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はじめに―短答式試験が苦手
私は短答式試験が大の苦手でした。
司法試験に合格するためには,まず短答式試験を通らねばなりません。しかし,覚える量は多く,解いても解いても知らない知識がある…そのため,受験生時代は,本当に短答式試験に苦しめられました。
短答式試験(択一)の対策法をスマートにお伝えできたらいいのですが,私は合格まで苦しめられたので,一体験談としてお読み頂けますと幸いです。
択一の必須アイテム
まずは,択一の勉強をするために必要な書籍を紹介します。
六法
■判例六法
択一試験では判例の知識が問われるため,条文と共に判例を確認することのできる判例六法を使用していました。
論文式試験を解くときには判例なし六法,択一の勉強をするときには判例ありの六法と使い分けて使用します。
■択一六法(LEC総合研究所) 通称:択六
情報量が多いため,六法というより,参考書のような本になります。
判例だけでなく,条文の趣旨や重要知識も掲載されています。また,似たような条文の要件・効果が比較表で載っていたりするので,択一を解く際に間違えやすい部分をすぐチェックすることができます。
問題集
■体系別 短答式過去問集(Wセミナー)
択一の問題が体系別に収録されています。ひとつの問題が1頁にまとまっている(選択肢が分解されていない)ので,実際の試験のように解き進めることができます。
問題構成上やむを得ないのですが,余白が多く,本が大きめで持ち運びに苦労しました。
■肢別本(辰巳法律研究所)
択一問題を選択肢ごとに分解し,〇×で知識を確認することができます。短い解説がついているため,正誤の理由も確認可能。本のサイズもコンパクトです。
私の奮闘記
択一の勉強を始めたころ
●択一を始めた時期
私が択一の勉強を始めたのは,ロースクール2年生から3年生に進級する春頃です。
「択一の勉強は早めに行わないと間に合わなくなる」という情報を得たこと,周りが択一を解き始めたのを見て,あわてて書籍(択六,体系別 短答式過去問集)を購入しました。
●勉強の進度
択一の勉強を始めたころの勉強の進み具合としては,
- 選択科目を除いては,網羅的に学習した
- 期末試験が終わって,規範はうろ覚え
- 理解していない論点もぼちぼちある
という危うい状況でした。
●択一を解いて思ったこと
はじめに択一を解いたときに思ったのは「まったく解けない,これで司法試験に間に合うのか」。
憲民刑は一通り学習が済み,ロースクールの授業もついていけていたので,少しぐらい解けるという過信があったのですが,特に憲法は全く歯が立ちませんでした。知っていると思っている判例も,きちんと読み込んでいないため,選択肢を絞ることができなかったのです。
択一の勉強方法
●まずは1周
択一試験本番では,8割を取ることを目標に勉強を始めました。
知らない肢が多いとはいえ,はじめから知識を詰め込むと1周すら終わらないと感じ,まずは分からなくても解き進めるようにしました。ひたすら解いては解説を読む…の繰り返しです。1周目で確信をもって解くことができた肢については,2周目で解く必要はないと考え,」肢に×をつけていました。
しかし,3科目につきその作業をするだけでも,夏頃までかかったように思います。
●2周目
2周目からは,知識をつけるため,
択一を解く⇒わからない問題は択六の該当部分を読む
ことを行いました。2周目はかなりしっかり択六を読み込んだと思います。
憲法の人権部分は,ひとつの判例を深く理解していないと解けない問題があったので,並行して判例集(重要判例のみ)を読んでいました。
2周目が終わったときには,もう秋頃になっており,かなり焦ったことを覚えています。
●3周目以降
焦った私は,とにかく択一を回すことに専念しました。
似たような要件効果が問われる問題(使用貸借と賃貸借の違いなど)については,択六で比較表を使用することもありましたが,2周目のように読み込むことはせず,1周目のように解く⇒解説のルーティーンを進めていきました。
3周目,4周目と進むと,さすがにある程度肢を覚えてきて,問題を解くスピードも上がりました。
憲法は不安を感じていたため,引き続き判例集を読んでいました。
●直前期→受験
直前期も択一を解いては解説を読み…というのを繰り返していました。この頃になると,解けない肢も絞られてきたので,解けない問題に付箋をつけて,解けるようになれば付箋を外すようにしていました。
ですが,この頃問題が生じました。択一を回すことに意識が向きすぎて,どの肢が正解かだけを覚えてしまい,「なぜその肢を選ぶのか」を考えるのがおろそかになってしまったのです。
結局,そのまま本番を迎えることになり,特に民法を解いている最中はだいぶ不安を感じました。何とか択一は足切りぎりぎりで通過しました(が,論文で落ちています)。
反省と改善点
私はこの経験から,合格まで下記のように勉強法を変えました。
- 問題集を「体系別 短答式過去問集」から「肢別本」に変更する
→前述のとおり,本番同様の出題形式では肢を覚えてしまい,理由がうろ覚えになるという本末転倒の事態になりました。そのため,一問一答形式の問題集に変更し,理由を正確に答えられるようにしました。 - 択一の勉強は早くから始める
→1度司法試験を経験し,初めて択一の勉強を始めたときとは状況が違いますが,それでも択一の勉強が終わらない可能性があると考え,早くから択一の勉強に着手することにしました。早くからというより,毎日少しずつ択一を解いていました。 - 試験2か月前までに細かい勉強は終える
→択六を読んだり,各肢の不明点を調べるのは,試験2か月前までに終え,ラストスパートでは,間違えやすい肢や理解が不足している肢を回していました。
合格後の感想
さて,このように択一の勉強を進めた私ですが,司法試験には複数回受験で合格し,択一を何度か受けなければなりませんでした。常に足切りより少し上あたりの成績で,択一は苦手なままだったのですが,択一試験で落ちたことはありませんでした。
何度か択一試験を受けた思ったことは,以下のとおりです。
- 勉強が進んでいないなら,むしろ択一は早くやるべき。
→択一の勉強をすることで,論文対策・法律知識全体の底上げにつながります。また,択一は覚えることが非常に多く,論文では触れない分野も出題されるため,直前期に詰め込むにも限界があります。そのため,勉強が遅れている自覚があるなら,むしろ択一は早く始めた方が良いと思います。 - 憲民刑の難易度は,年によって差がある。極度に苦手な科目を作ってはいけない。
→年度によって,各科目の難易度に差があるため,「憲法が苦手だから刑法で取り戻そう」などと考えていると,刑法が難しく,想定していた点数を取れずに落ちる可能性があります。個々の足切りをクリアするのは大前提として,足を引っ張る科目は作らないように。 - 憲法は怖い。
→憲法は,問題数が少なく,また「正しいものの組み合わせを答えなさい」といった問いを完答しないと点数が入りません。そのため,他の科目より誤答が致命傷になりやすいです。他方,判例の細かい知識を問う問題も多く,いくら勉強しても不安が残ります。ですので,憲法の統治分野は絶対に落とさないよう,しっかり勉強した方が良いと思います。
おわりに
択一試験は,勉強の負担も心理的な負担も大きい試験です。しかし,勉強すればするほど,論文式試験にも生かすことが出来ます。
私は最後まで苦戦しましたが,一体験談として,皆様の受験に役立てて頂ければと思います。
実務家弁護士S
私大法科大学院卒業・新司法試験合格・実務経験2年以上
加藤ゼミの受講により勉強法を変えたことで司法試験に合格したことから、その経験を後輩に伝えたいと思い記事を執筆。
受験生時代の得意科目は刑法、苦手科目は行政法。