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令和7年予備試験論文式 解答速報

2025年09月07日

令和7年予備試験論文式の解答速報ページとなります。

加藤喬講師が作成した参考答案と解説を公開しております。

試験傾向を分析したり、ご自身の答案を評価する際に、お役立ていただけたらと思います。

試験問題はこちら

 

憲 法

青少年の健全育成という立法目的に基づく有害差別図書の販売等の規制を定める法律(以下「新法」という。)の憲法21条1項適合性が問われており、類題としては、フィルタリングソフト法案の憲法21条1項適合性が問われた平成20年司法試験「憲法」、有害図書の販売等の規制を定める自主条例案の憲法21条1項適合性が問われた平成30年司法試験「憲法」が挙げられ、参考判例としては岐阜県青少年保護育成条例事件(最三小判例 平成元年9月19日)が挙げられます。なお、基礎問題演習講座「憲法」第20問でも同種の問題を取り上げています。

設問では、「参考とすべき判例に言及し」とあるため、岐阜県青少年保護育成条例事件をはじめとする参考判例に明示的に言及しながら論じる必要があり、その際には、同事件に付されている伊藤正己裁判官の補足意見にまで言及することが重要になってきます。なお、目的手段審査(当てはめ)では、参考判例に言及すれば、その分だけ紙面を食うことになるとともに、着眼点が絞られてしまうため、問題文の事情を使い切ることができないという悩みもありますが、私の答案では、問題文の事情を使い切ることよりも、参考判例に言及することを優先しています。この種の問題において、「参考となるべき判例に言及し」という指示に反して問題文の事情を網羅的に取り上げると、観点を羅列したにとどまる答案になってしまう可能性もあるかです。

問題文の最後には、「新法施行と同時に図書Aが包括指定を受け、その後、図書Bが個別指定を受けた。」とあり、設問(1)では「青少年が図書Aを購入できないこと」の憲法21条1項適合性が、設問(2)では「成人が年齢確認を受けなければ図書Bを購入できないこと」の憲法21条1項適合性が問われています。

問題文の最後に引っ張られて、設問(1)では包括指定自体の憲法21条1項適合性を、設問(2)では個別指定自体の憲法21条1項適合性を検討するのでは?と考える人もいるかもしれませんが、それは違います。本問で検討するべきは、適用違憲(処分違憲)ではなく、新法自体の法令違憲です。問題文には、図書Aに対する包括指定及び図書Bに対する個別指定について、適用違憲(処分違憲)を論じることができるだけの個別の事情が書かれていないからです。

したがって、設問(1)では、青少年の閲読の自由との関係で、新法のうち包括指定を定める部分の憲法21条1項適合性を論じ、設問(2)では、成人の知る自由との関係で、新法のうち個別指定を定める部分の憲法21条1項適合性を論じることになります。

なお、本問では、規制対象がヘイトスピーチを内容とする有害差別図書であるという特集性があり、憲法21条1項適合性を論じる際には、ヘイトスピーチというテーマについても論じる必要があります。その際には、ヘイトスピーチ自体の規制ではなく、ヘイトスピーチを内容とする有害差別図書を閲読する自由の規制の憲法21条1項適合性が問われているという問題状況を踏まえて、ヘイトスピーチという問題点を違憲審査のどこで・どう論じるのかについて、工夫をする必要があります。私の答案では、ヘイトスピーチという点は、目的手段審査(当てはめ)で言及するにとどめ、ヘイトスピーチであることを理由に知る自由の保障が否定されるのではないか、違憲審査基準が緩やかになる(中間審査の基準よりも緩やかになり、合理的関連性の基準にまで下がる)のではないか、という点については、敢えて言及していません。本問において、ヘイトスピーチという点は、岐阜県青少年保護育成条例事件における有害図書の内容との違いを通じて、主として目的手段審査で取り上げるべきテーマに位置付けられていると考えます。

 

行政法

設問1では、転飼許可の取消訴訟における既存の許可業者の原告適格が問われています。既存の許可業者の原告適格は、一般廃棄物収集運搬業の許可との関係で、令和5年予備試験でも出題されています。

解答におけるポイントは、次の2つです。

  • Y県蜜蜂転飼条例及び同条例施行規則は転飼許可の「根拠となる法令」に位置付けられる一方で、養蜂振興法は「当該法令と目的を共通にする関係法令」に位置付けられ、養蜂振興法及びY県蜜蜂転飼条例に関する手引は内部基準に位置付けられることを正しく把握した上で、根拠規定である条例3条の趣旨を明らかにする際に、条令及び条例施行規則の規定、養蜂振興法の規定及び上記手引を適切に考慮することが重要になってきます。
  • 原告適格を否定する立場からは、営業許可制の法的性質に着目して、既存の許可業者の営業上の利益は単なる事実上の反射的利益にとどまると立論することが考えられます。これに対し、判例は、適正配置等の需給調整に関する仕組みの有無に着目して既存の許可業者の営業上の利益の個別的利益性を判断しています。例えば、最二小判昭和37年1月19日は、公衆浴場業の許可制において、適正配置規制に着目して、既存の許可業者の営業上の利益の個別的利益性を認めており、最三小判平成26年1月28日は、一般廃棄物処理業の許可制において、需給調整に関する規制を解釈により導出した上で、それを根拠に既存の許可業者の営業上の利益の個別的利益性を認めています(「行政 判例百選Ⅱ」第8版164・165参照)。本問では、こうしたことを踏まえながら原告適格の有無を論じる必要があります。

設問2では、転飼許可の適法性が問われています。

条例3条2項1号の不許可事由に関する判断について都道府県知事の要件裁量を認めた上で、判断過程審査をすることになりますが、ここでポイントになるのが、【蜜源に対して蜂群数が「著しく」過剰である場合に限って条例3条2項1号の不許可事由に当たるとして許可をしない方針】に従って判断をすることの可否です。

最三小平成27年3月3日は、「行政手続法…12条1項に基づいて定められ公にされている処分基準」について、「裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点」を根拠に、「当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなるものと解され、この意味において、…行政庁の…裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことがき束されて」いるとして、法的拘束力を認めています。しかし、上記方針は、裁量基準と定められたものではありませんから、最三小平成27年3月3日のように考えて、法的拘束力を認めることはできません。せいぜい、「一定条件の下で、上記方針に従って裁量権を行使することができる」にとどまります。

設問1における既存の許可業者の原告適格は令和5年予備試験で出題されていますし、設問2は応用要素のある問題ですが、応用の土台となる判例知識は平成28年予備試験で出題されていますから、予備試験過去問をちゃんとやっていれば解答できる問題であり、過去問との相性が良い出題であったといえます。

 

刑 法

設問1では、登記済不動産(山林)の二重譲渡の事案において、①第一譲受人に対する横領罪(252条)の成否、②第二譲受人に対する詐欺罪(246条1項)の成否が問われています。

①については、横領の既遂時期も問われていると思いますが、多論点型の問題であることを踏まえて、「横領」の当てはめの中で既遂時期まで意識した論述をするにとどめています。

②については、第二譲受人は所有権移転登記を取得することで確定的に所有権を取得することができる(民法177条参照)ことを踏まえて、欺罔行為における重要事項性を論じることになります(大塚裕司「応用刑法Ⅱ」初版356~358頁、高橋則夫「刑法各論第5版408~409頁」)。参考裁判例として東京高判昭和48年11月20日がありますが、問題の所在を示した上で問題文の事情も使って自分なりに論じることができれば合格水準であると考えます。

” 不動産の所有者が第一の買主との間に不動産の売買契約を締結し、権利証その他の登記申請に必要な書類を交付している場合において、右買主の登記未了を奇貨として、これを他に売却し、第二の買主に所有権移転登記を経由させたときは、対抗力の取得を目的とする不動産取引の通例にかんがみ、第一の売買を告知しなかつたことは第二の買主の買受行為との間に詐欺罪の予定する因果関係を欠くのを通常とするのであるが、本件のように第二の買主において売買代金を交付し、不動産につき所有権移転請求権保全の仮登記を取得したが、いまだ所有権移転の本登記を取得しないうちに売買契約を解除するに至つたときは、右売買の経緯に照らし、第一の売買の存在およびその内容等が第二の買主の所有権移転登記の取得を断念させるに足りるもので、第二の買主が、もし事前にその事実を知つたならば敢えて売買契約を結び、代金を交付することはなかつたであろうと認めうる特段の事情がある限り、売主が第一の売買の存在を告知しなかつたことは詐欺罪の内容たる欺罔行為として、第二の買主から交付させた代金につき詐欺罪の成立があるものと解するのが相当である。”(東京高判昭和48年11月20日)

設問2は、実行担当者乙が客体の錯誤と方法の錯誤に陥っているという応用事例です。

乙の罪責では、④客体の錯誤と⑤方法の錯誤を区別して論じることになります。その上で、⑥成立する故意犯の個数についても言及する必要があります。

丙の罪責では、⑦共謀共同正犯、⑧共同正犯関係からの離脱、⑨共同正犯における具体的事実の錯誤が問題となりますが、いずれも簡潔に論じれば足ります。事案からして、⑦を大展開するようなケースではないですし、⑧が認められないことも明らかです。また、⑨の議論では、乙の罪責で論じた④~⑥を流用することになります。

例年と同様、多論点型の問題であるため、重要度を見極めて適切なメリハリ付けをしながら検討事項を網羅することが重要になってきます。

 

刑事訴訟法

設問1は、保護責任者遺棄罪の訴因について、死体遺棄罪の予備的訴因を追加することの可否が問われています。

少数論点型の問題であるため、基本的事実同一説を論じる際には、「公訴事実の同一性」の趣旨・機能にもちゃんと言及するべきです。その際、参考答案にある通り、機能概念説に立つのが無難です(古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第3版279~280頁)。機能概念説とは別に、二重処罰の実質が生じる事態を回避することに着目する見解もありますが、この見解から基本的事実同一説を導けるのかは定かではありません。

例えば、酒巻匡「刑事訴訟法」第2版302~304頁は、「法が訴因変更に限界を設定している趣旨・目的は、刑事手続による刑罰権(実体法)の具体的実現に際して、別訴で二つ以上の有罪判決が併存し二重処罰の実質が生じるのを回避することにある。「公訴事実の同一性」とは、このような目的のための道具概念と理解することができる。」とした上で、狭義の同一性について、「両訴因の事実の記載を比較したとき、両者が、1回の手続においてどちらか一方で一度だけ処罰すれば足りるかという観点から、両立し得ない択一関係にある場合である。すなわち、仮に別訴で両者が有罪とされれば実質的に二重処罰となり不当というべき関係が認められる場合である。」として、判例の基本的事実同一説ではなく、非両立性基準を全面に出して判断する見解を採用しています。また、古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第3版289頁・41)でも、二重処罰の実質が生じる事態を回避すること云々という説明について、「この箇所は、酒巻302頁によったものであるが、判例の採る基本的事実同一説の理由付けとして用いることができるかどうか、疑問がなくはない。基本的事実同一説の理由付けについては、判例は何も述べておらず、明確とはいえない。」とあります。

基本的事実同一説を使った当てはめの仕方(特に、共通性基準と非両立性基準の関係)については、試験直前の法律コラムでも詳細に取り上げているので、そちらもご確認ください。

なお、令和1年司法試験の採点実感でも言及されていることですが、裁判所が訴因変更請求を許可するに当たり、訴因変更が必要であることは要件とはなりませんから、平成26年司法試験設問2のように検察官の主張・立証方針の一環として訴因変更の可否が問題となっているような特殊なケースを除き、訴因変更の可否の前提として訴因変更の要否についてまで論じる必要はありません。

設問2は、裁判所が、遺棄した時点において、Vが生きていたか死んでいたかが明らかではないとの心証を得て、甲に死体遺棄罪が成立すると認定して有罪の判決をすることの可否を問う問題です。

メイン論点は『秘められた択一的認定』ですが、理論上は、保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪とが包摂・被包摂の関係にあるのであれば予備的認定が可能であるため、札幌高判昭和61年3月24日でも控訴趣意として予備的認定の可否に言及されていることも踏まえて、『予備的認定』についても言及しています。

『予備的認定は、2つの犯罪事実の間に包摂・被包摂の関係が認められる場合に許容されるものであるところ、保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪との間には包摂・被包摂の関係を認めることはできませんから、『予備的認定』を否定した上で『秘められた択一的認定』を論じ、『秘められた択一的認定』として、裁判所が甲に死体遺棄罪が成立すると認定して有罪の判決をすることを認めることになります。

なお、本問では、裁判所が「保護責任者遺棄罪又は死体遺棄罪である」として明示的に択一的認定をすることの可否は問われておらず、「死体遺棄罪である」と認定することの可否だけが問われているため、『明示的択一的認定』の可否について言及する必要はありません。

 

民 法

現在準備中です。

 

商 法

現在準備中です。

 

民事訴訟法

現在準備中です。

 

労働法

設問1は、主として、労基法上の労働時間該当性が問われており、①「午前11時30分の営業開始前の準備のための時間及び午後9時30分の営業終了後の片付けのための時間」については、最一小判平成12年3月9日(三菱重工長崎造船所事件)を踏まえて、②「休憩時間とされていた午後2時から午後5時までの間」については、最一小判平成14年2月28日(大星ビル管理事件)を踏まえて論じることになります。

問題文には、①に関する事情が少ないため、②のほうが配点が大きいと考えられます。したがって、②をメインで論じ、問題文の事実を使い切る気持ちで当てはめをするべきです。

①及び②の労働時間性を認めた後は、㋐「1時間分の通常の労働時間対する賃金」の請求と、㋑「3時間分の労働基準法第37条所定の割待賃金」の請求について論じることになります。ここでは、㋐と㋑を区別した上で、最一小判平成14年2月28日(大星ビル管理事件)を踏まえて論じることになります。

厄介なのが、㋐と㋑の内訳です。厳密には、㋐のうち30分が「午前11時から午前11時30分までの準備時間」(①の前半)、残り30分が「休憩時間とされていた時間のうち午後2時から午後2時30分まで」(②の一部)、㋑のうち2時間30分が「休憩時間とされていた時間のうち午後2時30分から午後5時まで」、残り30分が「午後9時30分から午後10時までの片付け時間」(①の後半)という整理になるはずです。しかし、これだと、㋐と㋑とで判断枠組みが異なるにもかかわらず、㋐と㋑に性質の異なる2つの労働時間が混在することになるため、理論構成が複雑になります。そこで、書きやすさを重視するために、正確性を犠牲にして、㋐=①、㋑=②という整理をしています。

設問2は、定額残業代制度における対価性に関する判例理論を正面から問う問題です。最一小判平成30年7月19日(日本ケミカル事件)は、重要判例を重点的に出題する近年の予備試験の傾向を踏まえると、今年の出題のヤマの一つでした。加藤ゼミナールの試験対策メディアでも取り上げている労働法の超重要判例です。

定額残業代制度による割増賃金の支払に関する要件は、①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができること(これを「判別要件」という。)と、②割増賃金に当たる部分が法定計算額以上であること(これを「割増賃金額要件」という。)の2つであると理解されていました(高知県観光事件・最二小判平成6年6月13日等)。

もっとも、近時の判例は、①判別要件を判断するための前提として、⓪使用者側が割増賃金として支払ったと主張している賃金部分が時間外労働に対する対価として支払われるものといえること(これを「対価性要件」という。)が必要である旨を明示しており、事案の違いを通じて対価性要件を肯定したものと否定したものに分かれています(肯定:最一小判平成30年7月19日・日本ケミカル事件、否定:最一小判令和2年3月30日・国際自動車事件)。

事案によっては、判別要件の前提として対価性要件を論じる実益のないものもあります(例えば、平成20年司法試験第1問、令和2年司法試験第1問)が、令和7年予備試験では、対価性要件がメイン論点として問われています。ここが、これまでの司法試験過去問との違いであり、最新重要判例まで勉強していたかどうかで大きく差が付くポイントであるといえます。