加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
X(旧Twitter)で、あるコンビニエンスストアにおいて、コピー機の近くに「雑誌・新聞など商品を会計前にコピーすることを禁止します。見つけ次第通報します。絶対におやめください。」という旨を記載した張り紙をしており、仮に雑誌・新聞などの商品を会計前にコピーしたら窃盗罪(刑法235条)が成立するのか?、仮に窃盗罪が成立しなくてもコピー目的でコンビニに立ち入ることには建造物侵入罪(刑法130条前段)が成立するのではないか?という点が議論されていたので、私の見解を紹介したいと思います。
以下で紹介する見解はいずれも、判例・通説に従ったものです。
本事例における窃盗罪及び建造物侵入罪の成否に関する検討は、司法試験でも予備試験でも非常に役立つものなので、是非参考にして頂きたいと思います。
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【窃盗罪の成否】
考えうる客体は、①雑誌・新聞などの商品(以下「商品」という)自体、②商品の情報、③商品をコピーした用紙の3つです。
①商品は有体物であり財産的価値もありますから、問題なく「財物」として窃盗罪の客体に当たります。
しかし、店内でコピーするだけですから「窃取」に当たりません。持ち出し目的がないことも考慮すれば「実行に着手」したともいえず、未遂すら成立しません。
なお、会計前の飲食で「窃取」が認められるのは、飲食した時点で返還不可となるからであり、店内コピーのための一時移動を同列に評価することはできません。
②判例・通説は有体物説ですから、商品の情報は「財物」に当たりません。
したがって、商品の情報自体を客体とする窃盗罪は成立しません。
③商品の情報が化体したコピー用紙は、財産的価値のある有体物として「財物」に当たります。
しかし、利用者がコピー代を支払って取得したコピー用紙は、利用者の所有物であり「他人の財物」に当たらないと考えられます。
したがって、商品をコピーした用紙を店外に持ち出しても、自己所有物の持出しにすぎず、窃盗罪は成立しません。
以上の理由から、窃盗罪は成立しません。
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【建造物侵入罪】
コンビニのように一般に公開されている建造物への平穏な立入りであっても、内部で違法行為を行うなどの立入り目的を考慮して、管理権者の意思に反する立入りとして建造物「侵入」に当たると評価されることがあります。
判例・裁判例は、違法な立入り目的を重視しており、例えば、キャッシュカードの暗証番号等の盗撮目的で無人の銀行支店出張所に営業中に立ち入った事案、窃盗目的で店舗に立ち入った事案などにおいて、建造物侵入罪の成立を認めています。
上記の通り、会計前の商品のコピー及びコピー用紙の持出し(以下「会計前の商品のコピー等」という)には窃盗罪は成立しませんが、当該コンビニとしては、張り紙により会計前の商品のコピー等を明示的に禁止している以上、そのような目的に基づく立入りであれば当然許容しないでしょうから、管理権者の意思に反する立入りとして「侵入」に当たります。
また、張り紙等により会計前の商品のコピー等を明示的に禁止しているコンビニは一部にとどまるため、侵入者がそのことを認識していない可能性もありますが、仮にそうであっても、コンビニが会計前の商品のコピー等を許容していないことは社会通念通当然のことであり、張り紙の存在を知らなくても、コンビニが会計前の商品のコピー等を目的とする立入りを許容していないことを未必的に認識していたとして、本罪の故意を認める余地もあります。
上記の評価が可能なのであれば、故意も認められ、建造物侵入罪が成立します。