海外のロースクールをモデルに2004(平成16)年に始まった法科大学院制度は時代の変化に合わせて形を変えながらも法曹界の入り口として重要な役割を果たしています。
本記事では法科大学院について、主にこれから受験を検討する方、司法試験の受験にあたって法科大学院をそもそも検討するか迷っている方向けに、法科大学院に関する基本的な概要を網羅し、解説します。
より詳しい解説を加えた関連記事についてもリンクを掲載していますので併せて参考にご活用ください。
Contents
法科大学院は司法試験を受験するためのルートの一つ
法科大学院は司法試験の受験資格を得るための二つのルートの内の一つ(もう一方は予備試験への合格)。法科大学院を修了(2023年度以降は一定の条件を満たせば修了見込でも可能)することで司法試験の受験資格を得られます。
法科大学院には既修者コース(2年)と未修者コース(3年)がある
法科大学院には法学部卒を中心とする2年間の既修者コースと、法学初学者でも選択可能な3年間の未修者コースが存在します。法学部卒でなくとも何らかの資格保有ないしは認定試験に合格することで既修者コースを選択できる場合があります。また、法学部卒で未修者コースを受験することは問題ありません。
既修者コースと未修者コースの違いについてはこちらの記事もご参照ください。
社会人も夜間コースで法科大学院に通学が可能
法科大学院は基本的に日中に開講されるため、働きながら通学することは基本的には困難です。しかし一部の法科大学院には夜間コースが設置されており、仕事をしながらでも通学が可能な場合もあります。
夜間コースの法科大学院についてはこちらの記事もご参照ください。
募集中の法科大学院(2023年度現在)
法科大学院はかつては74校存在していましたが、募集停止した院も多く、2023(令和5)年以降募集を行っているのは半数程度です。
- 北海道大学大学院
- 東北大学大学院
- 千葉大学大学院
- 筑波大学大学院
- 東京大学大学院
- 一橋大学大学院
- 金沢大学大学院
- 名古屋大学大学院
- 京都大学大学院
- 大阪大学大学院
- 神戸大学大学院
- 岡山大学大学院
- 広島大学大学院
- 九州大学大学院
- 琉球大学大学院
- 東京都立大学大学院
- 大阪市立大学大学院
- 学習院大学大学院
- 慶應義塾大学大学院
- 上智大学大学院
- 専修大学大学院
- 創価大学大学院
- 中央大学大学院
- 日本大学大学院
- 法政大学大学院
- 明治大学大学院
- 早稲田大学大学院
- 愛知大学大学院
- 南山大学大学院
- 同志社大学大学院
- 立命館大学大学院
- 関西大学大学院
- 関西学院大学大学院
- 福岡大学大学院
募集停止した法科大学院についてはこちらの記事もご参照ください。
法科大学院の入学に関する情報
法科大学院の入試に関する情報の概要を解説します。
法科大学院の試験日程
法科大学院入試は主に7月~12月にかけて、私立→国立の順番で実施されます。
大学入試と比較すると国公立を含め複数の法科大学院が受験可能ですが、日程的に併願ができない場合や既修者コース・未修者コースの併願を認めていないケースもあるため、個別に確認することを奨励されます。
法科大学院の入試日程についてはこちらの記事もご参照ください。
法科大学院の試験内容
法科大学院は既修者コースと未修者コースで試験内容が大きく異なります。
既修者コースの出題内容
既修者コースは主に法学に関する問題がメインで、筆記試験・面接試験などが行われます。試験は以下の範囲から出題されますが、実際にどの分野が出題されるか(もしくはどの科目を選択できるか)は各校により異なります。
- 公法(憲法)
- 公法(行政法)
- 民事法(民法)
- 民事法(民事訴訟法)
- 商法・刑事法(商法)
- 商法・刑事法(刑法)
- 商法・刑事法(刑事訴訟法)
未修者コースの出題内容
未修者コースでは法学の知識は一切問われず、他分野からの小論文や面接中心の試験が行われます。
法科大学院の科目・配点・合格点についてはこちらの記事もご参照ください。
法科大学院の学費
法科大学院は国立の場合、一律で定められています。
- 入学金 282,000円
- 年間授業料 804,000円
公立大学は東京都立大学と大阪市立大学の二校で、それぞれ以下の通り。
東京都立大学法科大学院の料金体系
- 入学金: 282,000円(都民:141,000円)
- 年間授業料: 663,000円
大阪市立大学法科大学院の料金体系
- 入学金:382,000円(大阪府民及びその子ならば282,000円)
- 年間授業料: 804,000円
私立大学は各大学院によって学費は大きく分かれており、相場としては入学金が10~30万、年間の授業料が70~110万円程度が相場です。
また、成績優秀者や学費の支払いが困難な場合、奨学金などの制度も
法科大学院の合格者数・合格率・競争倍率など
法科大学院で高い司法試験合格率を誇るいわゆる「上位ロー」は大学受験でもトップレベルの国公立、もしくは私立大学が占めています。一方で、大学受験では偏差値が高い難関大学であっても、必ずしも法科大学院の実績が良いとは限りません。
大学受験のように「偏差値」の指標がないため難易度や人気を一概に評価できない部分もありますが、やはり実績の良い院のほうが環境は恵まれていると言えるでしょう。
順位 | 法科大学院名 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
1 | 京都大学法科大学院 | 175 | 119 | 68.0% |
2 | 東京大法科大学院 | 192 | 117 | 60.94% |
3 | 慶應義塾大法科大学院 | 181 | 104 | 57.46% |
4 | 早稲田大法科大学院 | 232 | 104 | 44.83% |
5 | 一橋大法科大学院 | 110 | 66 | 60.00% |
順位 | 法科大学院名 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
1 | 京都大法科大学院 | 175 | 119 | 68.00% |
2 | 東京大法科大学院 | 192 | 117 | 60.94% |
3 | 一橋大法科大学院 | 110 | 66 | 60.00% |
4 | 慶應義塾大法科大学院 | 181 | 104 | 57.46% |
5 | 東北大法科大学院 | 48 | 27 | 56.25% |
競争倍率は上位で2.5~5倍程度。上位ローは高倍率の傾向はありますが、必ずしも倍率と実績が比例するわけではありません。
順位 | 法科大学院名 | 受験者数 | 合格者数 | 倍率 |
---|---|---|---|---|
1 | 一橋大学 | 480 | 92 | 5.22 |
2 | 筑波大学 | 179 | 40 | 4.48 |
3 | 専修大学 | 194 | 44 | 4.41 |
4 | 日本大学 | 250 | 59 | 4.24 |
5 | 上智大学 | 138 | 41 | 3.37 |
6 | 東京都立大学 | 121 | 41 | 3.37 |
7 | 琉球大学 | 49 | 17 | 2.88 |
8 | 慶應義塾大学 | 1065 | 382 | 2.79 |
9 | 神戸大学 | 418 | 161 | 2.6 |
10 | 東京大学 | 626 | 244 | 2.57 |
11 | 早稲田大学 | 951 | 373 | 2.55 |
12 | 愛知大学 | 38 | 15 | 2.53 |
13 | 九州大学 | 141 | 58 | 2.43 |
14 | 関西大学 | 194 | 80 | 2.43 |
15 | 明治大学 | 357 | 148 | 2.41 |
法科大学院の難易度や倍率についてはこちらの記事もご参照ください。
法科大学院を予備試験のメリット・デメリットを比較
司法試験を受験するにあたり、法科大学院以外の選択肢として予備試験が挙げられます。予備試験は合格率4%前後の難易度の高い試験ですが、一方で試験に合格すると司法試験への合格率も高いことや費用が抑えられること、自分の裁量で学習計画が立てられることがメリットとして挙げられます。
法科大学院は司法試験に向けてカリキュラムが組まれている点や、人とのつながりが作りやすい点に加え、やはり修了することで受験資格を得られるのは大きなメリットといえるでしょう。
法科大学院のメリット
- 修了すれば自動的に司法試験の受験資格が得られる
- 学習のカリキュラムが整っている
- 学生・講師とのつながりができる
予備試験のメリット
- 費用が抑えられる
- 自分のペースでの学習計画が立てられる
- 予備試験対策が司法試験対策に直結する
- 就職活動で有利
どちらが一概に良いというものでもないので、学習スケジュール、受験計画に合わせて選択することをおすすめします。また、法科大学院に在籍しながら予備試験を受けることは一切問題ありません。
法科大学院と予備試験に比較についてはこちらの記事もご参照ください。
2023(令和5)年度から導入される法科大学院の制度改革
2023(令和5)年度より制度改革が行われ、法科大学院の在学中、卒業見込み段階から所定の条件を満たすことで司法試験の受験が可能になります。伴い、法科大学院に通いながらも学習期間を1年間短縮できる可能性がでてきます。
実際には条件を満たすハードルがどの程度なのか、どの程度の学生が対象になるのか、また実際に司法試験を前倒しで受けるのか、その合格率など、明らかになり次第情報を更新します。
法科大学院の制度改革についてはこちらの記事もご参照ください。
まとめ
法科大学院を検討するにあたり、概要となる情報を網羅しまとめました。
法科大学院は司法試験を受験するためのルートの一つであり、修了することで受験資格がえられますがその合格率は法科大学院によっても大きく異なります。様々な情報や最新の制度改革も見比べながら、ご自身にとって最適な選択を目指してみてください。