加藤ゼミナールでは、選択科目講座として、『労働法1位の加藤喬講師が担当する労働法講座』、『経済法1位の加藤駿征講師が担当する経済法講座』、『ロースクール首席卒業の深澤直人講師が担当する倒産法講座』、『総合104位・知的財産法10位台で合格した寺井昂輝講師が担当する知的財産法講座』をご用意しております。
労働法は司法試験・予備試験における受験者数がダントツ1位の科目であり、経済法・倒産法・知的財産法は受験者数が2~4位の科目です。これらの4科目の選択者は、受験生全体の80%前後を占めています。
直近3年間(令和5年~7年)における選択科目の受験者数の割合


加藤 喬(第二東京弁護士会所属)

加藤喬講師は、講師歴11年目であり、特に教材作成と試験対策において圧倒的な支持を得ています。
毎年、自身が担当する基本7科目の試験対策講座から1桁合格者をはじめとする超上位合格者や短期合格者を輩出しており、労働法講座では科目別1位&2位合格者も輩出しています。
特徴1 記憶の負担が大きい一方で、記憶したことが点数に直結しやすい
労働法は、学習範囲が広い上、判例の立場が明確である論点について判例に従った規範を定立する必要があるため現場思考による誤魔化しが通用しない、下位基準まで記憶する論点がいくつもあるといった意味で、記憶の負担が大きい科目です。
他方で、労働法は、記憶したことが点数に直結しやすいため、勉強量が点数にそのまま反映されやすい科目であるといえます(その分、番狂わせが起きる可能性は低いです)。
労働法では、典型論点が正面から出題される上、判例の事案に酷似した事案が出題されることも良くありますし、現場思考要素も少ないです。
しかも、請求や論点の抽出が比較的容易であるため、記憶するべきことをちゃんと記憶しておけば、請求や論点を落とす可能性がかなり低くなります。
私は、記憶が得意であり、試験当日には脳内で自作のまとめノートを開き、どこに何が書いてあるのかを画像として正確に呼び起せる状態になっていた上、平成26年司法試験の問題では典型論点からの出題ばかりだったため、非常に解きやすかったです。第2問については、1位を確信できるほどの手ごたえがありました。
このように、労働法は、記憶したことが、さらに言えば勉強量が点数に直結しやすい科目であるといえます。
特徴2 基本7科目との共通性が高い
これは、勉強のしやすさに関することです。選択科目の勉強のしやすさを考える上で、基本7科目との共通性の有無・程度は非常に重要な要素の一つです。
基本7科目との共通性が弱い科目であれば、その分だけ、知識面でも、思考面でも、書き方でも、学ぶことが多い上、慣れるまでに時間がかかります。これに対し、基本7科目との共通性が強い科目であれば、基本7科目の延長線上で勉強を進めすことができるため、その分だけ、条文・論点に関する知識が定着するのも、答案を書けるようになるのも早いです。
労働法は、民法の延長としての側面が強いです。労働法のうち、労働保護法では、訴訟物(労働契約上の地位確認請求、賃金請求権、損害賠償請求権など)を出発点として、これに対応する法律要件を一つひとつ検討し、その検討過程で労働法固有の条文や論点にも言及するという流れで答案を書くことがほとんどです。
権利の発生要件、発生障害事由、取得事由、行使要件、行使阻止事由、消滅事由といった視点も民法と同様です。
民法の学習により民法的思考をしっかりと身につけておくと、労働法の学習をスムーズに進めることができます。
答案の型は民法と同様であり、肉付けに使う条文と論点が労働法関連のものになる、というイメージです。
例えば、労働保護法の典型論点に関するものとして、以下の事例があります。
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上記答案のうち、下線部だけが労働法固有の話であり、そこに至るまではずっと民法の話です。
労働組合法では、民法上の請求(裁判所に対する民事訴訟の提起)のほかに、労働委員会に対する救済命令の申し立て(労働委員会による行政処分を申し立てる特別な制度)も出題されますが、後者の場合であっても、救済命令の発動要件(行政処分の処分要件)である労働組合法7条各号所定の要件への該当性について論点も踏まえながら論じたり、救済命令の申立人適格(行政事件訴訟の原告適格みたいなもの)を確認するだけなので、行政法の延長(見方によっては、民法の延長)に位置づけることができます。
このように、労働法は、基本7科目との共通性が強い科目であるため、勉強を進めやすいです。
特徴3 実務で使う頻度が高い
人間は感情に大きく左右されるため、何かをやる上で、モチベーションは非常に重要です。
モチベーションの高低は、学習効果が影響します。上記2つの観点から自分にとって勉強がしやすい科目であったとして、どうしても関心を持つことができない科目であれば、モチベーションが上がらないということもあります。
したがって、その科目自体の興味を持つことができるか、合格後に実務家として使う可能性・頻度などから、自分が関心を持つことができる科目を選択するということは、モチベーションを上げることができ学習効果を高める上で非常に重要です。
労働法は、倒産法と並んで、実務家として使う可能性及び頻度が非常に高いですから、実務に出てから頻繁に使用する科目を勉強したいという方にとっても、労働法は非常にお薦めの科目です。
労働法の分類
労働法は、労使間に契約自由の原則をそのままの形で適用した場合に労働者が使用者(≒雇主)との関係で不利な立場に置かれがちであるということに配慮して、労使間の実質的対等性を確保することを目的として特別な法的規律を定めている個々の法律の総称を意味します。
労働法は、対象領域の違いに応じて、雇用関係法(労働基準法など)、集団的労働法(労働組合法など)、雇用保障法(雇用保険法など)に分類されます。
雇用関係法は、個々の労働者と使用者との間の雇用関係を規律する法律の総称です。代表的なものとしては、労働基準法と労働契約法が挙げられます。これらは、労働条件の最低水準を定めています。1日・1週間の労働時間の上限、就業規則による労働契約の内容の規律(変更)の可否・限界、賃金の支払方法、懲戒処分・解雇、労働者間での差別など、労働者の労働条件その他の待遇について、様々な規律が設けられています。
集団的労働法は、司法試験・予備試験対策としては、主として、労働組合法を意味します。労働者は、労働条件の最低水準については労働基準法等で確保してもらえますが、最低水準を超える労働条件を実現するためには、使用者との交渉により合意を獲得する必要があります。もっとも、労働者個人で使用者との間で対等な交渉をすることは困難です。労働者としては、労働組合という労働者集団を組織し、集団的な交渉を行うことで、使用者と対等な交渉を実現し、ひいては最低水準を超える労働条件を内容とする合意を獲得しやすくなります。そこで、憲法28条は、団体交渉の助成を基本目的として、団体交渉と、そのための団結・団体行動について、労働基本権として保障しています。これを受けて、労働組合法が定められています。労働組合法では、労働組合の組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い、労働組合からの団体交渉の申入れに対する使用者側の対応、使用者による労働組合の組織・運営に対する支配・干渉、使用者により団結・団体交渉・団体行動を妨害等された場合における行政救済、労働組合と使用者の間で締結される労働協約の効力といった、集団的労使関係について規律を設けています。
雇用保障法は、労働者の就職サポート、職業能力開発支援、失業者の生活保障といったことを目的とした個々の法律の総称です。職業安定法、職業能力開発促進法、雇用保険法などがあります。司法試験・予備試験対策としては、雇用関係法と労働組合法が重要であり、基本的には、司法試験の第1問では雇用関係法メインの出題がなされ、第2問では労働組合法メインの出題がなされます。雇用保障法が司法試験・予備試験で出題される可能性は極めて低いです。
なお、令和4年司法試験では、第2問において労働組合法の論点のみならず、労働保護法の論点も正面から問われました。労働保護法の学習範囲が労働組合法に比べて3倍近くあることからも、令和4年の出題傾向が今後も続くかもしれません。
出題範囲
司法試験では、選択科目が大問2つから構成されており(第1問と第2問に分かれており)、労働法の場合には、第1問では労働保護法から出題され、第2問では労働組合法中心の出題がなされます。
これに対し、予備試験では、選択科目は大問1つだけであり、令和4年・令和5年には、労働保護法だけから出題されました。
労働法保護法(労働基準法、労働契約法等)における出題例は次の通りです。
労働組合法における出題例は次の通りです。
加藤 駿征(第一東京弁護士会所属)

加藤駿征講師は、経済法1位・総合5位という大変優秀な成績で司法試験に合格し、都内大手法律事務所に勤務にする一方で、法科大学院の学生を対象とした経済法ゼミの経験も有しています。
自身が担当する経済法講座では、開講1年で科目別6位合格者も輩出しています。
特徴1 記憶の負担が小さい
経済法では、独占禁止法が実質的な出題範囲であるところ、独占禁止法では、手続に関する条項を除いた実体的な違反行為を定めた条項の数は多くはありません。
また、独占禁止法の条文の中でも出題可能性のある条文の数はさらに限定されるうえ、各条文で共通・類似する概念も多いため、一つの概念を覚えてしまえば、他の条項についてもそれを汎用でき、インプットの負担は大きくはありません。
例えば、独禁法上の重要な条文に私的独占(2条5項)と不当な取引制限(2条6項)という司法試験頻出の条項がありますが、以下で見るように両者の要件は下線の部分については一致しており、その多くが共通しています。
| 私的独占 | 事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。 |
|---|---|
| 不当な取引制限 | 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。 |
特徴2 刑法との相性がいい
経済法の答案は、適用条文に定められた要件の意義・定義についての理解を示したうえで、淡々とそれに当てはめていくことから、刑法各論の答案作成にイメージが近いので、刑法が得意な方にとっては答案作成がしやすい科目といえます。
特徴3 現場思考できる能力が求められること
経済法は、行為が一定の要件にあてはまるだけでは違法とはならず、当該行為が市場へ一定悪影響を及ぼす場合に違法となります(上記の条文で見た「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」という要件がこれにあたり、効果要件と呼ばれます。)。
そして、ある行為が、市場に対して、どのような悪影響を及ぼすのかについては、問題文の事情にしたがってケースバイケースで判断を行う必要があるので、事前に一定の事項をインプットしている(知識がある)ということだけでは対応が難しく、現場思考できる能力が必要となり、この点については憲法、行政法、刑事訴訟法に類似しているといえます。
現場思考力が求められることから、勉強量が点数に直結しない可能性がある点を経済法のデメリットと捉えられる方もいるようですが、現場思考重視故に事前に準備すべき事項が少なくなるという意味では、経済法のメリットにもなります。
また、法の考え方のコアの部分の理解さえできていれば、(細かい知識がなくとも)現場で考えることである程度は解けるということになり、「勉強量が比較的少なくとも点数が取れる」コストパフォーマンスの高い科目であるといえます。
私自身も受験生のときには、経済法については、過去問を一通り解き、法のコアの部分を理解したあとは、基本科目の勉強に集中しており、経済法の対策に大きく時間を割くということはしていませんでした。
特徴4 実務でもその知見が求められること
独占禁止法は、一定規模以上の合併等については、公正取引委員会への事前のドキュメントの提出を要求しており、一定規模以上のM&Aの場面では必ず問題になりえますので、将来、M&A法務に携わりたいと考えている方は、学んだことを実務で用いる経験もあります。
令和6年司法試験用法文登載法令によれば、司法試験における「経済法」には、以下の4分野があります。
①独占禁止法関係
②入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律
③下請代金支払遅延等防止法(いわゆる、下請法)
④不当景品類及び不当表示防止法(いわゆる、景表法)
このうち、①以外の分野については、過去の司法試験での出題はなく、ロースクール等での講義も基本的に①に対応しているので、対策すべきは①で十分であると考えています。
出題については、問題文の行為について、それが市場に対してどのような悪影響があるのかを分析しながら、適用条文にあてはめていく問題がほとんどですが、時折、差止請求、課徴金等の手続的なサンクションについて問われる場合もあります。
以下は、不当な取引制限に関する平成28年司法試験第2問の改題及び参考答案です。
経済法は、出題範囲が狭く、同一の条文に関する出題が繰り返されている点から、早めにインプットを終わらせたら、問題演習を通じて知識と答案の書き方を定着させるというアウトプット重視の勉強法が効果的です。
特に、書き方で点数が左右される部分があるので、実際の過去問を検討する中で、答案の書き方をマスターしていく必要があります。過去問では、ほぼ全ての分野がフォローされているため、基本的には過去問を対策することで試験対策としては十分であると考えています。
深澤 直人(第一東京弁護士会所属)

深澤講師は、受験生時代には加藤ゼミナールの司法試験講座で勉強しており、中央大学法科大学院を首席卒業後、司法試験に総合200番台で一発合格し、2024年から倒産法産法講座の講師として加藤ゼミナールに参画しました。
2025年3月に司法修習を終え、今後は都内法律事務所で弁護士業務に従事しながら、引き続き加藤ゼミナールで倒産法講座を担当します。
2021.3 上智大学法学部 卒業
2023.3 中央大学法科大学院 修了(総合GPA1位)
2023.11 司法試験合格(総合251位)
2025.4 弁護士登録、都内法律事務所入所
特徴1 記憶の負担が少ない科目である
倒産法においては、条文が1にも2にも重要です。すなわち、試験では、主として、当該条文を検索することができるか(条文検索能力)、当該条文を運用できるか(条文適用能力)が求められています。
令和5年司法試験の採点実感は、「解答に当たっての思考の端緒となるものは、実定法の条文である。条文の重要性は、倒産法に限ったものではないし、ここで改めて指摘するまでもない。」と述べています。
この点からも条文が重要であることがわかります。
また、試験では、もちろん、論点や判例の理解も問われます。もっとも、論証として整理しておくべき論点は過去問に出題されたもので足り、また、判例は判例百選に掲載されている判例で足ります。また、労働法とは異なり、判例の下位基準まで正確に押さえなければならない判例はほとんどありません。
このように考えると、倒産法の主たる学習対象は、①条文、②司法試験で問われた論点、③判例百選掲載判例のうち重要な判例ということになります。
そのため、倒産法は、労働法に比べると、記憶の負担が少ない科目であるといえます。
特徴2 民事系科目との相性がいい
倒産法は、民事一般法である民法、商法、民事訴訟法、民事執行法及び民事保全法の特別法という位置づけになります。すなわち、経済的窮境にある債務者について、一般民事法の規律を適用すると、不都合があるために、倒産法が用意されているのです。
①一般民事法をそのまま適用することには、どのような不都合があるのか、②これを解消するために、倒産法は、一般民事法の規律をどのように修正していくのか、という視点で学習を進めることで、倒産法の規律を深く学ぶことができ、また、一般民事法の原則を正確に学ぶことができます。
特に、民法のうち、担保物権や債権総論の部分は学習がどうしても手薄になってしまいがちですが、倒産法においては、担保物権は別除権という形で、債権総論のうちの相殺の規律は相殺権という形で、詐害行為取消権についてはその似た権利として否認権を学ぶことになります。そのため、これらの規律についての苦手意識を克服ないし緩和することができます。これは、倒産法選択者の特権といってもよいです。
また、一般民事法の特別法という性質から、司法試験における問題文の事実も、民事系科目で見るような事実関係となっていることが多いです。
このような事実関係に対して、民事系科目の答案の書き方にしたがって、答案を書いていくことになります。つまり、答案作成の方法という観点から見ると、倒産法に特有の書き方というものはなく、すでに身につけた答案の方にしたがって答案を作成していけばよいということです。
たとえば、破産法の典型論点に関するものとして、以下の事例があります。
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上記の答案は、ほとんど民法の答案の書き方にしたがって、書かれています。倒産法のうちの実体法に係る部分は、このように民法や会社法における答案と同じように書いていけばよいのです。また、倒産法のうちの手続法に係る部分は民事訴訟法における答案と同じように書いていけばよいです。
両者に共通しているのは、適用される条文の特定・明示→“全”要件充足性の検討→効果の発生・不発生の明示という流れです。新しいことは何もありません。
このように、倒産法は、民事一般法との相性が良い科目であるため、インプットにおいてもアウトプットにおいても、勉強を進めやすいです。
特徴3 重要分野については過去問で対応できる
倒産法においては、重要分野についての条文および論点が何度も出題されています。そのため、過去問を重点的に学ぶことで、出題範囲をある程度網羅することができます。
また、過去問が蓄積しているということは、出題趣旨および採点実感も蓄積しているということです。そのため、出題趣旨および採点実感を徹底的に分析することで重要分野についての処理手順を確立させることができます。
たとえば、相殺権(破67条)に関する問題が出題された場合には、まず、①破67条から出発することが必要であります。なぜならば、破71条1項、72条1項は、破67条の例外規定であるため、まず原則である67条の適用があることを示さなければならないからです(司H28採点実感、司R3採点実感、司R4採点実感参照)。次に、②破71条1項・72条1項が規定する相殺禁止に該当するか否かを検討します(司R4採点実感参照)。最後に、③破71条2項・72条2項が規定する相殺禁止の解除について検討することになります(司R4採点実感参照)。
このように、重要分野については、司法試験委員会が求める処理手順というものを事前に準備することが可能となっています。
特徴4 見たことのない条文および現場思考が問われること
倒産法では、見たことのない条文が問われることがあります。
この場合は、落ち着いて、その問題文の事実関係を正確に分析し、適用される条文を検索し、当該条文の要件にしたがって、答案を作成していくことになります。
問題文の事実関係は必ず使うことができるようにできていますから、問題文の事実に対応する条文がどこかにあるはずです。この姿勢で、六法の目次から、関連しそうな条文を探してみると適用される条文が見つけられる可能性が高いです。
また、倒産法においては、現場思考が問われます。現場思考論点においては、適用される条文を特定・明示したうえで、当該条文のどの要件の解釈が問題になるのかを明示し、あてはめから逆算して規範を定立することになります。
このような問題であっても、対処方法は、民事系科目におけるそれと何ら変わりありません。
特徴5 実務で使う頻度が高い
加藤喬講師も労働法の科目特徴のところで述べている通り、人間は何かをやる上で、モチベーションが非常に重要です。特に、司法試験についていうと、モチベーションの高低が学習効果に影響を与えます。
倒産法は、労働法と並んで、実務家として使う可能性及び頻度が高い科目です。そのため、実務に出てから頻繁に使用する科目を、受験勉強の段階から勉強したいという方にとっても、倒産法は非常におすすめの科目です。
総 論
わが国では、「倒産法」という名称の法律はなく、倒産に関連して施行されている法的整理を総称して、倒産法と呼んでいます。具体的には、破産、民事再生、会社更生、特別清算の4種があります。
このうち司法試験および予備試験で出題されるのは、破産法および民事再生法です。司法試験においては、通常、第1問が破産法、第2問が民事再生法となっています。また、予備試験においては、令和4年予備試験では破産法が、令和5年予備試験では民事再生法が問われています。
条文を重視したインプット
倒産法のインプットにおいては、とにかく条文を意識することが重要です。すなわち、大体何条のあたりに、どういう制度があるのかを事前にイメージし、そして、当該条文が定める要件は何なのかを明確に意識して学習をすることが重要です。
なぜならば、上記の通り、倒産法では、とにかく条文が重視されるからです。
事前に要件がどのように定められているかを把握しておくことで、試験の現場においても慌てることなく、条文の“全”要件充足性を検討することができます。
普段の学習から、逐一条文を引き、また、その際には、学習しようとしている隣の条文などの周辺条文も読み込んでどのような条文、制度があるのかを把握しておきます。この意識で学習をすることで、普段から条文を重視する癖がつき、他の科目においても条文を重視することができるようになるという相乗効果も狙えます。
過去問の学習
倒産法は、重要分野については過去問で対応できる科目です。
このような特徴から、インプットが終わったら、なるべく早めに過去問の演習に着手することが重要です。早めに過去問に触れることで、司法試験委員会が求める答案の型、というものを習得することができます。
特に、平成29年以降の司法試験の出題趣旨及び採点実感は、受験生の答案作成の指針となる部分が多くあります。
倒産法講義では、アウトプットを意識して速修テキストを作成しています。すなわち、過去問で何度も出題されている分野については、論点解説における具体例として過去問の改題を用いたり、司法試験の出題趣旨及び採点実感を基にした処理手順を速修テキストに盛り込んだりしています。また、重要分野については、インプットの段階から処理手順を身に付けるために、倒産法速修テキストには、重要分野の短文事例問題と答案例も反映しています。
インプットの段階で過去問を学び、アウトプットの段階でも過去問を学ぶことで、過去問の処理手順を身に付けることができます。
民事再生法の学習の指針
民事再生法の学習においては、まず、破産法を重点的に学び、その次に、民事再生法特有の問題として、破産法と違う部分・破産法にない規律を中心的に学ぶことが試験対策で最も近道であります。なぜならば、破産法と民事再生法は共通する部分が多いため、破産法のインプットが民事再生法のインプットにつながるという側面があるからです。
具体的には、破産法において取戻権、別除権、相殺権、否認権といった分野を学びますが、細かい点を捨象すると、民事再生法においてもこれと対応する規定があります。この場合、民事再生法の当該分野についての学習はすでに破産法の学習で終了しているといえます。あとは、破産法にない担保権実行手続中止命令(民再31条)や再生計画に関する規定(民再154条以下)等を学ぶことになります。
また、試験においては、破産法と民事再生法との違いが問われることもあります。
たとえば、以下のような問題が出題されています。
破産法と民事再生法の異同が問われるというのは、当然ながら、破産法と民事再生法で規律が異なる部分が問われることになります。
そのため、普段の学習から、破産法と民事再生法とで規律が異なる部分を先取りする形で押さえておくことが重要です。逆にいうと、破産法と民事再生法の違う部分をインプットしておくだけで、破産法と民事再生法の異同を問う問題に対応することができます。
寺井 昂輝(第二東京弁護士会所属)

寺井講師は、受験生時代には加藤ゼミナールの司法試験講座で勉強しており、慶應義塾大学法学部を3年次に早期卒業し、慶應義塾大学法科大学院在学中に総合104位・知的財産法10位台(70点台)で司法試験に一発合格しました。
2025年3月に司法修習を終え、都内大手法律事務所で弁護士業務に従事しながら、2026年から知的財産法講座の講師として加藤ゼミナールに参画しました。
2022.3 慶應義塾大学法学部法律学科 早期卒業
2023.11 司法試験合格(総合104位・知的財産法10位台)
2024.3 慶應義塾大学法科大学院 修了
2025.4 弁護士登録、都内大手法律事務所入所
特徴1 記憶の負担は小さくないが、具体的なイメージがつきやすいため学習が進みやすい
司法試験における知的財産法で出題されるのは、特許法及び著作権法です。第1問で特許法、第2問で著作権法が問われます。条文の数はどちらも多くありませんが、把握しておくべき論点や判例の数は他の選択科目に比べて少なくないといえます。
もっとも、知的財産法は、我々が日常生活で接することのある身近な事例に関して出題されることが多いため、学習が進みやすいといえます。たとえば、平成28年司法試験第2問では、パロディ小説が原小説の著作権を侵害するか、書籍の電子ファイル化がその著作権を侵害するかなどが問われています。パロディ商品は我々が普段から目にするものであり、書籍の電子ファイル化も日常的に行われている行為です。そのため、具体的なイメージがつきやすい事例が多く、取っつきにくい科目に比べ、学習が進みやすい科目であるといえます。
特徴2 民法の相性がよく、行政法や民事訴訟法の理解も必要となる
司法試験における知的財産法の出題は、特許権・著作権に基づく差止請求、特許権・著作権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の可否を問う形が多いです。答案に落とし込む際には、特許権者・著作権者による差止・損害賠償請求、侵害したとされる者による抗弁の主張、特許権者・著作権者による再抗弁の主張、という流れになります。そのため、要件事実的な理解があると学習がスムーズに進みやすく、民法の答案の流れを意識すると綺麗な答案が書けるようになります。
また、特許法において、登録された特許が無効であることを請求する特許無効審判、特許登録を拒絶する査定に対して不服を申し立てる拒絶査定不服審判等の審判は、行政争訟の一種と考えられており、行政法の理解も必要となります。
さらに、特許を複数名で共同で出願する場合は、共有者全員で審判を請求しなければならない(固有必要的共同審判)という規定や、無効審判が確定した後、当事者及び参加人は同一の事実及び同一の証拠に基づいて無効審判を請求できない(一事不再理効)という規定があります。これらを理解するためには、民事訴訟法の理解も必要となります。
特徴3 実務で使う頻度が高い
特許には理系の知識に加え、当該製品の分野に関する専門的な知識も必須であることから、特許訴訟を行っている弁護士は少ないと言われています。特許出願手続に関する業務を行う弁理士も所属する特許事務所など、特許に特化した事務所が特許に関する業務を多く行っています。
他方で、著作権法は、前述のとおり、日常で著作権問題が生じる場面は極めて多いため、著作権法に関する相談、紛争は多くあります。また、最近では、AIが作成した物は著作物に当たるのか、AIに著作物を入力したら著作権侵害となるか、等AIの著作権に関する相談も多く、今後も増えることが予想されます。
そのため、著作権法は、実務で使う頻度が非常に高い分野であり、知識・経験を身につけておけば、活躍できる分野であるといえます。
司法試験の段階で著作権法の知識を得ておくことにより、実務に出てから学習する負担が減ると思われます。
前述のとおり、司法試験における知的財産法では、第1問で特許法、第2問で著作権法が問われます。また、予備試験では、令和4年以降、著作権法、特許法の順に、交互に出題されています。
以下のとおり、各法律の中でも出題される分野は限られています。
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出典:「平成18年から実施される司法試験(選択科目)における具体的な出題のイメージ(サンプル問題)」1,2頁
” 今後も、特許法及び著作権法を中心として、条文、裁判例及び学説の正確な理解に基づく、事案分析力、論理的思考力を試す出題を継続することとしたい。より詳細には、次のとおりである。
法務省ウェブサイト(注)において公表している「平成18年から実施される司法試験(選択科目)における具体的な出題のイメージ(サンプル問題)」の「[新司法試験サンプル問題(知的財産 法)]」中、「出題の趣旨」として、特許法及び著作権法の一定の規定「を中心として出題する」との記述がある。同サンプル問題は、平成16年に作成されたものであり、その後から今日に至るまで、特許法も著作権法も法改正が繰り返され、その結果、新たに追加された重要な規定が上記の記述に含まれない一方、章・節・款で指定されていた範囲に当時存在していなかった規定が含まれることになっており、上記の記述から受ける印象は当時と今日とで相当に異なっている。
もっとも、これまでの司法試験において、おおむね上記の記述と乖離しない範囲で、侵害訴訟において対立する当事者間の攻撃防御にとって重要な事項を中心に出題がなされてきた。”
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出典:「令和6年司法試験の採点実感」24,25頁
このように、知的財産法においては、侵害訴訟において対立する当事者間の攻撃防御にとって重要な事項の出題が中心です。具体的には、特許権・著作権に基づく差止請求、特許権・著作権が侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の可否が多く問われています。
以下、平成29年司法試験第1問設問1の改題及び参考答案を示します。
(事例)
製薬会社X1は、「薬剤αと、薬剤γ1、γ2、γ3及びγ4から選ばれる薬剤βとを組み合わせて成る糖尿病治療用医薬」という発明について、平成27年4月1日に特許出願し、平成28年4月5日に設定登録を受けた(以下、「本件特許権」といい、同特許権に係る発明を「本件特許発明」という。)。薬剤α及び薬剤βは、いずれもそれぞれ単体として従来より公知の糖尿病治療用医薬であったが、本件特許発明は、薬剤αと薬剤βを組み合わせ、併用して服用することによって、従来の治療用医薬にはない顕著な効能を奏する発明である。また、薬剤βは薬局で市販されている薬剤であるが、薬剤αは医師の処方せんがないと入手できない薬剤である。 X1は、別の製薬会社であるX2に対し、本件特許権について、範囲を全部、地域を日本全国、期間を特許権の存続期間全部とする専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)を設定し、本件専用実施権は登録された。
製薬会社Yは、薬剤α(顆粒)の他に、薬剤βの一種である薬剤γ1(カプセル入りの液体)とをそれぞれ別個に製造・販売していたが、平成27年1月、本件特許発明の内容を知らずに、 薬剤αと薬剤γ1を同時に服用すると更なる顕著な効果を生じるのではないかと着想し、組み合わせる用量の試行錯誤を重ねたところ、同年3月、薬剤αと薬剤γ1を最適な用量で組み合わせた糖尿病治療用医薬αγ1(以下「Y製品1」という。)を見いだし、直ちに両薬剤を組み合わせるための生産ラインの設計・製造を外部に発注したところ、平成28年8月頃、同製造ラインが完成したため、製造・販売を開始した。
(設問)
X1は、Yに対し、YによるY製品1の製造・販売は本件特許権を侵害するものであると主張して、Y製品1の製造・販売の差止めを求めて訴訟を提起した。
X1は、どのような主張をすべきか。これに対するYの反論として、どのような主張が考えられるか。その妥当性についても論じなさい。
(答案)
1.当事者の主張
⑴ X1の主張
X1 は、特許権者として、Y が業として Y 製品1を製造・販売しており、これが「実施」(特許法2条3項1号)にあたることと、Y 製品1 は、薬剤αと薬剤γ1 とからなる糖尿病治療用医薬であり、本件特許発明の技術的範囲に属することを主張して、YがXの特許権を侵害しているとして、Y 製品1の製造・販売の差止め(100条2項)を請求することが考えられる。
⑵ Yの主張
Y は、①X1は、X2に専用実施権を設定しており、差止請求の適格がないこと、②本件特許出願前の平成27年3月に、Y 製品1を開発し、生産ラインの外注をしているから、Y には、先使用による通常実施権(79 条)がある旨反論することが考えられる。
2.反論①について
特許権者がその特許権について専用実施権を設定したときは、設定行為で定めた範囲については、特許発明の実施をする権利を有しない(68条ただし書)ところ、X1はX2に対し、本件特許権について、本件専用実施権を設定していることから、差止請求権者になりえないのではないかが問題となる。
しかし、100 条1 項は請求権者を「特許権者又は専用実施権者」と規定しており、その文言上、専用実施権を設定した特許権者を除外する理由はない。また、設定契約において専用実施権者の特許実施品の売上に応じて実施料が定められている場合に、実施料収入確保の点において特許権者に侵害を除去すべき利益があること、専用実施権が何らかの理由で消滅し、特許権者が自ら特許発明を実施しようとする際に不利益を被る可能性があることから、特許権者による差止請求を認める必要がある。
したがって、専用実施権を設定した特許権者であるX1も差止請求適格を有するため、反論①は認められない。
3 反論②について
特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業の準備をしている者はその事業の範囲内において通常実施権を有する(79条)ところ、Yは、本件特許発明の内容を知らずに、Y製品1を完成させ、本件特許出願日である平成27年4月1日より前の同年3月にその生産ラインの設計及び製造を外部に発注しており特許出願の際現に事業の準備をしているとして先使用の抗弁を主張する。では、Y製品1の生産ラインの設計及び製造の外注が「事業の準備」にあたるかが問題となる。
79条でいう「事業の準備」とは、その発明につき、即時実施の意図を有しており、かつ、その意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていたことを意味すると解する。
生産ラインの設計及び製造の外注は、即時に当該発明を実施しようという意図がないとしない行為であるから、Y製品1につき、即時実施の意図を有しており、かつ、その意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていたといえ、「事業の準備」にあたる。
したがって、反論②は認められる。
まずは、特許法及び著作権法の重要論点と判例のインプットを早めに終わらせ、過去問学習に取りかかる必要があります。判例については、判例百選(特許法、著作権法)の全てを抑える必要はなく、重要論点に関わる判例を抑えれば足ります。ただし、重要論点については、判例百選に掲載されているもののほかに、出題趣旨で言及されている判例等、抑えるべき判例もあります。
重要論点については、過去問で複数回出題されているため、過去問を解くことにより、答案の書き方を学習していくことが重要です。重要論点について答案が書けるようになれば、選択科目が足を引っ張るというリスクは少なくなります。そのため、まずは重要論点のインプットとアウトプットが最優先です。
選択科目で他の受験生に差をつけることを狙うのであれば、重要論点のインプットとアウトプットが終わった後、細かい論点や条文、判例についても学習し、本番で対応できるようにするべきです。