加藤 喬
加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当
論文試験の肝は文章力です!
文章力が低いと自力で文章を書くことを要する「現場思考論点」や「具体論」で躓きます。
自力で少ない知識を繋げて論証を書くこともできないため、答案に書く論証を丸々記憶しなければならず、インプットの負担も大きくなります。
自分の文章と向き合い、質の高い答案例も参考にしながら文章力を高めましょう。
令和8年度試験かCBT方式が導入され、入力可能な文字数等は、司法試験で「1問8頁、1頁23行、1行最大30文字」、予備試験で「1問4頁、1頁23行、1行最大30文字」とパソコン起案にしては少なめですから、時間よりも紙面が足りなくなる可能性の方が高いです。だからこそ、簡潔にまとめる力が非常に重要になってきます。
CBT方式の導入により、これまで以上に文章力が重要になります。
私の場合、途中答案を連続して論文試験にギリ落ちしたため、3回目の受験では、途中対策を徹底しました。
過去問を使った答案練習では、毎回、時間内に書き切ることを目標とし、書き切れた場合は、メリハリ付けが適切であったかを確認し、書き切れなかった場合は、余計な・冗長な論述を徹底的に洗い出して赤入れし、改善例を全て手書きで答案にメモしました。
次回の答案練習の際には、直前にインプット教材を確認するのではなく、前回の添削済み答案を確認し、時間内に書き切るための答案をイメージしてから答案練習に入っていました。
その繰り返しにより、適切なメリハリ付け、密度の高い答案を書くための文章力が培われ、答案5枚平均で30位台に食い込めるだけの答案作成力が身に付きました。
以下では、私の再現答案を公開します。
基本7科目は、1行25~28文字、平均5枚、論文順位は36位(8015人中)です。これだけ答案の分量が少なくて受験生全体の上位0.5%に入っている答案は、まずないと思います。メリハリのある答案の書き方を参考にしていただけたらと思います。
参考までに、私の平成26年司法試験における成績、再現答案を公開します。
科目ごとのコメントにもある通り、私の再現答案では、会社法設問3と民事訴訟法設問1を除き、解答筋を大外ししている箇所はありませんし、論証を含む理論面の論述も正確であり、当てはめも正確です。本来であれば総合1桁に入れるレベルの答案であると思います。それにもかかわらず、2桁前半どまりなのは、圧倒的に「量」が足りないからです。私の答案は平均5枚程度であり、2桁合格者の答案でもここまでコンパクトな答案はまずないと思います。1桁に入るためには、どんなに文章を書くのが上手くても、少なくとも平均6枚程度は必要です(特に、公法系・刑事系・商法では、5枚程度だと取れる点数に限界があります。)。凝縮された答案を書くスキルが高くないのであれば、平均7枚は必要になると思います。司法試験で論文1桁に入るためには各科目で2桁前半の答案を揃える必要があり、そのためには大中小に分類される配点項目のうち小の部分(事実等)でも点数を稼ぐために分量が必要とされるからです。私のように平均5枚前後でまとめるタイプだと2桁前半が限界で、そこから1桁まで伸ばすために必要なのは、「質」ではなく「量」です。
なお、私の再現答案は11年前の司法試験に関するものです。この11年間で答案の書き方をはじめとする試験対策が進み、特に科目特性の強い公法系・刑事系における受験生のレベル(特に上位層のレベル)はだいぶ上がっていることに留意していただけらと思います。
【平成26年司法試験の成績】
(論文試験)
公法系科目 133.18(約100位)
民事系科目 186.31(約200位)
刑事系科目 126.87(約160位)
労働法 76.60(1位/2466人中)
合計 522.98(36位/8015人中)
(短答試験)
上三法 152点/175点
下四法 118点/175点
合計 270点(612位/8015人中)
(総合)
1050.21(39位/8015人中)
【憲法】約3000文字
行政法は、設問2で職権撤回を丸々落としている上、設問3が実質途中答案であるため、60~65点くらいだと思います。憲法は68~73点くらいだと思います。
憲法におけるミスは、条例の制定過程に着目した隠れた立法目的について「立法目的は消極目的か積極目的か」という形で論じたことくらいです。ただ、採点実感が公表されるまではこれが間違った論じ方であるとは思っていませんでしたし、条例の制定過程に着目して地元優遇目的があったか否かを論じている点においては出題趣旨に沿っているため、相対評価の下では高評価を得ていると思います。
【行政法】約2400文字
行政法における大きなミスは、①設問2で職権取消しを丸々落としていることと、②設問3が実質途中答案であることです。
点数は、60~65点くらいだと思います。
【民法】約2800文字
民事系の出来は、民法>商法>>>民事訴訟法です。
民法70点、商法65点、民事訴訟法50点くらいだと思います。
民法は、特に大きなミスはありません。
【商法】約2930文字
商法は65点くらいです。
会社法では設問を跨いだ答案全体の論理的整合性も重視されていることを知っていたため、とにかく、設問1におけるEが代表取締役でも取締役でもないという認定を前提として、それと整合する法律構成を設問2・3でも展開しようと心掛けました。
大きなミスは、設問3を利益相反取引で論じていることです。
会社法では、答案構成の途中で時間が足りないことが分かったので、とにかく最後まで書きるために、設問2の答案構成を終えた段階(開始45~50分)で答案を書き始めました。
【民事訴訟法】約2380文字
民事訴訟法は50点くらいです。
全問、訴訟上の和解に関する現場思考問題であり面喰いましたが、とにかく原理原則などに遡って論じることを心掛けました。
最大のミスは、設問1において、訴訟手続における表見法理の適用に関する「手続の安定」という問題点について、正しくは「表見法理の適用が手続の不安定を招くという点については、それが善意悪意という主観的要件によって訴訟行為の効力が左右される結果となることについての指摘であること」(平成26年司法試験・採点実感)であるにもかかわらず、「表見法理の適用を否定すると手続安定が害される」として真逆の論述をしてしまったことです。
答案を書いている途中で違和感があったのですが、とにかく最後まで書き切るために、違和感を無視して答案を書き進めました。
【刑法】約3000文字
刑法と刑事訴訟法とで、大きな点差はないと思います。
刑法は、罪名や法律構成レベルでの解答筋は外していませんし、検討事項も網羅しています。丙について、不作為による殺人罪の同時正犯としている点は、強引な認定であるとは思いますが、不作為の幇助まで論じると法律構成が複雑になり途中答案になると思ったので、敢えて不作為の殺人罪の同時正犯であると認定して丙の罪責に関する論述を早めに切り上げました。
【刑事訴訟法】約2800文字
刑法と刑事訴訟法とで、大きな点差はないと思います。
法律構成レベルでの解答筋は外していませんし、論点も事実も網羅しています。
設問3では、訴因変更の要否について、公判前整理手続において訴因変更の要否が問題となっているという特殊性を無視して論じていますが、これは大部分の受験生が対応できていないので、相対評価の下ではミスですらないと思います。
【労働法】第1問 約2680文字 第2問 約2150文字
労働法では、第1問の設問1において、黙示の職種限定合意の成否を論じるべきところを、職種限定合意の成立を2行で否定した上で、労使慣行の拘束力という構成で論じてしまっています。
れにもかかわらず、労働法で1位の評価を得ることができた理由は、当時は配転命令の有効性を検討する過程で黙示の職種限定合意の成否を大展開するということがあまり知られていなかったことと、労使慣行というあり得る法律構成を採用した上で問題文の事実を網羅的に摘示・評価したことにあると考えられます。