加藤ゼミナールについて

性犯罪関連の令和5年改正の概要

性犯罪関連の改正法が令和5年7月13日に施行されています(※時効期間の延長に限り、令和5年6月23日施行)。

令和6年以降の司法試験・予備試験は「当該年の1月1日現在において施行されている法令に基づいて出題」されますので、令和6年以降の司法試験・予備試験では、令和5年改正法を前提として解答することになります。

 

1.令和5年改正の概要

(1) 不同意わいせつ罪・不同意性交等罪へと再構成

令和5年改正により、性犯罪が強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・強制性交等罪・準強制性交等罪から不同意わいせつ罪・不同意性交等罪へと解消・再構成されました。

改正前は、性犯罪の手段が「暴行」「脅迫」「抗拒不能」というように抽象的であるため、その該当性判断が困難であり、裁判体によって判断が分かれることも少なくありませんでした。そこで、性犯罪の罰則規定の安定的な運用のために不同意わいせつ罪・不同意性交等罪を新設し、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」が性犯罪の実質的な要件であることを示すとともに、その原因となりうる行為・事由を列挙することにより、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・強制性交等罪・準強制性交等罪は不同意わいせつ罪・不同意性交等罪として解消・再構成されることになりました。

(2)「性交等」に当たる行為の拡張

従来の強制性交等罪では、処罰対象である「性交等」が陰茎の挿入(=陰茎を「肛門」「口腔」「膣内」のいずれかに挿入し又は挿入させること)に限定されていましたが、令和5年改正により、「肛門」「膣内」のいずれかに陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為であってわいせつなものも「性交等」に含まれることになりました。

(3) 同意年齢の引き上げ

令和5年改正により、わいせつ行為・性交等の同意年齢が「13歳」から「16歳」に引き上げられました。

なお、相手方が13歳以上16歳未満の場合は、行為者が相手方よりも5歳以上年長であることが成立要件となります(新176条3項、新177条3項。これを「5歳差要件」という。)。

(4) 配偶者間でも性犯罪が成立する旨の明記

令和5年改正により、不同意わいせつ罪及び不同意性交等罪において、「配偶者間では性犯罪は成立しない」との誤解を払拭するために、「婚姻関係の有無にかかわらず」という確認規定が設けられました(新176条1項、新177条1項)。

(5) 懲役刑から拘禁刑への変更

自由刑が「懲役」から、懲役と禁錮を一本化して新設された「拘禁刑」に変更されました。

(6) 16歳未満の者に対するわいせつ目的面会要求等罪の新設

同罪の新設により、①16歳未満の者に対し、わいせつ目的で所定の方法・態様により面会を要求すること(新182条1項)、②①の要求をして実際に16歳未満の者と面会したこと(新182条2項)、③16歳未満の者に対し、性的姿態を撮影してその映像を送信するよう要求すること(新182条3項)が処罰対象となりました。

(7) 関係法規の改正

関係法規の改正のうち、特に重要なものは次の通りです。

  • 強盗・強制性交等及び同致死罪(旧241条)から強盗・不同意性交等及び同致死罪(新241条)に変更
    罪名の変更にとどまり、実質的な変更はありません。
  • 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律の新設
    この特別法の新設により、性的な姿態を撮影する行為等が処罰対象となった。
  • 性犯罪の公訴時効期間の伸長(新250条3項2号・3号、4項)
    不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、不同意わいせつ等致死傷罪並びに強盗・不同意性交等及び同致死罪の公訴時効期間が伸長されるとともに、「被害者が犯罪行為が終わつた時に18歳未満である場合における時効」の起算点が実質的に「当該被害者が18歳に達する日」まで伸長されます。
  • 司法面接的手法で得られた供述を記録した記録媒体の証拠能力について証拠能力を認める規定の新設(321条の3)
    本規定は、伝聞例外に関する規定です。

 

2.性犯罪に関する刑法改正

① 不同意わいせつ罪

旧176条(強制わいせつ)
 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
新176条(不同意わいせつ)
1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
 一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

1項の類型

不同意わいせつ罪におけるわいせつ行為の手段は「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」であり、新176条1項では、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」を実質的な要件として、その状態の原因となり得る行為・事由を各号で列挙しています。

旧強制わいせつ罪の主観的構成要素として性的意図は不要であることと、「わいせつな行為」該当性の判断において性的意図の有無・内容が考慮される場合があることの2点を内容とする最高大判29年11月29日は、不同意わいせつ罪にも適用されると考えられます。

2項の類型

新176条2項は、「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。」と定めることにより、旧準強制わいせつ罪の手段であった「抗拒不能に乗じ、又は抗拒不能にさせて」という場合をより明確化しました。

3項の類型

新176条3項は、「16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。」と定めることにより、①わいせつ行為に関する同意年齢を13歳から16歳に引き上げる一方で、②相手方が13歳以上16歳未満の場合について5歳差要件を設けています。

なお、1項又は2項の要件を満たす場合は、相手方の年齢や5歳差要件の充足の有無にかかわらず、1項又は2項の不同意わいせつ罪が成立します。

② 不同意性交等罪

旧177条(強制性交等)
 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
新177条(不同意性交等)
1 前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

処罰対象は、①男性の陰茎を女性の膣内に挿入する「姦淫」(平成29年改正前)→②「性交」「肛門性交」「口腔性交」(平成29年改正後)→③「性交」「肛門性交」「口腔性交」+「肛門」「膣内」のいずれかに陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為であってわいせつなもの(令和5年改正後)というように拡大されています。

犯罪の類型及び成立要件は、不同意わいせつ罪と同様です。

③ 準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の削除

旧178条(準強制わいせつ及び準強制性交等)
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

令和5年改正により、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・強制性交等罪・準強制性交等罪から不同意わいせつ罪・不同意性交等罪へと解消・再構成されたことに伴い、準強制わいせつ罪・準強制性交等罪に関する旧178条は削除されました。

④ 監護者わいせつ罪・監護者性交等罪

現179条(監護者わいせつ及び監護者性交等)
1 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
1 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。

本罪についての変更はありません。

⑤ 不同意わいせつ等致死傷罪

旧181条(強制わいせつ等致死傷)
1 第176条、第178条第1項若しくは第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
2 第177条、第178条第2項若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。
新181条(不同意わいせつ等致死傷)
1 第176条若しくは第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
2 第177条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役に処する。

旧強制わいせつ等致死傷罪に関する①「致傷」の原因行為及び②行為者が死傷につき故意を有する場合の処理という論点は、不同意わいせつ等致死傷罪にも妥当すると考えられます。


⑥ 16歳未満の者に対する面会要求等罪

新182条(16歳未満の者に対する面会要求等)
1 わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
 一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
 二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
 三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該16歳未満の者と面会をした者は、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
3 16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第2号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)は、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
 一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。
 二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

同罪の新設により、(1)16歳未満の者に対し、わいせつ目的で所定の方法・態様により面会を要求すること(新182条1項)、(2)(1)の要求をして実際に16歳未満の者と面会したこと(新182条2項)、(3)16歳未満の者に対し、性的姿態を撮影してその映像を送信するよう要求すること(新182条3項)が処罰対象となりました。

3.関係法規の改正

関係法規の改正のうち、特に重要なものは次の通りです。

① 強盗・不同意性交等及び同致死罪

241条(強盗・強制性交等及び同致死)
1 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第179条第2項の罪を除く。以下この項において同じ。)第1若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は7年以上の懲役に処する。
2 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 第1項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。
新241条(強盗・不同意性交等及び同致死)
1 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が第177条の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は同条の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は7年以上の懲役に処する。
2 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 第1項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。

罪名が「強盗・強制性交等及び同致死罪」から「強盗・不同意性交等及び同致死罪」に変更されていますが、実質的な変更はありません。

旧強盗・強制性交等及び同致死罪における論点にも変更はないと考えられます。

② 性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律の新設

  第1章 総則
第1条 この法律は、性的な姿態を撮影する行為、これにより生成された記録を提供する行為等を処罰するとともに、性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収を可能とし、あわせて、押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等の措置をすることによって、性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止することを目的とする。
  第2章 性的な姿態を撮影する行為等の処罰
第2条(性的姿態等撮影)
 (略)
第3条(性的影像記録提供等)
 (略)
第4条(性的影像記録保管)
 (略)
第5条(性的姿態等影像送信)
 (略)
第6条(性的姿態等影像記録)
 (略)
第7条(国外犯)
 (略)
  第3章 性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収
第8条 (略)
  第4章 押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等
第9条~第45条 (略)

特別法として新設された同法では、(1)性的な姿態を撮影する行為等を処罰対象とした上で(2条~7条)、(2)性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収(8条)及び(3)押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等(9条以下)について定めています。

法律の全文はこちら

③ 性犯罪の公訴時効期間の伸長

旧250条(公訴時効期間)
1 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
 一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については 30年
 二 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については 20年
 三 前2号に掲げる罪以外の罪については 10年
2 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
 一 死刑に当たる罪については 25年
 二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については 15年
 三 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については 10年
 四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については 7年
 五 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については 5年
 六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については 3年
 七 拘留又は科料に当たる罪については 1年
250条(公訴時効期間)
1 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

 一 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については 30年
 二 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については 20年
 三 前2号に掲げる罪以外の罪については 10年
2 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
 一 死刑に当たる罪については 25年
 二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については 15年
 三 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については 10年
 四 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については 7年
 五 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については 5年
 六 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については 3年
 七 拘留又は科料に当たる罪については 1年
3 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての時効は、当該各号に定める期間を経過することによつて完成する。
 一 刑法第181条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同法第241条第1項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和5年法律第9号)第4条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 20年
 二 刑法第177条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪 15年
 三 刑法第176条若しくは第179条第1項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第60条第1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 12年
4 前2項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に18歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによつて完成する。

令和5年改正により250条に3項が追加されたことで、一部の性犯罪の公訴時効期間が伸長されました。

    • 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪 7年(旧250条2項4号)
         
      不同意わいせつ罪・監護者わいせつ罪 12年(新250条3項3号)
    • 強制性交等罪・準強制性交等罪 10年(旧250条2項3号)
         
      不同意性交等罪 15年(新250条3項2号)
    • 強制わいせつ等致傷罪、強盗・強制性交等罪 15年(旧250条2項2号)
         
      不同意わいせつ等致傷罪、強盗・不同意性交等罪 20年(新250条3項1号)
    • 強制わいせつ等致死罪、強盗・強制性交等致死罪 30年(旧250条1項1号)
         
      不同意わいせつ等致死罪、強盗・不同意性交等致死罪 30年(新250条1項1号)
      ※変更なし

また、250条に4項が追加されたことにより、「被害者が犯罪行為が終わつた時に18歳未満である場合における時効」の起算点が実質的に「当該被害者が18歳に達する日」まで伸長されています。

④ 司法面接的手法で得られた供述を記録した記録媒体の証拠能力について証拠能力を認める規定の新設

新321条の3
1 第1号に掲げる者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間における供述及びその状況を記録したものに限る。)は、その供述が第2号に掲げる措置が特に採られた情況の下にされたものであると認める場合であつて、聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるときは、第321条第1項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。

 一 次に掲げる者
  イ 刑法第176条、第百177条、第179条、第181条若しくは第182条の罪、同法第225条若しくは第226条の2第3項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下このイにおいて同じ。)、同法第227条第1項(同法第225条又は第226条の2第3項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第3項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくは同法第241条第1項若しくは第3項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者
  ロ 児童福祉法第60条第1項の罪若しくは同法第34条第1項第9号に係る同法第60条第2項の罪、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第4条から第8条までの罪又は性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律第2条から第6条までの罪の被害者
  ハ イ及びロに掲げる者のほか、犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
 二 次に掲げる措置
  イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置
  ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置
2 前項の規定により取り調べられた記録媒体に記録された供述者の供述は、第295条第1項前段の規定の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。

新321条の3は、(1)不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の被害者など一定の聴取対象者からの聴取結果を記録した録音・録画媒体について、「その供述が第2号に掲げる措置が特に採られた情況の下にされたものであると認める場合であつて、聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるとき」を要件として、伝聞例外として証拠能力が認められると定めるとともに、(2)「この場合、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。」と定めています。

これは、伝聞例外として新設された規定です。

 

【参考資料】

  • 北川佳世子「令和5年刑法及び刑事訴訟法の一部改正法——刑法に係る改正事項について」法学教室12月号 44~49頁 (2023年・有斐閣)
  • 川出敏裕「令和5年刑法及び刑事訴訟法の一部改正法——性犯罪に係る刑事訴訟法の改正について」法学教室12月号50~55頁(2023年・有斐閣)
  • 法務省ホームページ「改正法等の概要のPDF(詳細版)」
    https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html
  • 法務省ホームページ「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
    https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html

 

執筆者
加藤 喬 加藤ゼミナール代表・弁護士
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院 修了
総合39位・労働法1位で司法試験合格
基本7科目・労働法・実務基礎科目の9科目を担当