深澤 直人
加藤ゼミナール専任講師・弁護士
上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(首席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当
1. はじめに
今回は、倒産法初学者の方が間違えがち、悩みがちな概念・条文をいくつか整理していきたいと思います。
具体的には、①支払不能と支払停止の違い、②破産法71条1項の相殺禁止と破産法72条1項の相殺禁止の違いについて整理していきます。
2. 支払不能と支払停止の違いについて
(1)定義の違い
支払不能の定義は大丈夫でしょうか。定義規定は破2条に定められているのでしたね。破産法2条11項を確認してください。
(定義)
第2条
1~10 (略)
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態…をいう。
12~14 (略)
とされています。
これに対して、支払停止の定義はどのようなものでしょうか。この点、支払停止の定義は破産法2条に規定されていませんが、判例(最判昭和60年2月14日(倒産判例百選28①事件))によると、
支払停止とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない旨を明示又は黙示的に外部に表示する行為をいう。
とされています。
違いは定義から明らかなとおり、支払不能は客観的な“状態”であるのに対し、支払停止は債務者の“行為”である点が異なります。このような違いから、当てはめで行っていくべき作業も当然異なってきます。
すなわち、支払不能の当てはめにおいては、債務者がどれくらいの負債を抱えていて、これに対してどれくらいの財産、労務乃至事業利益による収益、信用があるのかを見ていき、そのうえで、これらの財産等では抱えている負債を一般的かつ継続的に弁済することができないかどうかを検討することになります。ここでは、債務者が受任通知を送付したとか、債務者が事業を停止した等の債務者の行為は問題になりません。
これに対して、支払停止の当てはめにおいては、債務者がとある行為をしていて、その行為が上記支払停止の定義に当たるかどうかを検討することになります。具体的には、手形不渡りや受任通知を送ったことが支払停止に当たるかどうかを検討します。
この違いを理解していないと、当てはめが明後日の方向にいってしまう可能性がありますので、正確に理解してください。
(2)支払不能と支払停止の関係
では、支払不能と支払停止はどのような関係にあるのでしょうか。この点は、大丈夫ですかね。破産法では、支払停止がなされた場合には、支払不能であるものと推定する、といった規定が置かれています。試験上、破産法15条2項及び破産法162条3項はマストで押さえておいてください。
これらの推定規定の適用が問題になった場合には、まず、①ある行為が支払停止に当たることを示し、②これにより、支払不能が推定されることを示しましょう。注意が必要なのは、ここで終わらないことです。②の後に、③当該推定を覆す特定の事情あるかどうかを検討し、④(当該推定を覆す特段の事情がなければ)支払不能を“認定”することになります。
この推定と認定の関係は他の科目でも注意が必要ですので、本記事で押さえておきましょう。
3. 破産法71条1項の相殺禁止と破産法72条1項の相殺禁止の違いについて
司法試験倒産法において、相殺権は否認権に次ぐ頻出分野です。そのため、相殺権に関する条文は正確に理解しておく必要があります。
初学者の方がまず躓いてしまう箇所としては、破産法71条1項と破産法72条1項の違いではないでしょうか。破産法71条1項柱書と破産法72条1項柱書を読み比べてみましょう。
破産法71条1項柱書
” 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。”
.
破産法72条1項柱書
” 破産者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。”
これを見て、「あ、主体が違うな」と考えた方もいらっしゃるかと思います。つまり、破産法71条1項の方は「破産債権者」が相殺できないという話をしていて、破産法72条1項の方は「破産者に対して債務を負担する者」による相殺ができないという話をしている、と。だから、これらの規定は異なる主体について定めたものだ、と考えたかもしれません。
これは、半分正解で、半分間違いです。破産法72条1項も、相殺の場面の話です。そのため、この「破産者に対して債務を負担する者」は、破産者に対して債権を有する者、すなわち破産債権者でもあるわけです。そうすると、主体は同じ“破産債権者”ですね。
では、何が違うのか? 以下で説明していきます。
結論から申し上げますと、破産法71条1項は、受働債権に問題がある(債務の負担の仕方に問題がある)ときに適用されます。これに対して、破産法72条1項は、自働債権に問題がある(債権の取得の仕方に問題がある)ときに適用されます。
もしどちらの条文が適用されるのか分からなくなってしまったら、それぞれの規定の1号を確認してきましょう。まず破産法71条1項1号を確認すると、
「破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき」
とあります。これはまさに、破産手続開始後に“債務を負担”したことが問題、すなわち、受働債権に問題があるという話ですね。次に破産法72条1項1号を確認すると、
「破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき」
とあります。これはまさに、破産手続開始後に“他人の破産債権を取得”したことが問題、すなわち自働債権に問題があるという話ですね。まとめますと、以下の通り整理することができます。
・破産法71条1項…受働債権に着目した規定(債務負担に着目した規定)
↕ 区別 ↕ 区別
・破産法72条1項…自働債権に着目した規定(債権取得に着目した規定)
3. おわりに
以上、本記事では倒産法初学者の方が間違えがち、悩みがちな概念・条文を2つほど整理いたしました。似た概念、条文を学ぶ際には、どこがどう違うのかを明確に意識して学習することが大切です。
これは他の科目でも妥当する話かと思いますので、この意識をもって普段の学習を進めていただけると幸いです。