加藤 駿征
加藤ゼミナール専任講師・弁護士
立命館大学法学部 卒業
中央大学法科大学院 修了
総合5位・経済法1位で司法試験合格
ニューヨーク州司法試験合格
大手企業法務系事務所に勤務する実務家弁護士
経済法講座を担当
1. 株式会社ダンロップタイヤから申請があった確約計画の認定について
公正取引委員会は、2025年7月23日に、タイヤメーカーである株式会社ダンロップタイヤ(以下「ダンロップタイヤ」といいます。)が希望小売価格を定めた上で、取引先卸売事業者を通じて、小売業者に対し、割引を行わせないようにしていた行為等について再販売価格拘束(2条9項4号)に該当するおそれがあるとして、確約手続きに係る通知を行い、同年8月6日にダンロップタイヤが申請した確約計画に対する認定を行いました。
2. 事案の概要
(1) ダンロップタイヤは、住友ゴム工業が製造する「ダンロップ」ブランドの国内市販用の自動車用タイヤの販売等を行っている。
(2) ダンロップタイヤは、直接又は卸売業者を経由して、カー用品量販店、自動車ディーラー、タイヤ専門店等の小売業者に自動車用タイヤを販売している。
(3) ダンロップタイヤは、令和6年10月1日以降、住友ゴム工業が製造する「SYNCHRO WEATHER」(以下「シンクロウェザー」という。)と称する自動車用オールシーズンタイヤを販売している。
(4) シンクロウェザーは、従来のオールシーズンタイヤとは異なる特殊な性能を有しているなどとして、大規模な広告宣伝が行われており、これにより、一般消費者のオールシーズンタイヤの認知度が高まったと述べる小売業者もいる。
(5) ダンロップタイヤは、令和6年10月頃から令和7年4月頃までの間、シンクロウェザーについて、小売価格を維持するという方針の下、希望小売価格を定めた上で、以下の行為を行っていた。
・自ら又は取引先卸売業者を通じて、小売業者に対し、希望小売価格で販売するよう要請する、実質的な割引を行わないよう要請する又はECモールへ出品しないよう要請することにより、小売業者にシンクロウェザーを希望小売価格で販売するようにさせる行為
・希望小売価格より低い価格で販売している、実質的な割引を行っている又はECモールに出品している小売業者を、他の小売業者からの苦情などにより把握した場合、当該小売業者に対し、希望小売価格で販売するよう要請する、実質的な割引を取りやめるよう要請する又はECモールへの出品を取り下げるよう要請することにより、小売業者にシンクロウェザーを希望小売価格で販売するようにさせる行為
(6)公正取引委員会が、ダンロップタイヤの上記行為等について再販売価格拘束(2条9項4号)に該当するおそれがあるとして、確約手続きに係る通知を行ったところ、ダンロップタイヤから、公正取引委員会に対し、行為のとりやめに係る取締役会決議を行うこと等の確約計画の認定を求める申請があり、公正取引委員会は、当該確約計画は当該行為が排除されたことを確保するために十分なものであり、かつ、その内容が確実に実施されると見込まれるものであると認め、独占禁止法第48条の7第3項の規定に基づき、当該確約計画を認定した。

引用 株式会社ダンロップタイヤから申請があった確約計画の認定について(公正取引委員会)
3. 確約手続きとは
確約手続(独占禁止法48条の2)は、公取委から違反行為の疑いがある旨の通知を受けた事業者が、違反の疑いの理由となった行為を排除するために必要な措置等を記載した確約計画を作成し、公取委がこの計画を認定した場合、排除措置命令や課徴金納付命令を行わないことになるという制度です。
公取委の事実認定には時間を要するケースも多いため、一定の事案については公取委と事業者との合意により、違反が疑われる行為を事業者に自主的に解決させることで独禁法の効果的・効率的な執行をしようとする点に制度趣旨があります。
確約手続きは、概ね以下のフローに沿って行われます。
①公取委から独禁法の規定に違反する疑いがある行為の概要等の通知
②事業者が確約計画を自主的に作成
③公取委が確約計画を認定
④認定後は、公取委は確約措置を実施している限りでは、排除措置命令・課徴金納付命令を行わない。

引用 確約手続の概要(公正取引委員会)
本件でも、上記2(6)で記載したように、公正取引委員会がダンロップタイヤの行為について再販売価格拘束(2条9項4号)に該当するおそれがあるとして、確約手続きに係る通知を行ったところ、ダダンロップタイヤから確約計画の認定を求める申請があり、公正取引委員会はこれに対して確約計画の認定を行っています。
3. 再販売価格拘束
(1)条文
再販売価格拘束は、独禁法2条9項4号に規定されています。
独占禁止法2条9項4号
自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
(2)行為要件該当性
本件では、「小売業者に対し、希望小売価格で販売するよう要請する、実質的な割引を行わないよう要請する」などの行為がありますので、小売業者に対する価格拘束を問題にしていると考えられます。
事実関係によれば、ダンロップタイヤは直接小売業者に商品を販売することもあったようであり、「相手方」である小売業者に対して直接小売価格を遵守させようとしていた点については、上記のイを適用することが考えられます。
また、ダンロップタイヤは、卸売業者を介して商品を販売することもあり、卸売業者を介して同様の行為をすることもあったようです。この場合には、小売業者は、卸売業者(「取引の相手方」)の「販売する当該商品を購入する事業者」とみることもできますので、卸売事業者を介して、小売業者に対する価格拘束等の行為をしていた点については、上記のロを適用することも考えられます。
(3)効果要件該当性
再販売価格拘束の公正競争阻害性は自由競争減殺効果のうちの、価格維持効果の点に求められていますが、再販売価格拘束は、「正当な理由がないのに」との文言が示すように、原則違法の行為類型と考えられているため、実務上、行為要件を満たせば(行為が実効性をもって行われていれば)、特段の正当化事由がない限り公正競争阻害性を認定できると考えられています。
したがって、本件も行為要件を満たしていれば、通常は、効果要件が認められる事案であると考えられます。
(4)最後に
再販売価格拘束は、司法試験でも出題されたことのある条文であり、重要度の高い条文ですので、これを機に条文の復習を行うことをおすすめいたします。