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【高年齢者雇用安定法】希望者を65歳まで継続雇用することが義務化?

2025年04月08日

1⃣高年齢者雇用安定法上の継続雇用制度についての経過措置の終了

高年齢者雇用安定法は、高齢者の雇用を促進する諸施策を定めている法律です。

同法における最も重要な規定は、事業主が高年齢者雇用確保措置を講じる義務を定める同法9条1項です。

老齢厚生年金の支給開始年齢が満60歳から65歳に段階的に引き上げられたことに伴い、同法では、平成16年の改正により、老齢厚生年金の支給開始までに収入の空白期間が生じないようにするために、65歳までの雇用確保措置が努力義務から法的義務へと強化され、事業主は、①65歳までの定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれかの措置を講じなければならなくなりました(同法9条1項)。

(高年齢者雇用確保措置)
第9条 定年(65歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
 一 当該定年の引上げ
 二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
 三 当該定年の定めの廃止
2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項及び第10条の2第1項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
3 厚生労働大臣は、第1項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
4 第6条第3項及び第4項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。


これらの高年齢者雇用確保措置のうち実際に最も多く取られているのが、②継続雇用制度です。

継続雇用制度とは、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」(同法9条1項2号)をいいます。

継続雇用制度について、当初は、平成24年度までに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができる旨の経過措置が設けられていましたが、その経過措置は令和7年3月31日をもって終了しました。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001244075.pdf

2⃣高年齢者雇用確保措置義務違反の効果

では、事業主が同法9条1項の定める高年齢者雇用確保措置義務に違反し、上記のいずれの高年齢者雇用確保措置を講じなかった場合、どうなるのでしょうか?

この場合、厚生労働大臣は、事業主に対して必要な助言及び指導をすることができ(同法10条1項)、事業主が助言及び指導をしても違反を継続しているときは高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告することができ(同法10条2項)、事業主が勧告にも従わなかったときはその旨を公表することができます(同法10条3項)。

(公表等)
第10条 厚生労働大臣は、前条第1項の規定に違反している事業主に対し、必要な指導及び助言をすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による指導又は助言をした場合において、その事業主がなお前条第1項の規定に違反していると認めるときは、当該事業主に対し、高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告することができる。
3 厚生労働大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。


問題は、同法9条1項について、事業主が労働者を65歳まで継続雇用するなどの私法上の義務を発生させる私法上の効力まで認められるかです。

裁判例はこれについて否定的であり、例えば、大阪高裁判決(大阪高判平成21年11月27日)は、NTT西日本事件において、「高年雇用安定法9条に私法的効力のないことは、原判決…のとおりであり、同法の性格・構造・文理・違反の制裁の規定、法改正の経緯及び立法者の意思、並びに私法的効力の違反の効果が不確定であることからして、控訴人ら主張のような解釈は採用することができず、当該解釈が上記憲法の条項に違反することもなく、したがって、控訴人らが被控訴人の定めた本件制度、あるいはキャリアスタッフ制度の廃止を無効として、継続雇用されるべき地位にあったことを被控訴人に主張することはできないというべきである。」と判示しています。

この立場からは、事業主が総年齢者雇用確保措置義務に違反した場合には、継続雇用の期待的利益の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が認められ得るにとどまります。

もっとも、最高裁には、同法9条1項自体の効果としてではありませんが、事業主が定めた継続雇用制度を前提として、雇止め法理の援用により定年後の継続雇用を認めたものがあります。

最高裁(最一小判平成24年11月29日・津田電気計器事件)は、定年年齢に到達した労働者が客観的には継続雇用基準を満たしていたにもかかわらず、事業主側が同基準を満たしていないとして継続雇用制度に基づく継続雇用を認めなかった事案において、㋐「嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる」ことと、㋑原告につき継続雇用制度に基づく再雇用をすることなく雇用終了とすることに「他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ことを理由に、雇止め法理を援用して、原告と被告事業主との間に「雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であ…る。」(※ここでいう本件規程とは、継続雇用制度を定めている規程を意味する。)と判示しています。

事案:Y社は、60歳定年制を導入しつつも、定年後1年間嘱託雇用の取扱いをしてきており、さらに、平成18年、高年齢者雇用安定法9条1項の継続雇用制度として、労使協定による継続雇用対象者の基準を含んだ高年齢者継続雇用規定(平成24年改正前の同法9条2項)を導入し、本件継続雇用基準では、高年齢者の在職中の業務実態・業務能力につき査定を行い、総点数は0点以上の高年齢者のみを採用することとなっていた。
 Y社の無期契約労働者Xは、平成20年1月19日に60歳となり、嘱託後も、Y社での継続雇用を希望したところ、Y社は、Xの査定等の内容は高年齢者継続雇用規定所定の方法で点数化すると1点となるにもかかわらず、評価方法の誤りにより総点数が0に満たないと判断し、本件継続雇用基準を満たしていないとしてXを雇止めした。

判旨:「Y社は、法9条2項に基づき、本社工場の従業員の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用基準を含むものとして本件規程を定めて従業員に周知したことによって、同条1項2号所定の継続雇用制度を導入したものとみなされるところ、期限の定めのない雇用契約及び定年後の嘱託雇用契約によりY社に雇用されていたXは、在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総点数が1点となり、本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、Xにおいて嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、Y社においてXにつき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、Y社とXとの間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であ…る。」

 

3⃣70歳までの就業機会確保の努力義務

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、高年齢者雇用安定法が改正され、令和3年4月1日施行の改正法では、事業主に70歳までの就業機会確保の努力義務が定められるに至りました(同法10条の2、3)。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001242274.pdf

執筆者

加藤 喬

加藤ゼミナール代表・弁護士

青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当