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【倒産法】札幌地裁令和3年7月15日判決 破産管財人による偏頗弁済の否認の可否

2025年11月29日

1. はじめに

今回は、札幌地裁令和3年7月15日判決(以下、「本判決」といいます。)を扱います。

本判決は、重判掲載裁判例ではないものの、問題文の指示・誘導によっては問われる可能性のある裁判例かと思います。重要度は高くないものの、一応押さえておくと安心かと思います。

 

2. 本判決の解説

(1)争点

本件では、破産管財人(原告)による破産法162条1項1号に基づく、偏頗弁済の否認の可否が問題となりました。

具体的な争点は、①弁済の相手方(被告)が、弁済を受けた時点で、破産者が“支払不能”であることについて悪意(破産法162条1項1号イ)であったか、②破産法166条が類推適用されるか、の2つです。

①は単なる事実認定の問題ですので解説を割愛しますが、本件では、弁済の相手方が、支払の停止について悪意であったかどうかではなく、支払不能について悪意であったかどうかが問題となっている点に注意してください。

②について、具体的に見ていきます。

本件において否認権行使の対象とされた弁済(以下、「本件弁済」といいます。)は、破産手続開始申立てから1年以上前になされたものでした。破産法166条は、以下の通り規定しています。

(支払の停止を要件とする否認の制限)
第166条 破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為(第160条第3項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。

破産法166条は、あくまで支払停止を要件とする否認の類型について、その適用範囲を制限したものです。

そのため、本件のように、弁済の相手方が、“支払不能”について悪意であったかどうかが問題となる事案では、破産法166条を直接適用することはできません。もっとも、弁済の相手方は、今回のようなケースであっても、破産法166条が類推適用され、破産手続開始申立てから1年上前になされた本件弁済を否認することができないと主張しました。

(2)判旨

本判決は、①弁済の相手方(被告)が、弁済をうけた時点で、破産者が“支払不能”であることについて悪意(破162条1項1号イ)であったと認定した上で、②支払不能の場合に破産法166条を類推適用することを認めました。以下は、②に関する判旨の抜粋です。

 「⑴ 支払停止は、一回的行為として支払不能である旨を外部に表明するものであり、支払不能の徴表としては不確実な事実であるから、破産手続開始の申立ての日から無制限に遡って支払停止を要件とする否認を認めた場合、取引を長期間にわたって不安定な状態に置くことになる。破産法166条は、このような場合における否認権の行使に1年という時期的な制限を設けることによって、取引の安全の保護を図る規定と解される。
 これに対し、支払不能は、弁済能力の欠乏のために債務者が弁済期の到来した債務を一般的、かつ、継続的に弁済することができない客観的な状態を意味するものであるから(破産法2条2項11号)、破産債権者が支払不能について悪意の場合に、破産手続開始の申立ての日から1年以上前に遡って否認を認めたとしても、不当に取引の安全を害することにはならないと考えられる。
 ⑵ 被告は、破産法166条の適用を支払停止の場合だけに限定することは、相殺禁止の除外原因について定めた破産法71条2項3号及び72条2項3号とも平仄を欠く旨を主張する。
 しかしながら、相殺禁止と偏頗行為否認とは完全に同質の制度とは言い切れないし、それ自体が破産手続開始原因となる支払不能と、その徴表にとどまる支払停止とを、否認権行使の場面において当然に同一に取り扱うべきともいえず、被告が指摘する点を考慮しても、支払不能の場合に、破産法166条を類推適用すべきものと解することはできない。

本判決の判旨をイメージで押さえていきましょう。やや不正確かもしれませんが、まずはイメージを押さえることが大事です。正確な理解は上記判旨で覚えてください。

支払停止というのは、あくまで一回的な行為であって、(支払不能の徴表としては)不確実な事実なんだ、と。このような不確実な事実を要件の一部とする否認を無制限に認めることは取引の安全を害するよね。だから、破産法166条は、このような否認を制限したんだ。

これに対して、支払不能は、一回的な行為ではなく、客観的な状態という確実な事実なんだ、と(ここはやや不正確かもしれませんが、とにかく支払停止とは違うんだ、というイメージです)。このような事実を要件の一部とする否認を無制限に認めたとしても、弁済の相手方が支払不能につき悪意であるなら、取引の安全を害することにはならない。

そこで、支払不能の場合に、破産法166条を類推適用することはできない。

(3)本判決が問題となる場面

本判決が問題になるのは、①破産法162条1項1号に基づく否認の場面で、弁済の相手方が、破産者が支払不能であることにつき悪意であったことを理由として否認しようとしており、かつ、②否認の対象となる弁済が、破産手続開始申立ての1年以上前になされているという事実がある場合に問題となります。

試験上は、何らかの誘導・指示がなされる可能性が高いと思いますが、上記①及び②の事実がある場合には、破産法166条の類推適用の可否を論じることが(理論的には)求められているといってよいかと思います。

 

3. おわりに

否認権は、司法試験最頻出の分野です。近年は、細かな知識を問う問題も出題されているので、本判決を押さえておくことには一定の意義があると思います。

重要度は高くありませんが、一応判旨のイメージをつけておくと安心かと思います。

 

執筆者

深澤 直人

加藤ゼミナール専任講師・弁護士

上智大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了(首席)
総合200番台で司法試験合格
第77期司法修習修了・弁護士登録
倒産法講座を担当