加藤ゼミナールについて

選択科目ごとの特徴と勉強法

加藤ゼミナールでは、選択科目講座として、労働法1位の加藤喬講師が担当する労働法講座、経済法1位の加藤駿征講師が担当する経済法講座、2024年から参画した深澤直人講師(中央ロー主席卒業)が担当する倒産法講座をご用意しております。

労働法は司法試験・予備試験における受験者数がダントツ1位の科目であり、経済法・倒産法は受験者数が2~4位の科目です。これらの3科目の選択者は、受験生全体の65%前後を占めています。

 

司法試験・予備試験における選択科目の受験者数

直近2年間(令和4年・5年)における選択科目の受験者数の割合

 

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労働法について

講師プロフィール

加藤 喬(第二東京弁護士会所属)

加藤喬講師は、講師歴10年目であり、特に教材作成と試験対策において圧倒的な支持を得ています。

毎年、自身が担当する基本7科目の試験対策講座から1桁合格者をはじめとする超上位合格者や短期合格者を輩出しており、労働法講座では科目別1位&2位合格者も輩出しています。

  • 5歳から体操を始め、高校3年のインターハイでは個人総合5位入賞を果たす
  • 大学3年生の春に、自分の人生をスポーツから勉強に切り替えようと思い、司法試験の勉強を開始する
  • 慶應義塾大学法科大学院を修了後、労働法1位(2466人中)・総合39位(8015人中)で司法試験に合格(2014年)
  • 合格直後から講師活動をスタートし、2021年5月、法曹教育の機会均等と真の合格実績の追求を理念として、加藤ゼミナールを設立

科目の特徴

特徴1 記憶の負担が大きい一方で、記憶したことが点数に直結しやすい

労働法は、学習範囲が広い上、判例の立場が明確である論点について判例に従った規範を定立する必要があるため現場思考による誤魔化しが通用しない、下位基準まで記憶する論点がいくつもあるといった意味で、記憶の負担が大きい科目です。

他方で、労働法は、記憶したことが点数に直結しやすいため、勉強量が点数にそのまま反映されやすい科目であるといえます(その分、番狂わせが起きる可能性は低いです)。

労働法では、典型論点が正面から出題される上、判例の事案に酷似した事案が出題されることも良くありますし、現場思考要素も少ないです。

しかも、請求や論点の抽出が比較的容易であるため、記憶するべきことをちゃんと記憶しておけば、請求や論点を落とす可能性がかなり低くなります。

私は、記憶が得意であり、試験当日には脳内で自作のまとめノートを開き、どこに何が書いてあるのかを画像として正確に呼び起せる状態になっていた上、平成26年司法試験の問題では典型論点からの出題ばかりだったため、非常に解きやすかったです。第2問については、1位を確信できるほどの手ごたえがありました。

このように、労働法は、記憶したことが、さらに言えば勉強量が点数に直結しやすい科目であるといえます。

特徴2 基本7科目との共通性が高い

これは、勉強のしやすさに関することです。選択科目の勉強のしやすさを考える上で、基本7科目との共通性の有無・程度は非常に重要な要素の一つです。

基本7科目との共通性が弱い科目であれば、その分だけ、知識面でも、思考面でも、書き方でも、学ぶことが多い上、慣れるまでに時間がかかります。これに対し、基本7科目との共通性が強い科目であれば、基本7科目の延長線上で勉強を進めすことができるため、その分だけ、条文・論点に関する知識が定着するのも、答案を書けるようになるのも早いです。

労働法は、民法の延長としての側面が強いです。労働法のうち、労働保護法では、訴訟物(労働契約上の地位確認請求、賃金請求権、損害賠償請求権など)を出発点として、これに対応する法律要件を一つひとつ検討し、その検討過程で労働法固有の条文や論点にも言及するという流れで答案を書くことがほとんどです。

権利の発生要件、発生障害事由、取得事由、行使要件、行使阻止事由、消滅事由といった視点も民法と同様です。

民法の学習により民法的思考をしっかりと身につけておくと、労働法の学習をスムーズに進めることができます。

答案の型は民法と同様であり、肉付けに使う条文と論点が労働法関連のものになる、というイメージです。

例えば、労働保護法の典型論点に関するものとして、以下の事例があります。

(事案)
 Y社に雇用されるXは、11月分の給料(合計30万円)が支払われていないとして、Y社に対して賃金の支払いを求めた。
 Y社は、Xの業務上のミスにより生じた損害(30万円)についての損害賠償請求権を自働債権とする相殺により、11月分の賃金請求権は消滅したから、支払いに応じないと主張した。
 Xの賃金支払請求は認められるか。解答に当たっては、Xの業務上のミスによりY社に30万円の損害が発生したことを前提にすること。
(答案)
1.Xは、Y社との間で労働契約(民法623条)を締結し、11月分の労働をしたのだから、XのY社に対する11月分の賃金請求権30万円が発生している(民法624条1項)。もっとも、Y社の相殺(民法505条1項本文)により賃金請求権が消滅するのではないか。ここで、Y社のXに対する損害賠償請求権の発生の有無及びその金額(民法415条1項)、並びに使用者による相殺の可否が問題となる。
2.まず、Xは業務上のミスという労働契約上の「債務の本旨に従った履行をしない」こと「によって」、Y社に30万円の「損害」を被らせている。労働契約上の手段債務の不履行と免責事由の存在とは表裏一体の関係にあるから、Xには免責事由(民法415条但書)は認められない。したがって、Y社のXに対する債務不履行を理由とする損害賠償請求権が発生する。
3.次に、損害賠償請求権の範囲が問題となる。報償責任に基づく損害の公平な分担という使用者責任(民法715条)の制度趣旨にかんがみ、使用者から労働者に対する損害賠償請求は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において認められると解すべきである。したがって、Y社のXに対する損害賠償請求権は上記限度の額において認められる。
4.最後に、賃金全額払の原則(労働基準法241項本文)との関係で、使用者による賃金債権との相殺の可否が問題となる。同原則の趣旨は、使用者による一方的な賃金控除を禁止することで、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その経済生活の安定を図ることにある。そこで、使用者による賃金債権との相殺は、使用者による一方的な賃金控除に当たるため、同原則に反し無効であると解する。したがって、Y社による相殺は無効であるから、Xの賃金請求権はその一部においても消滅しない
5.よって、Xによる30万円の賃金請求は全額において認められる。

上記答案のうち、下線部だけが労働法固有の話であり、そこに至るまではずっと民法の話です。

労働組合法では、民法上の請求(裁判所に対する民事訴訟の提起)のほかに、労働委員会に対する救済命令の申し立て(労働委員会による行政処分を申し立てる特別な制度)も出題されますが、後者の場合であっても、救済命令の発動要件(行政処分の処分要件)である労働組合法7条各号所定の要件への該当性について論点も踏まえながら論じたり、救済命令の申立人適格(行政事件訴訟の原告適格みたいなもの)を確認するだけなので、行政法の延長(見方によっては、民法の延長)に位置づけることができます。

このように、労働法は、基本7科目との共通性が強い科目であるため、勉強を進めやすいです。

特徴3 実務で使う頻度が高い

人間は感情に大きく左右されるため、何かをやる上で、モチベーションは非常に重要です。

モチベーションの高低は、学習効果が影響します。上記2つの観点から自分にとって勉強がしやすい科目であったとして、どうしても関心を持つことができない科目であれば、モチベーションが上がらないということもあります。

したがって、その科目自体の興味を持つことができるか、合格後に実務家として使う可能性・頻度などから、自分が関心を持つことができる科目を選択するということは、モチベーションを上げることができ学習効果を高める上で非常に重要です。

労働法は、倒産法と並んで、実務家として使う可能性及び頻度が非常に高いですから、実務に出てから頻繁に使用する科目を勉強したいという方にとっても、労働法は非常にお薦めの科目です。

出題の概要

労働法の分類

労働法は、労使間に契約自由の原則をそのままの形で適用した場合に労働者が使用者(≒雇主)との関係で不利な立場に置かれがちであるということに配慮して、労使間の実質的対等性を確保することを目的として特別な法的規律を定めている個々の法律の総称を意味します。

労働法は、対象領域の違いに応じて、雇用関係法(労働基準法など)、集団的労働法(労働組合法など)、雇用保障法(雇用保険法など)に分類されます。

雇用関係法は、個々の労働者と使用者との間の雇用関係を規律する法律の総称です。代表的なものとしては、労働基準法と労働契約法が挙げられます。これらは、労働条件の最低水準を定めています。1日・1週間の労働時間の上限、就業規則による労働契約の内容の規律(変更)の可否・限界、賃金の支払方法、懲戒処分・解雇、労働者間での差別など、労働者の労働条件その他の待遇について、様々な規律が設けられています。

集団的労働法は、司法試験・予備試験対策としては、主として、労働組合法を意味します。労働者は、労働条件の最低水準については労働基準法等で確保してもらえますが、最低水準を超える労働条件を実現するためには、使用者との交渉により合意を獲得する必要があります。もっとも、労働者個人で使用者との間で対等な交渉をすることは困難です。労働者としては、労働組合という労働者集団を組織し、集団的な交渉を行うことで、使用者と対等な交渉を実現し、ひいては最低水準を超える労働条件を内容とする合意を獲得しやすくなります。そこで、憲法28条は、団体交渉の助成を基本目的として、団体交渉と、そのための団結・団体行動について、労働基本権として保障しています。これを受けて、労働組合法が定められています。労働組合法では、労働組合の組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い、労働組合からの団体交渉の申入れに対する使用者側の対応、使用者による労働組合の組織・運営に対する支配・干渉、使用者により団結・団体交渉・団体行動を妨害等された場合における行政救済、労働組合と使用者の間で締結される労働協約の効力といった、集団的労使関係について規律を設けています。

雇用保障法は、労働者の就職サポート、職業能力開発支援、失業者の生活保障といったことを目的とした個々の法律の総称です。職業安定法、職業能力開発促進法、雇用保険法などがあります。司法試験・予備試験対策としては、雇用関係法と労働組合法が重要であり、基本的には、司法試験の第1問では雇用関係法メインの出題がなされ、第2問では労働組合法メインの出題がなされます。雇用保障法が司法試験・予備試験で出題される可能性は極めて低いです。

なお、令和4年司法試験では、第2問において労働組合法の論点のみならず、労働保護法の論点も正面から問われました。労働保護法の学習範囲が労働組合法に比べて3倍近くあることからも、令和4年の出題傾向が今後も続くかもしれません。

出題範囲

司法試験では、選択科目が大問2つから構成されており(第1問と第2問に分かれており)、労働法の場合には、第1問では労働保護法から出題され、第2問では労働組合法中心の出題がなされます。

これに対し、予備試験では、選択科目は大問1つだけであり、令和4年・令和5年には、労働保護法だけから出題されました。

労働法保護法(労働基準法、労働契約法等)における出題例は次の通りです。

労働組合法における出題例は次の通りです。

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経済法について

講師プロフィール

加藤 駿征(第一東京弁護士会所属)

加藤駿征講師は、経済法1位・総合5位という大変優秀な成績で司法試験に合格し、都内大手法律事務所に勤務にする一方で、法科大学院の学生を対象とした経済法ゼミの経験も有しています。

自身が担当する経済法講座では、開講1年で科目別6位合格者も輩出しています。

  • 経済法1位(受験者865人)・総合5位(受験者6889人)で司法試験に合格(2016年)
  • 都内の大手弁護士事務所に入所し、現在はニューヨーク州の弁護士資格を得るために留学中
  • 弁護士として「下請法の法律相談」(株式会社青林書院)も執筆
  • 加藤ゼミナールで経済法講座を担当する

科目の特徴

特徴1 記憶の負担が小さい

経済法では、独占禁止法が実質的な出題範囲であるところ、独占禁止法では、手続に関する条項を除いた実体的な違反行為を定めた条項の数は多くはありません。

また、独占禁止法の条文の中でも出題可能性のある条文の数はさらに限定されるうえ、各条文で共通・類似する概念も多いため、一つの概念を覚えてしまえば、他の条項についてもそれを汎用でき、インプットの負担は大きくはありません。

例えば、独禁法上の重要な条文に私的独占(2条5項)と不当な取引制限(2条6項)という司法試験頻出の条項がありますが、以下で見るように両者の要件は下線の部分については一致しており、その多くが共通しています。

私的独占 事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
不当な取引制限 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

経済法速修テキストのサンプル

特徴2 刑法との相性がいい

経済法の答案は、適用条文に定められた要件の意義・定義についての理解を示したうえで、淡々とそれに当てはめていくことから、刑法各論の答案作成にイメージが近いので、刑法が得意な方にとっては答案作成がしやすい科目といえます。

特徴3 現場思考できる能力が求められること

経済法は、行為が一定の要件にあてはまるだけでは違法とはならず、当該行為が市場へ一定悪影響を及ぼす場合に違法となります(上記の条文で見た「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」という要件がこれにあたり、効果要件と呼ばれます。)。

そして、ある行為が、市場に対して、どのような悪影響を及ぼすのかについては、問題文の事情にしたがってケースバイケースで判断を行う必要があるので、事前に一定の事項をインプットしている(知識がある)ということだけでは対応が難しく、現場思考できる能力が必要となり、この点については憲法、行政法、刑事訴訟法に類似しているといえます。

現場思考力が求められることから、勉強量が点数に直結しない可能性がある点を経済法のデメリットと捉えられる方もいるようですが、現場思考重視故に事前に準備すべき事項が少なくなるという意味では、経済法のメリットにもなります。

また、法の考え方のコアの部分の理解さえできていれば、(細かい知識がなくとも)現場で考えることである程度は解けるということになり、「勉強量が比較的少なくとも点数が取れる」コストパフォーマンスの高い科目であるといえます。

私自身も受験生のときには、経済法については、過去問を一通り解き、法のコアの部分を理解したあとは、基本科目の勉強に集中しており、経済法の対策に大きく時間を割くということはしていませんでした。

特徴4 実務でもその知見が求められること

独占禁止法は、一定規模以上の合併等については、公正取引委員会への事前のドキュメントの提出を要求しており、一定規模以上のM&Aの場面では必ず問題になりえますので、将来、M&A法務に携わりたいと考えている方は、学んだことを実務で用いる経験もあります。

出題の概要

令和6年司法試験用法文登載法令によれば、司法試験における「経済法」には、以下の4分野があります。

①独占禁止法関係

②入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律

③下請代金支払遅延等防止法(いわゆる、下請法)

④不当景品類及び不当表示防止法(いわゆる、景表法)

このうち、①以外の分野については、過去の司法試験での出題はなく、ロースクール等での講義も基本的に①に対応しているので、対策すべきは①で十分であると考えています。

 出題については、問題文の行為について、それが市場に対してどのような悪影響があるのかを分析しながら、適用条文にあてはめていく問題がほとんどですが、時折、差止請求、課徴金等の手続的なサンクションについて問われる場合もあります。

以下は、不当な取引制限に関する平成28年司法試験第2問の改題及び参考答案です。

(事案)
 A社は、日本で一般消費者向け電子機器甲(以下「甲」という。)の製造販売に従事する事業者である。甲は、平成21年に初めて販売された画期的な製品であり、世界全体で甲を製造販売している事業者は、現時点で、A社以外には、やはり日本に拠点を置くB社しか存在しない。A社とB社は激しくシェアを争っており、各社のシェアの年による変動は大きい。
 C社及びD社は、甲に使用される部品である乙の製造販売に従事する事業者であり、いずれもA社との間で取引を行っている。A社が製造する甲に用いられる乙は、固有の仕様と性能を求められるため、A社が製造する甲以外の電子機器に転用することは不可能である。C社及びD社以外に、世界で乙の製造販売に従事する事業者としては、中国に拠点を置くE社が存在し、E社は、B社が製造する甲向けに乙を製造し、B社に納入していた。
 平成26年12月頃、取引先の拡大を図ろうとしたE社は、A社と取引を新たに開始することとした。E社のA社に対する乙の納入開始は、平成27年12月頃に予定されており、この事実については、平成26年の年末までにはC社及びD社も認識していた。
 平成27年1月初旬、C社の営業担当取締役rとD社の営業担当取締役sは、A社からの厳しい交渉状況やE社の参入も考慮して、平成27年4月~6月期(以下「本期」という。)における乙の単価に関して、受注数量が200万個以上を前提に、2950円を下回らない範囲で値上げを行うことに合意(以下「本件合意」という。)した。
 なお、rとsは、それぞれC社とD社において、乙の価格を決定する権限を有していた。
 C社とD社は、本件合意に基づいてA社とそれぞれ交渉した。A社は、価格引上げに強い抵抗を示したものの、結局、本期分の乙の単価について、C社は2960円で、D社は2970円でA社と妥結した。なお、本期分の乙の受注数量は、C社が270万個、D社が200万個であった。
(設問)
 C社及びD社の本件合意について、独禁法上の問題点を分析して検討しなさい。
(答案)
1.CDの乙の価格に係る本件合意は、独禁法2条6項にあたり、3条後段に反しないか。
2.CDは、乙の製造販売業者であるから、「事業者」にあたる。
3.また、CDは、相互に形式的競争関係にある独立した事業者であるから「他の事業者」にあたる。
4.「共同して」とは意思の連絡があることをいう。意思の連絡は、複数事業者間で相互に他社の価格引き上げを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思を有することをいい、明示の意思連絡までは不要であり、相互に他の事業者の対価引き上げを認識して暗黙のうちに認容することで足りる。
 本件では、CDは、本期の発注については、200万個以上を受注することを前提に2950円を下回らない範囲で乙の価格を定めることについて、互いに明示に合意しているから、明示的に複数事業者間で相互に他社の価格引き上げを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思を有するといえ、「共同して」といえる。
5.「相互に…拘束」が認められるためには、拘束の共通性及び拘束の相互性が認められる必要があり、拘束の共通性については、目的が共通であれば、拘束内容が一致している必要まではなく、拘束の相互性については、合意を遵守し合う関係にあれば足りる。
 CDは本件合意を形成したことにより、本来価格決定につき自由に決定できるところ、それができなくなったという意味で本件合意を遵守しあう関係があるといえるし、相互に同一内容の拘束を受けているから、拘束の相互性及び共通性も認められ、事業活動を「相互…拘束」されている。
6.「一定の取引分野」は行為が競争に対して影響を与える場である市場を意味し、需要の代替性を基準にして対象商品、地理的範囲等を画定する。
 本問でA製の甲に用いられる乙(以下「A向け乙」という。)は固有の仕様と性能を求められるものであるから、A向け乙の値段が上がったからと言ってAが他社向け乙に乗り換えることは考え難く、A向け乙は他社向け乙とは需要の代替性がない。
 したがって、本期におけるA向け乙の国内製造販売市場を画定できる。
7.「競争を実質的に制限」とは、特定の事業者又は事業者集団がその意思である程度自由に価格数量品質その他各般の取引条件を左右できる力である市場支配力を形成・維持・強化することをいう。
 本問では、A向け乙は固有の仕様等から他の電子機器に転売できず、需要者はAしかいないことからすれば需要者圧力は一定程度働きうる状況であるといえるし、Aは他社と激しくシェアを争っていることからすれば需要者からの価格引き下げ圧力は大きそうである。
 しかし、CDはA向け乙のシェアの100%を占めており、AはCD以外からA向け乙を購入することはできないのであるからCDが結託した場合には他社への乗り換えなどにより需要者圧力を発揮することはできない。現にAはCDの価格引上げに強く抵抗するなどして需要者圧力を働かせようとしているにもかかわらず、CDは、受注数量200万個以上を前提に2950円を下回らない範囲での価格設定という事前の合意通りの価格設定に成功したのであり、需要者圧力が働いていないことは明らかである。
 Eが平成27年2月の段階では新規参入することが予定されているのでE参入以後は競争圧力、需要者圧力が働くと考えられるが、本期分ではEは市場に参入する余地はないのであり、Eからの新規参入競争圧力も働かない。
 したがって、CDの価格引上げに対して有効に機能しうる圧力は存在しないから、CDは、市場支配力を形成したといえ、「競争を実質的に制限」に当たる。
8.以上より、CDの行為は2条6項に該当し3条後段に反する。

勉強法

経済法は、出題範囲が狭く、同一の条文に関する出題が繰り返されている点から、早めにインプットを終わらせたら、問題演習を通じて知識と答案の書き方を定着させるというアウトプット重視の勉強法が効果的です。

特に、書き方で点数が左右される部分があるので、実際の過去問を検討する中で、答案の書き方をマスターしていく必要があります。過去問では、ほぼ全ての分野がフォローされているため、基本的には過去問を対策することで試験対策としては十分であると考えています。

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倒産法について

講師プロフィール

深澤 直人(令和5年司法試験合格者)

深澤講師は、受験生時代には加藤ゼミナールの司法試験講座で勉強しており、司法試験合格後、2024年から倒産法講座の講師として加藤ゼミナールに参画しました。

2021.3 上智大学法学部 卒業
2023.3 中央大学法科大学院 修了(総合GPA1位)
2023.11   司法試験合格(総合251位)

科目の特徴

特徴1 記憶の負担が少ない科目である

倒産法においては、条文が1にも2にも重要です。すなわち、試験では、主として、当該条文を検索することができるか(条文検索能力)、当該条文を運用できるか(条文適用能力)が求められています。

令和5年司法試験の採点実感は、「解答に当たっての思考の端緒となるものは、実定法の条文である。条文の重要性は、倒産法に限ったものではないし、ここで改めて指摘するまでもない。」と述べています。

この点からも条文が重要であることがわかります。

また、試験では、もちろん、論点や判例の理解も問われます。もっとも、論証として整理しておくべき論点は過去問に出題されたもので足り、また、判例は判例百選に掲載されている判例で足ります。また、労働法とは異なり、判例の下位基準まで正確に押さえなければならない判例はほとんどありません。

このように考えると、倒産法の主たる学習対象は、①条文、②司法試験で問われた論点、③判例百選掲載判例のうち重要な判例ということになります。

そのため、倒産法は、労働法に比べると、記憶の負担が少ない科目であるといえます。

特徴2 民事系科目との相性がいい

倒産法は、民事一般法である民法、商法、民事訴訟法、民事執行法及び民事保全法の特別法という位置づけになります。すなわち、経済的窮境にある債務者について、一般民事法の規律を適用すると、不都合があるために、倒産法が用意されているのです。

①一般民事法をそのまま適用することには、どのような不都合があるのか、②これを解消するために、倒産法は、一般民事法の規律をどのように修正していくのか、という視点で学習を進めることで、倒産法の規律を深く学ぶことができ、また、一般民事法の原則を正確に学ぶことができます。

特に、民法のうち、担保物権や債権総論の部分は学習がどうしても手薄になってしまいがちですが、倒産法においては、担保物権は別除権という形で、債権総論のうちの相殺の規律は相殺権という形で、詐害行為取消権についてはその似た権利として否認権を学ぶことになります。そのため、これらの規律についての苦手意識を克服ないし緩和することができます。これは、倒産法選択者の特権といってもよいです。

また、一般民事法の特別法という性質から、司法試験における問題文の事実も、民事系科目で見るような事実関係となっていることが多いです。

このような事実関係に対して、民事系科目の答案の書き方にしたがって、答案を書いていくことになります。つまり、答案作成の方法という観点から見ると、倒産法に特有の書き方というものはなく、すでに身につけた答案の方にしたがって答案を作成していけばよいということです。

たとえば、破産法の典型論点に関するものとして、以下の事例があります。

(事案)
 Aは、Bとの間で、本件土地についての売買契約を締結し、本件土地を売却した。
 その後、Aについて破産手続開始決定がなされ、破産管財人Xが選任された。Aについての破産手続開始決定がなされた時点において、本件土地について、AからBへの引渡しはなされておらず、また、AからBへの移転登記はなされていない。
 この場合に、Bは、Xに対して、本件土地の明渡しを求めることができるか。
(答案)
1.BのXに対する本件土地の所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求が認められるか。
(1)上記請求は、「取戻権」の行使であり、破産手続によらずに行使することができる(破62条)。
 Bは、Aとの間で本件土地についての売買契約を締結し、本件土地の所有権を取得した。また、Xは、本件土地を占有している。そのため、上記請求の請求原因事実が認められる。
(2)これに対して、Xは、本件土地について登記を有しないBは、「第三者」(民法177条)であるXに「対抗することができない」と反論すると考えられる。
では、Xは、「第三者」に当たるか。破産管財人の第三者性が問題となる。
 ア. 破産手続開始決定により破産管財人は破産者の財産の管理処分権を取得する(破78条1項)から、破産管財人は、原則として、破産者の一般承継人と同視される地位を有する 。しかし、破産手続開始による財産の管理処分権の破産管財人への専属は実質的な包括差押えであり、破産管財人は、差押債権者類似の法的地位をも有するといえる。そこで、差押債権者が実体法上の「第三者」に該当する場合には、破産管財人は「第三者」に該当すると解すべきである。
 イ.「第三者」(民法177条)とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうところ、差押債権者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有するといえ、「第三者」に当たる。したがって、差押債権者が実体法上の「第三者」に該当するといえ、破産管財人であるXは「第三者」に当たる。
  よって、本件土地について登記を有しないBは、「第三者」であるXに対抗することができない。
2.以上より、BのXに対する上記請求は認められない。

上記の答案は、ほとんど民法の答案の書き方にしたがって、書かれています。倒産法のうちの実体法に係る部分は、このように民法や会社法における答案と同じように書いていけばよいのです。また、倒産法のうちの手続法に係る部分は民事訴訟法における答案と同じように書いていけばよいです。

両者に共通しているのは、適用される条文の特定・明示→“全”要件充足性の検討→効果の発生・不発生の明示という流れです。新しいことは何もありません。

このように、倒産法は、民事一般法との相性が良い科目であるため、インプットにおいてもアウトプットにおいても、勉強を進めやすいです。

特徴3 重要分野については過去問で対応できる

倒産法においては、重要分野についての条文および論点が何度も出題されています。そのため、過去問を重点的に学ぶことで、出題範囲をある程度網羅することができます。

また、過去問が蓄積しているということは、出題趣旨および採点実感も蓄積しているということです。そのため、出題趣旨および採点実感を徹底的に分析することで重要分野についての処理手順を確立させることができます。

たとえば、相殺権(破67条)に関する問題が出題された場合には、まず、①破67条から出発することが必要であります。なぜならば、破71条1項、72条1項は、破67条の例外規定であるため、まず原則である67条の適用があることを示さなければならないからです(司H28採点実感、司R3採点実感、司R4採点実感参照)。次に、②破71条1項・72条1項が規定する相殺禁止に該当するか否かを検討します(司R4採点実感参照)。最後に、③破71条2項・72条2項が規定する相殺禁止の解除について検討することになります(司R4採点実感参照)。

このように、重要分野については、司法試験委員会が求める処理手順というものを事前に準備することが可能となっています。

特徴4 見たことのない条文および現場思考が問われること

倒産法では、見たことのない条文が問われることがあります。

この場合は、落ち着いて、その問題文の事実関係を正確に分析し、適用される条文を検索し、当該条文の要件にしたがって、答案を作成していくことになります。

問題文の事実関係は必ず使うことができるようにできていますから、問題文の事実に対応する条文がどこかにあるはずです。この姿勢で、六法の目次から、関連しそうな条文を探してみると適用される条文が見つけられる可能性が高いです。

また、倒産法においては、現場思考が問われます。現場思考論点においては、適用される条文を特定・明示したうえで、当該条文のどの要件の解釈が問題になるのかを明示し、あてはめから逆算して規範を定立することになります。

このような問題であっても、対処方法は、民事系科目におけるそれと何ら変わりありません。

特徴5 実務で使う頻度が高い

加藤喬講師も労働法の科目特徴のところで述べている通り、人間は何かをやる上で、モチベーションが非常に重要です。特に、司法試験についていうと、モチベーションの高低が学習効果に影響を与えます。

倒産法は、労働法と並んで、実務家として使う可能性及び頻度が高い科目です。そのため、実務に出てから頻繁に使用する科目を、受験勉強の段階から勉強したいという方にとっても、倒産法は非常におすすめの科目です。

出題の概要

総 論

わが国では、「倒産法」という名称の法律はなく、倒産に関連して施行されている法的整理を総称して、倒産法と呼んでいます。具体的には、破産、民事再生、会社更生、特別清算の4種があります。

このうち司法試験および予備試験で出題されるのは、破産法および民事再生法です。司法試験においては、通常、第1問が破産法、第2問が民事再生法となっています。また、予備試験においては、令和4年予備試験では破産法が、令和5年予備試験では民事再生法が問われています。

条文を重視したインプット

倒産法のインプットにおいては、とにかく条文を意識することが重要です。すなわち、大体何条のあたりに、どういう制度があるのかを事前にイメージし、そして、当該条文が定める要件は何なのかを明確に意識して学習をすることが重要です。

なぜならば、上記の通り、倒産法では、とにかく条文が重視されるからです。

事前に要件がどのように定められているかを把握しておくことで、試験の現場においても慌てることなく、条文の“全”要件充足性を検討することができます。

普段の学習から、逐一条文を引き、また、その際には、学習しようとしている隣の条文などの周辺条文も読み込んでどのような条文、制度があるのかを把握しておきます。この意識で学習をすることで、普段から条文を重視する癖がつき、他の科目においても条文を重視することができるようになるという相乗効果も狙えます。

勉強法

過去問の学習

倒産法は、重要分野については過去問で対応できる科目です。

このような特徴から、インプットが終わったら、なるべく早めに過去問の演習に着手することが重要です。早めに過去問に触れることで、司法試験委員会が求める答案の型、というものを習得することができます。

特に、平成29年以降の司法試験の出題趣旨及び採点実感は、受験生の答案作成の指針となる部分が多くあります。

倒産法講義では、アウトプットを意識して速修テキストを作成しています。すなわち、過去問で何度も出題されている分野については、論点解説における具体例として過去問の改題を用いたり、司法試験の出題趣旨及び採点実感を基にした処理手順を速修テキストに盛り込んだりしています。また、重要分野については、インプットの段階から処理手順を身に付けるために、倒産法速修テキストには、重要分野の短文事例問題と答案例も反映しています。

インプットの段階で過去問を学び、アウトプットの段階でも過去問を学ぶことで、過去問の処理手順を身に付けることができます。

民事再生法の学習の指針

民事再生法の学習においては、まず、破産法を重点的に学び、その次に、民事再生法特有の問題として、破産法と違う部分・破産法にない規律を中心的に学ぶことが試験対策で最も近道であります。なぜならば、破産法と民事再生法は共通する部分が多いため、破産法のインプットが民事再生法のインプットにつながるという側面があるからです。

具体的には、破産法において取戻権、別除権、相殺権、否認権といった分野を学びますが、細かい点を捨象すると、民事再生法においてもこれと対応する規定があります。この場合、民事再生法の当該分野についての学習はすでに破産法の学習で終了しているといえます。あとは、破産法にない担保権実行手続中止命令(民再31条)や再生計画に関する規定(民再154条以下)等を学ぶことになります。

また、試験においては、破産法と民事再生法との違いが問われることもあります。

たとえば、以下のような問題が出題されています。

破産法と民事再生法の異同が問われるというのは、当然ながら、破産法と民事再生法で規律が異なる部分が問われることになります。

そのため、普段の学習から、破産法と民事再生法とで規律が異なる部分を先取りする形で押さえておくことが重要です。逆にいうと、破産法と民事再生法の違う部分をインプットしておくだけで、破産法と民事再生法の異同を問う問題に対応することができます。

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