加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
1⃣高年齢者雇用安定法上の継続雇用制度についての経過措置の終了
高年齢者雇用安定法は、高齢者の雇用を促進する諸施策を定めている法律です。
同法における最も重要な規定は、事業主が高年齢者雇用確保措置を講じる義務を定める同法9条1項です。
老齢厚生年金の支給開始年齢が満60歳から65歳に段階的に引き上げられたことに伴い、同法では、平成16年の改正により、老齢厚生年金の支給開始までに収入の空白期間が生じないようにするために、65歳までの雇用確保措置が努力義務から法的義務へと強化され、事業主は、①65歳までの定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれかの措置を講じなければならなくなりました(同法9条1項)。
.
これらの高年齢者雇用確保措置のうち実際に最も多く取られているのが、②継続雇用制度です。
継続雇用制度とは、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」(同法9条1項2号)をいいます。
継続雇用制度について、当初は、平成24年度までに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができる旨の経過措置が設けられていましたが、その経過措置は令和7年3月31日をもって終了しました。
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001244075.pdf
.
2⃣高年齢者雇用確保措置義務違反の効果
では、事業主が同法9条1項の定める高年齢者雇用確保措置義務に違反し、上記のいずれの高年齢者雇用確保措置を講じなかった場合、どうなるのでしょうか?
この場合、厚生労働大臣は、事業主に対して必要な助言及び指導をすることができ(同法10条1項)、事業主が助言及び指導をしても違反を継続しているときは高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告することができ(同法10条2項)、事業主が勧告にも従わなかったときはその旨を公表することができます(同法10条3項)。
.
問題は、同法9条1項について、事業主が労働者を65歳まで継続雇用するなどの私法上の義務を発生させる私法上の効力まで認められるかです。
裁判例はこれについて否定的であり、例えば、大阪高裁判決(大阪高判平成21年11月27日)は、NTT西日本事件において、「高年雇用安定法9条に私法的効力のないことは、原判決…のとおりであり、同法の性格・構造・文理・違反の制裁の規定、法改正の経緯及び立法者の意思、並びに私法的効力の違反の効果が不確定であることからして、控訴人ら主張のような解釈は採用することができず、当該解釈が上記憲法の条項に違反することもなく、したがって、控訴人らが被控訴人の定めた本件制度、あるいはキャリアスタッフ制度の廃止を無効として、継続雇用されるべき地位にあったことを被控訴人に主張することはできないというべきである。」と判示しています。
この立場からは、事業主が総年齢者雇用確保措置義務に違反した場合には、継続雇用の期待的利益の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が認められ得るにとどまります。
もっとも、最高裁には、同法9条1項自体の効果としてではありませんが、事業主が定めた継続雇用制度を前提として、雇止め法理の援用により定年後の継続雇用を認めたものがあります。
最高裁(最一小判平成24年11月29日・津田電気計器事件)は、定年年齢に到達した労働者が客観的には継続雇用基準を満たしていたにもかかわらず、事業主側が同基準を満たしていないとして継続雇用制度に基づく継続雇用を認めなかった事案において、㋐「嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる」ことと、㋑原告につき継続雇用制度に基づく再雇用をすることなく雇用終了とすることに「他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ことを理由に、雇止め法理を援用して、原告と被告事業主との間に「雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であ…る。」(※ここでいう本件規程とは、継続雇用制度を定めている規程を意味する。)と判示しています。
3⃣70歳までの就業機会確保の努力義務
少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、高年齢者雇用安定法が改正され、令和3年4月1日施行の改正法では、事業主に70歳までの就業機会確保の努力義務が定められるに至りました(同法10条の2、3)。
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001242274.pdf
.