であり、マクリーン事件判決の「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない。」「在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」という論理とどのように向き合うのかということが問われている。このことが意識されない答案が予想したより多かったことは遺憾であった。もっとも、この点が意識され、自分なりに論じられている答案は高く評価することができた。”(平成29年司法試験・採点実感)
外国人の出入国及び在留に関する問題は、近年、様々な形で活発に議論され、国や地方公共団体が施策を検討している事柄ですから、司法試験でも予備試験でも出題される可能性の高いテーマの一つであるといえます。
千代田区で検討されているマンション転売規制など、外国人を対象とするヘイトスピーチに関する問題などと併せて、論文試験で出題された場合における論述のイメージは持っておきましょう。