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【職業規制の典型論点】狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるか? 

2025年10月19日

狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるか?

司法試験論文式では、職業の自由(憲法22条1項)は頻出分野であり、過去に5回出題されています(H18,H26,H30,R2,R6)。

職業規制が出題された場合に必ずと言っていいほど問題となるのが、「当該規制が職業遂行の自由に対する制約にとどまるのか、それとも狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるのか」という点です。

判例・通説によれば、「職業選択の自由」(憲法22条1項)には職業遂行の自由も含まれると解されているため、当該規制が職業遂行の自由に対する制約に当たるといえさえすれば、職業の自由に対する制約が認められ、制約の正当化が必要となります。にもかかわらず、「狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるのか」という点を問題する実益があるのは、「当該規制が職業遂行の自由に対する制約にとどまるのか、それとも狭義の職業選択の自由に対する制約に当たるのか」という点は、職業の自由に対する制約の態様という形で、違憲審査基準の厳格度に影響を及ぼすからです。

この論点に関する理論構成には2つあります。

1つ目は、薬事法事件判決(最大判昭和50年4月30日)のように、実質的な制約的効果に着目する理論構成です

薬事法事件判決は、薬局の開設等の許可における適正配置規制の憲法22条1項適合性が争われた事案において、「薬局の開設等の許可における適正配置規制は、設置場所の制限にとどまり、開業そのものが許されないこととなるものではない。しかしながら、薬局等を自己の職業として選択し、これを開業するにあたっては、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるから、前記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有するものである。」として、許可制の実質的な制約的効果に着目して「職業選択の自由」に対する制約を肯定しています。

つまり、適正配置規制について、形式的にはどの場所で薬局を営むかという職業遂行の自由に対する制約にとどまるが、実質的には薬局の開業そのものの断念に繋がり得るものとして狭義の職業選択の自由に対する制約に当たると評価しているわけです。

2つ目は、「職業」の単位を小さく捉えることで、1つ目の薬事法事件判決の判例理論を用いるまでもなく、職業選択の自由に対する制約に当たると認める理論構成です

例えば、薬事法事件判決の事案において、「職業」の単位を『薬局を営むこと』と広く捉えるのではなく、『自らの希望する特定の場所で薬局を営むこと』と狭く捉える場合には、適正配置規制は、形式的に見ても、『自らの希望する特定の場所で薬局を営む』という意味での狭義の職業選択の自由に対する制約に当たることになります。

この2つ目の理論構成については、判例では言及されていませんが、平成26年司法試験「憲法」に関する法学セミナーの解説、令和2年司法試験の出題趣旨・採点実感で言及されています。

 ” それはつまりA駅前で薬局を開設することと、B駅前で薬局を開設することというのは、それぞれ別々の職業選択の自由なのか、B駅前で開業できるのであれば、薬局開業の自由そのものは制約されていないというふうに解するかということでしょうか。それについては、職業の単位をどう見るかということによって、あるものは選択自体の規制であったり、あるものが態様規制であったりということだと思います、一つの考え方は、職業の単位をミクロに捉えていくものです。薬事法の例に即していえば、A駅前のこの土地で薬局を開設するということ自体が一つの職業選択であり、他の土地で薬局を開設することができたとしても、そこで開業するという職業選択は侵されているというふうに考えているからこそ、ああいう判決になったんだろうと思います。こういうことを考えれば、本問の自然保護地域でタクシー営業をするというのは、あくまでそれ自体が一つの職業であって、職業選択自体の規制であるという論証は充分も可能だと思います。”(別冊法学セミナーNO.232「司法試験の問題と解説2024」16頁[木村草太])

” 規制①は、バス事業を一つの職業として見た場合、形式的には職業遂行の自由に対する制約にとどまるとも解し得るが、専ら高速路線バスのみを運行してきた乗合バス事業者にとっては、狭義の職業選択の自由に対する制約に等しいとも言える。取り分け、本問においては、生活路線バスへの参入に対して申請者の能力や資質とは無関係の要件が設けられているため、新規参入が事実上、極めて困難であることにも注意しなければならない。”(令和2年司法試験・出題の趣旨)

 

2つの理論構成の関係は?

1つ目の理論構成(実質的な制約的効果に着目した理論構成)と2つ目の理論構成(職業の単位に着目した理論構成)とでは、後者における考え方が先行します。

仮に、職業の単位を小さく捉えた場合には、実質的な制約的効果に着目するまでもなく、狭義の職業選択の自由に対する制約が認められることになるからです。この意味において、1つ目の理論構成は、職業の単位を小さく捉えないことを前提とするものです。薬事法事件判決においても、薬局を開業すること自体が「職業」の単位を成し、どこで薬局等を開業するかということは、自らの希望する場所で薬局等を開業することをも含めて、それ自体は職業遂行の自由を成すにとどまるということを前提にしています。

なお、前掲の木村草太解説は、薬事法事件判決について、自らの希望する場所で薬局を開業すること自体が狭義の職業選択の自由を成すことを認めたかのような説明をしていますが、これは1つ目の理論構成と2つ目の理論構成の関係を正しく整理できていない、不正確なものであるといわざるを得ません。

 

どちらの理論構成を採用するべきか?

論文試験では、1つ目の理論構成(実質的な制約的効果に着目した理論構成)を採用するべきです。

2つ目の理論構成(職業の単位に着目した理論構成)は、判例理論ではないうえに、どのような場合にどこまで「職業」の単位を狭めて良いのかが不明瞭ですから、場合によっては、恣意的に「職業」の単位を狭く捉えた結果、配点の大きい1つ目の理論構成を落とすというリスクもあります。したがって、問題文で特段のヒント・誘導がない限り、1つ目の理論構成で論じるべきです。

なお、1つ目の理論構成では、2つ目の理論構成において「職業」の単位を狭く捉えないことを前提としていますが、1つ目の理論構成を採用する前提として2つ目の理論構成に言及する必要はありません。これをやると、制約に関する論述が多くなりすぎ、答案全体のバランスが悪くなるからです。仮に言及するとしても、数行で簡潔に論じるにとどめるべきです。

 

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当