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刑事訴訟法102条2項の意義

2025年10月09日

1.刑事訴訟法102条の意義

今回のコラムでは、刑事訴訟法102条の意義について取り上げます。

102条は、捜査機関による令状に基づく捜索のみならず逮捕に伴う無令状捜索にも準用される規定であり、司法試験でも複数回出題されていますが、同条の意義を正しく理解できている人は決して多くはありません。

(捜索)
第102条 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
2 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

(押収・捜索・検証に関する準用規定、検証の時刻の制限、被疑者の立会い、身体検査を拒否した者に対する制裁)
第222条 第99条第1項、第100条、第102条から第105条まで、第110条から第112条まで、第114条、第115条及び第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条、第220条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第110条、第111条の2、第112条、第114条、第118条、第129条、第131条及び第137条から第140条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条又は第220条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。
2~7 (略)

 

2.差押目的物が存在する蓋然性

捜索は差押目的物の発見を目的とするものであるため、捜索対象である「場所、身体又は…場所」に差押目的物が存在する蓋然性が認められることが必要です。

102条1項は、「被告人の身体、物又は住居その他の場所」を対象とする捜索について、単に、「裁判所は、必要があるときは、…捜索をすることができる。」と規定するにとどまりますが、捜索対象に差押目的物が存在する蓋然性を不要としているのではなく、「被告人の身体、物又は住居その他の場所」については差押目的物が存在する蓋然性が推定されていることを意味しています。したがって、差押目的物が明らかに存在しないような場合には、上記推定が破れて捜索の「必要」性が否定されることになります。

この意味において、「被告人の身体、物又は住居その他の場所」を対象とする捜索において、差押目的物が存在する蓋然性は、それが存在することが積極要件となるのではなく、それが明らかに存在しないことが消極要件とされているわけです。

これに対し、102条2項は、「被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。」と規定しており、差押目的物が存在する蓋然性が必要であることについて明示的に定めています。

被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所」については、「被告人の身体、物又は住居その他の場所」のように被告人(さらには被告事件)との結びつきが強くはないため、差押目的物が存在する蓋然性が推定されるとはいえないため、差押目的物が存在する蓋然性が積極要件として定められているわけです。

 

3.102条1項と2項を区別する基準

令状に基づく捜索と逮捕に伴う無令状捜索のいずれについても、捜索可能な客観的範囲は、管理権を基準として判断されます。

例えば、「場所」に対する捜索差押許可状に基づいて捜索できる場所的範囲は、当該「場所」と同一の管理権(ここでは「単一の管理」を意味する。)に属する範囲に限られますし、物的的範囲は当該「場所」の管理権が及ぶ物に限られます。また、逮捕に伴う無令状捜索が許容される「逮捕の現場」は、被疑者の身体及び携帯品のほか、逮捕地点を起点として同一の管理権が及ぶ範囲内の場所を意味すると解されています(相当説・合理説)。

これに対し、102条1項と2項を区別する基準となる「被告人の」「被告人以外の」身体、物又は住居その他の場所」における「被告人の」は、管理権ではなく、現実の管理・支配を基準として判断されます。

なぜならば、被告人が管理権を有する「物又は住居その他の場所」であっても、被告人が現実の管理・支配を有していないのであれば、差押目的物が存在する蓋然性が推定されるほど被告事件と強く結び付きのある物・場所であるとはいえないからです(なお、身体については、現実の支配・管理と区別された管理権を観念することはできないから、両者を区別して議論する余地はない。)。

 ”「被告人の物又は住居」等とは、被告人が現実に支配・管理している物または住居等をいう。したがって被告人の所有に属していても、現に他人に賃貸している場合は除かれるし、他人の所有に属していても、現に被告人が所持、保管している物はこれに含まれる。” (「条解 刑事訴訟法」第5版226頁)

したがって、捜査機関が、被疑者Aの住居を「捜索すべき場所」とする捜索差押許可状に基づいて、Aの住居内でAが携帯しているかばんを捜索する場合は、「被疑者の…物」の捜索として、222条1項により102条1項が準用されるため、Aが携帯しているかばんには、差押目的物が存在する蓋然性が推定されます。

これに対し、捜査機関が、Aの住居内でBが携帯しているかばんを捜索しようとする場合は、102条1項2項以前の話として、Aの指示のもとにBがA所有のかばんを携帯していたなどの事情により、Bが携帯しているかばんがAの管理権に属すると認められなければ、Bが携帯しているかばんを捜索することはできません。そうでなければ、Aの住居という「捜索すべき場所」にBが携帯しているかばんという「物」を包摂させることができず、Aの住居を「捜索すべき場所」とする捜索差押許可状の効力がBが携帯しているかばんに及ばないからです。そして、仮にBが携帯しているかばんがAの管理権に属すると認められる場合であっても、このかばんは「被疑者以外の…物」であるため、222条1項により102条2項が準用されるので、かばんの中に差押目的物が存在する蓋然性が積極的に認められることが必要になります。この意味において、Bが携帯するかばんには、Aの管理権に属するのであれば上記捜索差押許可状の効力が及ぶが、差押目的物が存在する蓋然性が積極的に認められるという要件が加重されているわけです。

以上のことは、逮捕に伴う無令状捜索の場合でも同様です。例えば、捜査機関が、被疑者AをAの住居内で逮捕し、無令状でAの住居内を捜索する場合には、「被疑者の…住居」の捜索として、222条1項により102条1項が準用されるため、Aの住居内には差押目的物が存在する蓋然性が推定されます。これに対し、捜査機関が被疑者AをBの住居内で逮捕し、無令状でBの住居内を捜索する場合は、「被疑者以外の…住居」の捜索として、222条1項により102条2項が準用されるため、Bの住居内に差押目的物が存在する蓋然性が積極的に認められることが必要になります。

 

4.102条2項は加重要件である

102条2項は、「被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所」を対象とする捜索について、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」という加重要件を定めている規程であり、捜索可能な範囲を拡張する規定ではありません。

例えば、捜査機関が、Aの住居内でBが携帯しているかばんを捜索しようとする場合は、102条1項2項以前の話として、Aの指示のもとにBがA所有のかばんを携帯していたなどの事情により、Bが携帯しているかばんがAの管理権に属すると認められなければ、Bが携帯しているかばんを捜索することはできません。そうでなければ、Aの住居という「捜索すべき場所」にBが携帯しているかばんという「物」を包摂させることができず、Aの住居を「捜索すべき場所」とする捜索差押許可状の効力がBが携帯しているかばんに及ばないからです。222条1項が準用する102条2項は、Bが携帯しているかばんがAの管理権に属するものであると認められ、捜索差押許可記載の「捜索すべき場所」に包摂されるものとして同許可状の効力が及ぶという場合において、次のステップとして、かばんの中に差押目的物が存在する蓋然性が積極的に認められることを加重要件として必要とする登場するわけです。

 “「場所」に対する捜索差押許可状の効力が「物」に及ぶのかという問題意識を何ら示すことなく、直ちに刑事訴訟法第102条第2項を持ち出して、「ハンドバッグ内に差し押さえるべき覚せい剤等が存在している蓋然性が高いので捜索が許される。」旨論述する答案が相当数見られた。当該令状の効力がハンドバッグにも及ぶかどうかを検討し、効力は及ぶとした上で、更に実際に令状により処分を実施する場面では、同条同項が言わば加重要件として適用されると考え、本事例ではハンドバッグ内に差し押さえるべき証拠が存在する蓋然性が否定されれば捜索は許されないし、蓋然性が認められれば捜索は許される、との考え方は一つの考え方として成立し得るとしても、前記問題意識を持たずに、直ちに同条同項を持ち出して検討している答案は、捜索について正しく理解していないことをうかがわせる。”(平成29年司法試験・採点実感)

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当